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少しずつ開く距離
しおりを挟む「ふー。今日も遅くなっちゃったなぁ」
今日も週一回の図書委員の仕事を終え、ボクは家に帰る。
図書委員の仕事がある度にプレイ時間の減るボクは、少しずつチナツとリオンにレベル差をつけられていた。
それにガッツリとDCOにハマる彼女たちと違って、読書好きなボクはたまにプレイを断って本を読む時間を作ったりしている。そのことが、お互いのやりこみ具合に影響を及ぼしていた。
今日もお気に入りの小説の新刊を手に入れたボクは、DCOにログインせずにこのまま本を読もうと考えている。いつもDCOで遊んでいる二人には悪いけど、たまには一人の時間も大切だ。
そして家に帰り晩ご飯を食べると、ボクは本を読むために自室へと戻る。そこでボクは昨日チナツに借りた本を、まだ返していないことに気がついた。
ボクはその本を返すために、DCOで遊んでいる彼女の部屋にこっそりと入ることにする。
VRMMOにフルダイブしている妹の部屋に勝手に入るなんて悪い気もするが、少しくらいなら大丈夫だろう。ゲームを楽しく遊んでいるチナツに、本を返すためにわざわざログアウトしてもらうほうが迷惑な気がする。
ボクが物音を立てないようにゆっくりとドアを開けて妹の部屋に入ると、頭にVRMMMOをプレイするヘッドギアを装着したチナツがベッドの上に仰向けになって寝ていた。
「……っ♡……くぅっ♡……んっ♡……あっ♡……やめっ♡……っ♡」
戦闘中なのか、チナツは息を荒げて懸命にゲームをプレイしている。ボクはどっぷりとDCOにハマっている妹の姿を微笑ましく思いながら、借りた本を返すと部屋から出ていった。
でもそれから、少しずつボクたち三人にすれ違いが増える。
ゲームの進行状況に差が開いたために、一緒にクエストを受けるのが難しくなってきたのだ。
ボクは彼女たちに気を遣わせないように、一人でDCOをプレイする時間が増えた。
そしてボクとパーティーを組む代わりにチナツとリオンは、過去に野良でパーティを組んでいた大学生の男の人たちとゲームを一緒にプレイすることになる。
大学生たちとパーティーを組めないときに、ボクのレベル上げに付き合ってくれるというように彼女たちのプレイ状況が変化していた。
「あれー、遅いなぁ……」
今日はひさしぶりに二人とパーティーを組む約束をしているのに、待ち合わせの時間になってもチナツとリオンがこない。
たしか妹は、ゲームにログインをしているはずだ。部屋でヘッドギアを装着している、彼女の姿を見た。リオンは約束の時間になったら、ログインするとスマホに連絡をもらっている。
ボクは漠然とした不安を感じながら、二人を待った。
「ごめんねー。お風呂に入ってたら、遅くなっちゃった!」
約束の時間に少し遅れて、幼なじみのリオンがやってくる。ボクはいつもと同じ様子の彼女の姿を見て、ホッとすることになった。それにしても、チナツは何をやってるんだろう。
性格がしっかりしていて腹黒いあいつは、いつも遅刻するボクやリオンを注意する側だった。それなのに、今日は彼女が一番の遅刻だ。何かトラブルがあったのだろうか。
チナツのことが心配になり始めたボクに、彼女からフレンドチャットが届く。
「ごめんね。たまたま参加したクエストが忙しくなっちゃったから、今日はそっちをプレイする」
どうやらチナツは、ボクとした待ち合わせの時間までに暇つぶしで受けたクエストが思ったよりも長引いてしまったようだ。
まあ、そういうときもある。簡単だと思っていたクエストが特殊クエストに変化して、レアなアイテムが手に入るイベントに変わるという要素がDCOにはたくさんあった。
チナツもボクと待ち合わせした時間の前に受けていたクエストが、特殊クエストに変化してしまったのだろう。それならばボクたちとの予定よりも、二度と手に入らないかもしれないレアなアイテムを優先してもらったほうがいい。
「ボクたちよりも、クエストを優先して!」
「ごめんね。絶対に今日だけにするから……」
ボクとリオンはチナツに了承の返事を返すと、二人でレベル上げに出発するのであった。
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