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二章
509.意外な訪問者
コンコン
「旦那様、騎士団の方がお見えです。いかがいたしますか?」
リーブの声で目が覚めると、お昼を少しすぎた頃だった。
「ハリオが代わりに対応すると伝えてくれ」
ラルフ様は起き上がることもせず、ベッドの中からリーブに答えた。
「畏まりました」
なんの要件か聞きもせずにハリオに任せてしまっていいんだろうか?
リーブもそんなに簡単に了承しちゃっていいの?
そう思ったけど、まだ眠くて起きられそうにない。もう少し僕は眠らせてもらいます。僕はラルフ様の腕の中で再び目を閉じた。
コンコン
「マティアス様にお客様ですがいかがいたしますか?」
次に訪ねてきたのは、あれから二時間ほど経った頃だろうか?
それにしても僕にお客様って誰だろう?
「お客様とはどなたですか?」
僕は怠重い体をゆっくりと起こしてリーブに聞いた。ラルフ様は起きる気がないのか、僕の中からは出てくれたけど、寝転んだまま僕の腕や背中をそっと撫でている。
「アンサンセと名乗る方です」
アンサンセって、まさかアンサンセ隊長?
なんでラルフ様ではなく僕に?
王都に帰ってきて落ち着いたら、反省会で僕が非難したことが許せなくなって一言物申しに来たんだろうか?
だとしたらとてもお暇なんですね……
あんまり会いたくはないけど……
追い返してもらえないかな?
「マティアス、どうした? 会いたくないなら追い返すか?」
ラルフ様、僕の心の中を読みましたね?
みんなの前で非難したのは、彼のプライドを傷つけることになったのかもしれない。謝るべきか……
いや、でも僕は今日抱っこの日だ。最近はいつも抱っこだったけど、今日は立っていることも難しいかもしれない。そんな状態で謝れる?
「リーブ、追い返せ」
「畏まりました」
僕がどうしようか迷っている間にラルフ様が返事をしていた。
また日を改めて……気が向いたら謝りに行こう。リーノに怒りの矛先が向いたら困る。
「やっぱり隊長は怒ってるんでしょうか? 家に乗り込んでくるほど怒っているとは思いませんでした」
「第一の団長もリーノの味方をした。それであの話は決着がついたはずだ」
それはそうだけど、気持ちが収まらないってことはあるのかもしれない。
コンコン
「先方は『会ってもらえるまで帰れない』と申されております」
リーブがまた訪ねてきた。
そんなに怒り心頭で居座るような人を、リーブは追い出さずに留めておくだろうか?
もしかして本当に僕に何か用事があるのかもしれない。
「ラルフ様、会おうと思います」
「そうか。俺も一緒だから安心しろ」
「はい」
どうせ僕は歩けないんだからラルフ様と一緒に会うことになったんだろうけど、安心しろと言ってもらえると、とても心強い。
ラルフ様に着替えさせてもらう前に、リーブに緑の湿布をお願いした。これは必須なんです。
匂いは酷いけど、冷んやりして薬がゆっくり浸透していくと、少し温かい。これで夜を迎える頃には、僕は歩けるくらいにはなっているはず。
アンサンセ隊長はげっそりと窶れたような顔で、近づくと僕に深く頭を下げた。
思った反応と全然違う。
「僕に何かご用ですか?」
「どうか、殿下とサロモン殿を止めていただけないでしょうか?」
ん?
また出た。最終手段ってやつですか?
ラルフ様が僕にしか分からないくらい小さくため息をついた。
「向かいながら状況を聞こう」
「助かります」
ラルフ様とアンサンセ隊長だけで話が進んでしまったけど、最終手段を使うほど暴走した殿下とサロモンを僕が本当に止められるのか自信はない。
馬車で向かうのかと思ったら、日が暮れるまでに解決したいと走って行くことになった。
アンサンセ隊長って、ちょっと丸い感じに見えるのにちゃんと走れるんですね。顔が丸いだけで、服の下は筋肉が盛り上がっているのかもしれない。隊長をやっているだけのことはある。
「速度を上げるぞ」
「私は……これ以上は、無理です。すみません……」
ラルフ様たちほどの速度は出せないみたいだ。だけど森の中を走れるだけでも僕はちょっとアンサンセ隊長のことを見直した。会議ばかりして何もできない人なのかと思っていてごめんなさい。
ラルフ様が駆け出した後、アックアの方が近いからアックアへ戻ろうとしたんだけど、殿下とサロモンが野営をすると言い張り、説得できないまま野営をすることになったのだとか。殿下だけであれば力ずくで動かせたかもしれないけど、サロモンがいると難しかったんだろう……
何かあった時のために野営道具は馬車に積み込まれていたし、暖かい時期だから野営は特に問題なく行われた。二人が勝手に森へ消えてウサギを狩ってきたりはしたけど、大きな問題は起きず、今日は王都へ帰れるのだと思っていた。
しかし朝を迎えると、二人は魚が食べたいから川に行きたいと言い出し、川など近くにないからとにかく王都へ一旦帰ろうと説得したけど、聞き入れてもらえなかった。
そして川がダメなら森で狩りをすると言い出した。仕方なくリーノをつけて許可を出したが、昼前に戻ってきたと思ったら『アックアには川があったからアックアへ戻る』などと言い出し、みんなで説得中なのだとか。
どうか助けてくださいと懇願された。
「リーノから、最終手段はマティアス様に託すことだとお聞きしました」
それはリーノが勝手にそう考えているだけで、僕は何もできないし戦えもしない。それなのにリーノだけでなくラルフ様も僕ならなんとかできると考えているから困る。ラルフ様が得意げにフンッと鼻を鳴らしたのを僕は聞いてしまった。
しばらく走ると、やっとみんなの姿を遠くに捉えた。僕は大役を任されて少し緊張しているのに、気持ちを整える時間も与えてもらえなかった。
シルが真っ先に僕たちに気付いて走ってきた。パンも一緒だ。ネストさんたちがシルを追いかけてこないのは、僕たちの気配に気づいていたんだろう。
「ママー! そとでねるのたのしかった!」
「そっか、よかったね」
シルは野営が楽しかったみたいだ。僕とラルフ様がいなくても泣いたりせず、みんなと仲良くできたなんて、またシルは成長したみたいだ。どんどん成長していくシルを見ているのはとても嬉しいことだけど、少しだけ寂しい。
さて、僕はお仕事をしますか……
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