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「ポンド・フォン・マーガリン! 今日こそ、あなたの化けの皮を剥いで差し上げますわ!」
静かな公爵邸の居間に、またしてもリリィ様の金切り声が響き渡った。
彼女の背後には、苦虫を噛み潰したような顔のセドリック殿下。
そして、なぜか審判役として勝手に連れてこられた王宮料理長の姿がある。
「……リリィ様。今日は揚げ物の気分なので、お引取りいただけませんか。油が跳ねると危ないですよ」
「揚げ物!? お茶会の復讐に来たというのに、何を呑気な! いいですか、私と料理で勝負なさい! 負けた方は、殿下とギルバート様のどちらからも手を引く……これでどうかしら!」
「……ええと。殿下については、すでに私の手元にはございませんので、返品は不可能です」
「返品と言うな! 私は商品か!」
殿下のツッコミをスルーし、私はリリィ様が掲げた「料理対決」の条件を確認した。
どうやら彼女は、私が「不気味なだけで何もできない無能な令嬢」であることを証明したいらしい。
だが、食べることへの情熱を舐めてもらっては困る。
「……分かりました。お受けしましょう。ただし、私が勝ったら、あちらの料理長が隠し持っている『伝説の岩塩』をいただきます」
「ふん、受けて立ちますわ! 私が作るのは、王家伝来のレシピによる『天使のメレンゲ仕立て・薔薇のソースを添えて』です!」
対決の舞台は、我が家の広大な厨房になった。
リリィ様は慣れない手つきで卵を割り、泡立て器を必死に振っている。
一方の私は、エプロンを締め、どっしりと構えた。
「……さて。何を作ろうかしら」
「ポンド。……手伝いが必要か?」
いつの間にか、背後にギルバート卿が立っていた。
彼は無言で籠手を外し、調理用の薄い手袋をはめている。
その眼光は、まるでこれからドラゴンを討伐しに行くかのように鋭い。
「アイゼン卿。……いえ、これは私の戦いです」
「気にするな。食材の鮮度を保つのは騎士の務めだ」
ギルバート卿が指をパチンと鳴らすと、私の周囲に微かな冷気が漂い始めた。
冷え冷えの状態を保つことで、衣のサクサク感を極限まで引き出そうというのか。
この男、氷結魔法を天ぷら粉の温度調節に使うつもりだ。国家予算の無駄遣いである。
「……では、卿。その冷気で、この鶏肉をキュッと締めていただけますか」
「任せろ。……絶対零度の一歩手前まで冷やしてやろう」
「凍らせないでくださいね。揚げられなくなりますから」
私は鶏肉に下味をつけ、秘伝の粉をまぶしていく。
リリィ様の方は、メレンゲがうまく固まらずに「キーッ!」と叫び声を上げているが、私は動じない。
油の温度が最適になった瞬間、私は肉を投入した。
シュワァァァ……!
