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第二章:朱莉、かまぼこで餌付けされる
13. トリプルベリーミックスソーダフラッペ
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*****
指定されたのは駅前のカフェだった。
奇遇にも、以前、蒼太くんに呼び出されたのと同じ店だ。
「堀ノ内さーん!」
少しざわついている店内に、私を呼ぶ声が響いた。
涼しげな美声には聞き覚えがある……ような、ないような。
声のした方に目を向けると、サラサラなセミロングの髪が印象的な細身の女性が私に向かって手を振っていた。
「あぁ……コンちゃん。久しぶり~」
どうしよう、顔が引き攣っていたかもしれない。
正直、どんなテンションで返したらいいのか……ちょっと迷ってしまったのだ。
彼女の名前はコンちゃん。近藤さんだから、コンちゃん。
高校の時の同級生だ。
下の名前は……えーと……ダメだ、思い出せない!
ずっと「コンちゃん」って呼んでたからなぁ。
いや。ずっと……って言うほど親しくなかった。
友達の友達ってところかな。
だから今日だって、ものすっごい久しぶりの対面なのだ。
高校を卒業して以来、初めてじゃない?
「みぃちゃんは、やっぱり来れないみたい」
私はそう伝えてから、コンちゃんの向かいの席へと腰を下ろした。
そう。先週、鮫島さんと別れた後に来た通知は高校時代の友達・みぃちゃんからだった。
みぃちゃんとは、私がこっちに戻ってきてすぐの頃に一度だけ会ったんだけど。
今や一児の母となったみぃちゃんは子育てに忙しく、残念ながら学生時代のように気軽に連絡を取り合える感じではなくなってしまったのだ。
ちなみに、コンちゃんと仲が良かったのは、私ではなく、みぃちゃんである。
「あぁ、うん。大丈夫。今日は堀ノ内さんに会いたかったから」
コンちゃんがアンニュイに微笑んで、髪をかき上げた。その拍子に、うすく茶色がかった髪の毛の先っぽが日の光を反射してキラキラと光を撒いた。
なんというか、ムンムンとした濃い大人の色気が匂い立ってくるようだわ。思わず「アンニュイ」なんて、慣れない言葉を使っちゃったよ!
昔から大人っぽい子だったけど、今もやっぱり大人っぽい。
同級生ながら、ちょっと気後れするぐらい……って、もう二十代後半なんだから、当たり前か。「大人っぽい」っていうか、もうとっくに大人だったね。
ん? もしや「大人っぽい」って、この歳になるともう褒め言葉じゃない? むしろ、ちょっとディスってる? いやいや、別にコンちゃんが「老けて見える」ってわけじゃないから!
「堀ノ内さん? どうかした?」
挙動不審な私を前に、コンちゃんが首を傾げた。
「え? あ、ううん、なんでもない。それより私に会いたかったって……なんで?」
私は勢いにまかせて、みぃちゃんづてに連絡をもらって以来ずっと気にかかっていたことを聞いてみた。単刀直入。
「あぁ……うん。ちょっと前に、堀ノ内さんのこと電車で見かけて」
「電車?」
「そう。一緒にいたの……藤沼くんだよね?」
なんと!
蒼士と一緒にいたところを見られてたのか……。
蒼士と電車に乗った日ということは……あれか、あの鮫島さんの家で動画の撮影を見学した日か。
「それから、先週も……堀ノ内さんのこと、駅前の大通りで見かけて。最近よく見かけるなぁ、と思ったら久しぶりに会いたくなっちゃって……それで、みぃちゃんに堀ノ内さんと連絡が取れるようにお願いしてみたの」
「はぁ、そうなんだ……」
おいおい、この短期間に私はどれだけコンちゃんに目撃されているんだ?
そう広くはない街とはいえ、ビックリだよ。
「ねぇ、堀ノ内さんはまだ独身だよね?」
「え……うん」
おぉ。実にさりげなく近況を探ってきたな、コンちゃん。
「でも藤沼くんと付き合ってるんでしょ? 電車の中でいい雰囲気だったし」
おぉ、コンちゃん、さらに突っ込んできた。
どうしよう。どう答える? 正直、微妙なとこなんだけど……。
「う~ん……そうだね……」
煮え切らない私の答えに、
「あれ、ちがうの?」
コンちゃんが探るような視線を私に向けた。
コンちゃんは切れ長の目元が涼しげな美人さんなんだけど……それだけに真顔だとちょっと怖いのよ。
思わず仰け反る私に、コンちゃんは小さく首を傾げてから、飲みかけのドリンクを手に取った。綺麗なピンクベージュの唇をすぼめてストローに口をつけると、赤紫色の透きとおったドリンクをズズズー……と飲み干す。丸く黒っぽい物体が吸い上げられて太めのストローの中を下から上へズズズっと移動していくのが見えた。
あ、タピオカ?
