断罪された悪役令嬢、「地獄へ落ちろ」と言われました。

ちゅんりー

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「……ミュー。念のために確認するが、これは本当に『ダンスパーティー』なのか?」


黒い毛皮をふんだんに使った正装(という名の超厚着)に身を包んだヴォルグ様が、引き攣った顔で中庭を見下ろした。


そこには、煌びやかなシャンデリアも、滑らかな大理石の床もない。


あるのは、こうごうと燃え盛る巨大な焚き火と、踏み固められた雪のダンスフロア。そして、音楽の代わりに響き渡る、肉が焼けるジューシーな音と領民たちの笑い声だ。


「もちろんですわ! これこそが北の地の『建国……じゃなくて、ブランド成功記念パーティー』ですもの!」


私は誇らしげに胸を張った。今日の私のドレスは、最高級の羊毛を編み込んだニットに、昨日完成したばかりの特製ルームシューズの屋外用カスタム版だ。


「王都のパーティーは、細いヒールで足を痛め、窮屈なコルセットで胃を圧迫しながら、食べもしないカナッペを眺めるだけの修行でしたわ。でも見てください、ヴォルグ様! ここでは誰も空腹に耐える必要なんてありません!」


「……。確かに、誰も空腹ではなさそうだな。あそこで騎士たちが、バケツのようなジョッキでエールを煽りながら、丸ごとの鳥肉に食らいついているし」


ヴォルグ様は呆れたように言いながらも、その目はどこか楽しげに細められていた。


「さあ、ヴォルグ様! エスコートをお願いしますわ。今夜のメインイベント、北国流・全力ダンスの時間です!」


「……。踊るのか? この、熊のような毛皮を着たまま」


「当たり前ですわ! 動かないと凍えてしまいますもの。北の地のダンスは、心拍数を上げて体温を維持するための生存戦略でもあるんですから!」


私はヴォルグ様の大きな手を取り、強引に焚き火の近くへと引っ張り出した。


楽団(といっても、地元の若者たちが奏でる陽気なフィドルと太鼓だ)が、軽快なリズムを刻み始める。


「いいですか? ステップは簡単ですわ。右、左、そして大きくジャンプ! 最後に隣の人と腕を組んで回るんです!」


「……。やってみるが、貴様を飛ばしそうで怖いぞ」


ヴォルグ様は戸惑いながらも、私の動きに合わせてステップを踏み始めた。


ドシン、ドシン、と雪を蹴る音がリズムに混ざる。


王都のワルツのような優雅さはない。けれど、ヴォルグ様の大きな体にリードされ、冷たい夜気の中で激しく動いていると、指先まで熱い血が通うのが分かった。


「ほら、ヴォルグ様! もっと高く! ジャンプですわ!」


「……っ! はあ……っ、意外と、過酷だな……!」


ヴォルグ様は必死に食らいついてくる。その鋭い瞳が、焚き火の光を反射してキラキラと輝いた。


「……。ミュー、貴様といると、本当に退屈しない」


曲の合間、肩で息をしながらヴォルグ様が笑った。


それは、特訓で見せた「暗黒騎士の宣告」のような笑顔ではなく、心からの楽しさが漏れ出したような、優しく、そして力強い笑顔だった。


(――っ、あ。今の……。今の笑顔、ちょっと反則だわ)


心臓がドクン、と大きく跳ねた。


激しい運動のせいだと言い聞かせようとしたけれど、顔が火照るのは焚き火の熱さだけではないことに、私は気づいてしまっていた。


「……ヴォルグ様。今の笑顔、一億ボルトくらいの破壊力がありましたわよ。王都の王子様たちが見たら、敗北感でトウモロコシのひげも枯れるほどですわ」


「……。貴様の褒め言葉は相変わらず独特だな」


ヴォルグ様は照れ臭そうに視線を逸らしたが、その手はしっかりと私の手を握ったままだった。


「ミュー。俺は……」


ヴォルグ様が何かを言いかけたその時。


「お嬢様ー! 大変です! お肉が最高にいい具合に焼けました! 早く来ないと騎士たちが全部平らげちゃいますよー!」


アンナの無慈悲な絶叫が、ロマンチックな空気を一瞬で粉砕した。


「……お肉!? 大変だわ、ヴォルグ様! 今のステップ、もう一度踏みながら肉の元へ突撃しましょう!」


「…………。ああ、そうだな。……食うか。肉を」


ヴォルグ様はがっくりと肩を落としたが、私が引っ張る手に、優しく力を込め直してくれた。


星空の下、私たちは雪を蹴散らしながら、美味しい匂いが漂うテーブルへと駆け出した。


恋の予感よりも、食欲が勝ってしまう。


それが私たちらしいパーティーなのだと、私は幸せな気持ちで確信していた。
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