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私の家族
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あれこれ考えているうちに朝食の時間が近づいて来たらしい、ニーアが部屋に呼びに来たので私はニーアに付き添って貰いながら食事部屋に向かうことにした。
(まさか朝食を家族全員で食べるとは思わなかった…いや5歳もしない娘いたら普通だよな。中身が25歳だからそういうところが身体に追いついてない…はっ!?これは大人しすぎる5歳児爆誕してしまうのでは…!)
…いや、とりあえずそこは置いといて。ニーアの後について食事部屋に向かう私は内心冷や汗をかいていた。両親との初対面に加え、食事作法などその他諸々のマナーが全くわからないからだ。
登場人物の名前からして完全に日本食では無いだろう、中華の線も低い。考えられるとしたら欧米諸国だろうが、フレンチなんて詳しいマナーは把握していないし、イタリアンも曖昧。というかまず、このゲームの世界は一体どの国の文化をベースにしてるのかーーー
そんなことをぐるぐる考えているうちに部屋の前に着いてしまったらしい。ニーアが部屋の扉を今にも開けようとしている。
(いやいやちょっと待って私まだ心の準備が…!)
「おはよう、クレア。今日はよく眠れた?」
「おはよう、クレア。」
「おはようございます、お父様、お母様。」
部屋に入ると出迎えてくれた両親の笑顔に、気づけば私はスカートの裾を摘んで挨拶していた。
完全に無意識だった、なんだったら挨拶した私自身が1番混乱していた。
(何これ…?クレアに染み付いてた習慣が影響してるの…?)
「あら?固まってどうしたの?」
「いえ、なんでもございませんわ。お母様。」
「そう?カインがもう少しで来ると思うからもうちょっと待っててね。」
クレアの母、ノクナレアはにこやかに笑って私を席に促した。
クレアの父キース、母ノクナレア。ゲームの中で登場しないはずの2人。ゲームの中で登場しないはずなら、もちろん私がクレアの両親の名前など知っている筈が無いのだ。
なのに何故か私は両親の名前が顔を見ただけでぱっと思い浮かび、確認も取っていないのにそれが間違いではないと確信していた。
(クレアの記憶や習慣が1部私に影響を及ぼしている可能性があるわね、もしくは公爵令嬢としての役を大幅に外れないように何らかの強制力が働いた…?)
前者ならいいとして、後者の原作補正がかかるのならかなりまずい。これからの行動に制限がかかる場合があるし、主人公の選択肢に干渉出来なくなる可能性だってある。
これは要検証だな…そんなことを席に座りながら考えていると廊下の方からパタパタと足音が聞こえた。どうやら弟君のご到着のようだ。
(クレアの2歳年下の弟カイン…ゲームでは結局クレアを裏切って主人公側についてたし、腹黒で頭の回転が早いから私の中では要注意人物なんだけど。さて幼少期はどんな感じやら---)
「おはようございます!」
可愛らしくも元気な声と共に少しくせっ毛の銀髪にくりっとした翡翠の目の子供が扉から現れた。
(え??あれカイン??)
想像とは全く違う性格と顔立ちに混乱しているとカインは小走りで私の元に走ってくる。
何の用だろうか…そう思いつつ椅子に座っていると高いため、見下ろす形にならないようにと屈んだのだが、なんとカインはそのまま顔を近づけてきてチュッ、と頬に軽くキスをした。そして、
「ねえさま、おはよう!」
満面の笑みで挨拶。
「ふぇ?」
「とうさま、かあさまもおはようございます!」
カインは私に挨拶した後そのまま両親の元に走り寄り、私と同じように挨拶と頬にキスを落とした。
「…か、」
(か、可愛い~!!!!!何あれカイン!?あの、あの腹黒カイン!?将来私に「彼女に笑顔のやり方、学んだらどうです?」とか蔑んだ目で笑いながら言ってくる予定の!?)
