こちら、付喪神南町奉行所っ!~新入り護り手はお払い箱になりたくない~

美夕乃由美

文字の大きさ
9 / 39
一章 付喪神奉行の護り手

牢屋の中で

しおりを挟む
(……やってしまった)
 付喪神奉行所の地下牢の中。桜麟は膝を抱えて落ち込んでいた。
 道具の分際で言いたい放題言ってしまった。絶対に反抗的な付喪神だと思われたに違いない。ひと月と言わず、明日にも帰されてしまうかもしれない。
 ちなみに、買った付喪神が気に入らなかった場合、十日までは返品が可能となっている。その後の付喪神がどうなったか……桜麟は考えないようにしていた。徳次郎の屋敷でもそんな付喪神がいたが、二度とその姿を見ることはなかったのだから。
(短い命だったなぁ……)
 膝の間に顔を埋めて目を閉じる。
 付喪神に『成って』から二年の時間が、走馬灯のように頭に流れる。厳しく躾けられた思い出しかないが、まだ見ぬ主を思っていた時期が一番幸せだったかもしれない。
 この先の運命を考えると滅茶苦茶に暴れたい。だが、鈴の霊力はとても破れないし、牢屋も強力な結界に包まれている。今の桜麟は、無力な人間の娘と同じだった。

「――桜麟~……って、うわー、落ち込んでるねー」

 ふと聞こえた声に顔を上げると、蝋燭を持った玄亀が階段を降りてくるところだった。桜麟は目を閉じてため息を吐く。

「何をしに来たのですか。放っておいてください。どうせお払い箱なのですから」
「あはは。これは重症だね」

 乾いた笑いとともに、ガチャリ、と鍵の開く音。桜麟は再び顔を上げた。牢屋の扉を開いて玄亀が入ってくる。どういう風の吹き回しだろうと、桜麟は警戒した。

「僕が出してあげるよ」
「……それはどういうことですか? 玄亀の立場が悪くなるのでは?」
「桜麟は優しいね。こんな状況なのにおいらのことを気にしてくれるんだ」
「どうせ逃げられませんから。だったら他の付喪神は巻き込みたくないので」

 視線を逸らした桜麟の、その反対側に玄亀が座る。

「輝久から話は聞いたよ。人間の子供を助けただけじゃなくて、妖魔に堕ちかけの付喪神の少年まで助けたんだって?」

 付喪神の少年。その単語に桜麟は反応する。

「あの付喪神はどうなるのですか?」
「うちの奉行所預かりになったよ。堕ちかけていた影響からか、ずっと眠ってる。付けられていた鈴は普通の物ではなくて、左近が事件の気配がするってさ」

 少なくとも罰せられることはないようで、ほっと安心する。せっかく助けたのに打ち首とかだと、悲しくて自分のほうが妖魔に堕ちてしまいそうだ。

「……ごめんね。輝久があんなので」

 しばらくの沈黙の後に玄亀が口を開いた。

「おいらも怒ってるんだよ。せっかく来てくれたのにひと月ってさ。付喪神の気持ちってものがわかってないよね。自分で何でもやろうとするし、性格も根暗だし、人付き合いも悪いし、絶対に友達いないと思うんだよ」

 それからは輝久に対する罵詈雑言の雨あられ。これでもかといったくらいに愚痴が出てくる。最初は聞き流そうとしていた桜麟も、途中で吹き出してしまった。

「あっ、やっと笑ったね。機嫌が直った?」
「ありがとうございます。少しは元気が出ました」

 目尻に浮かんだ涙を桜麟は拭いた。それを見てから、今度は玄亀のほうがため息を吐く。

「輝久もね、昔は違ったんだよ」

 玄亀は自分に何かを伝えにきたのだ。そこにやっと思い当って、桜麟は聞く姿勢をとった。

「輝久がここの付喪神奉行になってからね、護り手や町の付喪神の待遇向上を進めてくれたんだよ。この奉行所がこんなに自由なのも、輝久のおかげなんだ」
「そう……なのですか」

 言外に他は違うと告げられて、桜麟は複雑な思いで頷いた。やはり輝久は付喪神を大切にしているのだ。それが自分に向けられないのは大いに不満だが。

「その時には輝久にも護り手がいてね。それはそれは仲が良かったんだ。お姉さんみたいな付喪神で、経験の浅い輝久をよく助けていたよ。だけど――」

 そこで玄亀は言葉を切った。しばらく唇を噛んでから、小さな声で続ける。

「事件に巻き込まれてね。妖魔の姿になっておいらたちの前に現れたんだ。それを斬ったのが輝久だった」

 言葉もなく桜麟は両手を口に当てた。信頼していた付喪神が妖魔に堕ちたというだけでも一大事なのに、それを自分の手で斬ったとは……。

「それからなんだ。輝久が護り手を取らないって宣言したのは。もう二度と、あんな思いをしたくないんだろうね。桜麟に待機を命じたのも、こうして牢屋に入れたのも、桜麟を守るためだと思うんだ」
「……そうですか」

 護り手を取らない――玄亀から凄惨な過去を聞いて、桜麟はその理由に納得する。
 自分に置き換えて考えてみてもそれは耐えられない。例えば信頼する主が、自分を庇って死んでしまったら……。考えただけでもぞっとする。
(だけど――)
 輝久の言い分は理解した。けれど、それを自分に当てはめてもらっても困る。違う付喪神なのだから。籠に鳥を押し込めるようにして喜ぶとでも思っているのだろうか。何しろ桜麟にはお払い箱にはなれない理由がある。付喪神を大切に考えているのなら、千両も出して買ったという、主としての責任は取ってもらいたい。

「やっぱり納得がいかないです」

 ぽろりと出た本心に玄亀が破顔した。

「そうくると思った。左近の読み通りだね」
「え、左近様が?」

 きょとんと眼を瞬かせると、玄亀が立ち上がって手を差し出してくる。

「桜麟は気が強くて頑固そうだ、ってね。ひと月って区切ってる時点で輝久が悪いよ。付喪神奉行なんだから、まずは本人が手本を示してもらわないとね」

 片目を瞑って玄亀が悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
 自分の道はまだ閉ざされていない――桜麟は力強く頷いてその手を取った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜

長月京子
キャラ文芸
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。 幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。 時は明治。 異形が跋扈する帝都。 洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。 侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。 「私の花嫁は彼女だ」と。 幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。 その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。 文明開化により、華やかに変化した帝都。 頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には? 人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。 (※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております) 第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞 第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。 ありがとうございました!

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...