17 / 34
一章
17.確かな繋がり
しおりを挟む俺の腕の中でモゾモゾと政宗さんが動いて俺は目を覚ました。
「何してるんですか? なに抜け出そうとしてるんですか?」
「遥希、噛んでくれてありがとう。これで発情期に不特定多数に向けてフェロモンばら撒かなくて済むから、俺が耐えればいいだけになる。家出しなくていいから助かるよ」
何言ってんだ?
目を合わせず無理に笑顔を作りながら言う政宗さんの姿に、俺から離れていこうとしているのだと分かった。
だから俺が噛み付いても抵抗しなかったのか。そんな覚悟、勝手に決めるなよ。
「そんなの許さない! お前は俺のもので俺はお前のものだ。一生。
逃げるなんて許さないからな!」
俺はもうとっくに覚悟を決めてるんだ。
理性が飛んで噛み付いたのだとしても後悔はない。政宗さんと生涯を共にすると決めた。
それなのに、なんでそんな驚いた顔で固まってるんだよ。
「嫌なんですか?」
「嫌じゃないけど、いいの? だって俺、ヤクザだよ? 背中見ただろ? 怖いだろ?」
「綺麗だよ」
グイッと政宗さんの体を伏せると、背中の至る所にキスをした。うなじの噛み跡にもキスをすると、ビクッと反応する。
「もう一回抱きたい」
「うん」
しおらしい反応も新鮮でいいな。
「あ、ああ……はるき……」
「愛してる。政宗さんの全部愛してるよ」
「はるき……おれも、あいしてる……」
「政宗さん、連絡先教えてください」
「いいのか?」
「しつこいですよ。俺はもう覚悟決めてるんで、政宗さんも覚悟決めてください。腰に彫った俺の名前、嬉しかったです」
「え? 見たのか? 色入れてないのに何で……」
「たぶん発情してたからじゃないですか?」
「そうか……恥ずかしい。俺が遥希のこと好きだってバレた」
「今更です。俺も政宗さんのこと大好きですからいいんです」
「うん」
政宗さんは画面の端が少しひび割れたスマホを上着のポケットから出した。
QRコードを読み取って連絡先を登録すると、やっと俺はこの政宗さんとの関係がふわふわと宙に浮いた危ういものではなく、しっかりと繋がったと感じた。
これからは期待をしてもいい。望みも捨てなくていい。
「遥希、キスして?」
「いいですよ」
「いっぱいしたい」
「いっぱいしましょう」
たくさんキスをして、もうニ度と離れたくないと政宗さんを俺の腕の中に閉じ込めた。
グゥー
そんな甘い空気を壊したのは政宗さんのお腹の音だった。
「お腹空きますよね。何か作ります」
「うん」
冷蔵庫を見たが何も無かった。あるのはペットボトルの水と、調味料と、三個パックの豆腐が一つ、前に料理に使った白ワインがボトルに三分の一ほどしかなかった。
「政宗さん、スーパーに行ってきます。我慢できなくなったら連絡してください。すぐに帰ってくるので」
「うん。分かった」
「不安ですか? 俺の服はここにあるので、好きに出していいですから」
「うん」
俺は急いで着替えて走って出掛けた。
政宗さんを置いて出掛けずデリバリーでもよかったか?
でも政宗さんが俺の料理を美味しいと言って食べてくれることが俺にとっては幸せなことで、政宗さんもきっとそれを楽しみにしていると思ったんだ。
買い物をして玄関を開けると、ブワッと濃厚なフェロモンの香りに襲われた。
やっぱり我慢して連絡してこなかったんだな。
時間が短かったからか、巣作りというほどではなくて、俺のTシャツを何枚か抱きしめているだけだった。
「政宗さん、ただいま。戻ってきたよ」
「うん」
俺に向けて両手を伸ばす政宗さんを抱きしめる。
「はるき……おねがい……」
「分かりました。ご飯は後でいいですか?」
「いいから、おねがい……」
潤んだ瞳で見つめられるとギュッと心臓を掴まれたみたいに苦しくなる。フェロモンの香りに俺の欲望も煽られて、無茶苦茶に酷く抱きたくなる。
でもそんなことはしない。必死に欲望に抗いながら、ローションを手に取りしっかりと後ろを慣らす。
「ああ……はるき……きて、はやく、おくまできて……」
俺が必死に欲望と戦っているというのに、そんな風に煽ってくる政宗さんを見下ろして、細い腰を掴むと奥まで貫いた。
ビクビクと痙攣しながら喘ぐ政宗さんは本当に可愛い。
結局俺は政宗さんの濃厚なフェロモンとαの本能というか己の欲望に抗いきれず、夢中で政宗さんを求めた。
ドロドロだ。気付いたら政宗さんは意識を失っており、一体何度出したのか、辺りにはティッシュやゴムも散らばっている。
タオルで政宗さんの体を拭くと、俺の服を着せてシーツを変えたベッドに寝かせた。
ゴミを拾い集めて、シーツやらその辺の服やタオルもまとめて洗濯機に突っ込む。
米を洗い炊飯器にセットすると、シャワーを浴びた。風呂から出ると体を拭いたタオルも洗濯機に入れて洗濯を開始する。
スーパーで買ってきた夏野菜を半分は素揚げして、半分はトマトと共にハンドミキサーをかける。今日は無水カレーだ。
「遥希?」
政宗さんが起きてきた。きっとこのカレーの香りに起こされたんだな。
「政宗さん、おはよう」
「おはよう。カレー? 美味そうな匂い」
「今日はカレーにしました。もうすぐできますよ。その前にシャワー浴びますか?」
「うん。シャワー浴びる」
そんな会話さえ、掃除や洗濯をするだけでも、政宗さんとの次回が、未来が約束されていると思うだけで幸せで満たされる。
政宗さんがシャワーから出てくる頃にちょうど炊飯器の音が鳴った。
「髪、濡れたままじゃないですか」
「暑いしすぐ乾くだろ」
「ダメですよ。乾かしてあげますから、ここに座ってください」
「うん」
髪を乾かし終わると、簡単なサラダと共にカレーを盛り付けて素揚げの野菜も乗せてテーブルに運んだ。
「なんかお洒落なカレーだな。店みたいだ」
「夏なので夏野菜カレーです。あと、チキンステーキもありますよ。お腹空いてるかと思って」
「ありがと」
政宗さんはやっぱりお腹が空いていたのか、おかわりまでしてくれた。
「遥希は料理もそうだけどさ、嫁力高いよな」
「嫁力?」
「俺が寝て起きると体が綺麗になってて綺麗な布団で寝てるし、部屋も綺麗になってる」
