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「……ここは戦場ですか?」
私は公爵邸のホールを見渡し、呆然と呟いた。
目の前では、数十人の仕立て屋、宝飾商、靴職人たちが右往左往し、布の山と宝石の海が広がっている。
「いいえ、結婚式の準備会場でございます、奥様」
セバスチャンが涼しい顔で答えた。
「旦那様が『国一番の式にする』と張り切っておられまして。王都中の職人を呼び寄せました」
「……非効率的です。カタログを見て発注すれば済む話では?」
「旦那様曰く、『実物を見ずにローゼンの晴れ姿を決めるなど、言語道断』だそうです」
頭が痛い。
先日、アイザック様との「永久就職契約(事実上のプロポーズ受諾)」を更新してからというもの、彼の行動力は成層圏を突破しそうな勢いだ。
「やあ、ローゼン! 待っていたよ!」
布の山から、アイザック様が飛び出してきた。
今日も無駄にキラキラしている。
「見てくれ、このシルク! 東方の国から取り寄せた最高級品だ。君の肌のように滑らかだぞ」
「……ただの布です」
「こっちのレースはどうだ? 君の繊細なまつ毛のようだ」
「……埃が溜まりやすそうなデザインですね」
私の塩対応など意に介さず、彼は次々とドレスのサンプルを突きつけてくる。
「さあ、試着だ! 今日は一日かけて、君に最も似合う『最強の戦闘服(ウェディングドレス)』を決めるぞ!」
「……一日? 私の予定では、1時間で終わらせて読書に戻るつもりだったのですが」
「却下だ。これは国家プロジェクト並みの重要案件だ」
彼は私の手を引き、更衣室(即席で作られた巨大なテントのような空間)へと連れ込んだ。
***
「一着目、着替えました」
カーテンを開ける。
私が着ているのは、純白のプリンセスラインのドレス。
フリルとリボンがふんだんに使われ、可愛らしさを前面に押し出したデザインだ。
「……どうですか?」
私が無表情で尋ねると、アイザック様は口元を押さえて沈黙した。
「……?」
「……天使か?」
「は?」
「いや、天使だ。間違いない。背中に翼が見える」
彼は真顔で言い放った。
「可愛すぎる。そのフリルの甘さと、君の仏頂面のギャップ……! 甘じょっぱいスナック菓子のような中毒性がある!」
「例えが貧相です」
「よし、これは買いだ! 次!」
***
「二着目です」
今度は、体のラインを強調するマーメイドライン。
背中が大きく開き、大人っぽさと妖艶さを演出している。
「……スースーして寒いです」
私が感想を述べると、アイザック様は鼻血を出しそうな顔で天を仰いだ。
「……女神か?」
「さっきは天使でしたよ」
「いや、これは美の女神アフロディーテの再来だ。その背中のライン……国宝に指定すべきだ」
彼は私の背後に回り込み、露出した肌にそっと指を這わせた。
「美しい。……だが、他の男に見せるのは惜しいな。式当日は、参列者全員に目隠しをさせるか?」
「誰も来なくなりますよ」
「だが、俺専用として……これも買いだ! 次!」
***
三着目。四着目。五着目。
着替えるたびに、アイザック様の語彙力は崩壊していった。
「妖精だ!」
「聖女だ!」
「雪の女王だ!」
「破壊神だ!(褒め言葉)」
そして、十着目を着終えた頃。
更衣室の前には、「キープ」されたドレスの山が築かれていた。
「……アイザック様」
私は疲労困憊で言った。
「全部『買い』に分類されていますが、私の体は一つしかありません。結婚式で十回もお色直しをするつもりですか? 客が飽きて帰りますよ」
「むぅ……」
アイザック様は腕を組み、真剣に悩んだ。
「だが、どれも捨てがたい。君が着ると、ただの布切れが『聖遺物』に変わるんだ。選べるわけがない」
「選んでください。決断力はリーダーの資質ですよ」
「無理だ。……よし、店ごと買おう」
「は?」
「この店のドレスを全て買い取り、毎日日替わりで着てもらえばいい。そうすれば一年中、俺は幸せだ」
「……正気ですか?」
私は呆れ果てた。
典型的な成金の発想だ。しかも動機が不純すぎる。
「却下します。資源の無駄遣いですし、クローゼットが爆発します」
「クローゼットなら増築すればいい!」
「管理コストがかかります。虫食いのリスクも増えます」
私はピシャリと言い放ち、ドレスの山を指差した。
「私が着るのは一着だけ。……貴方が、一番『私らしい』と思うものを選んでください」
「え?」
「貴方のセンスを信じます。……私の『鉄壁の無表情』と『合理的な性格』を、最も美しく引き立ててくれる一着を」
