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第四章.救えない
9.食費
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「……ただいま~」
「おふぁぅえりなふぁい!」
市場から大量の食材を抱えて、リコリス少尉と共に仮の住居に帰ってくれば口にいっぱい食べ物を頬張ったシーラが出迎えてくれるけれど……彼女の周囲に散乱したお菓子の袋などのゴミの山を見て気が重くなる。
「……シーラ、できたら私が買い物に出掛けている間に掃除くらいしてくれると有り難いのだけれど?」
「? 食べます?」
「……お腹いっぱいだから遠慮しておくわね」
溜め息をつき、シーラからの食べ物を遠慮してゴミの片付けに入る……しかしながらそんな私を見て、まるで予想外だと言わんばかりに驚愕の表情を浮かべた彼女が恐る恐るといった体で声を掛けてくる。
「まさかアリシアはお腹も空かないのにイライラしたり落ち込むのですか? シーラはびっくりです!」
「……他に要因があるからだけれど」
「なんと! 空腹ではないのに不機嫌になるなんて理不尽ですよ~!」
「……」
確かに空腹は人を不機嫌にさせるけれど、それが全てでは無いでしょうに。
いや、彼女にそれを説いても無駄ね。なにせ常にお腹が空いてて何かを口に入れていないと五月蝿いくらいだから……彼女にとって食べ物が価値基準なのでしょう。
「アリシアさん、私が手伝いますよ」
「リコリスさん……ありがとうございます」
本当は後方で本部との連絡の仲介や、私達の衛生管理が主な仕事内容なのに……買い物に付き合ってくれたばかりか、掃除まで……今度お礼しなきゃいけないわね。
「……アリシアさんは、何処かおかしな所はございませんか? 腕や胸とか……」
「? 特に無いけれど?」
腕や胸……クレルに貰った、この褐色に変色した事を言っているのかしら? ……まぁ気にはなるか。
「とりあえずシーラも片付けを手伝ってくれたら駅前のガトーショコラをあげるわ」
「本当でありますか?! 是非とも手伝わせてください! シーラは天才なので直ぐに終わりますよ!」
とりあえず、シーラ少尉にも手伝わせましょう。
彼女は食べ物で釣れば、大体の言うことを聞いてくれるところは有り難いわね……これで制御不能だったら本当に私の負担が大きすぎてヴェロニカ大尉に直訴するところ──
「──『破砕する──チェルシー』」
「?! ち、ちょっとあなた?!!」
「シーラ少尉?!」
考え事をしながらゴミの片付けをしていて油断していた……彼女は食べ物で釣れるが頭が少しばかり弱いんだった! 普通掃除に『猟犬』を使うなんて有り得ない事を平気でやっちゃうんだから、もう! ここにはリコリス少尉も居るのよ?!
「や、やめなさっ」
「『存在する事を許さず』」
すぐ様手に持っていたゴミ袋などの掃除道具を放り出してシーラの暴挙を止めようと手を伸ばすけれど……間に合わずに真名解放された『猟犬』から魔力と薬品やオイルなどの科学的な刺激臭が鼻を刺す。
「っ!」
衝撃に備え私自らも『猟犬』を解放してそれを盾とし、リコリス少尉を引き寄せながら少しでも怪我を回避しようと努める。
シーラ少尉は今回のチームの中で一番の戦闘力を持つ……一年目にしてベテランであるガイウス中尉やヴェロニカ大尉よりも強いのだから無事では済まないと覚悟を決める……けれど一向に衝撃は来ず、恐る恐る目を開ける。
「……?」
「ふぅ、スッキリしましたね!」
そこには見事にゴミの山だけを……まぁ多少家具やフローリングにも被害があるけれど、概ね狙った物だけを消し飛ばしたシーラが胸を張って立っていた。
「……あなた、ゴミだけを?」
「シーラは天才なので!」
「……」
「天才なので!」
凄いドヤ顔だわ、十八年生きてきて過去最高レベルのドヤ顔だわ……胸を張って鼻息荒くこちらを見詰める彼女はまるで褒められるのを待つ犬のようで可愛い……何か、少しだけ危ない扉を開きかけたが全力で閉め直して事なきを得る。
「……天才なので!」
「? ……あ、あぁそうね、ガトーショコラね」
「っ! シーラは天才なのでねー!」
とりあえず彼女が何を待っているのかを思い出し、目当ての物であろうガトーショコラを取り出して皿に盛り付ければ目を輝かせ、犬であれば全力で尻尾を振っているであろう興奮ぶりでこちらを見詰めてくる。
「た、食べても良いですか?!」
「……」
「あの? ダメ……ですか?」
「ハッ! も、もちろん良いわよ!」
「やったー!」
危ない危ない、彼女が可愛すぎて我を失っていたわ。
私ってペットを飼った事ないからついつい変な事を考え込んでしまったわ……気を付けないといけないわね、これもクレルが一向に見つからなくて私を寂しがらせるからよ! そうよ!
