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第一章:どっちのアオ?
3. 甘い夢の代償
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「蒼太、あんまり調子乗んなよ。朱莉も飲みすぎだぞ、その辺で止めとけ。送ってくから、そろそろ帰ったほうがいい」
なんかちょっと蒼太くんといい雰囲気になりかけたところを蒼士に引き剥がされた気がしないでもない。けっこう強い力で引っ張られて、蒼士の胸の中に抱きとめらたような……。
蒼士の声がちょっと怒ってるみたいだったのを覚えてる。だって蒼士が怒るなんて珍しいもん。
「え? でも、兄さん飲んでるじゃん。今日はもう送っていく気ないのかと思ってたけど?」
「……歩いても大した距離じゃないだろ」
むむ? なんだか蒼士と蒼太くんの雰囲気がちょっと険悪になった気がして。
なになに、もしかして私をめぐって争ってるの?
……なんて、「少女マンガかよ!」みたいな妄想を脳内でひとり繰り広げてはムヒヒ、と不気味な笑いを浮かべていた私。痛い。痛すぎる。
「……調子に乗っちゃったんだよなぁ」
だってこんなシチュエーション、滅多に遭遇できるもんじゃない。
イケメン兄弟に囲まれて。
久しぶりに会った蒼士も蒼太くんも、全然久しぶりって感じがしなくて。
子供の頃に戻ったみたいに楽しくて――。
……で、浮かれて、はしゃぎまくった結果がコレ。
さらに、問題はここからだよ。
蒼士に送ってもらって、帰ろうとした私。
なんで帰ってないんだ? なぜ、まだ藤沼家にいる??
覚えてない。
思い出せない。
そういえば、なんだか妙にフワフワとした気持ちのいい夢を見ていた気がするんだけど。
長くてちょっとゴツゴツした指が絶妙な力加減で私の肌の上を這いまわって――
「って……もしかして、あれ、夢じゃなかったってこと?」
アレが現実に起きたことだったとすると――
「え…………どっち?」
――どう? 気持ちいい?
なんか夢の中でそんな恥ずかしいことを聞かれたような気もするんだけど……。
あれ、どっちの声だった? 蒼士? それとも蒼太くん?
耳元で囁かれた色っぽい声。
子宮にダイレクトに響いてくるような、低くて艶のあるあの声は……。
う~ん…………わからん!
兄弟だけに、あの二人の声ってよく似てるんだよな。
正気の時ならもちろん聞き分けられるけど、前後不覚で酔っぱらってたとなると……ゴメンナサイ。
「あぁ~……もう!」
どうすんだ! この状況……。
二十七にもなってヤラカシちまった大失態に頭を抱えて呻いていると、
「朱莉。開けてもいいか?」
聞こえてきたのは……蒼士の声。
「あ……っと、ごめん! いま行くから」
まとまらない寝起きの髪をなんとか撫でつけてドアへと足を向けた瞬間。
ベッドのサイドテーブルからハラリと落ちた一枚の紙。
拾い上げてみると、そこには――
『オートロックだから、好きなときに帰ってもらって大丈夫』
少しばかり右あがりの角ばった字。
「どっちの字だ? これ……」
なんとか二人の字を思い出そうとするものの。
「うぅ~……思い出せない」
学生時代、蒼士とのやり取りはメールが多かったし。
蒼太くんに関しては、そもそも彼の字を目にする機会がなかった。
あ、ちょっと待てよ。そういえば、小学校を卒業する時に蒼太くんから手紙を貰ったことがあったはず。『今までありがとう。そつぎょうしてもがんばってください』みたいなやつ。
……って、何年前だよ。蒼太くんがまだ『卒業』って字も漢字で書けなかった時代の話だよ。筆跡も変わってるわ!
「朱莉~?」
やばい。
蒼士が不審がってる。
ひとまず思い出すことを諦めて、すごすごと蒼士の待つリビングへと向かう。
そういや本当に顔ドロドロだ。
「どうした? 顔色が悪いぞ。あ、二日酔いか? ったく、飲み過ぎなんだよ。だから止めとけって言ったのに」
「あぁ、うん。そうなの……なんか頭痛くて」
「これ飲め。酔いを覚ますには水を飲むのが一番だからな」
呆れたように笑った蒼士から冷たいペットボトルを渡される。
え、何なのこのヒト。イケメンな上に気まで利くの?
