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夜会の衝撃から数日後。
公爵邸は、再び平穏な日常を取り戻していた――はずだった。
「……計算が合いません」
私は執務室の机に向かい、眉間に皺を寄せていた。
目の前には、公爵領の昨年度の決算書。
私が嫁いでくる(契約結婚だが)前の、どんぶり勘定な帳簿である。
「食費の計上が雑すぎます。なぜ『宴会費』と『馬の餌代』が同じ項目に? これではコスト削減の分析ができません」
私は赤ペンを走らせながら、隣に控える家令のセバスチャンに指摘した。
「も、申し訳ございません……! これまでは『足りなくなったら金庫から出す』という運用でしたので……」
「野蛮ですね。今日中に過去3年分の領収書を洗い出しなさい。使途不明金は全てアイザック様の小遣いから天引きします」
「お、鬼だ……(いや、神だ)」
セバスチャンが感動の涙を流しながら退室しようとした、その時。
ドガンッ!!
執務室の扉が、ノックもなしに勢いよく開かれた。
「ローゼン!! 迎えに来たぞ!!」
聞き飽きた、無駄に良い声。
そして、部屋の空気を一瞬で濁らせる過剰な香水の匂い。
私はペンを止め、ゆっくりと顔を上げた。
「……アポイントメントは取られていますか?」
そこに立っていたのは、懲りもせずにやって来た元婚約者、クラーク王太子だった。
今日はミーナを連れていない。単独犯だ。
「アポイント? そんな水臭いこと言うなよ。僕と君の仲じゃないか」
クラーク様は、私の執務机の前までツカツカと歩み寄り、両手をドンとついた。
「聞いたぞ、ローゼン。君、この屋敷の『経理』やら『人事』やらをやらされているそうじゃないか」
「ええ。趣味と実益を兼ねて」
「可哀想に……! やはり君は、あの『氷の公爵』にこき使われているんだな! 『妻』とは名ばかりの、安価な労働力として!」
クラーク様は、私の手元にある帳簿を見て、確信したように頷いた。
「見ろ、この数字の羅列! こんな地味な作業、本来なら下級官吏がやる仕事だ。それを公爵夫人にやらせるなんて……あの男は血も涙もないのか!」
「……あの、殿下」
私は冷静に訂正を試みた。
「これは『やらされている』のではありません。私が『やりたい』のです」
「え?」
「杜撰な帳簿を見ていると、蕁麻疹が出そうになるのです。数字を整理し、無駄を省き、利益を最大化する。……このパズルが完成した時の快感が、貴方にはわかりませんか?」
「……か、快感?」
クラーク様は引いた。
しかし、すぐにポジティブな解釈(誤訳)を行ったようだ。
「……そうか。わかったぞ」
彼は悲しげな瞳で私を見つめた。
「君は、仕事に没頭することで、寂しさを紛らわせているんだね……」
「はい?」
「僕に捨てられた悲しみ。ミーナにポジションを奪われた悔しさ。それらを忘れるために、こうして数字の海に溺れている……。なんて健気なんだ、ローゼン!」
「……」
ダメだ。
この男の脳内には、「ローゼンは僕に未練がある」という強固なフィルタリングがかかっている。
何を言っても無駄だ。
私はため息をつき、手元のベルを鳴らそうとした。
警備員(業務改善で暇になった筋肉隆々の庭師たち)を呼ぶためだ。
ガシッ。
その手を、クラーク様に掴まれた。
「もういい、ローゼン。十分だ。君のその痩せ我慢、僕には痛いほど伝わってくる」
「……離してください。業務の妨げです」
「戻ってこい! 僕の元へ!」