なんだあの生物は。天使かと思った。
あまりの可愛さに変な声は出たし可愛いと叫びそうになった。
結局、カインの可愛さで混乱しまくった私はその後の朝食の味はほとんど覚えておらず、あれだけ心配していた食事作法も気づいたら食べ終わっていたため何の心配も要らなかった。(特に注意はされなかったから作法は大丈夫であったと信じたい。)
とりあえず決まったことは家族全員没落エンドは何がなんでも避けること、できる事なら腹黒カインを生み出さずこのまま天使で居てもらえるように、というかあわよくば裏切らないようにこちら側にすること。
ん?原作補正…?予定は未定!何とかなるさ!!
朝食後、カインに絵本を読んで欲しいとおねだりされた私は秒でOKを出しルンルンでカインの部屋に向かっていた。
カインの身の回りを世話をしているメイドがコンコン、と部屋をノックする。
「カイン様、失礼します。クレア様をお連れ致しました。」
「どーぞー!」
返事が聞こえてから部屋に入るとカインは早速読んで欲しい本を持ってこっち!と手招きしてきた。
「ねえさまこの本読んで!」
「はいはい、これね…。え。」
カインが差し出してきたのは「魔法のせかい」という子供向けではあるが3歳児にしては難しめの本だった。
(3歳児って…童話とか見るんじゃないの…!?!?)
「どうしたの?」
「いやいや、なんでもないよ~。それじゃあ読むわね…むかーしむかしのことです…。」
博識で頭の回転が早いあの腹黒カインの影を感じ、あぁやっぱりカインはカインなんだなと複雑な気持ちになりながらも気を取り直して本を読み始めた。
「…そして、魔法を持つものは貴族、その他の民は平民として別れることになりました。おしまい。」
「ねえさま、これどういうこと?」
「んー、そうですわね。簡単に言うと、貴族は強い力を持つ代わりに平民を守らなきゃいけないよーってことかしら。」
やはり少し難しかったようで、私が説明してみてもきょとんとした顔で首を傾げている。まあ、貴族の責任云々は3歳にはまだ早いだろう。そういう私ももう少しで5歳の子供だけど。
「ふーん…?あ、ねえさま!ねえさまはどんな魔法がいい?」
「どんな魔法…?ああ、自分が使えるようになったらってことかしら?」
「そう!」
(私はもう使える魔法わかってるからなぁ…)
どう答えようか迷っても答えが出なさそうなのでとりあえずカインに話題を振ることにする。
「うーんそうだなぁ…私は特に無いかなぁ…カインは何かあるの?」
「僕はね、風がつかえるようになりたいんだ。びゅーんって、空飛んでみたい!」
「へぇー、面白そうね!」
でしょー!とカインはキラキラした目で私に語りかけてくる。その表情は期待に満ち溢れていて眩しく思えた。ふと、一方の私はいつも通りの仏頂面なんだろうなーと頭の隅で思う。同じ姉弟のはずなのに何故ここまで表情筋に差が…??
「あらー、何話してたの?お母さんも混ぜて~」
「お母様!」
そんなことを考えていると扉からひょこっと母が現れた。
カインは母に走り寄って満面の笑みで抱きついている。
(そうだ、この際母に聞いてみるのもありか??)
