サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第三章.寂寥のお絵かき

6.写生

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「今日は外でお絵かきしましょう」

「仕方ないわね! 付き合ってあげるわ!」

 殺害対象である少女……ミーナ・ガージュちゃんから提案されたものに対して同意するけど……本当に私はなんでこんな威圧的にしか話せないのかぁ? もっと優しく仲良くしたいのに。

「外、に……出ても大、丈夫……な、ん……で……す、か……?」

「裏庭の隅なら大丈夫よ」

 もう既にここに来てから一晩は経っているのに私も、リーシャも全然人と話す事に慣れない……守銭奴のカルマンと唯一マトモそうなクレルは狩人を警戒してどこか離れているし、大丈夫なのかな?

「ねぇ、あなたはピエロのメイク落とさないの?」

「……落としたら、ダメなのよ」

 誰も見ていないとは言えこんな所でガナン人だとバレる訳にはいかない、きっとこの子だって私の正体がわかったら……。

「ふーん、まぁいいわ」

「そうして頂戴……あなたに私の素顔は勿体ないという事よ!」

 あぁ、また強く言ってしまった……こんなんじゃダメだって判っているのにしてしまう。でもこんなやり方しか知らないんだもの、これしか教えられなかったのだもの、仕方ないの……。そんな事を考えて落ち込んでいる間に目的地に着いてしまう。

「ここよ」

「「……わぁ」」

 あまりの絶景にリーシャと二人で感嘆の声を洩らしてしまう……ガージュ伯爵邸の敷地内にある裏庭の隅から向こう側は、急な下り坂になっていて帝都の下町が一望できる。まるで丘の上から帝都を見下ろしているような錯覚を覚えてしまう。

「さぁ、座ってお絵かきしましょう?」

「……(コクッ」

「え、えぇ……」

 一応絵を描く道具は普通に帝都でカルマンとクレルが買ってきてくれたけれど、私に絵心は皆無と言って良いぐらいなのに楽しく出来るのかな? ミーナちゃんという天才の横で描くなんて……。

「……なん、で赤……しか絵、の具……がな、い……んです、か……?」

「……本当ね」

 見ればミーナちゃんの絵の具は赤しか無かった……別邸の飾られていた絵画が全て赤系統でしか描かれていなかったからなんとなく予想は付いていたけど……。

「仕方ないわね! 私が貸してあげるわよ!」

「え、いらない……」

「あっ……えぅ…………」

 もしかしたらあの神経質そうな伯爵の嫌がらせかも知れないと、少し可哀想になって自分の絵の具を貸す事を提案したのだけど、普通に断れちゃった……やっぱり高圧的に出たのが良くなかったのかなぁ? なんとか堪えようとしても涙が溢れてきちゃう。

「あ、別にあなたが嫌いとかじゃないのよ?」

「……あ、当たり前よね!」

 良かった、嫌われている訳じゃな無かったみたいでホッとする……けれどやっぱり偉そうな口調は外せなくて言い方が強くなってしまう。

「これは大事な形見なの、パパとママから貰った大事な物なの」

「そ、そん……な大、事……な……物、を使って、も……大、丈夫……な、んで……す、か……?」

 リーシャの言う通りそんな大事な物で絵を描くよりも私のを使った方が良いと思うのだけれど……何か理由でもあるのかなぁ? それともやっぱりそんな大事な物を使った方がマシなくらいにわ、私が嫌い……とか?

「だって、私が死ぬまでに無くならないもの」

「「……」」

 やっぱり彼女自身、遅かれ早かれ自分が殺されてしまうという事を理解してしまっているんだわ……そんな悲しい事ってないよ、私よりも歳下なのに……。

「それに貰った物は使わないと──なんで泣いているの?」

「泣いてないわよ!」

 嘘、泣いてしまっている……ダメだとわかってても涙が溢れて止まらない、私はいつもそう……どうしても『共感』してしまって危機に陥る。

「ピエロのメイクが落ちちゃってるわよ? 魔法使いさん?」

「だ"っ"て"~"」

 もう心がぐちゃぐちゃになって仕方がない、精神が不安定なのは魔法使いの性と言ってもこれは無いと自分でも思う……歳下に顔を拭われても涙が止まらなくて、せっかく友達になれそうなのに。

「……ピエロメイクしていない方が可愛いわよ?」

「……あなたやリーシャだって可愛いわよ」

「そうかしら?」

「……(コテンッ」

 もう正体がバレてしまったけれど、ミーナちゃんは特に変わらず接してくれる事に安堵し、それによって落ち着く……この子もリーシャも自分の容姿に無頓着なのが気に入らないけれど。

「そうよ、だって私の友達なんだから当たり前じゃない!」

「……そう、です……ね、友達……で、す……」

 あれは嘘じゃない、殺意対象を油断させる為でも最後の思い出作りのための方便でもない……私とリーシャの本心からの提案……同情心が無いと言ったら嘘にはなるけれど。

「……じゃあ、お友達と一緒にお絵かきしましょう」

「そうね、うんと素晴らしい絵を描いてあげるんだから!」

「……(コクッ」

 この歳下の友達を殺さなくちゃならない時は優しく、苦しまないように殺してあげようと……そう思いながら帝都の下町を描いていく。

「……友達に殺されるなら、良いかな? (ボソッ」

 その日は夕暮れ時まで写生を続けて、本気で描いた風景画を『素晴らしい抽象画ね!』とか言われて泣いてしまったりなんて……していないんだから! ほ、本当に泣いていないんだから……悲しくなんてないんだから……。

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