16 / 34
一章
16.覚悟を決める時
しおりを挟む夏休みに入って周りはほとんど内定をもらっていたが、俺は起業というか店を持つことを決めていたから就活はしなかった。
バイトをして大学へも行って、頭金くらいは貯められたから、具体的な店の立地なんかも検討し始めた。
八月に入ると、政宗さんは来るんだろうか? と疑問に思った日もあったが、来るはずないとも思える。
俺にヤクザだってことがバレた時だって来たんだから来るかもしれないと思っていたけど、一向に彼は来ない。
いつも通り期待はしない。しかし、別れの言葉を告げられたわけではないのだからと希望はやっぱり捨てられなかった。
発情期はもう始まっているはずだよな? 大丈夫なのか?
もしかして本当に来ない気なのか?
大丈夫なんだろうか?
大丈夫なわけないよな。一人でホテルに篭って震えているんだろうか?
俺が遠ざけたと言っても過言ではない。
巻き込まれたくないと言ったのは俺だ。政宗さんを拒絶したのは俺だ。
あの時は本当に怖かった。言った言葉は嘘じゃないし、巻き込まれたくないと思ったのは本心だった。
違う世界の人だと思ったし、これ以上関係を続けるのは無理だとも思った。
でもいいのか?
彼を一人にしていいのか?
苦しむ姿も、悲しむ姿も見ている。
それによく考えたら、政宗さんが俺のことを危険に晒すわけがない。安全を確保した上で、それでも俺に会いに来てくれたんじゃないのか?
頼ってくれたんじゃないのか?
それなのに俺は……
発情期に耐えられなくなって彼が外に出たら……
俺のところに来たくても来れなかったら、また誰かに襲われそうになっていたら……
いや違う。心配なのは心配だ。それは間違いない。それよりも、会いたい。
政宗さんに会いたくてたまらない。会う理由なんて政宗さんを求める理由なんて、「好きだから」それ以上に余計な理由や言い訳を並べる必要はなかったんだ。
俺は居ても立っても居られなくなって、すぐに家を出た。
初めて会った場所。俺のところに来たくても来れなかったら、そこに行くと直感で思った。
朦朧とした意識で向かうなら、そこしか無い。
自惚れだろうか?
もしそこにいなければ、もうどこにいるか俺には分からない。とにかく行くしかない。
何が発情期の時だけの関係だ。この時間だけは恋人だ。そんなの逃げてるだけじゃないか。
色眼鏡で見ないとか言いながら、目を逸らしたのは俺じゃないか。
もし自惚れじゃなくあの場所に政宗さんがいたら、俺は彼の全てを受け止めると決めた。
覚悟? 決めてやるよ。政宗さんを失うことに比べたら、他のどんなことも怖くなんかないと思った。甘いと言われてもいい。もう後悔したくないんだ。
普段走ったりなんかしないから、息は切れているし、喉も息をするだけでヒリついて痛い。
足だってもつれて全然早く走れない。格好悪いな俺。それでも行かなければならない。
やっぱりいた。また襲われそうになって……
本当に政宗さんは危なっかしい人だ。
そして誰より大切で愛しい人。
「俺のもんに手え出すんじゃねえ!」
襲いかかっている奴を殴り付けて、政宗さんを担いで家に帰った。
「は、るき……」
「見せろよ。背中に背負ってるもん見せろよ」
俺は嫌がる政宗さんのパーカーを無理やり脱がせた。普段なら力で敵うわけないんだろうけど、発情期のフラフラな状態であれば簡単に組み敷くことができる。
彼が頑なに隠しているのが背中の刺青だということは気づいていた。
車に押し込まれて家に連れて行かれた時から。
俺もそれを見る覚悟は無かったから、見せてくれとは言わなかったけど、全て受け止めると決めたから、目を逸らさず見なければいけないと思った。
脱がせても初めは抵抗していたが、布団にうつ伏せにして押さえ付けると、もう観念したのか大人しくなった。
なかなかの迫力だな。般若や桜ではなかった。桜は殿様か。
ヤクザの刺青のイメージとしては、背中全体に隙間なくド派手な花とか波とか仏像とかそんなのが彫られているのかと思っていたが、違った。
黒い上り龍が2匹。その周りには黒い花。龍の鱗はちょっと変わってる。よく見ると文字みたいに。
先日怪我をした二の腕を見た時に見えなかったけど、反対の腕には服を着ているようにびっしりと黒い花が描かれていた。
左腰の鱗の一部だけ、黒じゃなく肌の色なんだがちょっと赤く浮き上がって見える。そこだけが異質で気になった。なんて書いてある? 英語か?
