【完結】甘えたな子犬系Ωが実は狂犬なんて聞いてない

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二章

18.カミングアウト

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 政宗さんの発情期が終わると俺は提案した。
 番になったんだ。連絡先も交換した。いつでも連絡を取ろうと思えば取れる。次の発情期も、その次の発情期も、発情期じゃなくても会いたい時に会える。次を期待していいんだ。
 政宗さんと一緒にいる未来が見えた俺は、もう何も怖くなかった。

「政宗さん、ちゃんと組のみんなに話しましょう。Ωであることを。度々行方をくらませて、みんな心配してるんじゃないですか? 俺も一緒に行きますから」
「え? 遥希、怖くないの?」
「少しは怖いですよ。でも政宗さんと一緒なら大丈夫です」

 俺の予想では、政宗さんがΩであることはバレていると思うんだ。三ヶ月周期で一週間いなくなるとか、気付く人はいると思う。
 大丈夫とは言ったものの、緊張はする。怖くないわけはない。
 兄貴と呼ばれる政宗さんを唆したとかで殴られたりとかしないよな?
 ドキドキしながら迎えを待って、政宗さんと共に黒塗りの高級車に乗って向かった。ニ度目の訪問だ。

 車のドアが開けられて政宗さんに続いて降りると「兄貴! お疲れ様です!」と怖い人相の人たちが大勢並んで迎えてくれた。

「そういうのいいから。俺のツレがビックリするだろ? それよりみんな広間に集合しろ」
 俺が知っている可愛く甘えてくる政宗さんは鳴りをひそめ、冷たい目線と顎をしゃくりあげた尊大な態度で周りの人たちを黙らせた。やはり政宗さんは俺が思うよりずっと立場が上の人かもしれない。
 ここに並んてきる人たちからしたら、政宗さんの隣にいる俺は何者なんだと好奇の目に晒されてもおかしくはないと思うが、なぜかそんな視線は感じない。かえってそれが不気味で、少ないくない恐怖を感じた。

 俺は誰とも目を合わさないよう俯いたまま政宗さんについていく。
 長い廊下からは広々とした庭が見えた。綺麗に手入れされているが、綺麗だとじっくり見るほどの心の余裕はない。
 庭には周りを取り囲むように背の高い木が生えており、蝉の声がミンミンと響いていた。政宗さんは車に乗り込んだ辺りから硬い表情を崩さない。俺は話しかけることもできず、黙ってついていくしかなかった。

 以前通された政宗さんの部屋に行くと、政宗さんは着物に着替えた。そして髪にジェルを塗ってきっちりオールバックにした。
 正装ってやつなのかもしれない。
 俺はこんな普段着で大丈夫なのか?

「遥希、行こう」
「はい」

 準備が整った政宗さんに案内されて、先ほど通った長い廊下を歩いていく。その先にある襖を開けると、これまた広い畳の大広間って感じの部屋に組の人たちが並んで座っていた。みんなの視線が痛い。悪意は感じないが、俺は注目されることが好きではない。
 政宗さんは真っ直ぐに殿様が座るような一段上がった場所の座布団を目指して歩いていく。
 もしかして、もしかしなくても、政宗さんってかなり上の人? 組長とか?
 下っ端ではないと思っていたけど、ちょっと怖くなってきた。

 しかもその壇上には座布団がニ枚並んでいる。もしかして、その片方は俺が座ることになるのか?

「遥希、ここ座って」
 やっぱり俺のだった。政宗さんに座るよう促されると、座布団の上にきっちりと正座した。こんなところに座るのは怖い。しかし政宗さんと一生添い遂げると覚悟を決めた。自分に喝を入れ、しっかり顔を上げて前を向く。

「お前らに言わなきゃならないことがある。驚くかもしれないが最後まで聞いてほしい」

 しんと静まり返る部屋。チラリと横を見ると、政宗さんは緊張したようにしっかりと拳を握りしめていた。しかし緊張しているのは政宗さんと俺だけな気がしている。
 恐る恐るみんなの顔を見てみると、ずらりと並んだ怖い顔の男たちがなぜかニコニコしているからだ。その表情も違う意味で怖い。

「俺はΩだ。度々行方を眩ませていたのは発情期だったからで、ニ年ほど前からここにいる遥希に助けてもらっている。最近番になった。迷惑をかけると思うが遥希共々よろしく頼む」

 しばしの沈黙の後、拍手が沸き起こった。
 これは、やはり政宗さんがΩなのは知られていたんだろう。俺のことはどうか分からないが、少なくとも政宗さんがΩであることは受け入れられたと考えていいと思う。俺のことはどうだろう? この中で堂々と質問できるほど、俺の心は頑丈ではない。

「遥希さん、驚かれましたか?」
「え? まあ……」
 勝手も分からず戸惑うことしかできないでいると、ストライプのシャツを腕まくりした、細い眼鏡の男が話しかけてきた。いかにも頭がキレそうな見た目に、きっとこの人は幹部なんだろうとあたりをつけた。

「私は片倉と申します。若様のサポートをしています」
「田村遥希です」
 サポート、秘書みたいなものだろうか?
 何をサポートしているのかは今はまだ聞かないでおく。この片倉と名乗る男は、ゆっくりと丁寧で柔らかな口調で話してくれて、その心遣いがありがたかった。いきなり凄まれたりしたら、覚悟を決めているとはいえ、逃げ出したくなったかもしれない。

「遥希さんはカタギの方なので恐れるのは無理もないかと。あいつらも見た目は怖いですが、あなたに危害を加えることはありませんのでご安心下さい。
 大学への送迎も普通の車で、怖くない顔の者を手配します」
「え?」

 俺がカタギというのは見た目とかで分かるのかもしれないが、大学生だということも知られているのか? 送迎というのは?

「すみません、若様のお相手がどのような方なのか少々調べさせてもらいました」
 なるほど。一度俺はここには来ているし、その時に何者なのかと調べられたのかもしれない。それで若様というのは政宗さんのことなんだろうか?

「そうですか。若様というのは?」
「若、まさか何も説明せず連れてきたのですか?」
 片倉さんに咎められた政宗さんは「すまん」といつもより少し低い声で言った。

 政宗さんのお祖父さんが組長で、組長は本家という別の家に住んでいて、この家では政宗さんが一番偉い人なのだとか、政宗さんは次期組長なのだとか、なんかそんな感じの内容を説明してくれた。そんなに偉い人だったのか。
 組の仕組みとか知らないし、極度の緊張で説明してくれた内容の半分くらいは右から左へ流れていってしまったけど、政宗さんが偉い人だということは理解した。

 
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