【完結】うちの子は可愛い弱虫

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34.剣士の指導

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 ノアのキスは私の癒し。
 いつもノアは私の苦しさを取り除いてくれる。
 そして優しく包み込んでくれるんだ。こんな人、今までに出会ったことがない。両親や侍女のリーナは確かに優しく包み込んでくれるけど、ノアは恋人というだけでここまでしてくれるなんて、実は神様なんじゃないか?
 神様だとしたら、慈愛の神なんだろうな。

 こんなに素晴らしい人間を周りが放っておくわけがない。だから兄2人も必死でノアを守っているのかもしれないな。
 剣士部隊で体力作りをしていると、たまに見かけるが、自分からは話しかけられずにいる。もちろん向こうから話しかけられることはない。私ではノアの相手に相応しくないと思われているのかもしれない。それに、兄たちには私はノアと友人だと思われているから、恋人だと知れた時の反応が怖いな。

 本気で殺す勢いで襲いかかってくるのだと思うが、まだ覚悟ができないために、話しかけることができないんだ。何度も睨まれて少し苦手意識もあるし。
 ノアの家族だから、何れは仲良くできたらいいと思うんだが、難しいかもしれない。

 しかしまだ剣士部隊の方が、教えてくれとか見てくれと群がってこないから気軽に話をできる気がする。


 魔法騎士たちの訓練を確認し、隊長に今後の訓練メニューをその場で書き加えて渡す。
 またワラワラと寄ってくる魔法騎士たちに、緊張しながらそっと後退りをして訓練場を抜け出した。

 そういえば先日、剣士部隊に身体強化を教えるよう言ったあいつらはどうなっただろう?
 第3訓練場に向かうと、中では魔法騎士2名を囲んで身体強化の練習が行われていた。上手くいっているんだろうか?
 そっと近づいて確認してみると、剣士たちはまだそれほど魔力操作が上手くいかず、瞬間的に強化できても、継続的に身体強化を使うことは難しそうな感じがした。
 生活魔法しか使ってこなかった者たちに、いきなり身体強化はハードルが高かったか。私はまた無理難題を押し付けてしまったんだろうか?

 教える側の魔法騎士には負担をかけ、教わる側の剣士には期待を持たせてしまったのか・・・。
 3日間と言ったが、3日間では習得するのが難しいかもしれない。これは私の責任なんだから、その後の経過を含め私が責任を持って対応していかなければいけないな。
 無知故の弊害か、それとも周りとの関わりを絶っていた弊害か。情けないことだ。

「副団長!」
「すまない。君たちには負担をかけてしまったな。」

 近寄ってきた、私が適当に派遣した魔法騎士たちに向かってそう告げると、魔法騎士たちは申し訳なさそうな顔をした。

「俺たちでは、上手く教えられません。しかし、人に教えることで少し自分の魔法への考え方が変わりました。貴重な経験をさせていただきありがとうございます。」
「俺たちが、伸び悩んでいたのを知って、違う視点から魔法に接することを提案してくれたんですね。ありがとうございます。」

 そうか。視点、考え方を変える。ノアが私に教えてくれたことだ。知らないことは恥ではないのかもしれない。知らないことが恥なのではなく、知らないと分かっても知ろうとしないことが恥なんだ。
 彼らに対して私は別に何もしてはいないんだが、彼らが視点を変えることで何か見えるものがあったのなら、それは喜ばしいことだと思おう。ほんの少しでも役に立ったのなら嬉しい。

「ふ、副団長・・・。」
「何だ?」
「いえ、何でもありません・・・」
「そうか。」

 集まって何度も身体強化を繰り返し練習している剣士たちを眺める。
 やはりポンっと魔力を出すのはできるらしい。しかし、それを循環し、体に長い時間止まらせるのが難しいのかもしれない。

「君、魔力をどこに流している?」
「とりあえず足に。瞬発力が出るかと思って。」
「なるほど。」

 集めた魔力を体外に出して、その魔力を自分の足に当てているという感じか。

「体内で魔力を高めたまま、外に放出せず足に作用することはできるか?」
「やってみます。」

 一旦外に放出するのは無駄だよな。
 自分はどうやっているんだったか?最近は使っていない身体強化のことを思い出してみる。
 解剖学的に筋肉の仕組みを理解し、筋肉に魔力を作用させていたか。それを一朝一夕で覚えることは難しい。しかし、剣士たちは日頃から筋力トレーニングをしているのだから、どこの筋肉に魔力を流せばどう作用するかが分かるはずだ。

「瞬発力を上げたい時に鍛える足の筋肉は分かるか?」
「え?あ、はい。」
「その筋肉に魔力を集めて作用させてみるといい。外に出さず、巡らせるイメージだ。」
「はい。」

 するとその剣士は、何度か試すと劇的な瞬発力の変化を見せた。

「これが身体強化、すごい。長時間持続するのはまだ難しいが、理解はできた。」
「そうか。足だけでなく、剣や槍を押し込む時や、受けた瞬間にも、同じように該当する筋肉に魔法を流せばいい。」
「はい!練習を重ねて、必ず自分のものにしてみせます!」

 少し圧が強くて引き気味にはなってしまったが、どうやら上手くいったようだ。よかった。
 そして、そのやり方で上手くいった彼が、周りにも同じ方法を伝えていくと、剣士同士はやはり分かり合えるのか、他の者も少しずつできる者が増えていった。
 3日でものになるとは思えないが、「自分にもできそうだ」と思わせるところまではできたのではないだろうか。

「副団長、さっきのは彼らにどうやって説明をしたんですか?」

 突然何故か上手くいき始めた剣士たちを見た、魔法騎士2名が私に駆け寄ってきた。

「あぁ、剣士たちは普段から筋力を鍛えているだろう?だからどんな時にどこの筋肉が使われるかを感覚的に彼らは知っているんだ。
 魔法騎士たちに同じ説明をしても、解剖学的なことを知らないと難しいだろうが、剣士たちにはそれで伝わる。」
「なるほど。魔法騎士の入団間もない者に教えるように教えても、いけないというとですね。勉強になります。」

「いけないことはないが、基礎が違うのだから理解までに時間がかかるだろう。全員に当てはまる完璧な方法は無い。それぞれに合った方法を見つけるのも大切だと思う。」
「副団長、さすがです!」

 別にさすがなどと言われるほどのことではない。ただの私の持論であって、それが正しいと確証しているわけでもないしな。

  
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