「あー、何というか、申し訳なさみたいなものです。フェロモンが濃い時は政宗さんが気絶するまで求めてしまうので……」
「そっか。俺を気絶させられるのは遥希だけだな」
そういえば政宗さんは気絶させる側なんだったか? 気にならないといえば嘘になる。やっぱりたまには攻める側とか、女性を相手したくなるんだろうか?
「遥希、ありがとな」
「いえ、俺がしたくてしていることなんで」
「それもそうだけど、俺のこと怖がらないでいてくれて」
なるほど、そっちか。
俺が悩んだり迷ったりしてる間、政宗さんも同じように悩んだり迷ったりしてたんだ。離れていてもお互いを想っていたという事実だけで心が温かくなる。
「遥希に甘えたい」
「いいですよ。膝の上乗ります?」
「うん」
俺の膝の上に乗ってギュッと抱きついてくる政宗さんが可愛い。出会った頃は思いもしなかった。こんなに可愛いのに龍を背負ってるなんて。
「遥希、しよ?」
「腰とか大丈夫ですか?」
「うん。俺強いから平気」
「ふふふ、そんなこと言うとまた気絶するまで抱きますよ?」
「遥希なら俺のこと気絶させても許す」
「あっ……はるき……ああ……もう、むりかも……あっ」
発情期だから絶えずフェロモンは出ているんだが、正気を失うほどの量でなければ、可愛く乱れる政宗さんを眺めることができる。
「政宗さん、可愛い。大好きです」
「ん、おれも……すき……」
59
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる
grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。
幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。
そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。
それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。
【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】
フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……?
・なぜか義弟と二人暮らしするはめに
・親の陰謀(?)
・50代男性と付き合おうとしたら怒られました
※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。
※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。
※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!
アルファ王子に嫌われるための十の方法
小池 月
BL
攻め:アローラ国王太子アルファ「カロール」
受け:田舎伯爵家次男オメガ「リン・ジャルル」
アローラ国の田舎伯爵家次男リン・ジャルルは二十歳の男性オメガ。リンは幼馴染の恋人セレスがいる。セレスは隣領地の田舎子爵家次男で男性オメガ。恋人と言ってもオメガ同士でありデートするだけのプラトニックな関係。それでも互いに大切に思える関係であり、将来は二人で結婚するつもりでいた。
田舎だけれど何不自由なく幸せな生活を送っていたリンだが、突然、アローラ国王太子からの求婚状が届く。貴族の立場上、リンから断ることが出来ずに顔も知らないアルファ王子に嫁がなくてはならなくなる。リンは『アルファ王子に嫌われて王子側から婚約解消してもらえば、伯爵家に出戻ってセレスと幸せな結婚ができる!』と考え、セレスと共にアルファに嫌われるための作戦を必死で練り上げる。
セレスと涙の別れをし、王城で「アルファ王子に嫌われる作戦」を実行すべく奮闘するリンだがーー。
王太子α×伯爵家ΩのオメガバースBL
☆すれ違い・両想い・権力争いからの冤罪・絶望と愛・オメガの友情を描いたファンタジーBL☆
性描写の入る話には※をつけます。
11月23日に完結いたしました!!
完結後のショート「セレスの結婚式」を載せていきたいと思っております。また、その後のお話として「番となる」と「リンが妃殿下になる」ストーリーを考えています。ぜひぜひ気長にお待ちいただけると嬉しいです!
【完結】番になれなくても
加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。
新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。
和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。
和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた──
新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年
天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年
・オメガバースの独自設定があります
・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません
・最終話まで執筆済みです(全12話)
・19時更新
※なろう、カクヨムにも掲載しています。
愛のない婚約者は愛のある番になれますか?
水無瀬 蒼
BL
Ωの天谷千景には親の決めた宮村陸というαの婚約者がいる。
千景は子供の頃から憧れているが、陸にはその気持ちはない。
それどころか陸には千景以外に心の決めたβの恋人がいる。
しかし、恋人と約束をしていた日に交通事故で恋人を失ってしまう。
そんな絶望の中、千景と陸は結婚するがーー
2025.3.19〜6.30
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる