サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
58 / 140
第三章.寂寥のお絵かき

5.半人半魔

しおりを挟む
「ここに化け物の子が居る」

「ははっ! そうでございますか!」

 既にこちらの素性を知っている伯爵に連れて来られたのは敷地内にある別邸らしき場所で、ここに今回の殺害対象を隔離しているのだろう……既に狩人が潜伏しているかも知れないので警戒しながらカルマンと伯爵の会話に耳を傾ける。

「手段は問わんが……奴が成人する二週間後までには殺せ」

「……今すぐじゃなくてよろしいので?」

 当然の疑問だな、家督を簒奪した伯爵としても早く殺してくれた方が都合が良いだろうに……やはりこれは罠で狩人の準備が終わるまでの時間稼ぎか? 既にここは敵地のド真ん中だと言うことを改めて肝に銘じる。

「……お前たちは知らなくていい……………………頼んだぞ」

「さようで……」

 カルマンの疑問にもまともに答えず、ぶっきらぼうにそう言って神経質そうな伯爵はこの場から立ち去って行く……その後ろ姿を眺めながら、やはり罠の可能性が高いのだろうなと考える。

「……どう思う?」

「ま、罠の可能性が高いわな」

「私はそんなのあっても問題ないんだから!」

「わ、罠の……可能、性……が高い、と思……いま、す……」

 少し不安そうな表情で強がりを言うレティシャは放っておくとして、カルマンもリーシャもやはり罠の可能性が高いと考えているか……まぁどっちにしろ依頼を完遂しなければならないのだが。

「……とりあえず対象と接触するぞ」

「おう」

 殺害対象が隔離されているであろう別邸へと一歩踏み込む……なんだこれは? 扉を開けて直ぐに視界に入って来たのは暴力的までの『赤』だった。

「……これは絵か?」

「……すげぇ、ここにあるだけで孫の代まで遊べる価値はあるんじゃねぇか?」

「……そんなにか?」

「俺の金銭感覚に狂いはない」

 別邸の壁どころか天井や床にさえ貼られまくっている絵画は全て『赤色』で描かれていた……色の濃淡の差はあれど元は全て同じ『赤色』だろうと確信が持てる。

「……『ハエトリグモ』、『湖畔の鶴』、『庭師』……色々あるな」

「……スカウトするか?」

 勝手に殺害対象を専属画家として一財産儲けようと企むカルマンを努めて無視しながら純粋に感心しているリーシャとレティシャを連れて奥の部屋の前へと着き、そのままノックする。

『……どちら様?』

「……伯爵に頼まれて慰労に来たピエロでございます」

『まぁ、そうなの?』

 部屋の向こうか聞こえてきたのは若い……幼いとさえ言える少女の声色で思わずリーシャと顔を見合わせる。仮に魔法使いだったとしてもそこまで脅威には感じられないが……。

「あら本当、素敵なピエロさん達ね」

「どうもお初にお目にかかります」

 部屋の扉を開けて出てきた少女に対して、未だに金勘定をしているカルマンが現実に戻ってきていないので俺が代わりに代表として挨拶する。……下手したらリーシャよりも歳下だな。

「伯爵様が私に慰労だなんて珍しいわ、今夜は嵐かしら? ……まぁいいわ、入って頂戴」

「では、失礼しま──っ?!」

 ……なんだこれは? 部屋に入ればカーテンも閉じ切られた暗い空間に隙間なく赤い絵画が飾られており遠近感が狂う……それにこの部屋だけ廊下の絵とは違い風景画などではなく、抽象的な絵で見る者の不安を煽る。

「どうかしら? パパとママなの、上手く描けているかしら?」

「……とてもお上手だと思います」

 部屋の絵画を驚愕と畏怖の表情で眺めるこちらに対して機嫌良く、満面の笑みで問い掛けてくる少女に我を取り戻し、急いで当たり障りのない回答するが……その答えを聞いた少女の顔は一変して不愉快に歪められる。

「……うわ」

「? はい?」

「違うわ! こんなのパパとママじゃない!」

「これは……」

 なぜ少女が怒鳴ったのかはわからないがその叫びには魔力が乗っており、こちらの感情を無遠慮に揺さぶってくる……まるで制御も出来ておらず、少女の綺麗な碧眼が赤黒く染まりつつあるのを見て確かに『半人半魔』……中身は魔法使いではなく魔物だと確信する。

「失礼しました、これはあなたの両親ではございませんでした」

「違うの! 私はパパとママを描いたの! でも違うの!」

「……そうですか」

 不味いな、何が地雷だったのかはさっぱり解らないが魔力に当てられた人間に理屈を求めても無駄でしか無い……まだ麻薬中毒者の方がマシだ。どうにかして宥めなかればこの場で魔物が産まれてしまう。