あまり話したことない…どころか朝食がはじめましてだがここは勇気を持って聞いてみることにした。
「あの…お母様?」
「ん?なあに?」
「その…笑顔、とか表情を上手く作るのってどうすれば良いのかな…」
「…」
「私、あんまり得意じゃなくて、楽しいのに笑えないというか、笑ってるつもりなんだけど笑えてなくて」
「ぶふっ!?」
「え。」
「ふ、ふふっ…ご、ごめんねクレア。馬鹿にしたつもりは無いのよ…でも、ふ、あまりにもお父さんと同じだから…あははっ」
少し恥ずかしかったので俯きながら相談していたら何故か目の前の母は口を抑えて笑いを堪えていた。というか爆笑していた。
真剣に相談した私は現在脳内スペースキャット状態である。
一通り笑い終わった母は部屋の外で待機していた執事に話しかける。
「ちょっと、トーリ。キース呼んできてちょうだい!!仕事??ノンノン、こんな機会逃したら彼きっと後悔しちゃうわ。可愛い娘の一世一代の悩み事よ!早く!」
何やら急いで執事が去っていきしばらくすると父キースが部屋にやってきた。
「なんだいノクナレア、急に呼び出して…」
「貴方、クレアの悩み事聞いてあげてちょうだい?」
「ん?クレアが?」
事態を呑み込めてない私はぽけーっとしていたが母に急かされ、先程質問した事と全く同じ事を父に聞いてみた。
そしてしばらくするとガシッと肩を捕まれ先程よりも若干眼力が強い(ような)表情でこう言われた。
「わかる…わかるよクレア…でもね。よく聞きなさい。それは諦めよう!!!!」
「はい?」
どういうことだと聞こうとしたところに矢継ぎ早に父が話しかけてくる
「いや、諦めるは語弊があるか…ちょっと待ってなさい、直ぐに戻ってくるから!!」
そう言うや否や部屋から飛び出した父、すると直ぐに何やら大量の書類を持って帰ってきた。
そして書類一つ一つを持って力説するのである。父、キース・ヴィルデンブルフが歩んできた表情筋との戦いの日々を…。
簡単に言うと、父も私と全く同じ悩みを抱えていたらしい。そしてあらゆる方法を試してきたが絶大な効果は得られなかった。だがしかし、何もしなかった時よりは表情は豊かになったらしく成長は見られたらしい。
すなわち、完全には無理だけど改善はするからこれから一緒にパパと頑張ろうね!!!!ということである。
それを熱く語る(表情はほぼ変わらず)父、その隣で楽しそうに笑う母と、よくわからないけどとりあえず母が笑ってるから笑うカイン。何だこのカオスは。
そしてこの件で何となく察した。さてはこの父親クールな皮を被ったポンコツだな?と。そしてそれに付き合う母親もなかなかの変わり者である。
とりあえず毎朝父が試した方法で表情筋筋トレをする事で合意した。相談してからここまでの勢いは凄かった。あっという間だった。
父の熱弁が終わったところでふと、母が話し始める。
「あ、でもねクレア。私達の前では、無理して表情作ろうとしなくてもいいのよ?」
「…?なんで?」
「だって普通にしててくれればわかるもの。」
「本当に…?」
そうにこやかに告げる母だが私は正直半信半疑だった。
「やあね、本当よ。じゃあ今感情をなんでもいいから顔で表してみて…そうね、トーリと私で当てましょうか。」
「わかりましたわ。」
(じゃあとりあえず…怒ってみるか)
「私が最初に答えたらフェアじゃないわね。トーリ、どんな顔に見える?」
「…失礼ながら、全く。」
「あらあら、修行が足りないわね。怒ってる顔。」
「え、正解。じゃあこれは?」
「悲しんでる顔」
「これは?」
「喜んでる顔」
「…これは?」
「悔しがってる顔」
「…全部正解。なんでわかったの?」
「んー、それはね」
おいで、と母が手を伸ばす。素直に従うとカインと一緒に抱き抱えられた。
「それはね、きっと私がクレアの母親だからかな。」
「貴女のその父親譲りの表情は、もしかしたら周りから勘違いされることが多いかも知れない。彼がそうだったもの。でも、必ずいつか理解してくれる人が現れるから大丈夫。」
「それに、文句言ってくるやつがいたらお母さんに教えなさい、私がぶん殴ってやるわ!」
「それはちょっと公爵家としてどうなのかなノクナレア…。」
「冗談に決まってるじゃない」
母はとても優しい笑顔でそう言ってくれた。
娘1人のたかがこんな悩みにここまで話を聞いてくれると思わなかった。ただ素直にああ、この家族、好きだなと思った。
(…その娘の中身が、赤の他人だって所が申し訳なさすぎるけど。)
そんな罪悪感を心の奥で感じながら少しでも良い選択を出来るように頑張ろうと決心した。
(まさか朝食を家族全員で食べるとは思わなかった…いや5歳もしない娘いたら普通だよな。中身が25歳だからそういうところが身体に追いついてない…はっ!?これは大人しすぎる5歳児爆誕してしまうのでは…!)