「うーん……」
「どうかした? あんまり美味しくなかったかしら?」
「いえ、単純に足りないのです」
まぁ別にワンホールも買ってきた訳ではないから仕方ないわね、彼女の食欲をまだ見くびっていたわ……でもいくら経費で落ちると言っても会計課に嫌味を言われるからなるべく甘い物ばかり大量に買うのは避けたいところね。
「それに『チェルシー』を使ったのでお腹の中は空っぽです!」
「……今なんて?」
「? だから『チェルシー』を使ったのでお腹の中は空っぽだと……」
その言葉を聞いて崩れ落ちる……見ればいつの間に食べたのか、先程購入してきた食材は物の見事に全て消え失せて残骸ばかりが残されていた。
なんで掃除に『猟犬』を使ったのか……お腹空くのならなんで……。
「……シーラは?」
「? 天才?」
「……シーラは?」
「? 無敵?」
……へぇ? なるほど、自分ではそういう認識なんだぁ? 天才が燃費が悪い事をするのかしら? 無敵が少し『猟犬』を使っただけでエネルギー切れを起こすのかしら?
「……違うでしょ」
「? いえ、シーラは──」
「大馬鹿者ぉぉぉぉおおお!!!!」
「耳が痛いですぅぅぅぅううう!!!!」
意味が解らないとすっとぼけた事を言おうとした彼女の形の良い耳を引っ張り腹の底から叫ぶ……この娘は駄犬よ! 犬は犬でも駄犬娘よ! 可愛いけど始末に負えないわ!
「これから家の中では『猟犬』の使用は禁止します!」
「で、ですが!」
「ん"?」
「はい! 了解であります! シーラは天才なので超速理解!」
なぜこんな当たり前の事をわざわざ宣言しなければならず、しかも一度は食い下がられなければならないのか……ぐぬぬ。
「これから家の手伝いをしなければおかずが一品減ります」
「そ、それはあんまりです!」
「ん"?」
「はい! 了解であります! シーラは天才なので超速理解!」
彼女は食べ物で釣れる? ……違うわね、彼女は食べ物で『脅す』のよ、これは言わば躾よ! この駄犬をなんとかしなければ見張りを熟すどころか、ガイウス中尉達の潜入まで邪魔しかねないわ!