彼は熱っぽく叫んだ。
「父上にお願いして、君の『側室』入りの許可は取った! ミーナも『ローゼン様が改心するなら』と許してくれたぞ!」
「改心が必要なのは貴方たちの頭の中です」
「君の事務能力は認めている! 城に戻れば、君専用の執務室を与えよう! そこで朝から晩まで、僕とミーナのために働いてくれ!」
「……それは、ただの社畜勧誘ですよね?」
条件が悪化している。
公爵邸では「昼寝付き・おやつ付き・高給優遇」だ。
なぜブラック企業(王城)に戻らねばならないのか。
「嫌です(即答)」
「ツンデレか!」
「違います。拒絶です」
「素直じゃないな! 夜会の時のキスも、本当は泣きながらしていたんだろう!? 『助けてクラーク様』と心の中で叫びながら!」
「いいえ、『追加料金美味しいです』と計算しながらです」
「くっ……! まだ強がるか!」
クラーク様は、私の手をさらに強く引っ張った。
「来い! 強引にでも連れて帰る! 君が素直になれないなら、僕がリードしてやる!」
「痛っ……」
少し力が強かった。
私が眉をひそめた、その瞬間。
ピキィィィィィン……。
部屋の空気が、凍りついた。
比喩ではない。
物理的に、室温が5度くらい下がった。
「……おい」
地獄の底から響くような、低い声。
クラーク様の動きが止まる。
恐る恐る振り返ると、執務室の入り口に、抜身の剣を持った「魔王」が立っていた。
アイザック・グランディ公爵。
彼は笑顔だった。
ただし、目が完全にイっていた。
「……何をしている?」
「グ、グランディ公爵……」
「私の妻の、その白魚のような手に……貴様の汚らわしい指が触れているように見えるのだが。……私の幻覚か? それとも、その手を切り落としてほしいという願望の表れか?」
「ひぃっ!?」
クラーク様は反射的に私の手を離した。
私はすかさず、ハンカチで手を拭く。
アイザック様はゆっくりと歩み寄り、私の手を取って確認した。
「……赤くなっている」
「少し圧迫されただけです。湿布を貼れば治ります」
「万死に値する」
アイザック様は、クラーク様に向き直った。
その背後から、黒いオーラが噴き出している。
「王太子殿下。不法侵入、傷害未遂、および業務妨害。……公爵家の当主として、正当防衛を適用してもよろしいか?」
「ま、待て! 僕はローゼンを救いに来たんだ!」
クラーク様は後ずさりながら叫んだ。
「君こそ、ローゼンをこき使って! あんな大量の帳簿を押し付けて、虐待だろう!」
「虐待?」
アイザック様はきょとんとした。
「何を言っている。あれは彼女の『娯楽』だ」
「は?」
「彼女は数字が合うと『整った』と言って喜ぶ。コスト削減ができると『勝った』と言って微笑む。だから私は、領地の全てのデータを彼女に献上したのだ」
アイザック様は、まるで愛猫におもちゃを与えた飼い主のような顔で言った。
「彼女が楽しそうにペンを走らせる姿……尊いとは思わないか? 私はその横顔を眺めながら酒を飲むのが日課なのだが」
「……」
クラーク様は絶句した。
そして、私を見た。
「……ろ、ローゼン。本当か? あんな地味な作業が、娯楽なのか?」
「ええ。パズルゲームの一種です」
私は淡々と答えた。
「王城の仕事がつまらなかったのは、貴方たちが私の改善案を却下し、非効率な慣習を押し付けたからです。ここでは私の裁量ですべて改善できる。……最高にエキサイティングです」
「……変態だ」
クラーク様が呟いた。
「この公爵も変態だが、ローゼン……君も相当な変態だったんだな……」