ちがう、ブルーベリーか。
そういえば、入り口にポスターが貼ってあったな。
『期間限定トリプルベリーミックスソーダフラッペ』。
いいなぁ、美味しそう。私も買ってこよっかなぁ~……なんて、思わず物欲しげな目を向けてしまったところで――
ブルブルブル♪
テーブルの上に置かれていたコンちゃんのスマホが震えた。
「ごめん、ちょっと……」
「どうぞどうぞ、私も飲み物買ってくるね」
私が席を立った矢先、
「え!? ちょっ……大丈夫なの? わかった、すぐ帰るから!」
コンちゃんの裏返った声が聞こえた。
なになに? すごい焦ってるみたいだけど……。
「堀ノ内さん、ごめん! 娘がケガしたみたいで、すぐに帰らなきゃいけなくなっちゃって……。こっちから呼び出したのに、ごめんね」
申し訳なさそうに言いながら、コンちゃんがバッグを掴んで立ち上がった。
へぇ、娘さんがいるんだ。
コンちゃん、自分の近況もサラっと報告したな。
「いいよいいよ、早く行ってあげて」
私は軽く笑いながら言った。「気にしてないよ」の意を込めて。実際、気にしてないからね。子供優先。
コンちゃんは軽く頭を下げて足早に私の前を通りすぎていった。が、すれ違いざまに振り向いて口を開いた。
「堀ノ内さん! あの……」
何か言いたげなコンちゃん。
「うん? なに?」
「……ううん、また連絡するね。今日はありがとう」
コンちゃんはそう言うと、今度こそ振り返らずカフェを出ていった。
私はというと、「コンちゃん、何の用だったのかな?」と一抹の疑問は抱きつつ……。
「娘さんのケガ、大したことないといいけど……」なーんて、会ったこともないコンちゃんの娘さんを心配しながらも、ひとまず「トリプルベリーミックスソーダフラッペ」を堪能したのであった。
指定されたのは駅前のカフェだった。
奇遇にも、以前、蒼太くんに呼び出されたのと同じ店だ。
「堀ノ内さーん!」
少しざわついている店内に、私を呼ぶ声が響いた。
涼しげな美声には聞き覚えがある……ような、ないような。
声のした方に目を向けると、サラサラなセミロングの髪が印象的な細身の女性が私に向かって手を振っていた。
「あぁ……コンちゃん。久しぶり~」
どうしよう、顔が引き攣っていたかもしれない。
正直、どんなテンションで返したらいいのか……ちょっと迷ってしまったのだ。
彼女の名前はコンちゃん。近藤さんだから、コンちゃん。
高校の時の同級生だ。
下の名前は……えーと……ダメだ、思い出せない!
ずっと「コンちゃん」って呼んでたからなぁ。
いや。ずっと……って言うほど親しくなかった。
友達の友達ってところかな。
だから今日だって、ものすっごい久しぶりの対面なのだ。
高校を卒業して以来、初めてじゃない?
「みぃちゃんは、やっぱり来れないみたい」
私はそう伝えてから、コンちゃんの向かいの席へと腰を下ろした。
そう。先週、鮫島さんと別れた後に来た通知は高校時代の友達・みぃちゃんからだった。
みぃちゃんとは、私がこっちに戻ってきてすぐの頃に一度だけ会ったんだけど。
今や一児の母となったみぃちゃんは子育てに忙しく、残念ながら学生時代のように気軽に連絡を取り合える感じではなくなってしまったのだ。
ちなみに、コンちゃんと仲が良かったのは、私ではなく、みぃちゃんである。
「あぁ、うん。大丈夫。今日は堀ノ内さんに会いたかったから」
コンちゃんがアンニュイに微笑んで、髪をかき上げた。その拍子に、うすく茶色がかった髪の毛の先っぽが日の光を反射してキラキラと光を撒いた。
なんというか、ムンムンとした濃い大人の色気が匂い立ってくるようだわ。思わず「アンニュイ」なんて、慣れない言葉を使っちゃったよ!
