私を捨てたのはミスですよ?

パリパリかぷちーの

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「……ふむ。やはりこの王宮の維持費は、私の計算によれば無駄が多すぎますわね。シャンデリアの魔石、もっと高効率なものに変えれば、年間で金貨百枚は浮くはずですわ」

王宮のきらびやかな大広間。
かつて私が「悪役令嬢」として断罪されたその場所に、私は再び足を踏み入れました。

感慨? 郷愁?
いいえ、そんな非生産的な感情など一ペニーの価値もありませんわ。
私の目に入るのは、建物の経年劣化と、装飾過多な貴族たちの「浪費」の縮図だけです。

「セリーナ嬢。久々の王都で最初の一言が『経費削減案』とは、やはり君は期待を裏切らないな」

隣で私の手を取り、エスコートしてくれているレオナード殿下が、愉快そうに肩を震わせました。
今日の彼は、ヴァレンタイン王国の正装に身を包み、まさに「氷の王子」としての威厳を放っています。……中身が「笑い上戸の物好き」だとは、誰も気づかないでしょうね。

「当然ですわ、殿下。時間は金なり。視界に入る情報をすべて利益に変換するのが、今の私のライフスタイルですもの」

私は、マダム・ロゼが心血を注いだミッドナイトブルーの「戦闘用ドレス」の裾を軽く翻しました。
胸元には、殿下から贈られたサファイアが、私の戦闘意欲……もとい、美学を象徴するように輝いています。

会場に入った瞬間、空気が一変しました。
「あの悪役令嬢が帰ってきた」「追放されたはずでは?」というヒソヒソ声。
ですが、次の瞬間には「隣にいるのはヴァレンタイン王国の第三王子!?」「なんて美しいんだ……」という驚愕に変わります。

そこへ、まるで見計らったかのようなタイミングで、二人の人物が近づいてきました。

「……セ、セリーナ……!? 本当に、君なのか……?」

現れたのは、かつての婚約者、ウィルフレッド殿下。
その隣には、相変わらず花びらが舞いそうなふわふわのドレスを着たミーナ様が、これ見よがしに彼に寄り添っています。

「あら。ウィルフレッド殿下、それにミーナ様。お久しぶりですわね。一ヶ月ぶりでしょうか? 私の計算では、殿下の顔色の悪さが前回比で15パーセントほど増加しているようですが、栄養管理は適切に行われておりますの?」

「なっ……! き、貴様、その姿は……。追放された身で、なぜこれほど豪華なドレスを……。それに、なぜレオナード殿下と一緒にいるのだ!」

ウィルフレッド殿下の声が裏返っています。
私は扇をパチンと閉じ、首を傾げました。

「豪華、ではありませんわ。これは『機能的』なだけです。そしてレオナード殿下とは、現在、複数の共同事業を立ち上げているビジネスパートナーとしての関係ですわ。……殿下、もしかして嫉妬でもなさっているのですか? もしそうなら、その感情をエネルギーに変換して、滞っている私の慰謝料の振り込みに充てていただけませんかしら」

「い、慰謝料!? まだそんなことを言っているのか! それにビジネスだと!? 女が商売など、はしたない!」

「はしたない、ですか。殿下、その『はしたない商売』のおかげで、この国の北方の物流がどれだけ改善されたかご存知ないのですか? 無知は最大のコストですわよ」

私の容赦ない正論に、ウィルフレッド殿下は顔を真っ赤にして絶句しました。
代わりに、ミーナ様が震える声で割り込んできます。

「セリーナ様……! そんなにウィルフレッド様をいじめないでください! セリーナ様が冷たくするから、あの方は毎晩、セリーナ様への謝罪のポエムを書いて……」

「ミーナ様、そのポエム。内容に文法的誤りはありませんでしたか? 彼の語彙力は非常に限定的ですから、添削なしで世に出すのは公的なリスクが伴いますわよ」

「て、てんさく……? そんなことより、セリーナ様! その隣の方、レオナード殿下ですよね? セリーナ様、またあざとい手を使って、立派な方を騙しているんじゃ……!」

ミーナ様が、周囲に聞こえるような声で「悲劇の聖女」を演じ始めました。
会場の視線が、疑念を孕んで私とレオナード殿下に集まります。
ですが、次の瞬間。

「……騙されている? それは心外だな」

レオナード殿下が、氷のように冷たく、けれど確かな熱を持った声で言い放ちました。
彼は私の肩を抱き寄せ、会場全体を見渡すように不敵に笑いました。

「私が彼女を求めたのだ。彼女の持つ、この国のだれもが持ち得ない『知性』と『行動力』、そして、他人を頼らず自らの足で立つその気高さにね。……ウィルフレッド殿下、君が彼女を『悪役』と呼んで捨てたおかげで、私は世界で最高の宝を手に入れることができた。感謝するよ」

「……は!? た、宝……!? セリーナが……!?」

ウィルフレッド殿下が、まるで雷に打たれたような顔で私を見ました。
会場からは、「あの冷徹なレオナード王子が……!」「求婚に等しい宣言じゃないか!」とどよめきが起こります。

私はといえば、レオナード殿下の腕の中で、冷静に計算を続けていました。

(今の殿下の発言による、私の『社会的信用度』の上昇率、推定300パーセント。これなら、商務大臣との商談の成約率はほぼ100パーセント。……よし、殿下、素晴らしいアシストですわ!)

「殿下、今の発言。プロモーション効果としては満点ですわ。後で特別ボーナスとして、キタノイチゴの新作チップスを二袋差し上げます」

「チップスか……。できれば、君の笑顔をもう一つ追加してほしいのだが」

「それは追加料金が発生しますわよ?」

私たちが小声でそんなやり取りをしていると、ウィルフレッド殿下がふらふらと私に手を伸ばしてきました。

「セ、セリーナ……。待ってくれ、私は……本当は君がそんなに……」

「おっと、殿下。私のパートナーに近づくのは、一歩につき金貨一枚の通行料を頂戴しますわよ?」

私がぴしゃりと言い放つと、会場のあちこちから、つらら……いえ、我慢しきれなくなった笑い声が漏れ始めました。

「あはは! あのお嬢様、本当に最高だわ!」
「見て、皇太子のあの顔! ポエムを破り捨てられた詩人みたいよ!」

かつての「断罪の夜会」は、今や「元・悪役令嬢による爆笑の倍返し舞台」へと変貌を遂げていました。

私は、呆然とする元婚約者を置き去りにし、レオナード殿下と共に商務大臣が待つバルコニーへと向かいました。

「さあ、殿下。笑いの時間は終わりですわ。ここからは、私の本領発揮……『金の卵』を産む商談の時間ですわよ!」

「ああ。君の背中についていくよ、私の女神(ビジネスパートナー)」

夜会の幕開けは、私にとって最高の「勝利のファンファーレ」となったのでした。
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