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しおりを挟むやがて霧が出る冬を過ぎて春になった。木の芽が顔を出して、小さな花も咲き始めた。
春の嵐と呼べるような嵐の日、さすがにこんな日には散歩はしない。窓に叩きつける雨と風、遠くで雷が光ったりして、空は分厚い雲に覆われて薄暗い。
この雨は明日も続くのかな?
そんなことを思いながら雨水が伝う窓を眺めていた。
ドクンッ
晴臣だ。直感でそう感じた。晴臣が近くにいるの?
僕は傘も持たずに嵐の中へ駆け出した。
ハア、ハア、ハア、ハア……
走ったせいなのか、晴臣が近くにいるためにヒートを起こしかけているのか分からないけど、晴臣がいると確信していた。
あの小屋。きっとあの小屋だ。
小屋の扉が少し開いてて、僕は迷わず扉を開けて小屋に入った。
「俺がいるとよく分かったな。会いたかったよ」
「うん。僕も、会いたかった」
「風邪引くぞ」
「晴臣だって」
「俺は大丈夫だ。頑丈だから。寒いだろ? おいで、温めてやるから」
「うん」
晴臣を見つけた瞬間から、雨に濡れて冷えているはずの僕の体温はどんどん上がっていく。
会いたかった。本当に会いに来てくれた。本物だと確かめたくて晴臣に近付いてそっと腕に触れた。この感触、温かくてちゃんと体温を感じる。
そっと引き寄せて抱きしめてくれた晴臣の背中に手を回した。どうしよう。ドキドキしているのがバレるかもしれない。
「キスしていいか?」
「うん」
久しぶりのキス、晴臣とキスしてるって事実だけで苦しいくらいに胸が高鳴って、切なくなる。
僕の口の中に入ってきた晴臣の舌が温かくて柔らかくて気持ちいい。
「はっ……あ……」
「敬人、可愛い。お前のこと、このまま攫って帰りたい」
「だ、ダメだよ。嬉しいけど、嬉しいけどダメ」
「そうか。じゃあ抱いていい?」
「今日はまだヒート起こしてないよ?」
「敬人がヒート起こさないと抱いたらいけないのか?」
「そんなことないけど、恥ずかしい」
「大丈夫だ。可愛いから。それとも嫌か?」
「嫌、じゃない」
ゆっくり押し倒されて、恥ずかしくて僕は顔を逸らした。
「こっち見て。敬人の可愛い顔見せて。敬人の全てを俺にちょうだい」
「うん」
晴臣の熱い目に見つめられると、逸らせなくなる。
ヒート起こしてない時は初めてだから不安。
僕が不安だって思ってるのが分かってるみたいに優しく抱きしめてくれて、指を絡めて手を握ってくれた。優しい。
晴臣はいつも優しかった。小さい頃からいつも。服に蝉が止まって怖くて泣いた時も取ってくれたし、ぐるぐる回るジャングルジムで酔って気持ち悪くなった時はずっと背中をさすっててくれた。
僕は晴臣の優しいところを好きになったのかもしれない。
「晴臣、好き」
伝えられないまま離れ離れになるのはもう嫌だ。伝えられる時に伝えたい。全部残さず伝えたい。もう二度と会えなくなるかもしれないんだから、今言える全てを晴臣に伝えたい。
「うん。俺も敬人のこと好きだ」
「大好き。大好きだよ。僕も晴臣のこと欲しいよ。晴臣の全部が欲しい」
「あげる。俺の全部、敬人にあげる」
ドキドキする。
ヒートを起こしていない時に、正気なままで晴臣を受け入れるのは勇気がいる。
「怖いか?」
「ううん、怖くない。晴臣がいるから」
これは本心。勇気はいるけど怖くはない。晴臣のことを怖いなんて思うわけがない。ここにいてくれるだけで、苦しくなるくらい嬉しいんだから。
僕の薄い胸を撫でて、寒さで硬くなった先端に触れた。
「あっ……」
「可愛い」
「恥ずかしいよ」
「可愛いから大丈夫だ」
「うん」
気持ちいいけど、恥ずかしい声が出て、晴臣が舌を這わせるとヒートじゃないのに震えて頭がふわふわする。晴臣が触れる部分からどんどん熱を持って、それが身体中に広がっていく。
「気持ちいい?」
「うん」
「こっちも、ビクビクしてる。可愛い」
僕の中心で立ち上がったものを優しく掴んで扱かれると、お腹の中が疼き出した。きっと、僕の体も晴臣のことを求めてるんだ。
「ああっ……や……」
「後ろ、指入れるぞ」
「うん」
「俺に掴まってていいから」
「うん」
激しい雨の音にかき消されて、恥ずかしい声も聞こえなければいいんだけど、それは無理かな。でも、この雨のおかげで、外にはバレることがないと思う。
晴臣の腕にしがみついて、気持ちいいなって思いながら甘い吐息ばかり出て、少し涙が出た。
「きて。晴臣、きて」
「分かった」
ゆっくりと入ってくる晴臣の質量に、僕は感動していた。ヒートじゃない時でも、僕にも性欲ってものがあって、指とか挿れたことはあるんだ。でも、全然違った。腸壁を押し分けて入ってくるそれは、指なんて比べものにならないくらい大きくて重くて熱くて、切ない気持ちが溢れる。
「敬人、締めすぎ。気持ちいいけど。もたない」
「あっ……そんなこと言われても」
優しくゆっくりしてくれるのが嬉しくて、でも少し物足りないって思ってる僕もいる。
「いいよ。もっと動いていいよ」
「分かった」
気持ちよかった。それ以上に幸せだった。晴臣のこと好きだから嬉しい気持ちが上乗せされてるのもあると思う。
このまま晴臣と、どこまでも堕ちていきたいと思うくらいに僕の心を奪っていく出来事だった。
「またくる」
「うん」
「敬人、必ずここから出してやるから」
「うん」
「待ってて。好きだよ」
「うん。僕も好き。晴臣、大好き」
そう言うと、晴臣は激しい雨の中に消えた。
僕は雨で色々な体液を洗い流すように、ゆっくり歩いて帰った。
晴臣に会った日の帰り道は、いつもふわふわした幸せと、もう二度と会えないかもしれない寂しさが、心の中に共存している。体に残る晴臣の感触が消えないように、何度も記憶の中で繰り返す。
「敬人様、大変! すぐにお風呂を沸かしますから」
「大丈夫。自分でやるし」
ずぶ濡れで帰った僕を見つけた老夫婦にはとても心配されてしまったけど、僕は幸せの余韻に浸りながらその日をゆったりと過ごした。
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