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「……ちょっと、アンナ。起きて。これを見てちょうだい」
翌朝、夜明けと共にキッチンに乗り込んだ私は、その光景を前にして持っていたおたまを落としそうになった。
「お嬢様……まだ眠いです……。えっ、うわぁ、なんですかこれ!?」
目をこすりながら入ってきたアンナも、一瞬で眠気が吹き飛んだらしい。
目の前に広がるのは、調理場という名の「魔窟」だった。
煤けた壁、油でぎらつく床。棚には正体不明の乾燥した何かが山積みになり、一番大きな鍋には……。
「……アンナ。あの鍋の底にある黒い塊、何に見える?」
「……化石、でしょうか? もしくは数年前のシチューの成れの果てか」
「許せないわ……。食材を扱う聖域が、こんなに汚されているなんて! これじゃ、カニを焼いても埃の味がするじゃない!」
私は袖を捲り上げ、腰に手を当てて仁王立ちになった。
これこそが、北の地の男たちが「豪快」だと勘違いしている「不潔」の正体ね。
「アンナ、王都から持ってきた『特製アルカリ洗剤』と『魔法の研磨剤』を出しなさい! あと、そこらで寝ている騎士たちを叩き起こしてきて!」
「ええっ!? 騎士様たちを掃除に使うんですか?」
「当たり前よ。この城の食事を改善してほしければ、まずは環境整備から。私の帝国を築く第一歩は、この煤を全部剥ぎ取ることよ!」
数分後、訳も分からず集められた騎士たちが、眠そうな目を擦りながらキッチンの前に並んだ。
「おい、元公爵令嬢。朝から何の騒ぎだ? 飯なら適当にその辺のパンを……」
「黙りなさい! あなたたち、この床を見て何も思わないの!? 脂で滑って、戦闘中に転んだらどうするつもり? これは立派な『拠点防衛』の一環よ!」
「きょ、拠点防衛……?」
「そうよ! 磨きなさい! 削りなさい! この壁を白く戻すまで、朝食はお預けよ!」
私は持参した洗剤を騎士たちに配り、自らもブラシを手に取った。
「お、お嬢様! ドレスが泥だらけですよ!」
「いいのよ! 美味しいもののためなら、服の一枚や二枚、雑巾にしても惜しくないわ!」
それからの三時間、キッチンは戦場と化した。
私の罵声……もとい、激励を受けながら、屈強な騎士たちが必死に床を磨き、煤けた天井を拭き上げていく。
やがて、朝日が窓から差し込む頃には。
「……。信じられん。この調理場、こんなに明るかったのか?」
一人の騎士が、汗を拭いながら感嘆の声を上げた。
煤けていた石壁は本来の白さを取り戻し、銅製の鍋は鏡のように磨き上げられ、私の顔を映し出している。
「ふふ……。これでようやく、食材たちが息を吹き返せるわね」
私は満足げに頷き、ピカピカになった作業台に、昨日手に入れた鹿肉と特製スパイスを並べた。
そこへ、騒ぎを聞きつけたヴォルグ様が姿を現した。
「……何の騒ぎだ。朝から怒鳴り声が……っ!? ここはどこだ?」
「おはようございます、ヴォルグ様。見ての通り、あなたの城の心臓部を洗浄して差し上げましたわ」
ヴォルグ様は絶句したまま、見違えるほど綺麗になったキッチンを見回している。
「貴様……本当に、これを令嬢の手でやったのか?」
「私の指示と、騎士様たちの筋肉の結晶ですわ。さあ、ヴォルグ様。綺麗になったキッチンで作る、最高の一皿をお見せしますわね!」
私は軽やかな手つきでナイフを握り、鹿肉に刃を入れた。
掃除で適度に体を動かしたおかげで、私のコンディションも最高だ。
「ヴォルグ様、そこに座って待っていてください。あなたの『食』への概念を、今この瞬間、私が塗り替えて差し上げますから!」
掃除の疲れも見せず、私は鼻歌を歌いながらフライパンを火にかけた。
ジューッという軽快な音が、新しく生まれ変わったキッチンに響き渡った。
