【短編】眠り姫 ー僕が眠りの呪いをかけられた王子様を助けたら溺愛されることになったー

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 それは酷い嵐の夜で、夕暮れを迎えても空が明るくなるほど雷が空を駆け巡っている日だった。

「ジルベルト様、最後のピースが嵌ったかもしれません。解呪を試させてください」

 もう何十回、いや何百回と行われたか分からない解呪をジルベルトに向ける。
 淡い緑の光で包まれていたジルベルトだったが、その光は途中で水色になり、最後は真っ白な光に包まれた。

「はあ、はあ、はあ、かなり魔力を使ってしまいました。通常の解呪の魔法をかけながら、途中で水属性の治癒を加えて、最後には光魔法で浄化と祈りを重ねてかけて、みまし、た。
 す、こし、休ませて、もらいま、す……」

 カリオの体勢がグラリと傾くと、そのまま立っていられずにジルベルトのベッドの脇に崩れ落ちていった。



「温かい。ジルベルト様に抱きしめられているなんて、夢みたい。あ、本当に夢だ。綺麗な瞳ですね。サファイアの宝石を閉じ込めたようです」
「カリオ、夢ではないよ。しかし疲れているだろう? もう少し休みなさい」
「はい」

 雷は止んだものの、外は大雨が降っており、雨に閉ざされたこの屋敷で、ジルベルトの解呪が成功して目が覚めたことを知る者は、ジルベルト本人だけだった。


 いつもの朝のはずだった。しかしカリオは違和感を覚えた。いつもの布団にしてはフワフワと浮遊感がある。そして温かくて柔らかい。
 目を覚ますと目の前にはジルベルトの着衣が見えた。
 とうとう自分は気が触れて、ジルベルトに襲いかかったのかもしれないと思うと、一気に血の気が引いた。
 しかし、抜け出そうとしても何かにガッチリとホールドされており抜け出せなかった。

「クスクスクス、カリオ、おはよう。
 どうしたの? 私のこと抱きしめたいと触れたいと言っていたのに逃げるのかい?」
「え!? じ、じ、ジルベルト様? 目覚められたのですか?」
「そうだよ。君が昨日かけてくれた解呪で、呪いは解けたらしい」
「そ、そうですか。よかったです」

 そう言いながらカリオの表情はどんどん強張っていく。彼はジルベルトとの別れを悟ってしまったのだろう。
 彼の仕事は王子の呪いの解呪と世話役のため、目覚めたということは仕事が終わったということ。この関係も終わってしまうということだった。

「ジルベルト様、今までありがとうございました。目覚めたことは大変喜ばしいことです。しかし、お別れが来てしまうのですね」
「なぜ?」
「え?」
「カリオ、好きだよ。ずっと側にいて」
「いえ、いけません。僕は名誉子爵とは名ばかりで、平民ですから。目覚めたジルベルト様の側にはいられないのです」
「私の呪いを解いた。それは素晴らしい功績だよ。私がカリオを望んでいる。それでは不満か?」
「不満など、そんなことは全くないです。でも、僕など何の役にも立てないと思います」
「カリオは私から離れたいのか? そんなこと許さないよ」
「でも……ん……んん……ん……」


 ジルベルトはなかなか頷かないカリオの唇を強引に奪った。そして逃れようとするカリオの両腕をベッドに縫い止め、体は体重を乗せて完全に動けなくした。

「私とキスをしたかったんだろ? 私とのキスはどうだ? ん?
 聞くまでもないな。そんな蕩けた顔をして。カリオは可愛いな」

「ダメ、です……」
「何がダメなんだ? ようやくカリオに会えてカリオを求める気持ちが止められない。
 ほとんど毎晩、隣の部屋で私の名前を呼びながら何をしていたのかな?」
「嘘……聞こえていたんですか?」
「しっかり聞こえていたよ」

 どうやら前にカリオが本で熱心に読んでいたのは、男性同士で交じり合う方法が書かれたページだったようだ。
 大好きなジルベルトを求められない代わりに、自分で熱を治めようと見つけた方法だったが、まさかそれをジルベルトに気付かれていたのは、カリオにとって大きな誤算だった。
 気付かれていたことを知ると、真っ赤になってジルベルトから目を逸らした。

「ごめんなさい」
「それで何をしていたのか答えてくれるか?」
「……ジルベルト様に、抱かれることを想像して後ろを……」
「ふふふ、カリオは可愛いな。そんなことも真面目に答えてしまうなんて。カリオを抱きたい」

「え!? いえいえ、それはダメです。ジルベルト様が汚れてしまいます」
「なんでそんなに頑なに私を拒絶するのかな? 本当の気持ちは体に聞いてみようか?」

 側から見たら優しい微笑みのように見えるが、ジルベルトのその目は獲物を見つけたようにギラギラとしており、カリオを決して逃すことはなかった。
 ずっと眠りについていたにしては力強いその腕は、筋力が弱らないようにとカリオが毎日、魔法で筋肉に収縮を与えていたからで、今ではしっかりと腹筋も割れている。
 こんな風に組み敷かれるなどとは思ってもみないカリオは、自分が振り解けないほどの力を与えてしまったことを初めて後悔した。

  
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