インドラの箱

夏風涼

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急5

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 インドラの箱の重さは、私が持った時は、ほぼ零に近かった。
 だが、尚登は蓋をまるで重い物を持ち上げるようにして、取った。
 
 その瞬間である。
 黄金の光の束があらゆる方向に広がった。
 光の束、一筋一筋はとても美しく、煌めいていて、この世界の果てまで届くように伸びていた。
 そして、その中心に金色に輝く、神がいた。
 
 神は目で確認することはできなかった。
 とてつもなく大きいのかもしれない。逆に目に見えないぐらい小さいかもしれない。
 しかし、その存在感だけが重くのしかかる。

「我を呼び起こしたのはお前か?」
 
 声ではなかった。頭に木霊する声は、聴覚を通さず直接脳に響く。

「はい。そうですよ」
 
 全く、物怖じする様子がない。
 ただ、ニコニコといつもどおり、気持ち悪い笑みを神に向ける。

「願いはなんだ?」
 
 インドラの箱で呼び起こしたあやかしの神は、供物を引き換えに何でも願いを叶えてくれる。
 けれども、ここになって私は疑問が生じた。
 あやかしの王家のために伝承されてきたあやかしの神の神宝。
 それであれば、いくらなんでも、あやかしを人間の傀儡にするなど、そんな願いを叶えてくれる訳がない。「何でも願いを叶えてくれる」という影縫の言葉を疑う訳ではないが、私は一縷の望みにどこか、かけていた。

「全てのあやかし、これから生まれてくるあやかしも含めて、私の命令を全て聞く奴隷にしてくれますか?」
 
 さすがに、神は言葉に詰まっていた。

「我は、あやかしの神だぞ、その願いを我に叶えさせろというのか?」
「・・・・・・無理なんですか?」
「いや、我はどんな願いでも叶える」

「尚登様!!」
 
 そこで、横にいた暗部の一人が話しかける。

「尚登様、その願いで良いのですか?」
「どういうことです?」
「全てのあやかしをこの国の人間の傀儡にするとかそのような願い・・・・・・」
 
 しかし、その男は言葉を続けることができなかった。
 この世で最も、醜い、巨悪に満ちた笑みを見たからだ。

「それでは、この国の人間が、私達、政府に反旗を翻さない可能性がどこまであるのですか? あなたは勘違いしています。私だけが力を持ち、私が戦争をし、そして私がこの世界の王になるんですよっっ!! あなた達ならこの崇高な考えを理解してくれていると思っていたのですが・・・・・・」
 
 男は目を見開き、おののくように頭を下げた。

「出過ぎた口を、申し訳ございません」
 
 尚登は鼻息を立て、言った。

「ふん、まあいいです。あなたは早く、あれを連れてきてください」
 
 男は晒しにぐるぐる巻きにされた影縫を二人ががりで連れてきた。

「あの、供物は命なんですよね?」
「相違ないが」
「では、この男の命を使ってください」
「・・・・・・。願いは先ほどの願いで違いないか?」
「はい」
 
 しばらく何の変化も起こらなかった。
 もう、インドラの箱は開いているが、神が目の前にいているかどうかも分からない。
 だが、徐々に尚登の身体が光り出した。
 放射されている光と全く同じで金色に煌めいている。
 尚登は自分の手の平を舐めるように見て、溢れる全能感に酔っているようだ。

「これは、願いが叶ったのではないか?」
「はい! きっと!!」
 
 取り巻きは声を揃える。

 尚登は腰に据えたサーベルを抜刀する。
 今は、あやかしと交戦中である。
 空を飛ぶあやかしを弓で射る者、地を駆けるあやかしに剣を振るう者、様々であるが、どのあやかしも劣勢を強いられていた。

「山犬、こっちにこい」
 
 山犬は結界によって、鈍重になった身体を、のっそりのっそりと動かし、尚登に近づく。
 尚登はサーベルを舐めた。
 尚登の舌が切れ、刀身が血に滲んでいる。

「山犬さん、長い間世話になりました。あなたは強いので大変でしたよ。ですが、もう終わりです。そこで動かずに座ってください」
 
 しかし、山犬は反抗しない。
 だが、瞳は尚登を突き刺すようにしっかり捉える。
 尚登は剣を山犬の首に振り下ろそうとした。
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