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「……残り時間、百六十二時間。ベティ、タイムスケジュールの進捗はどうなっていますの?」
私は別荘の居間に巨大なホワイトボード(特注の魔導黒板)を設置し、指揮官のごとく指示を飛ばしていました。
本来なら数ヶ月、短くても半年はかける公爵令嬢と王子の結婚式。
それをわずか七日で完遂させる。これこそが、私に課せられた史上最大の「最適化プロジェクト」ですわ。
「お嬢様、招待状の発送は魔導伝書鳩をフル稼働させて完了しましたわ! 返信は二十四時間以内に魔導通信で送るよう『速やかな回答がなければ、当日のフルコースのメインディッシュは欠席者名義で私が美味しくいただきます』と追記しておきました!」
「よろしい、ベティ。希少価値を利用した心理的プレッシャー、効果的ですわ。……マダム・ロゼ! ウェディングドレスの進捗は!?」
「セリーナ様! 不眠不休の魔導ミシンにより、九割完成いたしましたわ! 今回のドレスの裏地には、長時間の式典に耐えうるよう『自動栄養剤投与パッチ』と『姿勢維持補助魔法陣』を組み込んでおきました!」
「素晴らしい! 機能美の極致ですわね!」
戦場と化した広間を、レオナード殿下がいつものように窓から……ではなく、今回はさすがに扉から、呆れたような、けれど輝くような瞳で眺めていました。
「……セリーナ。君は本当に、結婚式を『攻略対象のダンジョン』か何かだと思っているのか? これほど殺気立った花嫁準備室は、大陸の歴史上初めてだろうな」
「殿下、のんびりしている暇はありませんわ。いいですか、結婚式における最大の無駄は『待ち時間』と『意味のない儀礼』です。私の計算によれば、誓いのキスの時間を零点五秒短縮し、神父の説教を要約版に変更するだけで、披露宴での商談タイムが合計十五分も捻出できますのよ」
「……誓いのキスの短縮は、私の個人的な感情として却下したいのだが」
「却下却下! 感情論はコストの無駄ですわ! さあ殿下、隣国の王族としての招待客リスト、重複を排除して優先順位順にソートしたものを提出してください!」
「ああ、もうできている。……君に急かされるのが、だんだん快感になってきたよ」
レオナード殿下は、楽しげに分厚いリストを私のデスクに置きました。
それからの一週間。
公爵邸はさながら不夜城となりました。
通常の結婚式にあるはずの「感動の涙」や「優雅な準備」はすべて「迅速な意思決定」と「徹底した分業」に置き換えられ、準備は驚異的なスピードで進んでいきました。
そして迎えた、挙式当日。
王都の大聖堂。
詰めかけた参列者たちは、その「異様」とも言えるスピード感に目を剥いていました。
「……汝、レオナード・ヴァレンタインは……」
「はい、誓います(食い気味に)」
「汝、セリーナ・エルバートは……」
「契約完了。……あ、いえ、誓いますわ!」
神父様が言葉を噛む暇すら与えない爆速の誓い。
指輪の交換は、まるで熟練の職人が部品をはめ込むかのような正確さで行われ、誓いのキスは……。
「……んっ!? 殿下、零点五秒と言ったはずですわよ!」
「……悪いな。この項目だけは、私の独断で残業(延長)させてもらったよ」
レオナード殿下の不意打ちのディープな接吻に、会場からは悲鳴に近い歓声が上がりました。
私の脳内のタイムスケジュールが一瞬で狂いましたが……まあ、これくらいの誤差なら、後の披露宴の挨拶を倍速にすれば取り戻せますわ。
披露宴会場に移動する馬車の中で、私はようやく一息つきました。
「……ふう。予定より三分遅れですが、許容範囲内ですわ。……殿下、お疲れ様でした。これでようやく、私の『公爵令嬢としての最後の業務』が完了しましたわね」
レオナード殿下は、私の隣で、その美しい手で私の手をぎゅっと握り締めました。
「完了じゃないさ。ここからが、私の妻としての『無期限契約』の始まりだろう? ……セリーナ。君との人生は、きっと世界で一番忙しくて、そして世界で一番面白いものになるはずだ」
「……当然ですわ。私のパートナーになるのですから、退屈する暇なんて一秒も与えませんわよ」
窓の外には、かつて私を「悪役令嬢」と呼び、婚約破棄に喝采を送った王都の街並みが広がっていました。
ですが、今の私にはそれを見返す必要もありません。
「さあ、行きましょう、旦那様! 披露宴のメニュー、私の開発した『イチゴのシャンパン』の宣伝効果を最大化する導線に整えてありますわよ!」
「ああ、どこまでもついていくよ。私の最強の共犯者殿」
