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「うっぷ……もう無理ですぅ……馬車の揺れが、私の三半規管を破壊しますぅ……」
「頑張りなさい、ミナ様。あと少しで国境の検問所よ。そこを越えれば、西の国のアスファルト舗装された道路が待っているわ」
「アスファルト……! それは食べ物ですかぁ?」
「いいえ、揺れない道のことよ。人類の叡智ね」
王都を出て三日目。
私たちの馬車は、国境の山岳地帯を走っていた。
御者台にはアレン。
車内には、酔い止め薬(私が調合した激マズ薬)を飲んで死にかけているミナと、優雅に読書をする私。
「カグヤ、見えてきたよ。国境の砦(とりで)だ」
小窓からアレンが声をかけてくる。
「やっとね。ここを抜ければ、晴れて私は『国外逃亡者』……じゃなくて、『海外赴任者』になるわけね」
私は本を閉じた。
この国ともおさらばだ。
ヘリオスの顔も見なくて済むし、ミナの教育も(ある程度は)終わったし、あとはアレンの領地で温泉三昧の日々が待っている。
「……ん? 様子がおかしいな」
アレンの声が少し尖る。
馬車が減速し、やがて完全に停止した。
「どうしたの?」
「検問所が……封鎖されている」
「封鎖?」
私は窓から外を覗いた。
通常、この国境は商人や旅人で賑わっているはずだ。
しかし今、ゲートの前には重厚なバリケードが築かれ、その前には……。
「……何、あの数は」
数百人規模の騎士団が、壁のように整列していた。
しかも、以前別荘に来たような「地方の騎士」ではない。
金色の鎧(よろい)に、真紅のマント。
王家の直轄部隊、「近衛騎士団」だ。
「……嫌な予感がするわ」
私はミナを叩き起こした。
「起きて、ミナ様。戦闘態勢よ」
「はひっ!? おやつですか!?」
「いいえ、トラブルよ」
私たちは馬車を降りた。
瞬間、数百人の騎士たちの視線が一斉に私たち――正確には、私に突き刺さった。
ザッ!
騎士たちが一糸乱れぬ動きで敬礼する。
「カグヤ・ムーンライト公爵令嬢! お待ちしておりました!」
先頭に立つ男が進み出た。
銀髪のオールバックに、神経質そうな眼鏡。
近衛騎士団長、そして私の元・同僚(王宮のセキュリティ担当)であるシリウスだ。
「……あら、シリウス団長。お久しぶりですね」
私は営業スマイルを貼り付けた。
「こんな辺境で何をしているのですか? 王宮の警備は?」
「貴女を止めるために、全戦力をここに投入しました」
シリウスは無表情で言った。
眼鏡の奥の目が、絶対に逃がさないという意志で光っている。
「……私を? 何の容疑で?」
「容疑ではありません」
シリウスは懐から一枚の羊皮紙を取り出し、高らかに読み上げた。
「王命である! 本日付けで『重要国家資源流出防止法』が施行された!」
「は?」
「第1条。我が国において、代替不可能な知的財産、および極めて高度な業務処理能力を有する人物を『戦略的人的資源』と認定する」
「……まさか」
「第2条。認定された資源の国外持ち出し、および亡命を固く禁ずる。違反者は直ちに拘束し、王宮へ『再収納』するものとする」
シリウスは羊皮紙を閉じ、私を指差した。
「カグヤ嬢。貴女は、我が国初の『人間国宝』ならぬ『人間資源(ヒューマン・リソース)』に認定されました。よって、輸出は禁止です」
「ふざけないでっ!!」
私は叫んだ。
「私は物じゃないわ! 人間よ! しかも無職よ!」
「無職ではありません。貴女一人の流出による経済損失は、試算によると国家予算の三年分。これはダイヤモンド鉱山一つが消滅するのに等しい」
シリウスは淡々とデータを突きつけてきた。
さすがは元・同僚。私の嫌がる「数字」で攻めてくるとは。
「あのバカ王子ね……! 知恵をつけたわね!」
「殿下は泣きながら仰っていました。『金は払った! だが、マニュアルが読めん! 字が多い! カグヤがいないと呼吸の仕方も分からん!』と」