「素晴らしい! 素晴らしいですよお嬢様! あなたの絵には千金の価値がある!」

「……あなたは誰?」

「おっとこれは失礼、私はこういう者でしてね? 是非ともお嬢様には私と一緒にビジネスを──」

「──おいコラ」

 カルマンの異常とも言える迫力に少女が正気に戻ったのは良いが……なに自然な流れで勧誘しているんだこの男は。さっきまで魔物に成りかけていたんだぞ? 見てみろリーシャとレティシャを……部屋の絵画に驚き、少女の豹変に警戒してからのカルマンの勧誘に目を白黒させている。

「……私たち事態に着いていけないんだけど?」

「……(コクッ」

「だってこれだけの逸材だぞ?! お前らにはこの子の価値が解らないのか?!」

「……価値」

 コイツは本当に金儲けの事しか頭の中に入っていないのか? それにどの道この子は依頼で殺害する事になるんだ、余計な情はいらない……と俺は思うが僕は悲しい。やはりこんな子どもを殺害するのは厳しいものがある。

「クソッ! こうなったら期限の二週間でありったけ描いて貰うしか……」

「……コイツの言っている事には納得できないけど、すぐに殺すのは私も反対よ!」

「……(コクッ」

 ……まぁそうだよな、俺たち魔法使いだって人間なんだから同情だってするよな。幸い期限は二週間もあるんだ、その間に半分同族とも言えるこの少女に思い出を残してあげるのも良いだろう。

「……わ、私た……ちと、友……人に、なっ、て……くれま、す……か……?」

「……友達?」

「そうよ! この私が友達になってあげるんだから泣いて喜びなさい!」

「ピエロさんと?」

「……そうよ!」

 まだ10代前半の少女が両親を殺されて、こんな部屋に閉じ込められて絵を描くだけの生活をしていたんだ……すぐに殺すのでは後味が悪すぎる。友達になるのは同じ女性であるリーシャとレティシャに任せれば良いだろう。

「はぁ~、なんも解ってない」

「いいから、カルマンはこっちで俺と狩人に対する警戒だ」

 大げさに嘆いて見せるカルマンを引きずって部屋から出る……この二週間でもし情が沸いてリーシャとレティシャが殺せなくなるようならば俺が殺す、僕が殺してあげる。

「……お前、なんか変だよな?」

「え、そうかな?」

「……」

 何が変なんだろう? 僕はいつも通りだって言うのに……まぁカルマンの奇行にはもう慣れたから良いけどね? そんな事を考えながら僕は狩人の対策をすべく歩く。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。 「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」 飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう―― ※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

やり直し令嬢は箱の外へ、気弱な一歩が織りなす無限の可能性~夜明けと共に動き出す時計~

悠月
ファンタジー
 これは、狭い世界に囚われ、逃げ続けていた内気な貴族令嬢が、あるきっかけで時間が巻き戻り、幼い頃へ戻った。彼女は逃げるように、過去とは異なる道を選び、また周囲に押されながら、徐々に世界が広がり、少しずつ強くなり、前を向いて歩み始める物語である。  PS:  伝統的な令嬢物語ではないと思います。重要なのは「やり直し」ではなく、「箱の外」での出来事。  主人公が死ぬ前は主に引きこもりだったため、身の回りに影響する事件以外、本の知識しかなく、何も知らなかった。それに、今回転移された異世界人のせいで、多くの人の運命が変えられてしまい、元の世界線とは大きく異なっている。  薬師、冒険者、店長、研究者、作家、文官、王宮魔術師、騎士団員、アカデミーの教師などなど、未定ではあるが、彼女には様々なことを経験させたい。 ※この作品は長編小説として構想しています。  前半では、主人公は内気で自信がなく、優柔不断な性格のため、つい言葉を口にするよりも、心の中で活発に思考を巡らせ、物事をあれこれ考えすぎてしまいます。その結果、狭い視野の中で悪い方向にばかり想像し、自分を責めてしまうことも多く、非常に扱いにくく、人から好かれ難いキャラクターだと感じられるかもしれません。  拙い文章ではございますが、彼女がどのように変わり、強くなっていくのか、その成長していく姿を詳細に描いていきたいと思っています。どうか、温かく見守っていただければ嬉しいです。 ※リアルの都合で、不定期更新になります。基本的には毎週日曜に1話更新予定。 作品の続きにご興味をお持ちいただけましたら、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです。 ※本作には一部残酷な描写が含まれています。また、恋愛要素は物語の後半から展開する予定です。 ※この物語の舞台となる世界や国はすべて架空のものであり、登場する団体や人物もすべてフィクションです。 ※同時掲載:小説家になろう、アルファポリス、カクヨム ※元タイトル:令嬢は幸せになりたい

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...