私たちは、かつてないほど晴れやかな、そして史上最速のテンポで、新しい人生の扉を開いたのでした。
私は別荘の居間に巨大なホワイトボード(特注の魔導黒板)を設置し、指揮官のごとく指示を飛ばしていました。
本来なら数ヶ月、短くても半年はかける公爵令嬢と王子の結婚式。
それをわずか七日で完遂させる。これこそが、私に課せられた史上最大の「最適化プロジェクト」ですわ。
「お嬢様、招待状の発送は魔導伝書鳩をフル稼働させて完了しましたわ! 返信は二十四時間以内に魔導通信で送るよう『速やかな回答がなければ、当日のフルコースのメインディッシュは欠席者名義で私が美味しくいただきます』と追記しておきました!」
「よろしい、ベティ。希少価値を利用した心理的プレッシャー、効果的ですわ。……マダム・ロゼ! ウェディングドレスの進捗は!?」
「セリーナ様! 不眠不休の魔導ミシンにより、九割完成いたしましたわ! 今回のドレスの裏地には、長時間の式典に耐えうるよう『自動栄養剤投与パッチ』と『姿勢維持補助魔法陣』を組み込んでおきました!」
「素晴らしい! 機能美の極致ですわね!」
戦場と化した広間を、レオナード殿下がいつものように窓から……ではなく、今回はさすがに扉から、呆れたような、けれど輝くような瞳で眺めていました。
「……セリーナ。君は本当に、結婚式を『攻略対象のダンジョン』か何かだと思っているのか? これほど殺気立った花嫁準備室は、大陸の歴史上初めてだろうな」
「殿下、のんびりしている暇はありませんわ。いいですか、結婚式における最大の無駄は『待ち時間』と『意味のない儀礼』です。私の計算によれば、誓いのキスの時間を零点五秒短縮し、神父の説教を要約版に変更するだけで、披露宴での商談タイムが合計十五分も捻出できますのよ」
「……誓いのキスの短縮は、私の個人的な感情として却下したいのだが」
「却下却下! 感情論はコストの無駄ですわ! さあ殿下、隣国の王族としての招待客リスト、重複を排除して優先順位順にソートしたものを提出してください!」
「ああ、もうできている。……君に急かされるのが、だんだん快感になってきたよ」
レオナード殿下は、楽しげに分厚いリストを私のデスクに置きました。
それからの一週間。
公爵邸はさながら不夜城となりました。
通常の結婚式にあるはずの「感動の涙」や「優雅な準備」はすべて「迅速な意思決定」と「徹底した分業」に置き換えられ、準備は驚異的なスピードで進んでいきました。
そして迎えた、挙式当日。
王都の大聖堂。
詰めかけた参列者たちは、その「異様」とも言えるスピード感に目を剥いていました。
「……汝、レオナード・ヴァレンタインは……」
「はい、誓います(食い気味に)」
「汝、セリーナ・エルバートは……」
「契約完了。……あ、いえ、誓いますわ!」
神父様が言葉を噛む暇すら与えない爆速の誓い。
指輪の交換は、まるで熟練の職人が部品をはめ込むかのような正確さで行われ、誓いのキスは……。
「……んっ!? 殿下、零点五秒と言ったはずですわよ!」
「……悪いな。この項目だけは、私の独断で残業(延長)させてもらったよ」
レオナード殿下の不意打ちのディープな接吻に、会場からは悲鳴に近い歓声が上がりました。
私の脳内のタイムスケジュールが一瞬で狂いましたが……まあ、これくらいの誤差なら、後の披露宴の挨拶を倍速にすれば取り戻せますわ。
披露宴会場に移動する馬車の中で、私はようやく一息つきました。
「……ふう。予定より三分遅れですが、許容範囲内ですわ。……殿下、お疲れ様でした。これでようやく、私の『公爵令嬢としての最後の業務』が完了しましたわね」
レオナード殿下は、私の隣で、その美しい手で私の手をぎゅっと握り締めました。
「完了じゃないさ。ここからが、私の妻としての『無期限契約』の始まりだろう? ……セリーナ。君との人生は、きっと世界で一番忙しくて、そして世界で一番面白いものになるはずだ」
「……当然ですわ。私のパートナーになるのですから、退屈する暇なんて一秒も与えませんわよ」
窓の外には、かつて私を「悪役令嬢」と呼び、婚約破棄に喝采を送った王都の街並みが広がっていました。
ですが、今の私にはそれを見返す必要もありません。
「さあ、行きましょう、旦那様! 披露宴のメニュー、私の開発した『イチゴのシャンパン』の宣伝効果を最大化する導線に整えてありますわよ!」
「ああ、どこまでもついていくよ。私の最強の共犯者殿」
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