「これから言うことを聞かず、勝手な行動をしてもおかずが一品減ります」
「またですか?!」
「ん"?」
「はい! 了解であります! シーラは天才なので超速理解!」
「よろしい、言われた事を全て厳守するように」
「はい! 了解であります! シーラは天才なので超速理解!」
ふぅ……とりあえずこれでなんとかなったかしら? そんな事を思いつつ食費だけで予算を圧迫し、会計課に嫌味を言われる事が容易に想像出来てしまう申請書を書かなければと、重い溜め息をつく。
「……食費だけで五〇〇万ベルン」
普通に一軒家が建ってしまう額を見て、そういえばまだ任務が始まって一週間も経っていない事実に軽く絶望する私が居た。
「……狩人ってみんなこう、変人ばっかり」
……それは偏見だからリコリス少尉には安心して欲しい。
▼▼▼▼▼▼▼
「おふぁぅえりなふぁい!」
市場から大量の食材を抱えて、リコリス少尉と共に仮の住居に帰ってくれば口にいっぱい食べ物を頬張ったシーラが出迎えてくれるけれど……彼女の周囲に散乱したお菓子の袋などのゴミの山を見て気が重くなる。
「……シーラ、できたら私が買い物に出掛けている間に掃除くらいしてくれると有り難いのだけれど?」
「? 食べます?」
「……お腹いっぱいだから遠慮しておくわね」
溜め息をつき、シーラからの食べ物を遠慮してゴミの片付けに入る……しかしながらそんな私を見て、まるで予想外だと言わんばかりに驚愕の表情を浮かべた彼女が恐る恐るといった体で声を掛けてくる。
「まさかアリシアはお腹も空かないのにイライラしたり落ち込むのですか? シーラはびっくりです!」
「……他に要因があるからだけれど」
「なんと! 空腹ではないのに不機嫌になるなんて理不尽ですよ~!」
「……」
確かに空腹は人を不機嫌にさせるけれど、それが全てでは無いでしょうに。
いや、彼女にそれを説いても無駄ね。なにせ常にお腹が空いてて何かを口に入れていないと五月蝿いくらいだから……彼女にとって食べ物が価値基準なのでしょう。
「アリシアさん、私が手伝いますよ」
「リコリスさん……ありがとうございます」
本当は後方で本部との連絡の仲介や、私達の衛生管理が主な仕事内容なのに……買い物に付き合ってくれたばかりか、掃除まで……今度お礼しなきゃいけないわね。
「……アリシアさんは、何処かおかしな所はございませんか? 腕や胸とか……」
「? 特に無いけれど?」
腕や胸……クレルに貰った、この褐色に変色した事を言っているのかしら? ……まぁ気にはなるか。
「とりあえずシーラも片付けを手伝ってくれたら駅前のガトーショコラをあげるわ」
「本当でありますか?! 是非とも手伝わせてください! シーラは天才なので直ぐに終わりますよ!」
とりあえず、シーラ少尉にも手伝わせましょう。
彼女は食べ物で釣れば、大体の言うことを聞いてくれるところは有り難いわね……これで制御不能だったら本当に私の負担が大きすぎてヴェロニカ大尉に直訴するところ──
「──『破砕する──チェルシー』」
「?! ち、ちょっとあなた?!!」
「シーラ少尉?!」
考え事をしながらゴミの片付けをしていて油断していた……彼女は食べ物で釣れるが頭が少しばかり弱いんだった! 普通掃除に『猟犬』を使うなんて有り得ない事を平気でやっちゃうんだから、もう! ここにはリコリス少尉も居るのよ?!
「や、やめなさっ」
「『存在する事を許さず』」
すぐ様手に持っていたゴミ袋などの掃除道具を放り出してシーラの暴挙を止めようと手を伸ばすけれど……間に合わずに真名解放された『猟犬』から魔力と薬品やオイルなどの科学的な刺激臭が鼻を刺す。
「っ!」
衝撃に備え私自らも『猟犬』を解放してそれを盾とし、リコリス少尉を引き寄せながら少しでも怪我を回避しようと努める。
シーラ少尉は今回のチームの中で一番の戦闘力を持つ……一年目にしてベテランであるガイウス中尉やヴェロニカ大尉よりも強いのだから無事では済まないと覚悟を決める……けれど一向に衝撃は来ず、恐る恐る目を開ける。
「……?」
「ふぅ、スッキリしましたね!」
そこには見事にゴミの山だけを……まぁ多少家具やフローリングにも被害があるけれど、概ね狙った物だけを消し飛ばしたシーラが胸を張って立っていた。
「……あなた、ゴミだけを?」
「シーラは天才なので!」
「……」
「天才なので!」
凄いドヤ顔だわ、十八年生きてきて過去最高レベルのドヤ顔だわ……胸を張って鼻息荒くこちらを見詰める彼女はまるで褒められるのを待つ犬のようで可愛い……何か、少しだけ危ない扉を開きかけたが全力で閉め直して事なきを得る。
「……天才なので!」
「? ……あ、あぁそうね、ガトーショコラね」
「っ! シーラは天才なのでねー!」
とりあえず彼女が何を待っているのかを思い出し、目当ての物であろうガトーショコラを取り出して皿に盛り付ければ目を輝かせ、犬であれば全力で尻尾を振っているであろう興奮ぶりでこちらを見詰めてくる。
「た、食べても良いですか?!」
「……」
「あの? ダメ……ですか?」
「ハッ! も、もちろん良いわよ!」
「やったー!」
危ない危ない、彼女が可愛すぎて我を失っていたわ。
私ってペットを飼った事ないからついつい変な事を考え込んでしまったわ……気を付けないといけないわね、これもクレルが一向に見つからなくて私を寂しがらせるからよ! そうよ!
