僕の過保護な旦那様

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二章

516.新しい馬番?

  
 アンサンセ隊長が近づいていくと、ピグロはリーノの手を放して厩舎に向かった。
 好き勝手やっているように見えてピグロはそういうところがある。
 リーノに丸投げしてしまった後ろめたさもあるし、僕は見守らせていただきます。

「リーノ、待っていた。アックアの視察の計画書について詳しく聞かせてほしい。私には無い発想だったんだ」
 リーノはチラッとラルフ様を見た。引き抜きの話だと思ったのが、計画書の話をされて戸惑ったのかもしれない。

 リーノは自分は何もしていない。ピグロのおかげで行動の予測ができただけということを繰り返した。
 何もしていないということはないけど、ピグロが貢献したことも事実だ。

「なるほど、ではピグロという者と行動をしてみようと思う」
 リーノは少し複雑そうな顔をしながら、アンサンセ隊長にピグロを紹介した。

「君がピグロか! 君も河原に来ていたね」
 ピグロはいきなり近衛の隊長を紹介されて、どうしていいのか分からないみたいだ。

「俺はまだマナーが苦手、です」
 リーノを見ながら、ピグロは慎重に言葉を選んでいる。リーノに迷惑をかけてはいけないと思ったんだろう。

「それは気にしなくていい。普段通りの君でいいから、行動を共にさせてほしい」
「馬の世話を手伝ってくれるってことー?」
「構わない。君は馬の世話をするのか?」
「俺はこの家の馬番だからな」

 アンサンセ隊長はピグロとリーノと一緒に厩舎の掃除を始めた。ピグロはいつも変な行動をしているわけではない。興味を惹かれることがあればそっちに向かってしまうけど、そうでなければ普通に生活していると思う。
 お菓子が好きで昼寝もするけど、仕事はきっちりやっている。

「ラルフ様、これでいいんでしょうか?」
「アンサンセがいいならいいんだろう」
 リーノはアンサンセ隊長に付き纏われたらガチガチに固まって力を抜くことができなくなってしまうだろう。その点ピグロなら普段通り過ごせるから、よかったのかもしれない。
 ただしアンサンセ隊長が何かを得られるかは分からない。

「マティアス様、今日はお休み?」
 フェリーチェ様がやってきた。
 僕じゃなくてラルフ様がお休みなんだけど。

「そうですね、今日は騎士団に行く用事はありません。フェリーチェ様もお休みですか?」
「私はいつも休みみたいなものだよ」
「それは僕も同じです」
 フェリーチェ様は厩舎に視線を移して、不思議そうな顔をした。

「新しい馬番増えたの?」
「いえ、アンサンセ隊長です」
「近衛がなんでシュテルター家の馬の世話してるの?」
「なんででしょうね? 僕も分かりません」
 フェリーチェ様にはアンサンセ隊長が馬の世話をすることになった経緯を話した。本当になぜこんなことになっているんだろう?

「マティアス様って本当に面白いね」
 えー? なんで僕? 僕がピグロと行動を共にしろと言ったわけじゃないのに、フェリーチェ様は僕を面白い人にしたいみたいだ。

「今日はこれ持ってきたんだよ。マティアス様これ好きでしょ?」
 フェリーチェ様が見せてくれたのは、ゲビルクのバターサンドクッキーだった。夏は暑いからバターを運べない。冬季限定のバターサンドクッキーだ。
 もうそんな時期なんだ……
 ゲビルクの山はもう雪が積もっているんだろうか?

「季節が巡るのは早いですね」
「そうだね。そろそろ貴族が王都に集まり始めるよ」
 ということは僕の花屋での仕事が増える季節になるということだ。最近はほとんど仕事をしていないけど、僕は忘れられてないよね?
 僕に仕事が入ったら、ラルフ様は僕を解放してくれるんだろうか?
 今も僕を膝の上に乗せて髪を梳かすように撫でているから、ついていくと言いそうな気がする。

「サロモンはまだお披露目されることはないんですよね?」
「今のところまだ予定はないよ」
 フェリーチェ様は厩舎の掃除をしているアンサンセ隊長をチラッと見た。
 近衛が対応できないってことが分かったから、まだ表には出せないってことだろうか?
 もしかしてアックアの視察はサロモンを公に出せるかを確認する目的もあったの? だとしたらサロモンが公の場に出るのは随分と先になりそうだ。サロモンの準備もそうだけど、近衛も準備不足だと言える。

 サロモンは勉強を進めているけど、貴族の前に出て上手く立ち回れるかと聞かれると難しいだろう。
「ジェリー見てみろ! 面白いものがあるぞ!」「退屈だな。なんでみんな気持ち悪い顔で笑ってんだ?」「飽きたから庭に行こうぜ」
 勝手なことをして貴族たちの反感を買う未来が容易に想像できてしまう。更にそれをお諌めするのが仕事の近衛は機能しない。
 そして近衛の評価も落ちるんだろう。そうなれば殿下や王家の評価も……
 サロモンが社交界に出られる未来が想像できないのは僕だけだろうか?

「殿下もまだ若いから、結婚を急いではいないんじゃない?」
「そうですね。ラルフ様の部下の皆さんもまだ半数は結婚していませんし」
「それで今日のもう一つの用事なんだけど、またミーナさんを騎士団で借りたいって話なんだけどどう?」
「冬が来る前にまた孤児院に防寒着などを送るんですね」
「そういうこと」

 ラルフ様を見ると、「ミーナがいいなら構わない」と言った。
 寮の住人は増えたけど、マリカとマリオが来てくれてから、使用人たちの仕事にも余裕が出た。メアリーの指導でマリカは一人前のメイドになっているし、半日くらいミーナが家を空けていても問題ないだろう。

「僕も騎士団で一緒に刺繍していいですか?」
「もちろんいいよ。シュテルター隊長もするでしょ?」
「そうだな。マティアスがするなら俺もする」
 よかった。みんなが一緒なら心が折れることなく続けられそうだ。ラルフ様には完成前に見られてしまうけどそれは仕方ない。ゴシゴシ洗っても大丈夫なように、糸もしっかり引き締めて見た目も恥ずかしくないハンカチを作りますから待っていてください。

 
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