「失礼な。合理的と言ってください」
クラーク様は、何か大きなショックを受けたようで、ふらふらと扉の方へ向かった。
「わかった……。今日のところは引こう」
彼は扉の前で立ち止まり、捨て台詞を吐いた。
「だが、勘違いするなよ! 僕はまだ諦めていない! 君が仕事中毒(ワークホリック)になっているのは、やはり僕への愛を忘れるためだと確信したからな!」
「なぜそうなる」
「待っていろローゼン! 僕がもっと効率的な職場環境(愛の巣)を用意して、必ず迎えに来るからなー!!」
彼は嵐のように去っていった。
*
静寂が戻った執務室。
「……疲れました」
私は椅子に深く沈み込んだ。
あのポジティブさは、ある種の才能だ。
何を言っても自分の都合の良いように変換する。無敵か。
「大丈夫か、ローゼン」
アイザック様が、私の手首に優しく口付けた。
先ほど赤くなっていた場所だ。
「痛くはないか?」
「ええ。もう治りました」
「……あいつ、本当に鬱陶しいな。いっそ、闇討ちして……」
「ダメです。王家と全面戦争になります」
私は釘を刺しつつ、ふと思った。
「……アイザック様。先ほどの『娯楽』という説明、よくわかりましたね」
私が仕事を「楽しんでいる」と理解してくれる人は、今までいなかった。
両親でさえ、「王太子のために我慢して働いている」と思っていたのに。
アイザック様は、ふわりと笑った。
「見ればわかる。君が帳簿を見ている時の目は、獲物を狙う狩人の目だ。そして、計算が合った瞬間の、微かに緩む口元……」
彼は私の頬を撫でた。
「俺は君の全てを見ていると言っただろう? 君が何に喜び、何を好むか。……俺の研究対象だからな」
「……研究対象」
「ああ。世界で一番愛おしい、難解な研究対象だ」
キザなセリフだ。
けれど、不思議と嫌な気はしなかった。
「……そうですか。では、研究費として追加の予算を承認してください。領内の水路整備事業に投資したいのです」
私が即座に「金」の話に切り替えると、アイザック様は盛大に吹き出した。
「ははっ! さすがだローゼン! ここで甘い雰囲気にならず、即座に事業の話をぶっ込んでくるとは!」
「当然です。鉄は熱いうちに打て、予算は機嫌がいいうちに分捕れ、です」
「いいだろう、承認する! いくらでも使え!」
「ありがとうございます(チョロい)」
こうして、王太子の乱入騒ぎは、我が公爵領のインフラ整備予算の増額という、極めて建設的な結果に終わった。
だが、クラーク王太子の「諦めない」という言葉。
それがただの妄言ではなく、次なるトラブルの伏線であることを、私はまだ知らなかった。
公爵邸は、再び平穏な日常を取り戻していた――はずだった。
「……計算が合いません」
私は執務室の机に向かい、眉間に皺を寄せていた。
目の前には、公爵領の昨年度の決算書。
私が嫁いでくる(契約結婚だが)前の、どんぶり勘定な帳簿である。
「食費の計上が雑すぎます。なぜ『宴会費』と『馬の餌代』が同じ項目に? これではコスト削減の分析ができません」
私は赤ペンを走らせながら、隣に控える家令のセバスチャンに指摘した。
「も、申し訳ございません……! これまでは『足りなくなったら金庫から出す』という運用でしたので……」
「野蛮ですね。今日中に過去3年分の領収書を洗い出しなさい。使途不明金は全てアイザック様の小遣いから天引きします」
「お、鬼だ……(いや、神だ)」
セバスチャンが感動の涙を流しながら退室しようとした、その時。
ドガンッ!!
