婚約破棄!顔が良すぎる王子なんて胃もたれするだけ!

パリパリかぷちーの

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「シリウス殿下! 我が愛娘を、これ以上その『歩く照明器具』のような輝きで苦しめるのはおやめいただきたい!」

応接室の重厚な扉を、衛兵の制止も聞かずに蹴破って入ってきたのは、私の父、アステリア公爵だった。
父は王国でも屈指の武闘派として知られ、その威圧感は王宮の石壁を震わせるほどだ。

「お父様! ……ああ、お父様のその、適度にくたびれた、後光の一切差さない、安心する顔! 会いたかったですわ!」

私はシリウス殿下の「キラキラ領域」から逃れるように、父の背後に隠れた。
父の背中からは、微かに馬の匂いと、先ほど食べてきたであろう「イカの燻製」のような渋い匂いがする。
……最高だわ。これこそが、私の求めていた「現実の香り」よ。

「おや、公爵。……そんなに殺気立たなくてもいいじゃないか。僕はただ、ターニャと失われた時間を取り戻していただけだよ」

シリウス殿下は、父の怒気すらも「熱烈な歓迎」と受け取ったのか、眩しすぎる笑みを浮かべて一歩踏み出した。
背景には、いつものようにどこからともなく白い鳩が飛び立ち、羽が宙を舞っている。

「失われた時間だと? 一度は婚約破棄を突きつけ、泥棒扱いして追い出したのはどこの誰だ! おかげでターニャは下町の油まみれの床で寝る羽目になったのだぞ!」

「お父様、それは私の趣味……いえ、修行だったのですわ! でも、殿下はそれを強引に連れ戻し、私の繊細な胃腸に金箔まみれのメンチカツを叩き込んだのです!」

私は父の服の裾を掴んで訴えた。
父は私の顔をまじまじと見つめると、その太い眉をさらに吊り上げた。

「……なんと。ターニャ、お前、少し痩せたか? 頬のあたりから、あの『揚げ物大好き令嬢』らしい健康的なテカリが失われているではないか!」

「そうなのですわ! 殿下の顔を見るたびに胃酸が逆流して、本物の油を受け付けない体になりつつあるのです! これはもはや、アステリア公爵家に対する宣戦布告ですわ!」

「許せん……! 殿下、いやシリウスよ! 娘を返してもらう。このままではターニャの精神が、殿下のポエムによって汚染されてしまう!」

父は腰の剣の柄に手をかけた。
しかし、シリウス殿下は全く動じる様子もなく、むしろ「義父上、なんて情熱的なんだ」と感極まった表情で両手を広げた。

「公爵、誤解しないでほしい。……僕は彼女のすべてを愛している。彼女が油まみれでジャガイモを剥いている姿すら、僕の瞳には聖母の献身に映っていた」

「(……あの姿を見て聖母って、やっぱりこの人の眼球、取り替えたほうがいいんじゃないかしら?)」

「シリウス殿下、あなたの『愛』は押し売りなのだ。ターニャが求めているのは、殿下のウィンクではなく、静寂と、茶色い定食なのだ!」

父の叫びは正論だった。
しかし、シリウス殿下は、あろうことか父の手をガシッと握りしめた。

「公爵。……君も、僕という光を恐れているんだね? わかるよ、強すぎる光は時に影を作る。……だが、案ずることはない。僕の愛は、君という新しい家族も丸ごと包み込む準備ができているんだ!」

シリウス殿下の周囲に、これまでにない規模の「キラキラ・ドーム」が形成された。
金粉が雪のように降り注ぎ、空気中にはなぜか賛美歌のコーラスが響き渡る。

「……っ、ぐ……!? なんだ……この、胸が焼けるような不快感は……! 殿下、離せ! 私の鼻腔に金粉が入り込むだろうが!」

「ふふ、照れなくていい。……さあ、三人でこれからの明るい未来について、ポエムを詠み合おうじゃないか!」

「お嬢様。……旦那様も、殿下のポジティブ変換機能に飲み込まれつつありますね。……今のうちに、私が裏庭に用意した『非常用メンチカツ』で、精神を安定させてはいかがですか?」

セバスがいつの間にか私の隣で、紙に包まれた「本物の(安っぽい)」メンチカツを差し出してきた。

「セバス……! あなただけが、私の正気をつなぎ止めてくれるわ!」

私は、父と王子が「愛の定義」について噛み合わない議論を繰り広げている隙に、メンチカツを口に押し込んだ。
ザクッ……という、力強い衣の感触。
これよ。これがあれば、私はまだ、このキラキラ地獄で戦える……!

「……待っていろ、シリウス殿下。お父様がダメなら、次はリリア様との『最終作戦』よ!」

私は口の周りを油でテカらせながら、次なる反撃のチャンスを虎視眈々と狙うのであった。
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