サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第三章.寂寥のお絵かき

4.訪問営業

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「ママぁ~、あの人達なぁに?」

「しっ! 見てはいけません!」

 道化師ピエロの格好で帝都の街を歩いているとやはり案の定ものすごく目立つ……子どもには後ろ指を刺され、大人からは遠巻きに見られと完全に変質者扱いである。

「……なぁ、目立つんだが?」

「だから魔法使いだとは思われんだろ」

「確かに帝都で目立ちたがる魔法使いなど居らんが……」

 カルマンに指示された通りに街ゆく民衆に笑顔を振り撒き、ジャグリングをして歩きながらボヤけばそんなぶっきらぼうな返事が返ってくる……確かに皇帝のお膝元である帝都で魔法使いがわざわざ目立つなど、自殺行為に等しいから逆に怪しまれないというのはわかる。

「不審者として怪しまれている気がするが?」

「魔法使いだとバレるよりもよっぽどマシだろうが」

 まぁそう言われると言い返せないんだが、リーシャとレティシャが不憫で仕方なくてな……一人だけまともな格好なためにかえって悪目立ちしてしまい、俺の後ろで縮こまるリーシャと、いつもよりも高圧的に周りを威嚇してしまうレティシャを見ているとこの依頼を完遂できるのか不安になってしまう。

「それよりもそろそろ依頼の貴族家に着くぞ、準備しろ」

「……もう貴族街か」

 警備員に自然な動きで賄賂を渡していたカルマンを努めて無視して言われた通りに準備をする……といってもそれっぽい動きの再確認と適当な『対価』として石やパンを用意する程度だが。

「ここだな……ごめ~んくださぁ~い?! ワタクシ達は営業に来た『ピエロマスク』と言う者でございまぁ~す!!」

「「「っ?!」」」

 いきなり甲高い声で呼び掛けるカルマンに対して驚きのあまり三人で一斉に振り替える……な、なんだその声は?! 魔法でも使っているのか?!

「あ、あなた魔法使いだったのね?!」

「レティシャもだろうが」

「お前……その声……」

「なんもねぇから! どんな事も金稼ぎに繋がるから習得しただけだ!」

 カルマンの相棒であるレティシャも知らない一面だったようで半ば混乱気味になりながら驚く。俺も呆然と呟けば彼らしい理由か返ってきて妙に納得すると共にこいつ金稼ぎに本気過ぎると改めて戦慄する。

「……」

「……なんでリーシャは固まってんだ?」

「他人の予測不可能な挙動に弱いんだ、そっとしてやれ……そのうち復活する」

「そうか……」

 相変わらず自分と慣れた人以外の予想外な言動に弱く、固まってしまっているリーシャを不思議そうに見るカルマンに大丈夫だと伝えていると執事らしき人が出てきた。

「屋敷の前で騒いでいる不審者はあなた達ですかな?」

「ダンディーなおじい様それはないですよぉ! 我々こう見えてもガージュ伯爵様から依頼されて営業に来たんですよぉ?」

「ふむ……?」

 こちらを不審そうな目でジロジロと観察するが追い返したりはしない、もし本当に伯爵のお客様だったら不味い事になると考えているのかどう判断するか迷っている様子だな。

「おじい様、これを見て下さればわかるかと」

「……こ、これは?!」

 また賄賂でも出したのかと思えば奈落の底アバドンの受付でこの依頼を受注した時に渡された帝国政府からの正式な……紹介状の様なもの? をカルマンが取り出す……そもそも魔法使いに依頼を出した事が表に出てはいけないため、帝都に入る時など大っぴらには使えないが、伯爵にスムーズに取り次ぐのには使える。

「……旦那様をに伝えて来ますのでエントランスにてお待ちを」

「かしこまりましたぁ」

 途中の屋敷のエントランスまで案内されたあと執事はさっさっと奥へと行ってしまったため、待っている間どうしようかと考えていると遠巻きに人が集まって来る……まぁこんなピエロの格好をしている人間が三人も居れば気になるか。

「皆さま寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今からこの方が手品をしてくださいますよ!」

「えぇ?! ち、ちょっとあなた?!」

 ……そう言えば貴族の家に営業に来たという設定だったな、ただ突っ立ているよりは良いのだろうがいきなり振られたレティシャがワタワタしている。

「よ、よぉく見なさいよね! この石が……ほらっ!」

「『おぉ……』」

 レティシャがなんの変哲もない石ころを魔法によってルビーの宝石へと変質させ集まってきた使用人達を驚かせる……この程度の魔法の行使であるならば詠唱も供物も要らない。

「タネも仕掛けもある手品でございます! 誰か要らない物を持ってはいませんか? 綺麗な宝石へと代えてみせましょう!」

「わ、私持っています!」

「……こちらに」

 カルマンから目配せをされてしまったので若いメイドからよくわからない工芸品を受け取る……おっかなびっくりといった様子のそのメイドを安心させるように微笑みながら魔法を行使して綺麗なサファイアの彫像へと変質させる。

「どうぞ、お嬢さん」

「わぁ……」

 膝まづいて若いメイドへとそれを渡せば頬を上気させ、恍惚とした表情で受け取ってくれる……と言ってもその辺の石ころで行使した魔法だ、当然本物の宝石に変質させるには『価値』が全く足りないためにそれっぽく色が着いただけの石ころに変わりはないのだが、本人が喜んでくれるのなら構わないだろう。

「……(ギュッ」

「……どうした、リーシャ」

「……な、なんで……もあ、り……ませ、ん…………」

 こちらの服の裾を掴んで来たリーシャを心配するが『なんでもない』と言われてしまう……そういえば気付けば人の数が多くなってきたな? 今もカルマンが目の前で魔法を手品と言い張って観客を湧かせているが、この人数はリーシャにはキツかったのだろう……顔色が悪い。

「……もう少しの辛抱だ、頑張れ」

「は、い……」

 リーシャと小声で会話しながら自分も魔法を使って何もないハンカチの中に花を咲かせ、水をワインに変えた後に飲むふりをしてさらにそれを対価に魔法を使って誤魔化す……そんな詐欺じみた事をしていると伯爵が来たようだ。

「お前ら何をしている?」

「っ! こ、これは伯爵様……!」

 如何にも神経質そうな男性が現れるとそれまで賑やかだったエントランスホールは途端に緊張が張り詰める息苦しい空間となる……こいつが今回の
依頼者でもあり──

「……お前たちが件のか?」

「そのとお~りでございます!」

 ──殺害対象の両親を殺して家督を簒奪した……叔父か。

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