心地よい音が厨房に響き、食欲をそそる香ばしい匂いが広がっていく。
これだ。これこそが、魂を揺さぶる音。
「な、なんですのその音は! お上品な厨房で、爆発音を立てるなんて!」
「爆発ではありません。これは、肉の旨味が閉じ込められる歓喜の歌です」
「意味が分かりませんわ! 殿下、見てください、あの女、肉を油の海に沈めていますわ! なんて野蛮な!」
「……リリィ。だが、いい匂いがするのは否定できんぞ……」
殿下がゴクリと喉を鳴らした。
私は二度揚げを敢行し、黄金色に輝く「ポンド特製・極厚唐揚げ」を完成させた。
一方、リリィ様も何とか「薔薇色の泡のような何か」を皿に盛り付けた。
「さあ、審判! 判定をなさい!」
王宮料理長がおずおずと前に出る。
まずはリリィ様の料理を一口。
「……ふむ。薔薇の香りは素晴らしいですが、メレンゲが分離して……少々、生臭いですね。卵の殻も入っています」
「なんですって!? それは食感のアクセントですわ!」
次に、料理長は私の唐揚げを手に取った。
彼は一口噛んだ瞬間、目を見開き、その場に膝をついた。
「……おおお! この衣の軽快な歯ごたえ! そして中から溢れ出す肉汁の洪水! 冷気で締められた肉の弾力……これは、騎士団長の魔力と公爵令嬢の執念が合わさった、奇跡の一品だ!」
「……でしょう?」
「勝者、ポンド嬢! これほどの揚げ物、王宮でもお目にかかれません!」
「そんなバカな! 私の天使の泡が、そんな茶色い塊に負けるなんて!」
リリィ様が絶叫するが、すでに殿下の手は私の唐揚げへと伸びていた。
彼は一つ口に入れると、涙を流しながら叫んだ。
「……美味い! ポンド、お前、こんな才能があったのか!? これなら毎日食べても飽きないぞ! やはり婚約破棄は……」
「殿下。……その手、凍らせてもよろしいか?」
ギルバート卿が、殿下の首元に冷たい剣先(氷製)を突きつけた。
殿下はヒッ、と短い悲鳴を上げて、唐揚げを持ったまま固まった。
「……ポンドは私の専属料理人(予定)だ。貴様に食わせる揚げ物はない」
「卿。……そこまで言うなら、残りは全部、卿が食べていいですよ」
「……全部か。……分かった。責任を持って、私の血肉にしよう」
ギルバート卿は、大皿に乗った唐揚げを大切そうに抱え込んだ。
その顔は、まるで軍事機密を保持するスパイのように真剣だ。
敗北したリリィ様は、料理長から「修行し直しなさい」と説教され、殿下に泣きついて退散していった。
「……アイゼン卿。伝説の岩塩、手に入れましたよ」
「ああ。……これで次は、何を揚げるつもりだ?」
「そうですね……。明日は、お魚のフライにしましょうか。タルタルソースをたっぷり添えて」
「……楽しみだ。君の揚げ物のためなら、私は王宮の氷をすべて持ってくる」
泥沼令嬢の料理道。
それは、氷結騎士の全面バックアップにより、ますます高カロリーな方向へと突き進んでいくのであった。
静かな公爵邸の居間に、またしてもリリィ様の金切り声が響き渡った。
彼女の背後には、苦虫を噛み潰したような顔のセドリック殿下。
そして、なぜか審判役として勝手に連れてこられた王宮料理長の姿がある。
「……リリィ様。今日は揚げ物の気分なので、お引取りいただけませんか。油が跳ねると危ないですよ」
「揚げ物!? お茶会の復讐に来たというのに、何を呑気な! いいですか、私と料理で勝負なさい! 負けた方は、殿下とギルバート様のどちらからも手を引く……これでどうかしら!」
「……ええと。殿下については、すでに私の手元にはございませんので、返品は不可能です」
「返品と言うな! 私は商品か!」
殿下のツッコミをスルーし、私はリリィ様が掲げた「料理対決」の条件を確認した。
どうやら彼女は、私が「不気味なだけで何もできない無能な令嬢」であることを証明したいらしい。
だが、食べることへの情熱を舐めてもらっては困る。
「……分かりました。お受けしましょう。ただし、私が勝ったら、あちらの料理長が隠し持っている『伝説の岩塩』をいただきます」
「ふん、受けて立ちますわ! 私が作るのは、王家伝来のレシピによる『天使のメレンゲ仕立て・薔薇のソースを添えて』です!」
対決の舞台は、我が家の広大な厨房になった。
リリィ様は慣れない手つきで卵を割り、泡立て器を必死に振っている。
一方の私は、エプロンを締め、どっしりと構えた。
「……さて。何を作ろうかしら」
「ポンド。……手伝いが必要か?」
いつの間にか、背後にギルバート卿が立っていた。
彼は無言で籠手を外し、調理用の薄い手袋をはめている。
その眼光は、まるでこれからドラゴンを討伐しに行くかのように鋭い。
「アイゼン卿。……いえ、これは私の戦いです」
「気にするな。食材の鮮度を保つのは騎士の務めだ」
ギルバート卿が指をパチンと鳴らすと、私の周囲に微かな冷気が漂い始めた。
冷え冷えの状態を保つことで、衣のサクサク感を極限まで引き出そうというのか。
この男、氷結魔法を天ぷら粉の温度調節に使うつもりだ。国家予算の無駄遣いである。
「……では、卿。その冷気で、この鶏肉をキュッと締めていただけますか」
「任せろ。……絶対零度の一歩手前まで冷やしてやろう」
「凍らせないでくださいね。揚げられなくなりますから」
私は鶏肉に下味をつけ、秘伝の粉をまぶしていく。
リリィ様の方は、メレンゲがうまく固まらずに「キーッ!」と叫び声を上げているが、私は動じない。
油の温度が最適になった瞬間、私は肉を投入した。
シュワァァァ……!
