「戻ってきてもいいぞ?」という傲慢――許せませんわ。

ちゅんりー

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「……『世界一の収穫祭』、ですか? なんだか胃もたれしそうな名前の行事ですわね」


私は、公爵邸の豪華な執務室で、金銀の装飾が施された招待状を眺めていた。
差出人は隣国の王室。かつての「呪いの森」を再生させた私の功績を称え、収穫祭のメインゲストとして招待したいという内容だ。


「ああ。各国の特産品が集まる、この大陸最大の食の祭典だ。……本来なら、私一人で出席するところだが、今回は王妃様がどうしても君のジャムを公式行事でお披露目したいと仰っていてな」


アールグレイ公爵が、私の隣で特製のオレンジスコーンを頬張りながら答えた。


「公式行事……。つまり、私のジャムが公に『王室公認』になるということですわね。ダージリン様が聞いたら、鼻血を出して倒れそうですわ」


「実際、さっき廊下で会った時は『金貨の雪崩が見える!』と叫んで踊っていたぞ。……だが、マーマレード。気をつけろ。この祭典には、我が国だけでなく近隣諸国の王族も招待されている」


公爵の瞳が、少しだけ険しさを帯びた。


「……近隣諸国。……ということは、あのレモン殿下たちも?」


「だろうな。あの男、自国が糖分過多で崩壊寸前だと聞き及んでいる。起死回生の一手として、この祭典で何らかの『実績』を作ろうと必死なはずだ」


「ふん。実績も何も、あの殿下ができることなんて、マシュマロの数を数えることくらいですわ。……受けて立ちますわよ、その収穫祭!」


私は、腰に手を当てて高らかに宣言した。
逃げるのは性に合わない。私のジャムが本物であることを、全世界の美食家たちの前で証明して差し上げるのだ。


一週間後。王都の広場は、見たこともないほどの熱気に包まれていた。
色とりどりのテントが並び、世界中の珍味や名酒が振る舞われている。


その中心部、最も華やかな特設ステージに、私たち「メゾン・ド・オレンジ・リベンジ」のブースが設けられた。


「お嬢さん、準備はいいですか! すでに外には、君のジャムを求めて数百人の貴婦人たちが列をなしていますよ!」


ダージリン様が、興奮で蝶ネクタイを曲げながら駆け寄ってきた。


「もちろんですわ。今日の主役は、この『三種の柑橘と秘伝のハーブジャム』。そして、それに合わせるために昨夜から寝ずに捏ね上げた、究極の全粒粉パンですわよ!」


私がパンを並べていると、背後から鼻を突くような甘い香りと、耳障りな笑い声が近づいてきた。


「オーホッホッホ! 何やら泥臭い匂いがしますわねぇ。これだから田舎の果樹園帰りは困りますのぉ!」


振り返ると、そこには極彩色のドレスに身を包んだシュガー様と、死んだ魚のような目をしたレモン殿下が立っていた。


「あら。ピンク色のむくみ人形さんと、歩く栄養失調さん。ご機嫌よう」


「誰がむくみ人形ですわぉ! いいですか、マーマレード! 今日この場を制するのは、シュガーがプロデュースした『ロイヤル・サウザンド・シュガー・タワー』ですわぉ!」


シュガー様が指差した先には、大量の砂糖菓子を高く積み上げ、周囲を金箔で飾り立てた、見るからに重そうな塔が立っていた。


「……殿下。あんなもの、一口食べただけで血管が詰まりますわよ。正気ですか?」


「……マーマレード……。私はもう、正気かどうかもわからん……。だが、シュガーが言うには、これが世界を救う『至高の甘み』なのだそうだ……」


レモン殿下は、力なくそう言うと、ふらふらと塔の陰に隠れてしまった。
どうやら、シュガー様の暴走を止める気力も残っていないらしい。


「勝負ですわぉ、マーマレード! どちらの店に多くの客が集まるか、この祭典の売上で決めましょうぉ! 負けた方は、一生お砂糖を食べる禁止ですわぉ!」


「お砂糖禁止……。私にとってはご褒美のような条件ですわね。いいでしょう、受けて立ちますわ!」


私は、愛用の銅鍋を天にかざした。


「さあ、祭典の始まりですわ! 皆様、本当の『贅沢』を教えて差し上げますわよ!」


鐘の音が鳴り響き、収穫祭の幕が開いた。
甘ったるい砂糖の塔と、清々しいオレンジの香り。
正反対の二つの味が、王都の広場で激突する瞬間だった。


しかし、私は知っていた。
人は、甘すぎる夢にはいつか飽きる。
だが、心を震わせる「ほろ苦さ」は、一度知れば二度と忘れられないということを。


「閣下、見ていてください。私のリベンジが、完熟する瞬間を!」


「ああ。……だが、終わったら一番に私に食べさせるのを忘れるなよ」


公爵の頼もしい(食欲に満ちた)言葉を背に、私は列をなす客たちに向かって、黄金色のジャムを掲げたのである。
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