蒼士のいい男っぷりに、ますます昨日の相手は蒼士ではありえないと思えてくる。
こんないい男が私みたいな女を相手になんてするわけがない。
そういや、もうとっくにフラれてたわ。忘れてたけど。すっごい昔の話だし。
そもそも蒼士は酔いつぶれて正気を失ってる女に手を出すような男じゃないと思う。たぶん。
え? じゃあ……蒼太くん?
いやいや、それもありそうにない。彼の場合、女に困ってるとも思えないし、何を好き好んで、こんな顔もスタイルも十人並みの干物OLを相手にする必要があるんだ? 呼べば飛んで来る女の子がゴロゴロいそうだわ。
「あ、あの、あのね? 昨日のことなんだけど……」
「どうした? トイレなら廊下の突き当たりにあるから」
言い出せなくてモジモジしていたら、トイレを我慢していると思われたらしい。
「あ、そうじゃなくて。あの、昨日の夜のことなんだけど」
「ん?」
明らかに挙動不審な私を前に、首をかしげてみせる蒼士。
「私、蒼士と、その……」
「ん? なんだよ?」
真っ直ぐに見つめてくる蒼士の顔が見れなくて、思わず目を逸らしてしまう。
顔を動かした拍子に髪の毛が揺れて、私の首元が露わになった。
そこに注がれた蒼士の目が一瞬大きく見開かれたかと思うと――
「ぎゃあ!?」
蒼士が突然覆いかぶさってきて私の首すじをカプリと――噛んだ。
「えっ! なに? なに!?」
蒼士に噛まれた場所を押さえて狼狽えまくる私に、
「……ごめん。なんかムカついた」
「はぁ!?」
蒼士が謝ってきたけど……目が怖い。
いつもの目尻の下がった優しい蒼士はどこへ行った?
なんでそんなに怖い目つきしてるの??
「昨日の夜がどうしたって? もしかして覚えてないのか?」
「いや、それがその……」
怖い。
蒼士の目が据わってる。
心の奥の奥まで見透かされそうな鋭い目で見つめられて……息ができない。
「ハイ、スミマセン。……覚えてません」
蒼士の視線から逃げるように大きく頭を下げると、
「はぁぁ……」
と、大きな溜息。
あぁ、完全に呆れられてる……。
「あ、あの……蒼太くんは?」
「知らね」
冷たい。蒼士が冷たい。
「あんな奴、どうでもいいだろ」
あんな奴って……!
弟でしょ、あんたの。
なんかちょっと蒼太くんといい雰囲気になりかけたところを蒼士に引き剥がされた気がしないでもない。けっこう強い力で引っ張られて、蒼士の胸の中に抱きとめらたような……。
蒼士の声がちょっと怒ってるみたいだったのを覚えてる。だって蒼士が怒るなんて珍しいもん。
「え? でも、兄さん飲んでるじゃん。今日はもう送っていく気ないのかと思ってたけど?」
「……歩いても大した距離じゃないだろ」
むむ? なんだか蒼士と蒼太くんの雰囲気がちょっと険悪になった気がして。
なになに、もしかして私をめぐって争ってるの?
……なんて、「少女マンガかよ!」みたいな妄想を脳内でひとり繰り広げてはムヒヒ、と不気味な笑いを浮かべていた私。痛い。痛すぎる。
「……調子に乗っちゃったんだよなぁ」
だってこんなシチュエーション、滅多に遭遇できるもんじゃない。
イケメン兄弟に囲まれて。
久しぶりに会った蒼士も蒼太くんも、全然久しぶりって感じがしなくて。
子供の頃に戻ったみたいに楽しくて――。
……で、浮かれて、はしゃぎまくった結果がコレ。
さらに、問題はここからだよ。
蒼士に送ってもらって、帰ろうとした私。
なんで帰ってないんだ? なぜ、まだ藤沼家にいる??
覚えてない。
思い出せない。
そういえば、なんだか妙にフワフワとした気持ちのいい夢を見ていた気がするんだけど。
長くてちょっとゴツゴツした指が絶妙な力加減で私の肌の上を這いまわって――
「って……もしかして、あれ、夢じゃなかったってこと?」
アレが現実に起きたことだったとすると――
「え…………どっち?」
――どう? 気持ちいい?
なんか夢の中でそんな恥ずかしいことを聞かれたような気もするんだけど……。
あれ、どっちの声だった? 蒼士? それとも蒼太くん?
耳元で囁かれた色っぽい声。
子宮にダイレクトに響いてくるような、低くて艶のあるあの声は……。
う~ん…………わからん!
