私を捨てたのはミスですよ?

パリパリかぷちーの

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「拒否しますわ。一ミリの迷いもなく、断固として、かつ合理的な判断に基づき、却下させていただきます」

私は、漆黒の漆蝋で封印された豪勢な招待状を、指先で弾き飛ばしました。
宙を舞った招待状は、私が開発した「全自動床磨きゴーレムくん一号」の上に見事に着地し、そのまま部屋の隅へと運ばれていきました。

「お嬢様、返答が早すぎますわ! これはただの夜会ではありませんのよ。隣国ヴァレンタイン王国との国交正常化を祝う、三十年に一度の国際交流舞踏会ですわよ!?」

ベティが、悲鳴を上げながらゴーレムを追いかけ、招待状を救出しました。

「三十年に一度だろうが、百年に一度だろうが関係ありませんわ。いいですか、ベティ。舞踏会とは、重くて歩きにくいドレスを身に纏い、高い靴で足を痛めながら、特に目的もなくリズムに合わせて徘徊する、極めて非効率な社交儀礼です。その上、私の元・婚約者であるあのポエム皇太子と、その隣で花びらを撒き散らしている男爵令嬢に会うリスクまであるのですわよ? 収支報告書なら、赤字どころか破産レベルの案件ですわ」

私は再びペンを取り、村のイチゴ乾燥工場の設計図に修正を加え始めました。

「ですがお嬢様、これには国王陛下からの直接的な『要請』も含まれていると……。公爵家として、これを無視すれば、お父様の立場が……」

「父様には、私が開発した新型の『胃薬(魔導ブースト版)』を贈っておきますわ。ストレスはそれで解決できます。……とにかく、私は忙しいのです。新商品の『キタノイチゴ・ドライチップス』の販路拡大会議が、明後日にあるのですから!」

私が鉄壁の拒否姿勢を貫こうとした、その時。

「……なるほど。では、その販路拡大会議の相手が、私であっても断るのかな?」

窓から……いいえ、今回は正門から堂々と、けれどいつの間にか背後に立っていたレオナード殿下が、低く心地よい声で告げました。

「殿下。人の家に許可なく……いえ、今日はベティが通したのですわね。それで、今の不穏な発言はどういう意味かしら?」

私はペンを置き、彼に向き直りました。レオナード殿下は、手にした扇を優雅に弄びながら、私のデスクの端に腰を下ろしました。

「言葉通りの意味だよ、セリーナ。今回の国際交流舞踏会、我がヴァレンタイン王国の商務大臣も同行することになっていてね。彼は君が手がけている『キタノイチゴ』の保存技術に、並々ならぬ関心を持っているんだ」

「……ほう。商務大臣、ですか」

「ああ。もし君が私のパートナーとして舞踏会に出席し、彼に直接プレゼンを行うなら……隣国全土の高級菓子店への独占供給権。その交渉のテーブルを用意しよう。……これでも、君にとってこの舞踏会は『赤字案件』かな?」

私は、眼鏡の奥で目を細めました。
頭の中の計算機が、ものすごい速さで音を立てて回ります。

(隣国全土の独占供給権……。推定市場規模は、現在の村の年商の約五十倍。舞踏会への参加コスト、ドレス新調費、殿下のリードに合わせる運動エネルギーの消費量を差し引いても……)

「……利益率、四千パーセント超え。……計算完了ですわ」

私はスッと立ち上がり、レオナード殿下の目を真っ直ぐに見据えました。

「殿下。一つ、条件を追加させていただきます」

「何かな? 言ってみるといい」

「ダンスの時間は最小限に。その代わり、商務大臣との会談時間は最低でも三十分確保してくださいませ。それから、殿下が私をエスコートする際、周囲への『威嚇』を完璧にこなすこと。無能な元・婚約者が近づいてきて、私の貴重なプレゼン時間を一秒でも奪わないようにですわ」

「ふっ……。威嚇、か。任せてくれ。私の隣にいる君に、誰一人気安く触れさせはしないよ。たとえそれが、君の国の皇太子であってもね」

レオナード殿下は、私の手を取り、その指先に騎士の誓いのような接吻を落としました。
その時の彼の瞳が、いつもの「面白がっている」ものよりもずっと深く、熱を帯びていることに気づかないほど、私はうぶではありません。

「……殿下。今の接触は、ビジネスパートナーとしての景気付け……ということで、今回は特別に無料(サービス)にして差し上げますわ」

「それは光栄だ。……だが、当日は覚悟しておいてくれ。ビジネスだけの夜にするつもりは、私にはないからね」

「あら。プレゼンの効率化以外の覚悟なら、いくらでも持っておりますわよ。……ベティ! 今すぐ王都の一流デザイナーを呼びなさい! コンセプトは『世界一強そうで、かつ合理的な戦闘服』ですわ!」

「お嬢様、それを世間では『ドレス』と呼ぶんですのよ!」

こうして、私は最も忌避していたはずの「社交界」という名の戦場へ、最高級の武器(商談)を持って再降臨することが決まったのです。

婚約破棄から数ヶ月。
元・悪役令嬢による、王都への「倍返し」ならぬ「百倍利益」の進撃が、今始まろうとしていました。
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