執務室の扉が、ノックもなしに勢いよく開かれた。
「ローゼン!! 迎えに来たぞ!!」
聞き飽きた、無駄に良い声。
そして、部屋の空気を一瞬で濁らせる過剰な香水の匂い。
私はペンを止め、ゆっくりと顔を上げた。
「……アポイントメントは取られていますか?」
そこに立っていたのは、懲りもせずにやって来た元婚約者、クラーク王太子だった。
今日はミーナを連れていない。単独犯だ。
「アポイント? そんな水臭いこと言うなよ。僕と君の仲じゃないか」
クラーク様は、私の執務机の前までツカツカと歩み寄り、両手をドンとついた。
「聞いたぞ、ローゼン。君、この屋敷の『経理』やら『人事』やらをやらされているそうじゃないか」
「ええ。趣味と実益を兼ねて」
「可哀想に……! やはり君は、あの『氷の公爵』にこき使われているんだな! 『妻』とは名ばかりの、安価な労働力として!」
クラーク様は、私の手元にある帳簿を見て、確信したように頷いた。
「見ろ、この数字の羅列! こんな地味な作業、本来なら下級官吏がやる仕事だ。それを公爵夫人にやらせるなんて……あの男は血も涙もないのか!」
「……あの、殿下」
私は冷静に訂正を試みた。
「これは『やらされている』のではありません。私が『やりたい』のです」
「え?」
「杜撰な帳簿を見ていると、蕁麻疹が出そうになるのです。数字を整理し、無駄を省き、利益を最大化する。……このパズルが完成した時の快感が、貴方にはわかりませんか?」
「……か、快感?」
クラーク様は引いた。
しかし、すぐにポジティブな解釈(誤訳)を行ったようだ。
「……そうか。わかったぞ」
彼は悲しげな瞳で私を見つめた。
「君は、仕事に没頭することで、寂しさを紛らわせているんだね……」
「はい?」
「僕に捨てられた悲しみ。ミーナにポジションを奪われた悔しさ。それらを忘れるために、こうして数字の海に溺れている……。なんて健気なんだ、ローゼン!」
「……」
ダメだ。
この男の脳内には、「ローゼンは僕に未練がある」という強固なフィルタリングがかかっている。
何を言っても無駄だ。
私はため息をつき、手元のベルを鳴らそうとした。
警備員(業務改善で暇になった筋肉隆々の庭師たち)を呼ぶためだ。
ガシッ。
その手を、クラーク様に掴まれた。
「もういい、ローゼン。十分だ。君のその痩せ我慢、僕には痛いほど伝わってくる」
「……離してください。業務の妨げです」
「戻ってこい! 僕の元へ!」
彼は熱っぽく叫んだ。
「父上にお願いして、君の『側室』入りの許可は取った! ミーナも『ローゼン様が改心するなら』と許してくれたぞ!」
「改心が必要なのは貴方たちの頭の中です」
「君の事務能力は認めている! 城に戻れば、君専用の執務室を与えよう! そこで朝から晩まで、僕とミーナのために働いてくれ!」
「……それは、ただの社畜勧誘ですよね?」
条件が悪化している。
公爵邸では「昼寝付き・おやつ付き・高給優遇」だ。
なぜブラック企業(王城)に戻らねばならないのか。
「嫌です(即答)」
「ツンデレか!」
「違います。拒絶です」
「素直じゃないな! 夜会の時のキスも、本当は泣きながらしていたんだろう!? 『助けてクラーク様』と心の中で叫びながら!」
「いいえ、『追加料金美味しいです』と計算しながらです」
「くっ……! まだ強がるか!」
クラーク様は、私の手をさらに強く引っ張った。
「来い! 強引にでも連れて帰る! 君が素直になれないなら、僕がリードしてやる!」
「痛っ……」
少し力が強かった。
私が眉をひそめた、その瞬間。
ピキィィィィィン……。
部屋の空気が、凍りついた。
比喩ではない。
物理的に、室温が5度くらい下がった。
「……おい」
地獄の底から響くような、低い声。
クラーク様の動きが止まる。
恐る恐る振り返ると、執務室の入り口に、抜身の剣を持った「魔王」が立っていた。
アイザック・グランディ公爵。
彼は笑顔だった。
ただし、目が完全にイっていた。
「……何をしている?」
「グ、グランディ公爵……」
「私の妻の、その白魚のような手に……貴様の汚らわしい指が触れているように見えるのだが。……私の幻覚か? それとも、その手を切り落としてほしいという願望の表れか?」
「ひぃっ!?」
クラーク様は反射的に私の手を離した。
