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第三章.寂寥のお絵かき
5.半人半魔
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「ここに化け物の子が居る」
「ははっ! そうでございますか!」
既にこちらの素性を知っている伯爵に連れて来られたのは敷地内にある別邸らしき場所で、ここに今回の殺害対象を隔離しているのだろう……既に狩人が潜伏しているかも知れないので警戒しながらカルマンと伯爵の会話に耳を傾ける。
「手段は問わんが……奴が成人する二週間後までには殺せ」
「……今すぐじゃなくてよろしいので?」
当然の疑問だな、家督を簒奪した伯爵としても早く殺してくれた方が都合が良いだろうに……やはりこれは罠で狩人の準備が終わるまでの時間稼ぎか? 既にここは敵地のド真ん中だと言うことを改めて肝に銘じる。
「……お前たちは知らなくていい……………………頼んだぞ」
「さようで……」
カルマンの疑問にもまともに答えず、ぶっきらぼうにそう言って神経質そうな伯爵はこの場から立ち去って行く……その後ろ姿を眺めながら、やはり罠の可能性が高いのだろうなと考える。
「……どう思う?」
「ま、罠の可能性が高いわな」
「私はそんなのあっても問題ないんだから!」
「わ、罠の……可能、性……が高い、と思……いま、す……」
少し不安そうな表情で強がりを言うレティシャは放っておくとして、カルマンもリーシャもやはり罠の可能性が高いと考えているか……まぁどっちにしろ依頼を完遂しなければならないのだが。
「……とりあえず対象と接触するぞ」
「おう」
殺害対象が隔離されているであろう別邸へと一歩踏み込む……なんだこれは? 扉を開けて直ぐに視界に入って来たのは暴力的までの『赤』だった。
「……これは絵か?」
「……すげぇ、ここにあるだけで孫の代まで遊べる価値はあるんじゃねぇか?」
「……そんなにか?」
「俺の金銭感覚に狂いはない」
別邸の壁どころか天井や床にさえ貼られまくっている絵画は全て『赤色』で描かれていた……色の濃淡の差はあれど元は全て同じ『赤色』だろうと確信が持てる。
「……『ハエトリグモ』、『湖畔の鶴』、『庭師』……色々あるな」
「……スカウトするか?」
勝手に殺害対象を専属画家として一財産儲けようと企むカルマンを努めて無視しながら純粋に感心しているリーシャとレティシャを連れて奥の部屋の前へと着き、そのままノックする。
『……どちら様?』
「……伯爵に頼まれて慰労に来たピエロでございます」
『まぁ、そうなの?』
部屋の向こうか聞こえてきたのは若い……幼いとさえ言える少女の声色で思わずリーシャと顔を見合わせる。仮に魔法使いだったとしてもそこまで脅威には感じられないが……。
「あら本当、素敵なピエロさん達ね」
「どうもお初にお目にかかります」
部屋の扉を開けて出てきた少女に対して、未だに金勘定をしているカルマンが現実に戻ってきていないので俺が代わりに代表として挨拶する。……下手したらリーシャよりも歳下だな。
「伯爵様が私に慰労だなんて珍しいわ、今夜は嵐かしら? ……まぁいいわ、入って頂戴」
「では、失礼しま──っ?!」
……なんだこれは? 部屋に入ればカーテンも閉じ切られた暗い空間に隙間なく赤い絵画が飾られており遠近感が狂う……それにこの部屋だけ廊下の絵とは違い風景画などではなく、抽象的な絵で見る者の不安を煽る。
「どうかしら? パパとママなの、上手く描けているかしら?」
「……とてもお上手だと思います」
部屋の絵画を驚愕と畏怖の表情で眺めるこちらに対して機嫌良く、満面の笑みで問い掛けてくる少女に我を取り戻し、急いで当たり障りのない回答するが……その答えを聞いた少女の顔は一変して不愉快に歪められる。
「……うわ」
「? はい?」
「違うわ! こんなのパパとママじゃない!」
「これは……」
なぜ少女が怒鳴ったのかはわからないがその叫びには魔力が乗っており、こちらの感情を無遠慮に揺さぶってくる……まるで制御も出来ておらず、少女の綺麗な碧眼が赤黒く染まりつつあるのを見て確かに『半人半魔』……中身は魔法使いではなく魔物だと確信する。
「失礼しました、これはあなたの両親ではございませんでした」
「違うの! 私はパパとママを描いたの! でも違うの!」
「……そうですか」
不味いな、何が地雷だったのかはさっぱり解らないが魔力に当てられた人間に理屈を求めても無駄でしか無い……まだ麻薬中毒者の方がマシだ。どうにかして宥めなかればこの場で魔物が産まれてしまう。
「素晴らしい! 素晴らしいですよお嬢様! あなたの絵には千金の価値がある!」
「……あなたは誰?」
「おっとこれは失礼、私はこういう者でしてね? 是非ともお嬢様には私と一緒にビジネスを──」
「──おいコラ」
カルマンの異常とも言える迫力に少女が正気に戻ったのは良いが……なに自然な流れで勧誘しているんだこの男は。さっきまで魔物に成りかけていたんだぞ? 見てみろリーシャとレティシャを……部屋の絵画に驚き、少女の豹変に警戒してからのカルマンの勧誘に目を白黒させている。
「……私たち事態に着いていけないんだけど?」
「……(コクッ」
「だってこれだけの逸材だぞ?! お前らにはこの子の価値が解らないのか?!」
「……価値」
コイツは本当に金儲けの事しか頭の中に入っていないのか? それにどの道この子は依頼で殺害する事になるんだ、余計な情はいらない……と俺は思うが僕は悲しい。やはりこんな子どもを殺害するのは厳しいものがある。
「クソッ! こうなったら期限の二週間でありったけ描いて貰うしか……」
「……コイツの言っている事には納得できないけど、すぐに殺すのは私も反対よ!」
「……(コクッ」
……まぁそうだよな、俺たち魔法使いだって人間なんだから同情だってするよな。幸い期限は二週間もあるんだ、その間に半分同族とも言えるこの少女に思い出を残してあげるのも良いだろう。
「……わ、私た……ちと、友……人に、なっ、て……くれま、す……か……?」
「……友達?」
「そうよ! この私が友達になってあげるんだから泣いて喜びなさい!」
「ピエロさんと?」
「……そうよ!」
まだ10代前半の少女が両親を殺されて、こんな部屋に閉じ込められて絵を描くだけの生活をしていたんだ……すぐに殺すのでは後味が悪すぎる。友達になるのは同じ女性であるリーシャとレティシャに任せれば良いだろう。
「はぁ~、なんも解ってない」
「いいから、カルマンはこっちで俺と狩人に対する警戒だ」
大げさに嘆いて見せるカルマンを引きずって部屋から出る……この二週間でもし情が沸いてリーシャとレティシャが殺せなくなるようならば俺が殺す、僕が殺してあげる。
「……お前、なんか変だよな?」
「え、そうかな?」
「……」
何が変なんだろう? 僕はいつも通りだって言うのに……まぁカルマンの奇行にはもう慣れたから良いけどね? そんな事を考えながら僕は狩人の対策をすべく歩く。
▼▼▼▼▼▼▼
「ははっ! そうでございますか!」
既にこちらの素性を知っている伯爵に連れて来られたのは敷地内にある別邸らしき場所で、ここに今回の殺害対象を隔離しているのだろう……既に狩人が潜伏しているかも知れないので警戒しながらカルマンと伯爵の会話に耳を傾ける。
「手段は問わんが……奴が成人する二週間後までには殺せ」
「……今すぐじゃなくてよろしいので?」
当然の疑問だな、家督を簒奪した伯爵としても早く殺してくれた方が都合が良いだろうに……やはりこれは罠で狩人の準備が終わるまでの時間稼ぎか? 既にここは敵地のド真ん中だと言うことを改めて肝に銘じる。
「……お前たちは知らなくていい……………………頼んだぞ」
「さようで……」
カルマンの疑問にもまともに答えず、ぶっきらぼうにそう言って神経質そうな伯爵はこの場から立ち去って行く……その後ろ姿を眺めながら、やはり罠の可能性が高いのだろうなと考える。
「……どう思う?」
「ま、罠の可能性が高いわな」
「私はそんなのあっても問題ないんだから!」
「わ、罠の……可能、性……が高い、と思……いま、す……」
少し不安そうな表情で強がりを言うレティシャは放っておくとして、カルマンもリーシャもやはり罠の可能性が高いと考えているか……まぁどっちにしろ依頼を完遂しなければならないのだが。
「……とりあえず対象と接触するぞ」
「おう」
殺害対象が隔離されているであろう別邸へと一歩踏み込む……なんだこれは? 扉を開けて直ぐに視界に入って来たのは暴力的までの『赤』だった。
「……これは絵か?」
「……すげぇ、ここにあるだけで孫の代まで遊べる価値はあるんじゃねぇか?」
「……そんなにか?」
「俺の金銭感覚に狂いはない」
別邸の壁どころか天井や床にさえ貼られまくっている絵画は全て『赤色』で描かれていた……色の濃淡の差はあれど元は全て同じ『赤色』だろうと確信が持てる。
「……『ハエトリグモ』、『湖畔の鶴』、『庭師』……色々あるな」
「……スカウトするか?」
勝手に殺害対象を専属画家として一財産儲けようと企むカルマンを努めて無視しながら純粋に感心しているリーシャとレティシャを連れて奥の部屋の前へと着き、そのままノックする。
