私を捨てたのはミスですよ?

パリパリかぷちーの

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「……なんですって? 収穫祭の目玉である『キタノイチゴ』が、隣村の悪質な嫌がらせで出荷停止に追い込まれそうですわだと?」

私は、村長から届けられた報告書を一瞥し、持っていたティーカップをソーサーに叩きつけました。
せっかく私が最適化した物流ルートと、不眠不休(魔力ポーション併用)で組み上げた冷却魔法陣が、そんな下らない理由で遊兵化するなど、合理主義者として断じて許容できません。

「お、お嬢様……。隣村の連中、こちらが急に景気が良くなったのが気に入らないらしくて。街道の分岐点に大きな岩を転がして、物理的に馬車を通れなくしているんです。今から撤去しても、市場の競りには間に合いません……」

村長が、使い古された帽子を握りしめて震えています。
村人たちは「これは神の与えた試練だ」だの「聖女様に祈りを捧げるしかない」だのと、非科学的なことを口々に叫んで絶望の淵に立っていました。

「祈る? 神に祈って岩が分子レベルで分解されるとでもお思いですか? そんな奇跡を待つ時間があるなら、私に三分の演説時間を与えなさい!」

私は村の中央広場にある、積み上げられた樽の上に飛び乗りました。
ドレスの裾を翻し、拡声魔法を喉に付与します。

「静まりなさい、迷える羊たち……いえ、低効率な思考に陥っている村人諸君!」

広場に、私の鋭い声が響き渡りました。
騒ついていた村人たちが、一斉に私を見上げます。

「いいですか、現状を整理しましょう。問題は二点。一つ、岩によって物流が遮断されていること。二つ、それによって皆様の心に『無能な諦め』というバグが発生していることです!」

「で、でも、公爵令嬢様! あんな巨岩、人力じゃ動かせねえし、聖女様のような奇跡の力がないと……」

「奇跡? 笑わせないでくださいまし! 奇跡とは、無知な者が論理的な解決策を見出せない時に使う逃げ口上に過ぎません! 岩が重いなら、支点と力点を利用して倍の力で押し出せばよろしい。道が塞がっているなら、空を通ればよろしいのです!」

私は、背後に控えていた「全自動床磨きゴーレムくん一号」を改造した「物資搬送ゴーレム・プロトタイプ」を指差しました。

「皆様、思い出してください。私はこの一週間で、この村の生産性を三倍に引き上げました。それは祈りによるものではなく、徹底したデータ分析と改善の結果です! 今、目の前にある障害は、単なる『解決すべきタスク』の一つに過ぎません。私を信じなさい、とは言いません。私の『計算』を信じるのです!」

私は一気に捲し立てました。

「今日、イチゴを市場に届けられなければ、皆様の冬のボーナス……いえ、蓄えはゼロになります。ですが、今すぐ私の指示に従い、一丸となって搬送ゴーレムのレールを敷設すれば、予定より三十分早く競りに間に合います! 利益か、損失か! 選ぶのは神ではなく、あなた方の意志ですわ!」

「…………おおおおお!!」

絶望していた村人たちの目に、現金な……いえ、力強い「欲」と「確信」の火が灯りました。
合理的な利益の提示は、どんな聖歌よりも人を動かすエネルギーになります。

「いい返事ですわ! では、第一班はレールの搬送、第二班はゴーレムの魔力充填! 第三班は、隣村の連中が二度と下らない真似をしないよう、ハミルトン法律事務所直伝の『法的措置予告状』を岩に貼り付けてきなさい! 作業開始ですわ!」

村人たちが、まるで精密機械の一部になったかのような一糸乱れぬ動きで散っていきました。
その光景を、広場の隅から眺めていたレオナード殿下が、感心したように肩をすくめました。

「……セリーナ嬢。君、今の演説で、隣の国まで攻め落とせるんじゃないか?」

「あら、殿下。見ていらしたのですか。国家転覆などというコストのかかる真似はいたしませんわ。私はただ、自分の投資対象(この村)を守っているだけですもの」

「『奇跡は無知な者の逃げ口上』か。……その言葉、我が国の腐敗した聖職者たちに聞かせてやりたいよ。君は本当に、人の心を動かすのが上手いな」

「心を動かしたのではなく、損得勘定を最適化しただけですわ」

私はふんと鼻を鳴らし、ゴーレムの出力調整に戻りました。
ですが、走り回る村人たちの活気ある声を聞きながら、私は少しだけ、自分の胸の奥が温かくなるのを感じていました。

「……まあ、この『熱気』だけは、計算式には組み込めませんわね」

聖女の祈りよりも、公爵令嬢の毒舌。
この日、キタノイチゴは史上最高の価格で取引され、村には「聖女」ではなく「冷徹な女神」への感謝が溢れることになったのでした。
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