…いや、とりあえずそこは置いといて。ニーアの後について食事部屋に向かう私は内心冷や汗をかいていた。両親との初対面に加え、食事作法などその他諸々のマナーが全くわからないからだ。
登場人物の名前からして完全に日本食では無いだろう、中華の線も低い。考えられるとしたら欧米諸国だろうが、フレンチなんて詳しいマナーは把握していないし、イタリアンも曖昧。というかまず、このゲームの世界は一体どの国の文化をベースにしてるのかーーー
そんなことをぐるぐる考えているうちに部屋の前に着いてしまったらしい。ニーアが部屋の扉を今にも開けようとしている。
(いやいやちょっと待って私まだ心の準備が…!)
「おはよう、クレア。今日はよく眠れた?」
「おはよう、クレア。」
「おはようございます、お父様、お母様。」
部屋に入ると出迎えてくれた両親の笑顔に、気づけば私はスカートの裾を摘んで挨拶していた。
完全に無意識だった、なんだったら挨拶した私自身が1番混乱していた。
(何これ…?クレアに染み付いてた習慣が影響してるの…?)
「あら?固まってどうしたの?」
「いえ、なんでもございませんわ。お母様。」
「そう?カインがもう少しで来ると思うからもうちょっと待っててね。」
クレアの母、ノクナレアはにこやかに笑って私を席に促した。
クレアの父キース、母ノクナレア。ゲームの中で登場しないはずの2人。ゲームの中で登場しないはずなら、もちろん私がクレアの両親の名前など知っている筈が無いのだ。
なのに何故か私は両親の名前が顔を見ただけでぱっと思い浮かび、確認も取っていないのにそれが間違いではないと確信していた。
(クレアの記憶や習慣が1部私に影響を及ぼしている可能性があるわね、もしくは公爵令嬢としての役を大幅に外れないように何らかの強制力が働いた…?)
前者ならいいとして、後者の原作補正がかかるのならかなりまずい。これからの行動に制限がかかる場合があるし、主人公の選択肢に干渉出来なくなる可能性だってある。
これは要検証だな…そんなことを席に座りながら考えていると廊下の方からパタパタと足音が聞こえた。どうやら弟君のご到着のようだ。
(クレアの2歳年下の弟カイン…ゲームでは結局クレアを裏切って主人公側についてたし、腹黒で頭の回転が早いから私の中では要注意人物なんだけど。さて幼少期はどんな感じやら---)
「おはようございます!」
可愛らしくも元気な声と共に少しくせっ毛の銀髪にくりっとした翡翠の目の子供が扉から現れた。
(え??あれカイン??)
想像とは全く違う性格と顔立ちに混乱しているとカインは小走りで私の元に走ってくる。
何の用だろうか…そう思いつつ椅子に座っていると高いため、見下ろす形にならないようにと屈んだのだが、なんとカインはそのまま顔を近づけてきてチュッ、と頬に軽くキスをした。そして、
「ねえさま、おはよう!」
満面の笑みで挨拶。
「ふぇ?」
「とうさま、かあさまもおはようございます!」
カインは私に挨拶した後そのまま両親の元に走り寄り、私と同じように挨拶と頬にキスを落とした。
「…か、」
(か、可愛い~!!!!!何あれカイン!?あの、あの腹黒カイン!?将来私に「彼女に笑顔のやり方、学んだらどうです?」とか蔑んだ目で笑いながら言ってくる予定の!?)