翌朝、夜明けと共にキッチンに乗り込んだ私は、その光景を前にして持っていたおたまを落としそうになった。
「お嬢様……まだ眠いです……。えっ、うわぁ、なんですかこれ!?」
目をこすりながら入ってきたアンナも、一瞬で眠気が吹き飛んだらしい。
目の前に広がるのは、調理場という名の「魔窟」だった。
煤けた壁、油でぎらつく床。棚には正体不明の乾燥した何かが山積みになり、一番大きな鍋には……。
「……アンナ。あの鍋の底にある黒い塊、何に見える?」
「……化石、でしょうか? もしくは数年前のシチューの成れの果てか」
「許せないわ……。食材を扱う聖域が、こんなに汚されているなんて! これじゃ、カニを焼いても埃の味がするじゃない!」
私は袖を捲り上げ、腰に手を当てて仁王立ちになった。
これこそが、北の地の男たちが「豪快」だと勘違いしている「不潔」の正体ね。
「アンナ、王都から持ってきた『特製アルカリ洗剤』と『魔法の研磨剤』を出しなさい! あと、そこらで寝ている騎士たちを叩き起こしてきて!」
「ええっ!? 騎士様たちを掃除に使うんですか?」
「当たり前よ。この城の食事を改善してほしければ、まずは環境整備から。私の帝国を築く第一歩は、この煤を全部剥ぎ取ることよ!」
数分後、訳も分からず集められた騎士たちが、眠そうな目を擦りながらキッチンの前に並んだ。
「おい、元公爵令嬢。朝から何の騒ぎだ? 飯なら適当にその辺のパンを……」
「黙りなさい! あなたたち、この床を見て何も思わないの!? 脂で滑って、戦闘中に転んだらどうするつもり? これは立派な『拠点防衛』の一環よ!」
「きょ、拠点防衛……?」
「そうよ! 磨きなさい! 削りなさい! この壁を白く戻すまで、朝食はお預けよ!」
私は持参した洗剤を騎士たちに配り、自らもブラシを手に取った。
「お、お嬢様! ドレスが泥だらけですよ!」
「いいのよ! 美味しいもののためなら、服の一枚や二枚、雑巾にしても惜しくないわ!」
それからの三時間、キッチンは戦場と化した。
私の罵声……もとい、激励を受けながら、屈強な騎士たちが必死に床を磨き、煤けた天井を拭き上げていく。
やがて、朝日が窓から差し込む頃には。
「……。信じられん。この調理場、こんなに明るかったのか?」
一人の騎士が、汗を拭いながら感嘆の声を上げた。
煤けていた石壁は本来の白さを取り戻し、銅製の鍋は鏡のように磨き上げられ、私の顔を映し出している。
「ふふ……。これでようやく、食材たちが息を吹き返せるわね」
私は満足げに頷き、ピカピカになった作業台に、昨日手に入れた鹿肉と特製スパイスを並べた。
そこへ、騒ぎを聞きつけたヴォルグ様が姿を現した。
「……何の騒ぎだ。朝から怒鳴り声が……っ!? ここはどこだ?」
「おはようございます、ヴォルグ様。見ての通り、あなたの城の心臓部を洗浄して差し上げましたわ」
ヴォルグ様は絶句したまま、見違えるほど綺麗になったキッチンを見回している。
「貴様……本当に、これを令嬢の手でやったのか?」
「私の指示と、騎士様たちの筋肉の結晶ですわ。さあ、ヴォルグ様。綺麗になったキッチンで作る、最高の一皿をお見せしますわね!」
私は軽やかな手つきでナイフを握り、鹿肉に刃を入れた。
掃除で適度に体を動かしたおかげで、私のコンディションも最高だ。
「ヴォルグ様、そこに座って待っていてください。あなたの『食』への概念を、今この瞬間、私が塗り替えて差し上げますから!」
掃除の疲れも見せず、私は鼻歌を歌いながらフライパンを火にかけた。
ジューッという軽快な音が、新しく生まれ変わったキッチンに響き渡った。
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