「戻ってきてもいいぞ?」という傲慢――許せませんわ。

ちゅんりー

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収穫祭の最終日。王宮のバルコニーからは、広場を埋め尽くす人々が見渡せた。
私は、最高位の勲章を授与されるため、アールグレイ公爵の隣で緊張の面持ちで立っていた。

「……閣下。なんだか、下からの視線が熱すぎますわ。私の顔に、また小麦粉でもついていますかしら?」

「いいや、マーマレード。皆、君という『奇跡の職人』を拝みたいだけだ。……もっとも、これ以上見せびらかしたくはないのだがな」

公爵は、不機嫌そうに私の肩を抱き寄せた。
その時、列席していた貴族たちの中から、心ない囁き声が漏れてきた。

「……でも、彼女は結局、隣国の『追放令嬢』でしょう?」
「いくらジャムが美味しくても、身元が不安定だわ。公爵家が庇護しているというけれど、いつまで続くのかしら」

そのヒソヒソ話が聞こえた瞬間、公爵の纏う空気が一変した。
冷徹な氷のような威圧感が、会場全体を包み込む。

「……ふむ。私の隣にいる女性について、まだ理解が足りない者がいるようだな」

公爵はゆっくりと前に出ると、王妃様の隣で高らかに宣言した。

「諸君。私はアールグレイ公爵として、この国の隣人を務めているが……。実はもう一つ、名乗るべき肩書きがある。……世界最大の果実・香辛料流通組織『ベルガモット・ギルド』の総帥。それが私だ」

会場に、割れんばかりの驚愕のどよめきが走った。

「ベルガモット・ギルド!? あの、王室の予算すら凌ぐと言われる伝説の巨大組織か!」
「では、この大陸の物流の六割は、彼の掌の上にあるというのか……!」

私は、隣でポカンと口を開けてしまった。
……ちょっと待ってください。

「……閣下。あなた、ただの『ジャム好きの公爵様』じゃなかったんですの?」

「……言っていなかったか? 私は、自分が愛する食材を独占するために、若かりし頃にその組織を作り上げたのだ」

「私利私欲がすぎる動機ですわね!?」

公爵は、動揺する私を無視して、鋭い視線を貴族たちに向けた。

「そして、マーマレード・オレンジ。彼女は本日をもって、そのギルドの『最高技術顧問』に就任する。……彼女に手出しをするということは、この大陸の食卓から、果実と香辛料がすべて消えることを意味する。……理解できたかな?」

貴族たちは、一瞬で顔を青ざめさせて沈黙した。
もはや彼女は「追放された令嬢」ではない。世界の食文化を握る、文字通りの『女王』となったのだ。

そこへ、ダージリン様がこれ以上ないほど輝く笑顔で割って入った。

「お嬢さん! いや、顧問! これからは僕の商会も、閣下のギルドの下部組織として動くことになりました。……さあ、これで準備は整いましたよ。君のオレンジを、世界の果てまで届ける体制がね!」

「ダージリン、君は調子が良すぎますわ。……でも、閣下。そんなに大きな役職、私に務まるかしら」

私が不安げに尋ねると、公爵は私の手を優しく、しかし強引に握りしめた。

「務まるとも。君はただ、鍋を振っていればいい。……邪魔な政治や金の計算は、私がすべて片付ける。……君は、私の人生という『苦いスープ』に必要な、唯一無二のスパイスなのだから」

「……また、お上手なことを」

私は、熱くなる頬を隠すように、バルコニーから群衆へと手を振った。
沸き起こる大歓声。

私を捨てたレモン殿下は、今や地下牢でレモンを齧っている。
私を嘲笑った王宮の連中は、私の許可がなければ二度とオレンジを口にできない。

最高の「リベンジ」は、ただの勝利ではなく、誰も届かない高みへ登り詰めることだったのだ。

「閣下。……私、これからはもっと忙しくなりそうですわね」

「ああ。……だが、私のためにパンを焼く時間だけは、絶対に死守してもらうぞ」

「ふふ、もちろんですわ。……私の『下僕』としての給料、高くつきますわよ?」

私たちは笑い合いながら、まばゆい光の中に包まれた。
マーマレード・オレンジの物語は、今、最高に芳醇で甘酸っぱい「黄金時代」へと突入したのである。
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