心地よい音が厨房に響き、食欲をそそる香ばしい匂いが広がっていく。
これだ。これこそが、魂を揺さぶる音。
「な、なんですのその音は! お上品な厨房で、爆発音を立てるなんて!」
「爆発ではありません。これは、肉の旨味が閉じ込められる歓喜の歌です」
「意味が分かりませんわ! 殿下、見てください、あの女、肉を油の海に沈めていますわ! なんて野蛮な!」
「……リリィ。だが、いい匂いがするのは否定できんぞ……」
殿下がゴクリと喉を鳴らした。
私は二度揚げを敢行し、黄金色に輝く「ポンド特製・極厚唐揚げ」を完成させた。
一方、リリィ様も何とか「薔薇色の泡のような何か」を皿に盛り付けた。
「さあ、審判! 判定をなさい!」
王宮料理長がおずおずと前に出る。
まずはリリィ様の料理を一口。
「……ふむ。薔薇の香りは素晴らしいですが、メレンゲが分離して……少々、生臭いですね。卵の殻も入っています」
「なんですって!? それは食感のアクセントですわ!」
次に、料理長は私の唐揚げを手に取った。
彼は一口噛んだ瞬間、目を見開き、その場に膝をついた。
「……おおお! この衣の軽快な歯ごたえ! そして中から溢れ出す肉汁の洪水! 冷気で締められた肉の弾力……これは、騎士団長の魔力と公爵令嬢の執念が合わさった、奇跡の一品だ!」
「……でしょう?」
「勝者、ポンド嬢! これほどの揚げ物、王宮でもお目にかかれません!」
「そんなバカな! 私の天使の泡が、そんな茶色い塊に負けるなんて!」
リリィ様が絶叫するが、すでに殿下の手は私の唐揚げへと伸びていた。
彼は一つ口に入れると、涙を流しながら叫んだ。
「……美味い! ポンド、お前、こんな才能があったのか!? これなら毎日食べても飽きないぞ! やはり婚約破棄は……」
「殿下。……その手、凍らせてもよろしいか?」
ギルバート卿が、殿下の首元に冷たい剣先(氷製)を突きつけた。
殿下はヒッ、と短い悲鳴を上げて、唐揚げを持ったまま固まった。
「……ポンドは私の専属料理人(予定)だ。貴様に食わせる揚げ物はない」
「卿。……そこまで言うなら、残りは全部、卿が食べていいですよ」
「……全部か。……分かった。責任を持って、私の血肉にしよう」
ギルバート卿は、大皿に乗った唐揚げを大切そうに抱え込んだ。
その顔は、まるで軍事機密を保持するスパイのように真剣だ。
敗北したリリィ様は、料理長から「修行し直しなさい」と説教され、殿下に泣きついて退散していった。
「……アイゼン卿。伝説の岩塩、手に入れましたよ」
「ああ。……これで次は、何を揚げるつもりだ?」
「そうですね……。明日は、お魚のフライにしましょうか。タルタルソースをたっぷり添えて」
「……楽しみだ。君の揚げ物のためなら、私は王宮の氷をすべて持ってくる」
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