私がそう言うと、アイザック様はハッとして、真剣な眼差しに戻った。
「……そうだな。君の言う通りだ」
彼は静かにドレスの山を見渡し、歩き回った。
そして、一着のドレスの前で足を止めた。
それは、最初に見た派手なものではなく、シンプルなAラインのドレスだった。
装飾は少ないが、生地の上質さが際立ち、胸元には繊細な銀の刺繍が施されている。
色は純白だが、光の加減で微かに青みを帯びて見える、「氷」のような白。
「……これだ」
彼はそのドレスを手に取り、私に差し出した。
「派手な装飾はいらない。君そのものが宝石だからだ」
「……」
「この凛とした佇まい。冷たく、けれど奥に秘めた情熱を感じさせる色。……これが一番、ローゼン・ベルクという女性に似合う」
アイザック様の瞳には、確信と、深い愛情が宿っていた。
私はそのドレスを受け取った。
手触りが違う。
重すぎず、軽すぎず、肌に吸い付くような感覚。
「……着てみます」
私は再び更衣室に入り、そのドレスに着替えた。
鏡の前に立つ。
そこには、フリルに埋もれた人形でもなく、露出過多な娼婦でもない。
ただ、背筋を伸ばし、凛と立つ一人の女性が映っていた。
(……悪くない)
私は口元を僅かに緩めた。
彼は本当に、私のことをよく見ている。
カーテンを開ける。
アイザック様が、息を呑んだのがわかった。
「……」
彼は言葉を発さなかった。
ただ、ゆっくりと近づき、私の前に跪いた。
「……美しい」
それだけの言葉。
でも、今までの一連の賛辞よりも、ずっと重みがあった。
「ありがとう、ローゼン。俺の妻になってくれて」
彼は私の手を取り、甲に口付けた。
「このドレスで、誓いを立てよう。……世界で一番、幸せにするという誓いを」
「……期待していますよ」
私は照れ隠しに、つんと顔を背けた。
「ですが、予算オーバーした分は、貴方のお小遣いから引いておきますからね」
「ははっ! 厳しいな、我が家の財務大臣は」
「当然です。……式まであと一ヶ月。無駄遣いは厳禁ですよ」
こうして、私たちの「戦闘服」は決まった。
準備は着々と進んでいく。
波乱万丈だった婚約期間を経て、いよいよゴールイン……いや、新たなスタートラインが近づいていた。
だが、結婚式当日。
やはりと言うべきか、平穏無事に終わるはずがなかったのである。
私は公爵邸のホールを見渡し、呆然と呟いた。
目の前では、数十人の仕立て屋、宝飾商、靴職人たちが右往左往し、布の山と宝石の海が広がっている。
「いいえ、結婚式の準備会場でございます、奥様」
セバスチャンが涼しい顔で答えた。
「旦那様が『国一番の式にする』と張り切っておられまして。王都中の職人を呼び寄せました」
「……非効率的です。カタログを見て発注すれば済む話では?」
「旦那様曰く、『実物を見ずにローゼンの晴れ姿を決めるなど、言語道断』だそうです」
頭が痛い。
先日、アイザック様との「永久就職契約(事実上のプロポーズ受諾)」を更新してからというもの、彼の行動力は成層圏を突破しそうな勢いだ。
「やあ、ローゼン! 待っていたよ!」
布の山から、アイザック様が飛び出してきた。
今日も無駄にキラキラしている。
「見てくれ、このシルク! 東方の国から取り寄せた最高級品だ。君の肌のように滑らかだぞ」
「……ただの布です」
「こっちのレースはどうだ? 君の繊細なまつ毛のようだ」
「……埃が溜まりやすそうなデザインですね」
私の塩対応など意に介さず、彼は次々とドレスのサンプルを突きつけてくる。
「さあ、試着だ! 今日は一日かけて、君に最も似合う『最強の戦闘服(ウェディングドレス)』を決めるぞ!」
「……一日? 私の予定では、1時間で終わらせて読書に戻るつもりだったのですが」
「却下だ。これは国家プロジェクト並みの重要案件だ」
彼は私の手を引き、更衣室(即席で作られた巨大なテントのような空間)へと連れ込んだ。
***
「一着目、着替えました」
カーテンを開ける。
私が着ているのは、純白のプリンセスラインのドレス。
フリルとリボンがふんだんに使われ、可愛らしさを前面に押し出したデザインだ。
「……どうですか?」
私が無表情で尋ねると、アイザック様は口元を押さえて沈黙した。
「……?」
「……天使か?」
「は?」
「いや、天使だ。間違いない。背中に翼が見える」
彼は真顔で言い放った。
「可愛すぎる。そのフリルの甘さと、君の仏頂面のギャップ……! 甘じょっぱいスナック菓子のような中毒性がある!」
「例えが貧相です」
「よし、これは買いだ! 次!」
