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第二章:朱莉、かまぼこで餌付けされる
11. な?
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え? なになに?
なんで皆さん、そんな鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してるの?
というか、「鳩が豆鉄砲を食らう」ってどういう状況? そもそも「豆鉄砲」って何!? 昭和の玩具か??
……はっ! いかんいかん。
またどうでもいいことを考えてしまった。
イレギュラーな状況に置かれているせいか、どうにも今日は思考が斜めの方向へ飛んでいってしまう。
……どうしよう?
私ってば、一体どんな粗相をしでかしたんだ!?
思い当たる節がないんだけど……。
困惑する私を助けてくれたのは、またしても甘鷲(父)だった。
「ふぁっはっはっはは!」
いきなりの大爆笑が、この場に漂うおかしな空気を吹き飛ばしてくれた。
「いやぁ、おもろい! あんた、おもろいなぁ。さっきから黙りくさっとるから、てっきり大人しいお嬢はんかと思ったら。ぺらぺらぺらぺら……よう喋りはるやんけ」
え……?
もしかして、さっき私が思ったこと(どうせピンクなら明太子のほうがいいなぁ……みたいなやつ)、全部口に出ちゃってたの??
「……でも、ちょっと失礼やない? そりゃあ、『魚貴族』さんの醤油は美味しいやろうけど、ここはフレンチ料理屋なんやし、フレンチにはフレンチのやり方があらはるんとちがいますか? なんでもかんでも醤油かけたらええっていうのは乱暴やと思いますけど?」
沙羅咲さんが私の顔を睨めながら、ねっとりとした口調でおっしゃった。(最後のほう、ちょっと半笑いだったぞ)
……しかし。
彼女の言ったことは完全に正しい。
世界にはいろんな調理法があり、調味料がある。
どれが正しくて、どれが間違いかという問題でもない。
文化が違うだけ、やり方が違うだけだ。
そんなことは、さすがに私でも心得ている。
だからさっきも、ふと心に浮かんだ醤油への渇望については脳内でのつぶやきにとどめたつもりだったのに……。
まさか、口頭でもつぶやいてしまっていたとは……!
なんたる不覚!
しかも四人全員にばっちり聞こえてしまったということは、つぶやきどころの大きさじゃなくて、結構はっきりとそれなりの音量で口走ってしまったということ?
うわぁ~……恥ずかしい!
「……堀ノ……朱莉は、うちのメニューが大好きなんですよ。な?」
鮫島さん、すかさずフォロー。さすがです。
でも、いま「堀ノ内」って言いそうになったよね?
「そうだよな、朱莉……。な?」
はっ、しまった……!
鮫島さんのミスに気を取られていたせいで反応が遅れてしまい、鮫島先輩に「な?」を二回言わせてしまった。
念のため確認しとくけど、この「な?」は「いいから黙って話を合わせろ」の合図だよね。たぶん。
「……は、はい。そうなんです。もう子供の頃から『魚貴族』の料理が好き過ぎて……何を食べても『魚貴族』の料理と結びつけて考えちゃうんです。もう病気みたいなもんですねー」
そんなわけあるかい!
自分で言っといてなんだけど、さすがに苦しすぎる、この発言。
たしかに『魚貴族』のメニュー大好きだけど、さすがに何を食べても考えてしまうほどじゃない。
「そうか、そうか。それはそれは……」
私の無理くり発言に反応したのは、天鷲さん父娘ではなく、鮫島さんのお父さん――つまり『魚貴族』の大将だった。
それまで醸し出していた重々しい雰囲気とは一転して、同じ言葉を繰り返しながら、まるで首振り人形みたいに何度も何度も首を縦に振っている。その目はなぜか少し赤らんでいるように見えた。
――もしや怒ってる? それとも呆れてる?
なんかもう怖くて大将の顔をまともに見れなかった私は、自分でも引き攣っているに違いないと思う不自然な笑顔を浮かべながら、ただただこの時間が過ぎ去ってしまうことを祈るしかなかったのである。
なんで皆さん、そんな鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してるの?