昔から大人っぽい子だったけど、今もやっぱり大人っぽい。
同級生ながら、ちょっと気後れするぐらい……って、もう二十代後半なんだから、当たり前か。「大人っぽい」っていうか、もうとっくに大人だったね。
ん? もしや「大人っぽい」って、この歳になるともう褒め言葉じゃない? むしろ、ちょっとディスってる? いやいや、別にコンちゃんが「老けて見える」ってわけじゃないから!
「堀ノ内さん? どうかした?」
挙動不審な私を前に、コンちゃんが首を傾げた。
「え? あ、ううん、なんでもない。それより私に会いたかったって……なんで?」
私は勢いにまかせて、みぃちゃんづてに連絡をもらって以来ずっと気にかかっていたことを聞いてみた。単刀直入。
「あぁ……うん。ちょっと前に、堀ノ内さんのこと電車で見かけて」
「電車?」
「そう。一緒にいたの……藤沼くんだよね?」
なんと!
蒼士と一緒にいたところを見られてたのか……。
蒼士と電車に乗った日ということは……あれか、あの鮫島さんの家で動画の撮影を見学した日か。
「それから、先週も……堀ノ内さんのこと、駅前の大通りで見かけて。最近よく見かけるなぁ、と思ったら久しぶりに会いたくなっちゃって……それで、みぃちゃんに堀ノ内さんと連絡が取れるようにお願いしてみたの」
「はぁ、そうなんだ……」
おいおい、この短期間に私はどれだけコンちゃんに目撃されているんだ?
そう広くはない街とはいえ、ビックリだよ。
「ねぇ、堀ノ内さんはまだ独身だよね?」
「え……うん」
おぉ。実にさりげなく近況を探ってきたな、コンちゃん。
「でも藤沼くんと付き合ってるんでしょ? 電車の中でいい雰囲気だったし」
おぉ、コンちゃん、さらに突っ込んできた。
どうしよう。どう答える? 正直、微妙なとこなんだけど……。
「う~ん……そうだね……」
煮え切らない私の答えに、
「あれ、ちがうの?」
コンちゃんが探るような視線を私に向けた。
コンちゃんは切れ長の目元が涼しげな美人さんなんだけど……それだけに真顔だとちょっと怖いのよ。
思わず仰け反る私に、コンちゃんは小さく首を傾げてから、飲みかけのドリンクを手に取った。綺麗なピンクベージュの唇をすぼめてストローに口をつけると、赤紫色の透きとおったドリンクをズズズー……と飲み干す。丸く黒っぽい物体が吸い上げられて太めのストローの中を下から上へズズズっと移動していくのが見えた。
あ、タピオカ?
ちがう、ブルーベリーか。
そういえば、入り口にポスターが貼ってあったな。
『期間限定トリプルベリーミックスソーダフラッペ』。
いいなぁ、美味しそう。私も買ってこよっかなぁ~……なんて、思わず物欲しげな目を向けてしまったところで――
ブルブルブル♪
テーブルの上に置かれていたコンちゃんのスマホが震えた。
「ごめん、ちょっと……」
「どうぞどうぞ、私も飲み物買ってくるね」
私が席を立った矢先、
「え!? ちょっ……大丈夫なの? わかった、すぐ帰るから!」
コンちゃんの裏返った声が聞こえた。
なになに? すごい焦ってるみたいだけど……。
「堀ノ内さん、ごめん! 娘がケガしたみたいで、すぐに帰らなきゃいけなくなっちゃって……。こっちから呼び出したのに、ごめんね」
申し訳なさそうに言いながら、コンちゃんがバッグを掴んで立ち上がった。
へぇ、娘さんがいるんだ。
コンちゃん、自分の近況もサラっと報告したな。
「いいよいいよ、早く行ってあげて」
私は軽く笑いながら言った。「気にしてないよ」の意を込めて。実際、気にしてないからね。子供優先。
コンちゃんは軽く頭を下げて足早に私の前を通りすぎていった。が、すれ違いざまに振り向いて口を開いた。
「堀ノ内さん! あの……」
何か言いたげなコンちゃん。
「うん? なに?」
「……ううん、また連絡するね。今日はありがとう」
コンちゃんはそう言うと、今度こそ振り返らずカフェを出ていった。
私はというと、「コンちゃん、何の用だったのかな?」と一抹の疑問は抱きつつ……。
「娘さんのケガ、大したことないといいけど……」なーんて、会ったこともないコンちゃんの娘さんを心配しながらも、ひとまず「トリプルベリーミックスソーダフラッペ」を堪能したのであった。
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