堂々と浮気?それなら婚約破棄を希望します。

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
10 / 31

10

しおりを挟む
結局、フィオナが選んだ上品なカシミヤのショールをアリアに買い与え、奇妙なショッピングは終わりを告げた。

「ありがとう、フィオナ。おかげで良い物が見つかった」

満足げなアレクシス殿下に、フィオナは引きつった笑顔で別れの挨拶を告げ、今度こそ一人、帰路についた。

一人になった途端、どっと疲れが押し寄せる。精神的な疲労が、ずしりと両肩にのしかかるようだった。

(もう、本当に限界……)

大きく溜息をつきながら、人通りの多い大通りから、少し静かな裏路地へと入る。ここを抜ければ、クレスウェル侯爵家の馬車を待たせている場所まで近道なのだ。

石畳の道を歩きながら、先ほどの光景を思い出す。

殿下とアリア嬢。あの二人の関係は、一体何なのだろう。恋人にしては、甘い雰囲気がまるでない。しかし、ただの友人というには、殿下の執着が異常だ。

考えがまとまらないまま、角を曲がろうとした、その時だった。

フィオナは、視界の端に、見覚えのある人影を捉えて、咄嗟に建物の陰に身を隠した。

少し先の広場の噴水のそばに、アレクシス殿下とアリア嬢がいた。まだ帰っていなかったらしい。二人は、何かを真剣な表情で話し込んでいる。

(まだ一緒にいたのね……)

フィオナは、気まずさからその場を離れようとした。だが、次の瞬間、彼女の足は縫い付けられたように動かなくなった。

二人の様子を、物陰から窺っている男がいたのだ。

黒っぽい、くたびれた外套を目深にかぶり、顔はよく見えない。しかし、その男の視線は、明らかにアリア嬢一人に、執拗に注がれていた。

それは、ゴシップ好きの野次馬の視線ではない。獲物を品定めするような、ねっとりとした、危険な光。

フィオナの背筋を、冷たい汗が伝った。

(あの男……まさか)

そういえば、ショッピングの最中にも、似たような雰囲気の男が一瞬、視界を横切ったような気がする。気のせいだと思っていたが、もしかしたら、ずっと二人を尾行していたのかもしれない。

一体、何のために?

フィオナが息を殺して見守っていると、男は何かを決意したように、一歩前に踏み出そうとした。

しかしその瞬間、アレクシス殿下が、まるで背中に目がついているかのように鋭くそちらに視線を向けた。男はビクリと肩を震わせると、バツが悪そうに踵を返し、人混みの中へと消えていった。

殿下は、男が完全に見えなくなるまで、氷のように冷たい視線でその方向を睨みつけていた。それは、フィオナが今まで一度も見たことのない、王太子の厳しい表情だった。

やがて、彼は何事もなかったかのようにアリアに優しく微笑みかけ、再び歩き出す。

フィオナは、建物の陰で立ち尽くしたままだった。

(今のは……一体……?)

間違いない。ただ事ではない。

殿下がアリア嬢のそばにいるのは、逢瀬を楽しむためなどではない。彼は、アリア嬢を何かから『守って』いるのではないか? そして、あの男は、アリア嬢を狙う『敵』なのではないか?

一つの仮説が、フィオナの頭の中に雷のように閃いた。

だとしたら、これまでのおかしな言動の数々にも、説明がつくかもしれない。

それでも婚約破棄をしたいという気持ちに変わりはない。しかし、その前に、確かめなければならないことがある。

この不可解な関係の裏に隠された、本当の真実を。

フィオナの紫色の瞳に、これまでの冷めた光とは違う、強い探究心の色が宿り始めていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

私を追い出したければどうぞご自由に

睡蓮
恋愛
伯爵としての立場を有しているグルームは、自身の婚約者として同じく貴族令嬢であるメレーナの事を迎え入れた。しかし、グルームはその関係を築いていながらソフィアという女性に夢中になってしまい、メレーナに適当な理由を突き付けてその婚約を破棄してしまう。自分は貴族の中でも高い地位を持っているため、誰も自分に逆らうことはできない。これで自分の計画通りになったと言うグルームであったが、メレーナの後ろには貴族会の統括であるカサルがおり、二人は実の親子のような深い絆で結ばれているという事に気づかなかった。本気を出したカサルの前にグルームは一方的に立場を失っていくこととなり、婚約破棄を後悔した時にはすべてが手遅れなのだった…。

愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから

越智屋ノマ
恋愛
宮中舞踏会の最中、侯爵令嬢ルクレツィアは王太子グレゴリオから一方的に婚約破棄を宣告される。新たな婚約者は、平民出身で才女と名高い女官ピア・スミス。 新たな時代の象徴を気取る王太子夫妻の華やかな振る舞いは、やがて国中の不満を集め、王家は静かに綻び始めていく。 一方、表舞台から退いたはずのルクレツィアは、親友である王女アリアンヌと再会する。――崩れゆく王家を前に、それぞれの役割を選び取った『親友』たちの結末は?

いなくなれと言った本当に私がいなくなって今どんなお気持ちですか、元旦那様?

睡蓮
恋愛
「お前を捨てたところで、お前よりも上の女性と僕はいつでも婚約できる」そう豪語するカサルはその自信のままにセレスティンとの婚約関係を破棄し、彼女に対する当てつけのように位の高い貴族令嬢との婚約を狙いにかかる。…しかし、その行動はかえってカサルの存在価値を大きく落とし、セレスティンから鼻で笑われる結末に向かっていくこととなるのだった…。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

処理中です...