「戻ってきてもいいぞ?」という傲慢――許せませんわ。

ちゅんりー

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「待ちなさい! 離しなさいな! まだ、まだシュガーの切り札が残っていますわぉ!」

衛兵たちに引きずられながら、シュガー様が必死の形相で叫び声を上げた。
その手には、泥にまみれた一つの小さな小瓶が握られている。

王妃様が、ため息をつきながら歩みを止めた。

「まだ何かあるの? 往生際が悪いですわね」

「これですわぉ! これこそが、シュガー家代々に伝わる秘密の『黄金ジャム』! これさえあれば、マーマレードの泥水なんて一瞬で霞んでしまいますわぉ!」

シュガー様は、震える手で瓶の蓋を開けた。
中からは、不自然なほどにギラギラと輝く、金色のドロドロとした物体が現れた。

私は、その瓶から漂う異様な「金属臭」に眉をひそめた。

「……閣下。あの色、どこかで見覚えがありませんか?」

「……ああ。あれは食べ物の輝きではないな。どちらかと言えば、私の書斎にある『劣化した金インク』に近い」

アールグレイ公爵が、嫌悪感を隠さずに鼻を鳴らした。

「シュガー様、失礼ですがそのジャム。……一口、味見をさせていただいても?」

「ふん! 絶望するがいいですわぉ! この高貴な輝きに平伏しなさいな!」

私は、差し出されたスプーンの先に乗った「黄金」を、慎重に観察した。
そして、ペロリと一舐めした瞬間。

「……オエッ!!」

私は、淑女にあるまじき声を上げて、その場で激しく噎せ返った。

「マーマレード! 大丈夫か!? 毒か、毒なのか!?」

公爵が慌てて私の背中を叩く。私は涙目になりながら、震える指でシュガー様を指差した。

「……しゅ、シュガー様。あなた、これ。……何を混ぜましたの?」

「おーっほっほっほ! 最高級の蜂蜜と、秘密の黄金粉ですわぉ!」

「嘘をおっしゃい! ……皆様、聞いてください! このジャムの正体は、ジャムなどではありませんわ!」

私の叫びに、王妃様や観衆が身を乗り出した。

「これのベースは、ただの『豚の脂』ですわ! そこに、大量の黄色い着色料と……あろうことか、本物の『真鍮の粉』を混ぜ込んでありますわよ!」

「「「ええええええええっ!?」」」

広場に、今日一番の驚愕の声が響き渡った。

「真鍮の粉ですって!? そんなもの、食べたらお腹を壊すどころの話じゃないわ!」

王妃様が、顔を青ざめさせて後ずさりした。

「……通りで。舌がピリピリと電気を通したような味がしましたわ。シュガー様、あなたは『黄金』という言葉に目が眩んで、もはや食材ですらないものをジャムと呼んだのですか?」

「な、なんですのぉ!? キラキラしていれば、それは高貴で甘美なはずですわぉ! 殿下だって、キラキラしたものが大好きだって……!」

「私は……私は……」

横で震えていたレモン殿下が、ついに崩れ落ちるように膝をついた。

「……私は、そんな金属を食わされていたのか……。……通りで、最近、奥歯が錆びたような味がすると思っていたんだ……」

「殿下! しっかりしてください殿下!」

私は、シュガー様の持っていた瓶を取り上げると、それを地面に叩きつけた。
パリン! と割れた瓶から、重苦しい金色の液体が泥のように広がっていく。

「シュガー様。料理とは、食べる人を想って作るものですわ。見た目だけを着飾り、中身を誤魔化し、挙句の果てに健康を害するようなものを出すなんて……。あなたは、料理人としても、令嬢としても、最低ですわ!」

「……う、うう……。そんな……シュガーの黄金が……」

シュガー様は、地面に広がった金色の泥を見つめ、糸が切れた人形のようにへたり込んだ。

「……衛兵。この者たちを連れて行きなさい。……罪状は不敬罪、および王族に対する殺人未遂(毒物混入)ですわ」

王妃様の冷徹な宣告が下った。

「いやだぁぁ! シュガーは悪くありませんわぉ! 全部、全部マーマレードがいけないんですわぉぉぉ!!」

シュガー様の断末魔のような叫びが、広場に空白を残して消えていった。
後に残ったのは、不自然に輝く真鍮の汚れと、爽やかなオレンジの香りだけだった。

「……ふう。ようやく、本当の意味で終わりましたわね、閣下」

「ああ。……不味いものを食べたな、マーマレード。今すぐ、私の用意した最高級の口直し(紅茶)を飲ませてやろう」

「ありがとうございます。……でも閣下。あの真鍮ジャム、意外と粘り気だけはあったので、機械の潤滑油には使えるかもしれませんわね」

「……君は、どこまでもたくましいな」

公爵は苦笑しながら、私の肩を抱き寄せた。

悪役令嬢として追放され、泥の中から始まった私の逆転劇。
偽りの黄金は崩れ去り、私の手の中には、本物の「オレンジの輝き」が残った。

「さて、ダージリン様! 片付けが終わったら、優勝のお祝いパーティーですわよ!」

「もちろんです! 今夜は僕が、世界一のシャンパンを開けましょう!」

私たちは、夕陽に染まる広場を後にした。
明日の朝には、きっと新しいオレンジの香りが、この国を優しく包み込んでいるはずだ。
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