【完結】甘えたな子犬系Ωが実は狂犬なんて聞いてない

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一章

17.確かな繋がり

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 俺の腕の中でモゾモゾと政宗さんが動いて俺は目を覚ました。

「何してるんですか? なに抜け出そうとしてるんですか?」
「遥希、噛んでくれてありがとう。これで発情期に不特定多数に向けてフェロモンばら撒かなくて済むから、俺が耐えればいいだけになる。家出しなくていいから助かるよ」

 何言ってんだ?
 目を合わせず無理に笑顔を作りながら言う政宗さんの姿に、俺から離れていこうとしているのだと分かった。
 だから俺が噛み付いても抵抗しなかったのか。そんな覚悟、勝手に決めるなよ。

「そんなの許さない! お前は俺のもので俺はお前のものだ。一生。
 逃げるなんて許さないからな!」

 俺はもうとっくに覚悟を決めてるんだ。
 理性が飛んで噛み付いたのだとしても後悔はない。政宗さんと生涯を共にすると決めた。
 それなのに、なんでそんな驚いた顔で固まってるんだよ。

「嫌なんですか?」
「嫌じゃないけど、いいの? だって俺、ヤクザだよ? 背中見ただろ? 怖いだろ?」
「綺麗だよ」

 グイッと政宗さんの体を伏せると、背中の至る所にキスをした。うなじの噛み跡にもキスをすると、ビクッと反応する。

「もう一回抱きたい」
「うん」

 しおらしい反応も新鮮でいいな。

「あ、ああ……はるき……」

「愛してる。政宗さんの全部愛してるよ」
「はるき……おれも、あいしてる……」


「政宗さん、連絡先教えてください」
「いいのか?」
「しつこいですよ。俺はもう覚悟決めてるんで、政宗さんも覚悟決めてください。腰に彫った俺の名前、嬉しかったです」
「え? 見たのか? 色入れてないのに何で……」
「たぶん発情してたからじゃないですか?」
「そうか……恥ずかしい。俺が遥希のこと好きだってバレた」
「今更です。俺も政宗さんのこと大好きですからいいんです」
「うん」

 政宗さんは画面の端が少しひび割れたスマホを上着のポケットから出した。
 QRコードを読み取って連絡先を登録すると、やっと俺はこの政宗さんとの関係がふわふわと宙に浮いた危ういものではなく、しっかりと繋がったと感じた。
 これからは期待をしてもいい。望みも捨てなくていい。

「遥希、キスして?」
「いいですよ」
「いっぱいしたい」
「いっぱいしましょう」

 たくさんキスをして、もうニ度と離れたくないと政宗さんを俺の腕の中に閉じ込めた。

 グゥー

 そんな甘い空気を壊したのは政宗さんのお腹の音だった。

「お腹空きますよね。何か作ります」
「うん」

 冷蔵庫を見たが何も無かった。あるのはペットボトルの水と、調味料と、三個パックの豆腐が一つ、前に料理に使った白ワインがボトルに三分の一ほどしかなかった。

「政宗さん、スーパーに行ってきます。我慢できなくなったら連絡してください。すぐに帰ってくるので」
「うん。分かった」
「不安ですか? 俺の服はここにあるので、好きに出していいですから」
「うん」

 俺は急いで着替えて走って出掛けた。
 政宗さんを置いて出掛けずデリバリーでもよかったか?
 でも政宗さんが俺の料理を美味しいと言って食べてくれることが俺にとっては幸せなことで、政宗さんもきっとそれを楽しみにしていると思ったんだ。

 買い物をして玄関を開けると、ブワッと濃厚なフェロモンの香りに襲われた。
 やっぱり我慢して連絡してこなかったんだな。

 時間が短かったからか、巣作りというほどではなくて、俺のTシャツを何枚か抱きしめているだけだった。

「政宗さん、ただいま。戻ってきたよ」
「うん」

 俺に向けて両手を伸ばす政宗さんを抱きしめる。

「はるき……おねがい……」
「分かりました。ご飯は後でいいですか?」
「いいから、おねがい……」

 潤んだ瞳で見つめられるとギュッと心臓を掴まれたみたいに苦しくなる。フェロモンの香りに俺の欲望も煽られて、無茶苦茶に酷く抱きたくなる。
 でもそんなことはしない。必死に欲望に抗いながら、ローションを手に取りしっかりと後ろを慣らす。