なんだあの生物は。天使かと思った。
あまりの可愛さに変な声は出たし可愛いと叫びそうになった。
結局、カインの可愛さで混乱しまくった私はその後の朝食の味はほとんど覚えておらず、あれだけ心配していた食事作法も気づいたら食べ終わっていたため何の心配も要らなかった。(特に注意はされなかったから作法は大丈夫であったと信じたい。)
とりあえず決まったことは家族全員没落エンドは何がなんでも避けること、できる事なら腹黒カインを生み出さずこのまま天使で居てもらえるように、というかあわよくば裏切らないようにこちら側にすること。
ん?原作補正…?予定は未定!何とかなるさ!!
朝食後、カインに絵本を読んで欲しいとおねだりされた私は秒でOKを出しルンルンでカインの部屋に向かっていた。
カインの身の回りを世話をしているメイドがコンコン、と部屋をノックする。
「カイン様、失礼します。クレア様をお連れ致しました。」
「どーぞー!」
返事が聞こえてから部屋に入るとカインは早速読んで欲しい本を持ってこっち!と手招きしてきた。
「ねえさまこの本読んで!」
「はいはい、これね…。え。」
カインが差し出してきたのは「魔法のせかい」という子供向けではあるが3歳児にしては難しめの本だった。
(3歳児って…童話とか見るんじゃないの…!?!?)
「どうしたの?」
「いやいや、なんでもないよ~。それじゃあ読むわね…むかーしむかしのことです…。」
博識で頭の回転が早いあの腹黒カインの影を感じ、あぁやっぱりカインはカインなんだなと複雑な気持ちになりながらも気を取り直して本を読み始めた。
「…そして、魔法を持つものは貴族、その他の民は平民として別れることになりました。おしまい。」
「ねえさま、これどういうこと?」
「んー、そうですわね。簡単に言うと、貴族は強い力を持つ代わりに平民を守らなきゃいけないよーってことかしら。」
やはり少し難しかったようで、私が説明してみてもきょとんとした顔で首を傾げている。まあ、貴族の責任云々は3歳にはまだ早いだろう。そういう私ももう少しで5歳の子供だけど。
「ふーん…?あ、ねえさま!ねえさまはどんな魔法がいい?」
「どんな魔法…?ああ、自分が使えるようになったらってことかしら?」
「そう!」
(私はもう使える魔法わかってるからなぁ…)
どう答えようか迷っても答えが出なさそうなのでとりあえずカインに話題を振ることにする。
「うーんそうだなぁ…私は特に無いかなぁ…カインは何かあるの?」
「僕はね、風がつかえるようになりたいんだ。びゅーんって、空飛んでみたい!」
「へぇー、面白そうね!」
でしょー!とカインはキラキラした目で私に語りかけてくる。その表情は期待に満ち溢れていて眩しく思えた。ふと、一方の私はいつも通りの仏頂面なんだろうなーと頭の隅で思う。同じ姉弟のはずなのに何故ここまで表情筋に差が…??
「あらー、何話してたの?お母さんも混ぜて~」
「お母様!」
そんなことを考えていると扉からひょこっと母が現れた。
カインは母に走り寄って満面の笑みで抱きついている。
(そうだ、この際母に聞いてみるのもありか??)