兄弟だけに、あの二人の声ってよく似てるんだよな。
正気の時ならもちろん聞き分けられるけど、前後不覚で酔っぱらってたとなると……ゴメンナサイ。
「あぁ~……もう!」
どうすんだ! この状況……。
二十七にもなってヤラカシちまった大失態に頭を抱えて呻いていると、
「朱莉。開けてもいいか?」
聞こえてきたのは……蒼士の声。
「あ……っと、ごめん! いま行くから」
まとまらない寝起きの髪をなんとか撫でつけてドアへと足を向けた瞬間。
ベッドのサイドテーブルからハラリと落ちた一枚の紙。
拾い上げてみると、そこには――
『オートロックだから、好きなときに帰ってもらって大丈夫』
少しばかり右あがりの角ばった字。
「どっちの字だ? これ……」
なんとか二人の字を思い出そうとするものの。
「うぅ~……思い出せない」
学生時代、蒼士とのやり取りはメールが多かったし。
蒼太くんに関しては、そもそも彼の字を目にする機会がなかった。
あ、ちょっと待てよ。そういえば、小学校を卒業する時に蒼太くんから手紙を貰ったことがあったはず。『今までありがとう。そつぎょうしてもがんばってください』みたいなやつ。
……って、何年前だよ。蒼太くんがまだ『卒業』って字も漢字で書けなかった時代の話だよ。筆跡も変わってるわ!
「朱莉~?」
やばい。
蒼士が不審がってる。
ひとまず思い出すことを諦めて、すごすごと蒼士の待つリビングへと向かう。
そういや本当に顔ドロドロだ。
「どうした? 顔色が悪いぞ。あ、二日酔いか? ったく、飲み過ぎなんだよ。だから止めとけって言ったのに」
「あぁ、うん。そうなの……なんか頭痛くて」
「これ飲め。酔いを覚ますには水を飲むのが一番だからな」
呆れたように笑った蒼士から冷たいペットボトルを渡される。
え、何なのこのヒト。イケメンな上に気まで利くの?
蒼士のいい男っぷりに、ますます昨日の相手は蒼士ではありえないと思えてくる。
こんないい男が私みたいな女を相手になんてするわけがない。
そういや、もうとっくにフラれてたわ。忘れてたけど。すっごい昔の話だし。
そもそも蒼士は酔いつぶれて正気を失ってる女に手を出すような男じゃないと思う。たぶん。
え? じゃあ……蒼太くん?
いやいや、それもありそうにない。彼の場合、女に困ってるとも思えないし、何を好き好んで、こんな顔もスタイルも十人並みの干物OLを相手にする必要があるんだ? 呼べば飛んで来る女の子がゴロゴロいそうだわ。
「あ、あの、あのね? 昨日のことなんだけど……」
「どうした? トイレなら廊下の突き当たりにあるから」
言い出せなくてモジモジしていたら、トイレを我慢していると思われたらしい。
「あ、そうじゃなくて。あの、昨日の夜のことなんだけど」
「ん?」
明らかに挙動不審な私を前に、首をかしげてみせる蒼士。
「私、蒼士と、その……」
「ん? なんだよ?」
真っ直ぐに見つめてくる蒼士の顔が見れなくて、思わず目を逸らしてしまう。
顔を動かした拍子に髪の毛が揺れて、私の首元が露わになった。
そこに注がれた蒼士の目が一瞬大きく見開かれたかと思うと――
「ぎゃあ!?」
蒼士が突然覆いかぶさってきて私の首すじをカプリと――噛んだ。
「えっ! なに? なに!?」
蒼士に噛まれた場所を押さえて狼狽えまくる私に、
「……ごめん。なんかムカついた」
「はぁ!?」
蒼士が謝ってきたけど……目が怖い。
いつもの目尻の下がった優しい蒼士はどこへ行った?
なんでそんなに怖い目つきしてるの??
「昨日の夜がどうしたって? もしかして覚えてないのか?」
「いや、それがその……」
怖い。
蒼士の目が据わってる。
心の奥の奥まで見透かされそうな鋭い目で見つめられて……息ができない。
「ハイ、スミマセン。……覚えてません」
蒼士の視線から逃げるように大きく頭を下げると、
「はぁぁ……」
と、大きな溜息。
あぁ、完全に呆れられてる……。
「あ、あの……蒼太くんは?」
「知らね」
冷たい。蒼士が冷たい。
「あんな奴、どうでもいいだろ」
あんな奴って……!
弟でしょ、あんたの。
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