「赤ん坊か!」
私は頭を抱えた。
「おい、ちょっと待ってくれ」
アレンが私の前に出た。
「彼女は自分の意志で僕と来るんだ。それを法律で縛るなんて、横暴が過ぎるんじゃないか?」
「スターダスト公爵閣下」
シリウスは冷ややかにアレンを見た。
「貴殿には『国家資源の窃盗(ラチ)』および『誘拐』の容疑がかかっています。大人しくカグヤ嬢を引き渡せば、国際問題にはいたしません」
「断る。彼女は僕のパートナーだ」
アレンが剣の柄に手をかける。
近衛騎士団が一斉に槍を構える。
一触即発。
数百対一。
いくらアレンでも、分が悪すぎる。
「待ちなさい、アレン」
私は彼を制止した。
「カグヤ?」
「ここで暴れたら、貴方が悪者になるわ。それは私の本意じゃない」
私は前に進み出た。
「シリウス団長。つまり、貴方たちは私を王都へ連れ戻し、再びあのデスクに縛り付けるつもりですね?」
「はい。殿下の横に座り、ニコニコしながら全ての業務を処理していただきます。死ぬまで」
「地獄の終身刑じゃない!」
私は深呼吸をした。
力ずくでの突破は不可能。
論理での説得も、「法律」を作られた以上は通用しない。
ならば。
「……取引をしましょう」
「取引?」
「私は王都には戻りません。ですが、この場で拘束されるのも不本意です」
私はニヤリと笑った。
「西の国へ向かう理由は、近々行われる『両国間の平和会議』に出席するためです。アレン……スターダスト公爵は、その全権大使として帰国するのです」
「……ほう」
「もしここで私たちを拘束すれば、和平交渉は決裂。戦争になりますよ? 私のために戦争を起こしたとなれば、歴史書に『カグヤ戦争』と刻まれます。それは嫌でしょう?」
シリウスが眉をひそめる。
彼は合理的だ。戦争のコストがいかに無駄かを知っている。
「……では、どうするというのです?」
「場所を変更しましょう」
私は提案した。
「一週間後、王都で『建国記念舞踏会』がありますね?」
「ええ。各国の要人が集まります」
「その舞踏会を、和平交渉の場としなさい。アレンと私は、西の国の代表としてそこに出席します」
「……つまり、一度王都に戻ると?」
「ええ。ただし、『囚人』としてではなく、『外交官』としてです。それなら文句はないでしょう?」
シリウスはしばらく考え込み、やがて頷いた。
「……悪くない提案です。一度王都に入ってしまえば、あとはどうとでもなりますからね」
(甘いわね。一度入れば、こちらのホームグラウンドよ)
私は心の中で舌を出した。
「交渉成立ですね。では、馬車を回しなさい。貴賓(きひん)待遇で王都まで送り届けてもらうわ」
「承知しました。……全軍、護送態勢に入れ! 『資源』を傷つけるなよ!」
シリウスの号令で、騎士たちが道を開ける。
「カグヤ、いいのかい?」
アレンが小声で聞いてくる。
「一度戻ったら、また逃げるのは難しいよ」
「大丈夫よ。王宮には私の『隠し通路』も『裏金』も眠っているわ」
私はアレンにウィンクした。
「それに、あの舞踏会……ちょうどいいわ。ヘリオスとの腐れ縁を、衆人環視の中で完全に断ち切る最高のステージにしてあげる」
「……怖いなあ」
アレンは苦笑したが、その目は楽しそうだった。
「分かった。乗ったよ。僕も外交官として、君の隣で踊らせてもらおうかな」
「ええ。足を踏まないでね」
こうして、私たちはUターンすることになった。
囚われの姫君としてではなく、敵国の外交官として。
そして、ミナは。
「えっ、王都に戻るんですかぁ? じゃあ、あの『限定モンブラン』が食べられますねっ!」
「……貴女のポジティブさだけが救いだわ」
馬車は再び王都へ。
来たるべき決戦の舞台――豪華絢爛な舞踏会へ向かって。
そこで私が、国中を巻き込んだ「最後の大芝居(プレゼンテーション)」を打つことになろうとは、シリウスもヘリオスも、まだ知る由もなかったのである。
「頑張りなさい、ミナ様。あと少しで国境の検問所よ。そこを越えれば、西の国のアスファルト舗装された道路が待っているわ」
「アスファルト……! それは食べ物ですかぁ?」
「いいえ、揺れない道のことよ。人類の叡智ね」
王都を出て三日目。
私たちの馬車は、国境の山岳地帯を走っていた。
御者台にはアレン。
車内には、酔い止め薬(私が調合した激マズ薬)を飲んで死にかけているミナと、優雅に読書をする私。
「カグヤ、見えてきたよ。国境の砦(とりで)だ」
小窓からアレンが声をかけてくる。
「やっとね。ここを抜ければ、晴れて私は『国外逃亡者』……じゃなくて、『海外赴任者』になるわけね」
私は本を閉じた。
この国ともおさらばだ。
ヘリオスの顔も見なくて済むし、ミナの教育も(ある程度は)終わったし、あとはアレンの領地で温泉三昧の日々が待っている。
「……ん? 様子がおかしいな」
アレンの声が少し尖る。
馬車が減速し、やがて完全に停止した。
「どうしたの?」
「検問所が……封鎖されている」
「封鎖?」
私は窓から外を覗いた。
通常、この国境は商人や旅人で賑わっているはずだ。
しかし今、ゲートの前には重厚なバリケードが築かれ、その前には……。
「……何、あの数は」
数百人規模の騎士団が、壁のように整列していた。
しかも、以前別荘に来たような「地方の騎士」ではない。
金色の鎧(よろい)に、真紅のマント。
王家の直轄部隊、「近衛騎士団」だ。
「……嫌な予感がするわ」
私はミナを叩き起こした。
「起きて、ミナ様。戦闘態勢よ」
「はひっ!? おやつですか!?」
「いいえ、トラブルよ」
私たちは馬車を降りた。
瞬間、数百人の騎士たちの視線が一斉に私たち――正確には、私に突き刺さった。
ザッ!
騎士たちが一糸乱れぬ動きで敬礼する。
「カグヤ・ムーンライト公爵令嬢! お待ちしておりました!」
先頭に立つ男が進み出た。
銀髪のオールバックに、神経質そうな眼鏡。
近衛騎士団長、そして私の元・同僚(王宮のセキュリティ担当)であるシリウスだ。
「……あら、シリウス団長。お久しぶりですね」
私は営業スマイルを貼り付けた。
「こんな辺境で何をしているのですか? 王宮の警備は?」
「貴女を止めるために、全戦力をここに投入しました」
シリウスは無表情で言った。
眼鏡の奥の目が、絶対に逃がさないという意志で光っている。
「……私を? 何の容疑で?」
「容疑ではありません」
シリウスは懐から一枚の羊皮紙を取り出し、高らかに読み上げた。
「王命である! 本日付けで『重要国家資源流出防止法』が施行された!」
「は?」
「第1条。我が国において、代替不可能な知的財産、および極めて高度な業務処理能力を有する人物を『戦略的人的資源』と認定する」
「……まさか」
「第2条。認定された資源の国外持ち出し、および亡命を固く禁ずる。違反者は直ちに拘束し、王宮へ『再収納』するものとする」
シリウスは羊皮紙を閉じ、私を指差した。
「カグヤ嬢。貴女は、我が国初の『人間国宝』ならぬ『人間資源(ヒューマン・リソース)』に認定されました。よって、輸出は禁止です」
「ふざけないでっ!!」
私は叫んだ。
「私は物じゃないわ! 人間よ! しかも無職よ!」
「無職ではありません。貴女一人の流出による経済損失は、試算によると国家予算の三年分。これはダイヤモンド鉱山一つが消滅するのに等しい」
シリウスは淡々とデータを突きつけてきた。
さすがは元・同僚。私の嫌がる「数字」で攻めてくるとは。
「あのバカ王子ね……! 知恵をつけたわね!」
「殿下は泣きながら仰っていました。『金は払った! だが、マニュアルが読めん! 字が多い! カグヤがいないと呼吸の仕方も分からん!』と」
「赤ん坊か!」
私は頭を抱えた。
「おい、ちょっと待ってくれ」
アレンが私の前に出た。