「ああ……はるき……きて、はやく、おくまできて……」

 俺が必死に欲望と戦っているというのに、そんな風に煽ってくる政宗さんを見下ろして、細い腰を掴むと奥まで貫いた。

 ビクビクと痙攣しながら喘ぐ政宗さんは本当に可愛い。
 結局俺は政宗さんの濃厚なフェロモンとαの本能というか己の欲望に抗いきれず、夢中で政宗さんを求めた。

 ドロドロだ。気付いたら政宗さんは意識を失っており、一体何度出したのか、辺りにはティッシュやゴムも散らばっている。

 タオルで政宗さんの体を拭くと、俺の服を着せてシーツを変えたベッドに寝かせた。
 ゴミを拾い集めて、シーツやらその辺の服やタオルもまとめて洗濯機に突っ込む。
 米を洗い炊飯器にセットすると、シャワーを浴びた。風呂から出ると体を拭いたタオルも洗濯機に入れて洗濯を開始する。

 スーパーで買ってきた夏野菜を半分は素揚げして、半分はトマトと共にハンドミキサーをかける。今日は無水カレーだ。

「遥希?」

 政宗さんが起きてきた。きっとこのカレーの香りに起こされたんだな。

「政宗さん、おはよう」
「おはよう。カレー? 美味そうな匂い」
「今日はカレーにしました。もうすぐできますよ。その前にシャワー浴びますか?」
「うん。シャワー浴びる」

 そんな会話さえ、掃除や洗濯をするだけでも、政宗さんとの次回が、未来が約束されていると思うだけで幸せで満たされる。

 政宗さんがシャワーから出てくる頃にちょうど炊飯器の音が鳴った。

「髪、濡れたままじゃないですか」
「暑いしすぐ乾くだろ」
「ダメですよ。乾かしてあげますから、ここに座ってください」
「うん」

 髪を乾かし終わると、簡単なサラダと共にカレーを盛り付けて素揚げの野菜も乗せてテーブルに運んだ。

「なんかお洒落なカレーだな。店みたいだ」
「夏なので夏野菜カレーです。あと、チキンステーキもありますよ。お腹空いてるかと思って」
「ありがと」

 政宗さんはやっぱりお腹が空いていたのか、おかわりまでしてくれた。

「遥希は料理もそうだけどさ、嫁力高いよな」
「嫁力?」
「俺が寝て起きると体が綺麗になってて綺麗な布団で寝てるし、部屋も綺麗になってる」
「あー、何というか、申し訳なさみたいなものです。フェロモンが濃い時は政宗さんが気絶するまで求めてしまうので……」
「そっか。俺を気絶させられるのは遥希だけだな」

 そういえば政宗さんは気絶させる側なんだったか? 気にならないといえば嘘になる。やっぱりたまには攻める側とか、女性を相手したくなるんだろうか?

「遥希、ありがとな」
「いえ、俺がしたくてしていることなんで」
「それもそうだけど、俺のこと怖がらないでいてくれて」

 なるほど、そっちか。
 俺が悩んだり迷ったりしてる間、政宗さんも同じように悩んだり迷ったりしてたんだ。離れていてもお互いを想っていたという事実だけで心が温かくなる。

「遥希に甘えたい」
「いいですよ。膝の上乗ります?」
「うん」

 俺の膝の上に乗ってギュッと抱きついてくる政宗さんが可愛い。出会った頃は思いもしなかった。こんなに可愛いのに龍を背負ってるなんて。

「遥希、しよ?」
「腰とか大丈夫ですか?」
「うん。俺強いから平気」
「ふふふ、そんなこと言うとまた気絶するまで抱きますよ?」
「遥希なら俺のこと気絶させても許す」

「あっ……はるき……ああ……もう、むりかも……あっ」

 発情期だから絶えずフェロモンは出ているんだが、正気を失うほどの量でなければ、可愛く乱れる政宗さんを眺めることができる。

「政宗さん、可愛い。大好きです」
「ん、おれも……すき……」

 
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