***
「二着目です」
今度は、体のラインを強調するマーメイドライン。
背中が大きく開き、大人っぽさと妖艶さを演出している。
「……スースーして寒いです」
私が感想を述べると、アイザック様は鼻血を出しそうな顔で天を仰いだ。
「……女神か?」
「さっきは天使でしたよ」
「いや、これは美の女神アフロディーテの再来だ。その背中のライン……国宝に指定すべきだ」
彼は私の背後に回り込み、露出した肌にそっと指を這わせた。
「美しい。……だが、他の男に見せるのは惜しいな。式当日は、参列者全員に目隠しをさせるか?」
「誰も来なくなりますよ」
「だが、俺専用として……これも買いだ! 次!」
***
三着目。四着目。五着目。
着替えるたびに、アイザック様の語彙力は崩壊していった。
「妖精だ!」
「聖女だ!」
「雪の女王だ!」
「破壊神だ!(褒め言葉)」
そして、十着目を着終えた頃。
更衣室の前には、「キープ」されたドレスの山が築かれていた。
「……アイザック様」
私は疲労困憊で言った。
「全部『買い』に分類されていますが、私の体は一つしかありません。結婚式で十回もお色直しをするつもりですか? 客が飽きて帰りますよ」
「むぅ……」
アイザック様は腕を組み、真剣に悩んだ。
「だが、どれも捨てがたい。君が着ると、ただの布切れが『聖遺物』に変わるんだ。選べるわけがない」
「選んでください。決断力はリーダーの資質ですよ」
「無理だ。……よし、店ごと買おう」
「は?」
「この店のドレスを全て買い取り、毎日日替わりで着てもらえばいい。そうすれば一年中、俺は幸せだ」
「……正気ですか?」
私は呆れ果てた。
典型的な成金の発想だ。しかも動機が不純すぎる。
「却下します。資源の無駄遣いですし、クローゼットが爆発します」
「クローゼットなら増築すればいい!」
「管理コストがかかります。虫食いのリスクも増えます」
私はピシャリと言い放ち、ドレスの山を指差した。
「私が着るのは一着だけ。……貴方が、一番『私らしい』と思うものを選んでください」
「え?」
「貴方のセンスを信じます。……私の『鉄壁の無表情』と『合理的な性格』を、最も美しく引き立ててくれる一着を」
私がそう言うと、アイザック様はハッとして、真剣な眼差しに戻った。
「……そうだな。君の言う通りだ」
彼は静かにドレスの山を見渡し、歩き回った。
そして、一着のドレスの前で足を止めた。
それは、最初に見た派手なものではなく、シンプルなAラインのドレスだった。
装飾は少ないが、生地の上質さが際立ち、胸元には繊細な銀の刺繍が施されている。
色は純白だが、光の加減で微かに青みを帯びて見える、「氷」のような白。
「……これだ」
彼はそのドレスを手に取り、私に差し出した。
「派手な装飾はいらない。君そのものが宝石だからだ」
「……」
「この凛とした佇まい。冷たく、けれど奥に秘めた情熱を感じさせる色。……これが一番、ローゼン・ベルクという女性に似合う」
アイザック様の瞳には、確信と、深い愛情が宿っていた。
私はそのドレスを受け取った。
手触りが違う。
重すぎず、軽すぎず、肌に吸い付くような感覚。
「……着てみます」
私は再び更衣室に入り、そのドレスに着替えた。
鏡の前に立つ。
そこには、フリルに埋もれた人形でもなく、露出過多な娼婦でもない。
ただ、背筋を伸ばし、凛と立つ一人の女性が映っていた。
(……悪くない)
私は口元を僅かに緩めた。
彼は本当に、私のことをよく見ている。
カーテンを開ける。
アイザック様が、息を呑んだのがわかった。
「……」
彼は言葉を発さなかった。
ただ、ゆっくりと近づき、私の前に跪いた。
「……美しい」
それだけの言葉。
でも、今までの一連の賛辞よりも、ずっと重みがあった。
「ありがとう、ローゼン。俺の妻になってくれて」
彼は私の手を取り、甲に口付けた。
「このドレスで、誓いを立てよう。……世界で一番、幸せにするという誓いを」
「……期待していますよ」
私は照れ隠しに、つんと顔を背けた。
「ですが、予算オーバーした分は、貴方のお小遣いから引いておきますからね」
「ははっ! 厳しいな、我が家の財務大臣は」
「当然です。……式まであと一ヶ月。無駄遣いは厳禁ですよ」
こうして、私たちの「戦闘服」は決まった。
準備は着々と進んでいく。
波乱万丈だった婚約期間を経て、いよいよゴールイン……いや、新たなスタートラインが近づいていた。
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