「うーん……」
「どうかした? あんまり美味しくなかったかしら?」
「いえ、単純に足りないのです」
まぁ別にワンホールも買ってきた訳ではないから仕方ないわね、彼女の食欲をまだ見くびっていたわ……でもいくら経費で落ちると言っても会計課に嫌味を言われるからなるべく甘い物ばかり大量に買うのは避けたいところね。
「それに『チェルシー』を使ったのでお腹の中は空っぽです!」
「……今なんて?」
「? だから『チェルシー』を使ったのでお腹の中は空っぽだと……」
その言葉を聞いて崩れ落ちる……見ればいつの間に食べたのか、先程購入してきた食材は物の見事に全て消え失せて残骸ばかりが残されていた。
なんで掃除に『猟犬』を使ったのか……お腹空くのならなんで……。
「……シーラは?」
「? 天才?」
「……シーラは?」
「? 無敵?」
……へぇ? なるほど、自分ではそういう認識なんだぁ? 天才が燃費が悪い事をするのかしら? 無敵が少し『猟犬』を使っただけでエネルギー切れを起こすのかしら?
「……違うでしょ」
「? いえ、シーラは──」
「大馬鹿者ぉぉぉぉおおお!!!!」
「耳が痛いですぅぅぅぅううう!!!!」
意味が解らないとすっとぼけた事を言おうとした彼女の形の良い耳を引っ張り腹の底から叫ぶ……この娘は駄犬よ! 犬は犬でも駄犬娘よ! 可愛いけど始末に負えないわ!
「これから家の中では『猟犬』の使用は禁止します!」
「で、ですが!」
「ん"?」
「はい! 了解であります! シーラは天才なので超速理解!」
なぜこんな当たり前の事をわざわざ宣言しなければならず、しかも一度は食い下がられなければならないのか……ぐぬぬ。
「これから家の手伝いをしなければおかずが一品減ります」
「そ、それはあんまりです!」
「ん"?」
「はい! 了解であります! シーラは天才なので超速理解!」
彼女は食べ物で釣れる? ……違うわね、彼女は食べ物で『脅す』のよ、これは言わば躾よ! この駄犬をなんとかしなければ見張りを熟すどころか、ガイウス中尉達の潜入まで邪魔しかねないわ!
「これから言うことを聞かず、勝手な行動をしてもおかずが一品減ります」
「またですか?!」
「ん"?」
「はい! 了解であります! シーラは天才なので超速理解!」
「よろしい、言われた事を全て厳守するように」
「はい! 了解であります! シーラは天才なので超速理解!」
ふぅ……とりあえずこれでなんとかなったかしら? そんな事を思いつつ食費だけで予算を圧迫し、会計課に嫌味を言われる事が容易に想像出来てしまう申請書を書かなければと、重い溜め息をつく。
「……食費だけで五〇〇万ベルン」
普通に一軒家が建ってしまう額を見て、そういえばまだ任務が始まって一週間も経っていない事実に軽く絶望する私が居た。
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