僕の過保護な旦那様

cyan

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二章

515.弟子入り?お断りです

  
「マティアス様、弟子入りさせてください!」
「はい?」
 アンサンセ隊長が早朝訓練に参加するのが当たり前の光景となってきた頃、僕はアンサンセ隊長に深く頭を下げられた。

 弟子ってなんの?
 ポポを彫るわけじゃないよね?
 シルが昨日から始めた槍の訓練に使っている棒を作りたいとかじゃないよね?

「まずは自分の力でと思い、しばらく観察させていただきましたが……分かりませんでした。正式に弟子入りし、しっかりと教育とは何か、人を育てることについてマティアス様から学びたいと思います!」

 何言ってるの?
 ネストさんから、アンサンセ隊長が僕に興味をもっていることは聞いていた。それなのに何も相談してこないのは不思議だったけど、観察されていたのか。

「リーノを私の隊に入れるのも手っ取り早い方法です。リーノは有能ですし、活躍するでしょう。ですが、リーノ一人ではなく、私はリーノのような部下を育てたい」
「そうですか。ではリーノにどのように鍛えたのか、どのような精神で行動をしているのかを聞いたらいいと思います」

 リーノが品行方正なのは僕が何かしたわけじゃない。ピグロと下見をしに行って計画書を書いたのも僕は関わっていない。
 僕はリーノを育てたことなんて一度もない。リーノのような騎士を育てる方法があるなら、そんなの僕が知りたいくらいだ。

「簡単には教えていただけないのですね……」
 アンサンセ隊長は肩を落としているけど、そういう問題じゃない。

「リーノがアックアで殿下たちと一緒に行動できたのは、下見をしてアンサンセ隊長もご存知の計画書を作成したからです。その下見の内容を教えてもらうといいですよ」
 僕がアドバイスできるとしたらこれくらいだ。弟子とか無理無理。
 騎士でもない戦えもしない僕を捕まえて、アンサンセ隊長は何を言っているのか。

「分かりました。リーノに聞き、その方法を自分のものにし、しっかりと知識をつけてからふたたびお願いに上がります」
 全然分かってない……
 こんなことになったのも、ラルフ様が反省会で余計なことを言ったからだ。リーノの計画書も後押ししたみたいだけど。
 ラルフ様を少し恨めしい気持ちで眺めていたら、ラルフ様に抱き上げられて庭に連れていかれた。そしてまた全力で走り出した。

 もう、本当にこれはなんなの?
 僕で遊んでいるのか、それとも鍛えているのか、そろそろ真相を教えてほしい。
 二日ほど前からは、ただ縦横無尽に走るだけでなく、木に登ったり、飛び跳ねたりするようになったから、本当にいつか振り落とされて大怪我しそうな気がしてる。

 こういう時、僕は誰に助けを求めればいいんだろう……
 誰でもいいから助けて……

 僕の声は誰にも届かない。
 なぜ背負っているラルフ様ではなく、背負われている僕の方が息が切れているのか。いつも納得できない気持ちでいっぱいです。

 今日はアンサンセ隊長もお休みみたいで、僕を背負って庭を駆け回るラルフ様のことをじっくり観察している。観察しても何も分からないと思いますよ。

「その訓練もマティアス様の発案ですか?」
「違います。僕は守る側ではなく守られる側なので、有事の際にはラルフ様が背負って逃げることになっています。だから今もこうして……」

 この説明で合ってる?
 やっと大きな背中から降ろしてもらえた僕は、少し不安になってラルフ様を見上げた。そしたらぎゅっと手を握られた……
 違う、そうではない。

「なるほど。我ら騎士は守る側という一方からしか見ていないことが問題なんですね! 守られる側からの意見……奥が深い」
 僕はそんなこと言ってないのに……
 アンサンセ隊長は、なるほど、なるほど、とぶつぶつ呟きながら顎に手を当てて考え込んでいる。

「リーノに話があるのでしたら、もうすぐピグロと一緒に戻ってくると思います」
「そうですか!」
 気合を入れたように見えたのは僕だけだろうか?
 もしかして僕はリーノに迷惑をかけるような判断をしてしまったんだろうか……

 リーノは今日お休みだから、昨晩からピグロのところへ行っている。そんな日はみんなが出勤してしばらくしてから帰ってきて、二人で馬の世話をするんだ。
 今日もシルはサロモンに背負われて騎士団に出かけているし、ネストさんは手伝ってくれるかな?

 パンと一緒に小屋に取り付けられた風車でも眺めながら、僕はゆっくり過ごそう。刺繍も進めたいんだけど、やっぱりフェリーチェ様が一緒じゃないと一人で進めたら心が折れそうだ。
 ロランドと一緒にやってもいいけど、ロランドは今日は領地に行っているからいない。
 刺繍仲間の三人ケリー、ハキム、マイクを呼ぼうかな。来てくれるかな?

 まだ今でも「シュテルター隊長に取り入る気か?」なんて言いがかりをつけてくる人はいるんだろうか?
 いるなら慎重に動かなければならない。

 アンサンセ隊長がピクリと動いて、門の方を見たら丁度ピグロとリーノが手を繋いで帰ってきた。
 もしかしてアンサンセ隊長も気配を探れるんですか?

 騎士の皆さんはそういう訓練をするのかもしれない。だとしたらなぜアックアで殿下たちを見つけられなかったのか謎だ。
 底辺の騎士たちはまだ訓練中なんだろうか?
 アンサンセ隊長は会議ばかりして、現場に出ていませんでしたもんね。もし現場に出ていたらすぐに殿下たちを確保できたんだろうか?
 だとしたらますます会議の意味が分からない。会議より殿下たちを早く見つけて安全を確保することの方が大事じゃないの?
 違うか。アンサンセ隊長は会議大好き人間なんだ。きっとそうだ。

 アンサンセ隊長がリーノに駆け寄っていく後ろ姿を眺める。
 リーノ、丸投げしてごめん。僕は心の中でリーノに謝罪の言葉を送った。
 あまりにアンサンセ隊長がしつこかったり、リーノに弟子入り志願するようなら、僕が責任を持って止めます。リーノに丸投げしてしまったから、それくらいはさせてください。

 
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