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有輝編

8.片思い

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そう思ったのに、隼人は俺と会う時に彼女を連れてくるという。目の前で見せつけられるのはキツイが、隼人の特別になった人を見てみたい気もする。

「初めまして梓です。」
「初めまして有輝です。」
「有輝くん、私たち確かに仲はいいけど付き合ってないから。」
「ちょっと梓。」

え?どういうことだ?彼女じゃない?

隼人を見ると、「まあ、そんな感じ」と曖昧に誤魔化された。
彼女じゃないと梓さんは言ったが、2人は本当に仲が良さそうだった。
隼人にとって数少ない他人ではない人。恋人でなくても特別なんだと分かった。
隼人の片思いなのかもしれない。

あの頃の俺のように叶わない恋をしているのか?しかし、辛いからやめろなんて俺の口から言えるわけもない。
梓さんは連絡先を交換してくれた。あまり隼人に気をもたせるようなことはしないでほしいと、それとなく伝えてみるか。

駅で2人と分かれて自分の部屋に帰ると、梓さんに連絡をしようか迷った。余計なお世話かもしれない。今はまだ付き合ってはいなくても、もう既に2人は相思相愛なのかもしれないし、だとしたら余計なことをするべきではないか。
真実は分からないが、隼人が幸せになる未来が来てほしい。

もしも叶わない恋を隼人がしているのなら、俺がその苦しみを代わってやる。次に痛みを受け止めるのは俺の番だ。

その後も隼人とはたまに会って飯を食った。何回かに一回は梓さんも一緒だったけど、2人の関係は進展したようには見えない。
それなら俺が隼人に別の女を紹介するとか?紹介できるような女は隼人が他人と決めている高校の時の同級生くらいしかいないんだが。

「隼人は合コンとか行くのか?」
「いかないよ。」

だろうな。行きそうにないとは思っていた。

「俺が誘ったら合コンとか行くか?」
「有輝の誘いでも行かないかな。有輝は行っておいでよ。」
「それって、梓さんがいるからか?」
「んー、それもあるかな。」

やっぱりそうなのか。隼人は梓さんのことが好きなんだな。

「梓さんと付き合ったりしないのか?」
「ないない。無理だし。」
「そうか。」
「有輝は梓のこと気になってるの?」
「そういうわけじゃない。」
「そっか。」

なんだ?俺が梓さんに恋慕するとでも思ったのか?取られるとでも思ったか?それは無い。ここに隼人がいるのに他の奴なんかに目移りするわけがない。

「俺が梓さんに惚れるとか無いから安心しろ。」
「え?あ、うん。」

これで隼人も安心するだろう。誤解なんかされたくないからな。

叶わないと分かっているのに梓さんを想う隼人。それをまた叶わないと分かっていながら想う俺。上手くいかないものだな。

「俺じゃダメなのか?」
「え?何のこと?」
「あ、いや、合コンの話だ。俺がいるから嫌なのか?」

思っていることが口から漏れて、焦って誤魔化したが、ちゃんと誤魔化せただろうか?

「ああ、僕、合コンに限らず初めて会う人と上手く話せないし、だから無理かな。」
「そ、そうだよな。」
「うん。」

どうやらちゃんと誤魔化せていたらしい。
よかった。俺の気持ちは隼人にバレるわけにはいかない。2度と会えなくなるくらいなら、このままでいい。


そこから隼人とは何だか変な気まずい空気が流れて、その後は食事に誘ってものらりくらりと躱されるようになった。
避けられているのか?俺が合コンに誘ったから?
4ヶ月も会えない日々が続くと、これは仕事が忙しいとかそんなんじゃなくて、やっぱり避けられているのだと思った。連絡を取る気なんかなかったけど、俺は梓さんにメッセージを送った。

【突然すみません。隼人は元気ですか?】
【それは自分で確かめた方がいいかもね。有輝くん、ちょっと今からマップ送るから来て。】

確かめられないから聞いているのに。それにマップって何の?
送られてきたマップを見ると、それは誰かの家みたいだった。誰の家だ?梓さんの家か?