「彼女は自分の意志で僕と来るんだ。それを法律で縛るなんて、横暴が過ぎるんじゃないか?」
「スターダスト公爵閣下」
シリウスは冷ややかにアレンを見た。
「貴殿には『国家資源の窃盗(ラチ)』および『誘拐』の容疑がかかっています。大人しくカグヤ嬢を引き渡せば、国際問題にはいたしません」
「断る。彼女は僕のパートナーだ」
アレンが剣の柄に手をかける。
近衛騎士団が一斉に槍を構える。
一触即発。
数百対一。
いくらアレンでも、分が悪すぎる。
「待ちなさい、アレン」
私は彼を制止した。
「カグヤ?」
「ここで暴れたら、貴方が悪者になるわ。それは私の本意じゃない」
私は前に進み出た。
「シリウス団長。つまり、貴方たちは私を王都へ連れ戻し、再びあのデスクに縛り付けるつもりですね?」
「はい。殿下の横に座り、ニコニコしながら全ての業務を処理していただきます。死ぬまで」
「地獄の終身刑じゃない!」
私は深呼吸をした。
力ずくでの突破は不可能。
論理での説得も、「法律」を作られた以上は通用しない。
ならば。
「……取引をしましょう」
「取引?」
「私は王都には戻りません。ですが、この場で拘束されるのも不本意です」
私はニヤリと笑った。
「西の国へ向かう理由は、近々行われる『両国間の平和会議』に出席するためです。アレン……スターダスト公爵は、その全権大使として帰国するのです」
「……ほう」
「もしここで私たちを拘束すれば、和平交渉は決裂。戦争になりますよ? 私のために戦争を起こしたとなれば、歴史書に『カグヤ戦争』と刻まれます。それは嫌でしょう?」
シリウスが眉をひそめる。
彼は合理的だ。戦争のコストがいかに無駄かを知っている。
「……では、どうするというのです?」
「場所を変更しましょう」
私は提案した。
「一週間後、王都で『建国記念舞踏会』がありますね?」
「ええ。各国の要人が集まります」
「その舞踏会を、和平交渉の場としなさい。アレンと私は、西の国の代表としてそこに出席します」
「……つまり、一度王都に戻ると?」
「ええ。ただし、『囚人』としてではなく、『外交官』としてです。それなら文句はないでしょう?」
シリウスはしばらく考え込み、やがて頷いた。
「……悪くない提案です。一度王都に入ってしまえば、あとはどうとでもなりますからね」
(甘いわね。一度入れば、こちらのホームグラウンドよ)
私は心の中で舌を出した。
「交渉成立ですね。では、馬車を回しなさい。貴賓(きひん)待遇で王都まで送り届けてもらうわ」
「承知しました。……全軍、護送態勢に入れ! 『資源』を傷つけるなよ!」
シリウスの号令で、騎士たちが道を開ける。
「カグヤ、いいのかい?」
アレンが小声で聞いてくる。
「一度戻ったら、また逃げるのは難しいよ」
「大丈夫よ。王宮には私の『隠し通路』も『裏金』も眠っているわ」
私はアレンにウィンクした。
「それに、あの舞踏会……ちょうどいいわ。ヘリオスとの腐れ縁を、衆人環視の中で完全に断ち切る最高のステージにしてあげる」
「……怖いなあ」
アレンは苦笑したが、その目は楽しそうだった。
「分かった。乗ったよ。僕も外交官として、君の隣で踊らせてもらおうかな」
「ええ。足を踏まないでね」
こうして、私たちはUターンすることになった。
囚われの姫君としてではなく、敵国の外交官として。
そして、ミナは。
「えっ、王都に戻るんですかぁ? じゃあ、あの『限定モンブラン』が食べられますねっ!」
「……貴女のポジティブさだけが救いだわ」
馬車は再び王都へ。
来たるべき決戦の舞台――豪華絢爛な舞踏会へ向かって。
そこで私が、国中を巻き込んだ「最後の大芝居(プレゼンテーション)」を打つことになろうとは、シリウスもヘリオスも、まだ知る由もなかったのである。
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