あまり話したことない…どころか朝食がはじめましてだがここは勇気を持って聞いてみることにした。
「あの…お母様?」
「ん?なあに?」
「その…笑顔、とか表情を上手く作るのってどうすれば良いのかな…」
「…」
「私、あんまり得意じゃなくて、楽しいのに笑えないというか、笑ってるつもりなんだけど笑えてなくて」
「ぶふっ!?」
「え。」
「ふ、ふふっ…ご、ごめんねクレア。馬鹿にしたつもりは無いのよ…でも、ふ、あまりにもお父さんと同じだから…あははっ」
少し恥ずかしかったので俯きながら相談していたら何故か目の前の母は口を抑えて笑いを堪えていた。というか爆笑していた。
真剣に相談した私は現在脳内スペースキャット状態である。
一通り笑い終わった母は部屋の外で待機していた執事に話しかける。
「ちょっと、トーリ。キース呼んできてちょうだい!!仕事??ノンノン、こんな機会逃したら彼きっと後悔しちゃうわ。可愛い娘の一世一代の悩み事よ!早く!」
何やら急いで執事が去っていきしばらくすると父キースが部屋にやってきた。
「なんだいノクナレア、急に呼び出して…」
「貴方、クレアの悩み事聞いてあげてちょうだい?」
「ん?クレアが?」
事態を呑み込めてない私はぽけーっとしていたが母に急かされ、先程質問した事と全く同じ事を父に聞いてみた。
そしてしばらくするとガシッと肩を捕まれ先程よりも若干眼力が強い(ような)表情でこう言われた。
「わかる…わかるよクレア…でもね。よく聞きなさい。それは諦めよう!!!!」
「はい?」
どういうことだと聞こうとしたところに矢継ぎ早に父が話しかけてくる
「いや、諦めるは語弊があるか…ちょっと待ってなさい、直ぐに戻ってくるから!!」
そう言うや否や部屋から飛び出した父、すると直ぐに何やら大量の書類を持って帰ってきた。
そして書類一つ一つを持って力説するのである。父、キース・ヴィルデンブルフが歩んできた表情筋との戦いの日々を…。
簡単に言うと、父も私と全く同じ悩みを抱えていたらしい。そしてあらゆる方法を試してきたが絶大な効果は得られなかった。だがしかし、何もしなかった時よりは表情は豊かになったらしく成長は見られたらしい。
すなわち、完全には無理だけど改善はするからこれから一緒にパパと頑張ろうね!!!!ということである。
それを熱く語る(表情はほぼ変わらず)父、その隣で楽しそうに笑う母と、よくわからないけどとりあえず母が笑ってるから笑うカイン。何だこのカオスは。
そしてこの件で何となく察した。さてはこの父親クールな皮を被ったポンコツだな?と。そしてそれに付き合う母親もなかなかの変わり者である。
とりあえず毎朝父が試した方法で表情筋筋トレをする事で合意した。相談してからここまでの勢いは凄かった。あっという間だった。
父の熱弁が終わったところでふと、母が話し始める。
「あ、でもねクレア。私達の前では、無理して表情作ろうとしなくてもいいのよ?」
「…?なんで?」
「だって普通にしててくれればわかるもの。」
「本当に…?」
そうにこやかに告げる母だが私は正直半信半疑だった。
「やあね、本当よ。じゃあ今感情をなんでもいいから顔で表してみて…そうね、トーリと私で当てましょうか。」
「わかりましたわ。」
(じゃあとりあえず…怒ってみるか)
「私が最初に答えたらフェアじゃないわね。トーリ、どんな顔に見える?」
「…失礼ながら、全く。」
「あらあら、修行が足りないわね。怒ってる顔。」
「え、正解。じゃあこれは?」
「悲しんでる顔」
「これは?」
「喜んでる顔」
「…これは?」
「悔しがってる顔」
「…全部正解。なんでわかったの?」
「んー、それはね」
おいで、と母が手を伸ばす。素直に従うとカインと一緒に抱き抱えられた。
「それはね、きっと私がクレアの母親だからかな。」
「貴女のその父親譲りの表情は、もしかしたら周りから勘違いされることが多いかも知れない。彼がそうだったもの。でも、必ずいつか理解してくれる人が現れるから大丈夫。」
「それに、文句言ってくるやつがいたらお母さんに教えなさい、私がぶん殴ってやるわ!」
「それはちょっと公爵家としてどうなのかなノクナレア…。」
「冗談に決まってるじゃない」
母はとても優しい笑顔でそう言ってくれた。
娘1人のたかがこんな悩みにここまで話を聞いてくれると思わなかった。ただ素直にああ、この家族、好きだなと思った。
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