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発情の香り* 【アルリエタ】
しおりを挟む軍神と呼ばれる俺が国境を回って睨みをきかせる。
それは確かに必要なことで、それだけで戦が回避できるなら安いものとも思っている。何の因果か軍神と呼ばれるに至ってしまったのだから、それくらいの務めは果たさねばならないとも思っている。
思ってはいるのだが、行きたいかどうかと言われると話は別だ。
できることなら、行きたくない。なんとかして都に留まっていたい。
いや、別に都でなくても構わないから、どこかラビィと離れずに済むところにいたい。
―――俺がこんな風に思っているとは、ラビィは気づいてもいないだろうが。
発情期に無自覚に煽られて、堪えもきかずに抱き潰した。
獣化したまま巨大なものを突っ込んで、あふれるほどに精を放って―――何度思い返しても強姦でしかない行為だったが、ラビィは健気にも俺を受け入れてくれた。
「お慕いしていても、良いのですか?」と控えめに聞き、閨の中でのみ「すきです」と打ち明け、過ぎた快楽に泣きながら身悶える。そんな可愛い姿を見たくてつい何度も抱き潰してしまうのだが―――こんな関係になってもなお、ラビィはもどかしいほどに遠慮がちだ。
抱こうとして身体をまさぐれば「お疲れではないのですか?」と瞳を揺らし、「嫌か」と聞けば恥ずかしそうに首を振る。
そうして抱かれてくれるのに、寝るときはいつもベッドの端だ。
ちんまりと身体を丸めて眠りにつくから、起こさないよう抱き寄せて、俺の腕に閉じ込めてやる。……あの日から毎日そうしてるのに、起きたラビィの第一声は、いつも決まって「ごめんなさい」だ。
ラビィが控えめなのは今に始まったことではないが、これで不安になるなと言うほうが無理だろう。
ラビィの「すき」は尊敬の意味なのではないか。自分を使用人と思い込んでいるから逆らえなくて、仕方なく抱かれているのではないか。
……俺に抱かれているときの嬉しそうなにおいを嗅ぐときだけ、この不安から解放される。
快感からか恋慕からかはわからないが、抱かれるのは悦んでくれているとわかるから。
―――軍神とあろうものが、情けない。
わずか一週間の出張だったのに、今回はことさら耐えがたかった。
華奢で柔らかなラビィの身体を知っているだけに、独り寝はなんとも虚しかった。
ラビィがどうしているかを考えてばかりの日々だったが、ラビィのほうはどうだっただろう。
少しは寂しいと思ってくれただろうか。
久しぶりの我が家の戸を軽く叩いて、そのまま扉を押し開ける。
まだ夕餉の支度には早い時間だが、ラビィは何をしているだろうか。いつも小さな身体でこまねずみのように働いているから、俺の帰宅にも気づかないかもしれない―――と、考えながら足を踏み入れ、沸き起こった違和感に眉根を寄せた。
―――時計の音がしない。
ラビィがいつも巻いている、ねじ式の時計が動いていない。
食卓の上にはカビの生えたパンが置かれ、床にはうっすらと埃が積もっている。
「ラビィ?」
ラビィの名を呼んで耳を澄ませるが、返事はない。
だが獣人の耳は乱れた吐息をちゃんと拾って、足早に二人の寝室へと向かう。パンがかびるほどの間、一人で寝込んでいたのだろうか。今も苦しんでいるのだろうか。
焦って踏み込んだ寝室にも、ラビィはいない。だが乱れた吐息はかなり近くなっている。
いったいどこに―――と耳を頼りにラビィを探せば、すぐ隣の衣装部屋でうずくまっていた。
むせかえるほどに甘く濃い、発情の香りを漂わせて。
俺の服で巣を作り、その中で大きく脚を開いて―――真っ赤に腫れた性器を握り、後孔に指を挿し込んだまま。
俺にようやく気がついたラビィが、くしゃりと顔を歪めてぼろぼろと泣く。
「ある、さまぁ……っ、……ごめ……なさ……」
「……」
「ぼく、ぼく、…………ッもう、」
びくんと身体を震わせて、ラビィがイッた。
透明な液体が性器から放たれ、俺の靴にぱたぱたとかかる。それを見てまた泣き出したラビィは、今はきっと正気ではない。
焦点が定まらない瞳を見ても、生まれて初めての発情期で、おかしくなっているのがわかる。
だが。
精液で濡れた手をそのままに、ラビィが尻に手をかける。
片手の指は後孔に深く突き込んだまま、もう片手でそこを拡げてみせて、ちまい尻尾を弱々しく振る。
懸命であからさまな交尾の誘いに、脳髄が焼き切れそうな興奮を覚える。
無意識にぐるると喉を鳴らし、そのままラビィにのしかかった。
目の前の番をどう食らうかしか、考えられはしなかった。
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