朱に交われば蒼くなる

スケキヨ

文字の大きさ
24 / 26
第二章:朱莉、かまぼこで餌付けされる

14. 設定、忘れちゃった?

しおりを挟む
*****

近藤こんどうさん?」

「そう、高校のときの同級生。覚えてない?」

 私が蒼士そうしに尋ねると、彼は記憶を手繰り寄せるように空を仰いだ。

「う~ん……」

 唸りながら、イカチップスを囓っている。
 バリ、バリ、バリ……。

 はい、いつもの『魚貴族うおきぞく』です。

 だから蒼士がいま食べてるイカチップスも、もちろん自家製だよ! 市販のやつより弾力があって噛みごたえ抜群なんだよね。

 ちなみに今日来ているのは駅前のお店ではなく、私たちの通っていた高校にほど近い地元の店舗だ。繁華街の店に比べると古くて狭くいんだけど、このお店は特別。だって、記念すべき『魚貴族』一号店だからね。いわば「発祥の地」ってやつなのだ。

「……あぁ! あの髪の長い子か」

 蒼士がイカチップスをバリンと噛み砕きながら、手を打った。

「でも朱莉あかり、あの子と仲良かったのか? 一緒にいるところ、見たことないような気がするけど」

 蒼士は首を捻りながら、またもイカチップスに手を伸ばした。
 ほんっと、イカ好きだよね。

「ううん、そんなに」

 私も大好物のかまぼこをハムハムしながら首を振る。

「そうそう、『今度は藤沼ふじぬまくんも一緒にどう?』だってー」

 私がスマホをかざしながら、コンちゃんから届いたメッセージを見せると、

「それ、ヤバイんじゃない? その人、朱莉さんをダシにして兄さんのこと狙ってるのかも」

 私の隣に座るヤツが不穏なことを口走った。

「なぁに言ってんの、蒼太そうたくん。そんなんじゃないってー。コンちゃんにはすでにお子さんもいるんだし」

 私がそう言うと、蒼太くんがつまらなそうに肩をすくめてみせた。

 あれ、なんでココに蒼太くんがいるかって?

 だよねー。
 就職のために東京へ旅立っていったよね?
 送別会もしたよね。
 それはつい一カ月前の話なんだけど……。

 なんとこの子、ゴールデンウィークに入った途端、すぐさま帰省してきちゃったのだ。
 ホームシックってやつ?
 それとも、蒼士お兄ちゃんに会いたくなっちゃったのかな?

 やれやれ、まだ一カ月しか経っていないというのに。最近の若者、軟弱すぎるわー。

「朱莉ちゃん、イカチップス、もう一皿追加しとく?」

 気を利かせて声をかけてくれたのは、この店の店長さんだ。

「あ、ゲンさん。そうだなぁ……どうする?」

 蒼士に目を向けると、もぐもぐと口を動かしたまま無言で首を縦に振っている。

「じゃあ、お願いします」

「はいよー」

 ゲンさんは空いたお皿を下げながら、愛想よく返事をして厨房へと戻っていく。
 名前で呼び合うなんて、ずいぶん親しげじゃないかって?
 フフフ。まぁ常連だからね、私。というか、堀ノ内ほりのうち家は昔から一家全員が『魚貴族』のファンだから。
 ちなみに「ゲンさん」って言うと昭和の頑固オヤジみたいだけど、たしか名前は「元気げんきさん」で、年齢もまだ三十代のはずだ。
 私が子供の頃からこの店で働いていたから、すっかりベテラン。当時はちょっとチャラついたバイトのお兄ちゃんだったけど、今やこの一号店を任された頼もしき店長なんだから立派だよね。

「はい。お待たせー。堀ノ内さん、例のヤツ、さっそく作ってみたから食べてみてー」

 ゲンさんと入れ違いで厨房から出てきたのは鮫島さめじまさんだ。お店のハッピに白いハチマキをキュッと額に巻きつけていて、今日はすっかり店員モードの出で立ちである。

 実はまだ開店前なんだけど、専務鮫島さん特権で特別に入らせてもらっていた。
 私たちの前に置かれた皿の上には、こんがりと色よく揚がった魚に、ほんのりピンクがかった綺麗な色のソースがかかっている。

「おぉ~、キレイ! 美味しそう! イメージ通り過ぎる!!」

 感激のあまり、思わず叫んじゃうよ!
 だって頭の中で思い描いたメニューが見事に具現化されている。見た目だけじゃない。ふわっと立ちのぼる湯気の匂いは想像以上で、食欲をそそられまくる。

 この料理は……そう、例のアレだ。
 京都の甘鷲あまわしさんとのお見合いの席で私が口走ったやつ。ただの思いつきに過ぎないシロモノを鮫島さんは律儀にも試作してみてくれたのだ。

「なになに、って?」

 耳ざとい蒼太くんが、料理と私の顔を見比べながら尋ねてくる。

「内緒だよ。ねー、堀ノ内さん?」

「……えー」

 不満そうに口を尖らせた蒼太くんと、一際大きな音を立ててイカチップスを噛み砕いた蒼士。

 ちょっと鮫島さん、誤解を招くような言い方やめてよー!
 私が軽く睨みをきかせてみても、鮫島さんはどこ吹く風だ。……くそぅ。

「ダメだよ、朱莉さん。あっちもこっちもってフラフラしてたら、結局誰も手に入らず、ひとりぼっちのまま、おばあちゃんになっちゃうよー……って、これ美味しいね」

 おい、こら、蒼太!
 妙齢の女性が一番ピリつくことを好き勝手ほざくんじゃない! しかも、私より先に例のやつ食べてるし……!

 私は負けじと箸を伸ばして魚を摘み上げると、ピンク色のソースをたっぷり絡めて口の中へと運んだ。
 白身魚の淡白な旨味と共に、ピリッとした刺激が舌を突く。
 これこれこれこれ……!
 このピリッとした辛さ、最高!
 あ、そうだ。醤油醤油……。
 テーブルの隅に常備されている魚貴族特製のタマリ醤油をチョロリと垂らして……うぅぅ、明太子の辛さの中に、醤油のほのかな甘味が混ざり合ってなんとも絶妙な味加減。これはご飯が進むわ。もちろんお酒も。あぁ~、焼酎飲みたい。

「鮫島さん、これ、めちゃめちゃ美味しいですっ! お酒が欲しくなります!」

「はははっ、それはよかった。店のメニューに加えようかな。で、堀ノ内さんはなに飲む?」

「焼酎お願いします! ロックで」

「はいはい、喜んでー」

 鮫島さんが笑いながら厨房へと足を向けたところで、

「海斗くん~、電話!」

「はいよ~」

 ゲンさんに呼ばれた鮫島さんが方向転換して電話のあるカウンターへと向かっていった。

 ……うむ。焼酎は電話の後ですね。

「ヤバいヤバいヤバい」

 電話を終えた鮫島さんが珍しくあわてている。

「海斗さん、どうしたんですか?」

 蒼士が尋ねると、

「今から親父が来るって言ってるんだけど」

 鮫島さんが苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。

「大将がいらっしゃるんですか。いいじゃないですか~」

 私が例の料理を食みながら暢気に口を挟むとーー

「いやいや、堀ノ内さん。この間の設定、もう忘れちゃった?」

「あ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...