『……どちら様?』
「……伯爵に頼まれて慰労に来たピエロでございます」
『まぁ、そうなの?』
部屋の向こうか聞こえてきたのは若い……幼いとさえ言える少女の声色で思わずリーシャと顔を見合わせる。仮に魔法使いだったとしてもそこまで脅威には感じられないが……。
「あら本当、素敵なピエロさん達ね」
「どうもお初にお目にかかります」
部屋の扉を開けて出てきた少女に対して、未だに金勘定をしているカルマンが現実に戻ってきていないので俺が代わりに代表として挨拶する。……下手したらリーシャよりも歳下だな。
「伯爵様が私に慰労だなんて珍しいわ、今夜は嵐かしら? ……まぁいいわ、入って頂戴」
「では、失礼しま──っ?!」
……なんだこれは? 部屋に入ればカーテンも閉じ切られた暗い空間に隙間なく赤い絵画が飾られており遠近感が狂う……それにこの部屋だけ廊下の絵とは違い風景画などではなく、抽象的な絵で見る者の不安を煽る。
「どうかしら? パパとママなの、上手く描けているかしら?」
「……とてもお上手だと思います」
部屋の絵画を驚愕と畏怖の表情で眺めるこちらに対して機嫌良く、満面の笑みで問い掛けてくる少女に我を取り戻し、急いで当たり障りのない回答するが……その答えを聞いた少女の顔は一変して不愉快に歪められる。
「……うわ」
「? はい?」
「違うわ! こんなのパパとママじゃない!」
「これは……」
なぜ少女が怒鳴ったのかはわからないがその叫びには魔力が乗っており、こちらの感情を無遠慮に揺さぶってくる……まるで制御も出来ておらず、少女の綺麗な碧眼が赤黒く染まりつつあるのを見て確かに『半人半魔』……中身は魔法使いではなく魔物だと確信する。
「失礼しました、これはあなたの両親ではございませんでした」
「違うの! 私はパパとママを描いたの! でも違うの!」
「……そうですか」
不味いな、何が地雷だったのかはさっぱり解らないが魔力に当てられた人間に理屈を求めても無駄でしか無い……まだ麻薬中毒者の方がマシだ。どうにかして宥めなかればこの場で魔物が産まれてしまう。
「素晴らしい! 素晴らしいですよお嬢様! あなたの絵には千金の価値がある!」
「……あなたは誰?」
「おっとこれは失礼、私はこういう者でしてね? 是非ともお嬢様には私と一緒にビジネスを──」
「──おいコラ」
カルマンの異常とも言える迫力に少女が正気に戻ったのは良いが……なに自然な流れで勧誘しているんだこの男は。さっきまで魔物に成りかけていたんだぞ? 見てみろリーシャとレティシャを……部屋の絵画に驚き、少女の豹変に警戒してからのカルマンの勧誘に目を白黒させている。
「……私たち事態に着いていけないんだけど?」
「……(コクッ」
「だってこれだけの逸材だぞ?! お前らにはこの子の価値が解らないのか?!」
「……価値」
コイツは本当に金儲けの事しか頭の中に入っていないのか? それにどの道この子は依頼で殺害する事になるんだ、余計な情はいらない……と俺は思うが僕は悲しい。やはりこんな子どもを殺害するのは厳しいものがある。
「クソッ! こうなったら期限の二週間でありったけ描いて貰うしか……」
「……コイツの言っている事には納得できないけど、すぐに殺すのは私も反対よ!」
「……(コクッ」
……まぁそうだよな、俺たち魔法使いだって人間なんだから同情だってするよな。幸い期限は二週間もあるんだ、その間に半分同族とも言えるこの少女に思い出を残してあげるのも良いだろう。
「……わ、私た……ちと、友……人に、なっ、て……くれま、す……か……?」
「……友達?」
「そうよ! この私が友達になってあげるんだから泣いて喜びなさい!」
「ピエロさんと?」
「……そうよ!」
まだ10代前半の少女が両親を殺されて、こんな部屋に閉じ込められて絵を描くだけの生活をしていたんだ……すぐに殺すのでは後味が悪すぎる。友達になるのは同じ女性であるリーシャとレティシャに任せれば良いだろう。
「はぁ~、なんも解ってない」
「いいから、カルマンはこっちで俺と狩人に対する警戒だ」
大げさに嘆いて見せるカルマンを引きずって部屋から出る……この二週間でもし情が沸いてリーシャとレティシャが殺せなくなるようならば俺が殺す、僕が殺してあげる。
「……お前、なんか変だよな?」
「え、そうかな?」
「……」
何が変なんだろう? 僕はいつも通りだって言うのに……まぁカルマンの奇行にはもう慣れたから良いけどね? そんな事を考えながら僕は狩人の対策をすべく歩く。
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