というか、「鳩が豆鉄砲を食らう」ってどういう状況? そもそも「豆鉄砲」って何!? 昭和の玩具か??
……はっ! いかんいかん。
またどうでもいいことを考えてしまった。
イレギュラーな状況に置かれているせいか、どうにも今日は思考が斜めの方向へ飛んでいってしまう。
……どうしよう?
私ってば、一体どんな粗相をしでかしたんだ!?
思い当たる節がないんだけど……。
困惑する私を助けてくれたのは、またしても甘鷲(父)だった。
「ふぁっはっはっはは!」
いきなりの大爆笑が、この場に漂うおかしな空気を吹き飛ばしてくれた。
「いやぁ、おもろい! あんた、おもろいなぁ。さっきから黙りくさっとるから、てっきり大人しいお嬢はんかと思ったら。ぺらぺらぺらぺら……よう喋りはるやんけ」
え……?
もしかして、さっき私が思ったこと(どうせピンクなら明太子のほうがいいなぁ……みたいなやつ)、全部口に出ちゃってたの??
「……でも、ちょっと失礼やない? そりゃあ、『魚貴族』さんの醤油は美味しいやろうけど、ここはフレンチ料理屋なんやし、フレンチにはフレンチのやり方があらはるんとちがいますか? なんでもかんでも醤油かけたらええっていうのは乱暴やと思いますけど?」
沙羅咲さんが私の顔を睨めながら、ねっとりとした口調でおっしゃった。(最後のほう、ちょっと半笑いだったぞ)
……しかし。
彼女の言ったことは完全に正しい。
世界にはいろんな調理法があり、調味料がある。
どれが正しくて、どれが間違いかという問題でもない。
文化が違うだけ、やり方が違うだけだ。
そんなことは、さすがに私でも心得ている。
だからさっきも、ふと心に浮かんだ醤油への渇望については脳内でのつぶやきにとどめたつもりだったのに……。
まさか、口頭でもつぶやいてしまっていたとは……!
なんたる不覚!
しかも四人全員にばっちり聞こえてしまったということは、つぶやきどころの大きさじゃなくて、結構はっきりとそれなりの音量で口走ってしまったということ?
うわぁ~……恥ずかしい!
「……堀ノ……朱莉は、うちのメニューが大好きなんですよ。な?」
鮫島さん、すかさずフォロー。さすがです。
でも、いま「堀ノ内」って言いそうになったよね?
「そうだよな、朱莉……。な?」
はっ、しまった……!
鮫島さんのミスに気を取られていたせいで反応が遅れてしまい、鮫島先輩に「な?」を二回言わせてしまった。
念のため確認しとくけど、この「な?」は「いいから黙って話を合わせろ」の合図だよね。たぶん。
「……は、はい。そうなんです。もう子供の頃から『魚貴族』の料理が好き過ぎて……何を食べても『魚貴族』の料理と結びつけて考えちゃうんです。もう病気みたいなもんですねー」
そんなわけあるかい!
自分で言っといてなんだけど、さすがに苦しすぎる、この発言。
たしかに『魚貴族』のメニュー大好きだけど、さすがに何を食べても考えてしまうほどじゃない。
「そうか、そうか。それはそれは……」
私の無理くり発言に反応したのは、天鷲さん父娘ではなく、鮫島さんのお父さん――つまり『魚貴族』の大将だった。
それまで醸し出していた重々しい雰囲気とは一転して、同じ言葉を繰り返しながら、まるで首振り人形みたいに何度も何度も首を縦に振っている。その目はなぜか少し赤らんでいるように見えた。
――もしや怒ってる? それとも呆れてる?
なんかもう怖くて大将の顔をまともに見れなかった私は、自分でも引き攣っているに違いないと思う不自然な笑顔を浮かべながら、ただただこの時間が過ぎ去ってしまうことを祈るしかなかったのである。
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