仕方なくマップが示す住所まで行ってみるが、表札はなかった。まさか変な宗教か幸運の壺の勧誘とかじゃないよな?隼人の友達だしそんなことはないと思いつつも少し緊張しながらインターフォンを押した。

「有輝くんわざわざ来てくれてありがとう。入って入って。」
「はい。」

ラフな部屋着を着た梓さんが出てきたから、きっとここは梓さんの部屋なんだと思った。それで玄関に一歩踏み入れると、男物の革靴があって、俺はここに入っていいのか戸惑った。

「誰~?宅配~?」
奥から男の声が聞こえる。それは聞いたことのある声で、俺が聞きたいと思っていた声。

「有輝くん来たよー」
「は?」

梓さんが俺が来たことを伝えると、奥でバタバタと走る音と、何かを落としたような音が鳴り響いた。

「梓さん、あの、俺、帰ります。」
「それはダメ。もうあんたたち見てらんない。本当に焦ったい。」
俺は梓さんに腕を引っ張られて奥に連れて行かれた。

「ほら、隼人くんも隠れてないでちゃんと自分の気持ち言いなよ。
あ、有輝くん誤解してるみたいだから言っておくと、私男の人無理だから。」
「は、はあ。」

男の人無理?何が無理なんだ?俺の腕は掴んでるよな?

「分かってないみたいだね。私の恋愛対象は女の子だから。だから、隼人くんとは何もない。」
「そう、ですか。」

なるほど。前に隼人が無理と言っていたのはこういう理由だったのか。好きだけど、望みは無いと・・・。
それでも好きなのをやめられないんだな。それは辛いだろう。隼人の気持ちを思うと胸が苦しくなる。

「ねえ、隼人くん。本当マジでちゃんとして。
ずっと忘れられなかったんでしょ?ここまでお膳立てしたんだからもう私帰るからね。」

まさかな。梓さんはすぐに帰っていって、俺は隼人の部屋?に取り残された。

「有輝、ごめん。こんなことになって。」
「別にいいんだが、その、忘れられないってのは?」

違うだろうと思いながらも淡い期待を抱いて、恐る恐る聞いてみる。

「仕方ないもう白状する。それで離れたいなら僕から離れていってもいいよ。
僕は今でも有輝のことが好きなんだ。梓は女しかダメだし、僕は男しかたぶんダメだから、恋人になるとかはお互い無理だし、うん、そういうこと。だから、なんかごめん。」
「本当か?」
「うん。本当。」

俺は自分の返事もせず隼人を抱きしめた。

「え?何?ちょっと待って。どういうこと?僕のこと憐れんでる?」
「俺も、隼人のことが好きだ。」
「そっか。でもそれって友達としてでしょ?僕は違う。有輝のこと恋愛対象として見てる。気持ち悪い?」
「俺もだ。俺も隼人のこと恋愛対象として好きだ。」

「嘘だ。そんなの嘘だよ。」
「嘘じゃない。」

まさか嘘だと言われるなんて思ってもみなかった。どうしたら信じてもらえるのかが分からない。必死に俺の腕から抜け出そうともがく隼人を俺は逃さないようしっかり抱きしめた。

嘘だ、嘘だ、とうわ言のように繰り返す隼人を抱きしめたまま、俺は隼人が落ち着くのを待つ。
やっと力を抜いて俺の腕の中に収まった隼人に話しかけた。

「何度でも信じてもらえるまで言うから。隼人のことが好きだって。」
「それなら僕のこと抱ける?」
「抱ける。いいなら抱きたい。」
「誰でもいける人もいるもんね。」
「隼人、そんなこと言うな。俺は隼人としかやったことねえよ。」
「嘘。それはさすがにないでしょー」

やっぱり経験があれだけなんて引くよな。しかも自分勝手に痛めつけた。そんな俺に抱かれたいわけないよな。他で経験を積んだならまだ望みはあったのか?

「ごめん有輝、別に馬鹿にしたわけじゃない。」
「ああ。」
「有輝、僕のこと好きって本当?抱きたいって本当?」
「本当だ。」
「いいよ。僕は有輝に抱かれたい。」

「んん、、ゆ、、」

強引なキスをした。大切にしたいのに優しくしたいのに、俺は隼人を求める気持ちが止められなかった。
下手な俺のキスに必死に応えようとしてくれる隼人が愛おしい。
 
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