私はすかさず、ハンカチで手を拭く。
アイザック様はゆっくりと歩み寄り、私の手を取って確認した。
「……赤くなっている」
「少し圧迫されただけです。湿布を貼れば治ります」
「万死に値する」
アイザック様は、クラーク様に向き直った。
その背後から、黒いオーラが噴き出している。
「王太子殿下。不法侵入、傷害未遂、および業務妨害。……公爵家の当主として、正当防衛を適用してもよろしいか?」
「ま、待て! 僕はローゼンを救いに来たんだ!」
クラーク様は後ずさりながら叫んだ。
「君こそ、ローゼンをこき使って! あんな大量の帳簿を押し付けて、虐待だろう!」
「虐待?」
アイザック様はきょとんとした。
「何を言っている。あれは彼女の『娯楽』だ」
「は?」
「彼女は数字が合うと『整った』と言って喜ぶ。コスト削減ができると『勝った』と言って微笑む。だから私は、領地の全てのデータを彼女に献上したのだ」
アイザック様は、まるで愛猫におもちゃを与えた飼い主のような顔で言った。
「彼女が楽しそうにペンを走らせる姿……尊いとは思わないか? 私はその横顔を眺めながら酒を飲むのが日課なのだが」
「……」
クラーク様は絶句した。
そして、私を見た。
「……ろ、ローゼン。本当か? あんな地味な作業が、娯楽なのか?」
「ええ。パズルゲームの一種です」
私は淡々と答えた。
「王城の仕事がつまらなかったのは、貴方たちが私の改善案を却下し、非効率な慣習を押し付けたからです。ここでは私の裁量ですべて改善できる。……最高にエキサイティングです」
「……変態だ」
クラーク様が呟いた。
「この公爵も変態だが、ローゼン……君も相当な変態だったんだな……」
「失礼な。合理的と言ってください」
クラーク様は、何か大きなショックを受けたようで、ふらふらと扉の方へ向かった。
「わかった……。今日のところは引こう」
彼は扉の前で立ち止まり、捨て台詞を吐いた。
「だが、勘違いするなよ! 僕はまだ諦めていない! 君が仕事中毒(ワークホリック)になっているのは、やはり僕への愛を忘れるためだと確信したからな!」
「なぜそうなる」
「待っていろローゼン! 僕がもっと効率的な職場環境(愛の巣)を用意して、必ず迎えに来るからなー!!」
彼は嵐のように去っていった。
*
静寂が戻った執務室。
「……疲れました」
私は椅子に深く沈み込んだ。
あのポジティブさは、ある種の才能だ。
何を言っても自分の都合の良いように変換する。無敵か。
「大丈夫か、ローゼン」
アイザック様が、私の手首に優しく口付けた。
先ほど赤くなっていた場所だ。
「痛くはないか?」
「ええ。もう治りました」
「……あいつ、本当に鬱陶しいな。いっそ、闇討ちして……」
「ダメです。王家と全面戦争になります」
私は釘を刺しつつ、ふと思った。
「……アイザック様。先ほどの『娯楽』という説明、よくわかりましたね」
私が仕事を「楽しんでいる」と理解してくれる人は、今までいなかった。
両親でさえ、「王太子のために我慢して働いている」と思っていたのに。
アイザック様は、ふわりと笑った。
「見ればわかる。君が帳簿を見ている時の目は、獲物を狙う狩人の目だ。そして、計算が合った瞬間の、微かに緩む口元……」
彼は私の頬を撫でた。
「俺は君の全てを見ていると言っただろう? 君が何に喜び、何を好むか。……俺の研究対象だからな」
「……研究対象」
「ああ。世界で一番愛おしい、難解な研究対象だ」
キザなセリフだ。
けれど、不思議と嫌な気はしなかった。
「……そうですか。では、研究費として追加の予算を承認してください。領内の水路整備事業に投資したいのです」
私が即座に「金」の話に切り替えると、アイザック様は盛大に吹き出した。
「ははっ! さすがだローゼン! ここで甘い雰囲気にならず、即座に事業の話をぶっ込んでくるとは!」
「当然です。鉄は熱いうちに打て、予算は機嫌がいいうちに分捕れ、です」
「いいだろう、承認する! いくらでも使え!」
「ありがとうございます(チョロい)」
こうして、王太子の乱入騒ぎは、我が公爵領のインフラ整備予算の増額という、極めて建設的な結果に終わった。
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