ーーharuki
って俺の名前かよ。
なんだよそれ。そんなに俺のこと好きなの?
知ってた。俺の服で巣作りするくらい俺のこと好きなの知ってたよ。
これってさ、色入れてないってことは発情期の時だけ赤く浮き上がったりするのかな?
「好きだよ。政宗さん」
俺はその俺の名前が彫られた部分に口付けた。
「あっ……」
「政宗さんの全部見せて。俺には全部見せて。政宗さんの好きなところいっぱい触ってあげるから」
フェロモンの香りがグンと濃くなる。
挿れたくてたまらないのを必死に我慢して、政宗さんをうつ伏せにしたままお尻だけ高く上げた。
ローションを手に取り指を潜り込ませ、丁寧に解していく。
ビクビクと震えながら必死に俺の腕を掴んでくるのが可愛い。背筋も綺麗だな。
全身が熱くて意識を持ってかれそうになる。
「はるき……挿れて……お願い……」
「分かった」
いつもバックは嫌がっていたから、これが初めてだ。きっと服が捲れて背中が見えてしまうと思ったんだろう。
可愛い顔が見えないのは残念だけど、細い腰を掴んでしっかりと背中の龍と目を合わせながら中に入っていった。
背中を反らせて可愛い嬌声をあげる政宗さんが愛しい。
俺は背中を龍ごと抱きしめて、政宗さんのうなじに噛み付いた。
全く抵抗はされなかった。
一旦己を引き抜くと、政宗さんを仰向けにしてキスをしながら再び深く潜り込む。
背中より、こっちの方が……
政宗さんの腕や胸には傷跡がいくつもついていた。この前の傷も。あの後病院で縫ってもらったんだろう。痛々しい跡だ。
「はるき……キスして……いっぱい、してほしい」
「いいですよ」
「はるき……もっとして……あぁ、もっと奥まできて……」
「政宗さん可愛いよ。一緒にこっちも扱いてあげるから、たくさんイッて下さい」
「やあ……だめ、そんなにしたら、ああ……」
政宗さんが可愛すぎて止まれなかった。何度もキスしながら夢中で求めて、気付いたときには政宗さんは意識を失っていた。
ギュッと抱きしめて、温かい気持ちで眠りにつく。
ーー俺の番
63
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
だって、君は210日のポラリス
大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺
モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。
一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、
突然人生の岐路に立たされた。
――立春から210日、夏休みの終わる頃。
それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて――
📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。
15,000字程度の予定です。
【完結】番になれなくても
加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。
新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。
和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。
和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた──
新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年
天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年
・オメガバースの独自設定があります
・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません
・最終話まで執筆済みです(全12話)
・19時更新
※なろう、カクヨムにも掲載しています。
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
アルファ王子に嫌われるための十の方法
小池 月
BL
攻め:アローラ国王太子アルファ「カロール」
受け:田舎伯爵家次男オメガ「リン・ジャルル」
アローラ国の田舎伯爵家次男リン・ジャルルは二十歳の男性オメガ。リンは幼馴染の恋人セレスがいる。セレスは隣領地の田舎子爵家次男で男性オメガ。恋人と言ってもオメガ同士でありデートするだけのプラトニックな関係。それでも互いに大切に思える関係であり、将来は二人で結婚するつもりでいた。
田舎だけれど何不自由なく幸せな生活を送っていたリンだが、突然、アローラ国王太子からの求婚状が届く。貴族の立場上、リンから断ることが出来ずに顔も知らないアルファ王子に嫁がなくてはならなくなる。リンは『アルファ王子に嫌われて王子側から婚約解消してもらえば、伯爵家に出戻ってセレスと幸せな結婚ができる!』と考え、セレスと共にアルファに嫌われるための作戦を必死で練り上げる。
セレスと涙の別れをし、王城で「アルファ王子に嫌われる作戦」を実行すべく奮闘するリンだがーー。
王太子α×伯爵家ΩのオメガバースBL
☆すれ違い・両想い・権力争いからの冤罪・絶望と愛・オメガの友情を描いたファンタジーBL☆
性描写の入る話には※をつけます。
11月23日に完結いたしました!!
完結後のショート「セレスの結婚式」を載せていきたいと思っております。また、その後のお話として「番となる」と「リンが妃殿下になる」ストーリーを考えています。ぜひぜひ気長にお待ちいただけると嬉しいです!
【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる
grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。
幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。
そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。
それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。
【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】
フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……?
・なぜか義弟と二人暮らしするはめに
・親の陰謀(?)
・50代男性と付き合おうとしたら怒られました
※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。
※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。
※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる