僕の過保護な旦那様

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二章

46.アマデオの謹慎

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「アマデオが謹慎になったから、しばらく家に置く」
「え? アマデオが謹慎?」
 左右をロッドとグラートに挟まれてアマデオを連れて帰ってきたラルフ様にそう言われて、僕の中にはてなマークがたくさん浮かんだ。アマデオって僕の中では一番慎重で、最も常識的な人だと思ってた。シルによく手作りのおもちゃをくれたり、優しくて面倒見のいいお兄さんって感じなのに、謹慎になるなんて何があったんだろう?
 ラルフ様は地下倉庫の一つを軽く掃除して、中からは開けられない鍵に付け替えて牢みたいにしてアマデオを入れた。そこまでする?

「ラルフ様、まるで監禁みたいじゃないですか」
「それでいい。勝手に出歩いていたら謹慎にならないからな」
 そうかもしれないけど、罪人でもないのに日の光も届かない薄暗い部屋に閉じ込めておくなんて可哀想だよ。でも僕はなぜアマデオが謹慎になったのかを知らないから、これ以上反対することはできなかった。
 ラルフ様は部下のみんなを信頼している。それなのにこんなことをするということは、何か理由があるんだろう。
 その部屋は元々牢屋だったのかなって思うような造りで、食事を提供できるような小窓がついてた。


 翌日、アマデオのことは心配だったけど、僕にできることは何もなくて、シルとリーブを連れて、公園に行った。
 僕たちの店だけでなく他の店に嫌がらせをしても騎士が出てくるようになってから、店の間のトラブルも減ったらしい。きっと悪いことをした人が王都から消えたって噂が広がったんだろう。
 何かあれば、騎士立ち合いの元で双方の意見を聞いて話し合いを行うことも可能になると、騎士の存在がより身近になった気がする。騎士のお仕事が増えてよかったですね。
 これだけ対応してもらえば、きっと王都は安全だ。
 シルもお友達と遊べるようになって嬉しそう。

 走り回って疲れたシルをおんぶして帰る途中、安全なはずの王都で人が路地に引き込まれそうになっているのを見た。真ん中にいるのは僕と同じくらいの年齢の小柄な男で、その腕を掴んでいるのは平民の服を着ているけど体格のいい二人の男だ。
「リーブ、あれって……」
「王都に相応しくありませんね」
 リーブはそう言うと、サッと男の腕を掴んでいた二人を無力化すると、小柄な男を助けて、巡回中の騎士に事情を説明するとすぐに戻ってきた。

「マティアス様とシルヴィオ様のお側を離れて申し訳ございません」
「それはいいんだけど、やっぱり人攫い?」
「どうでしょう? とりあえず彼はうちで預ろうかと思います」
「ん? うん、リーブがそうしたいならいいよ」
 リーブが攫われそうになっていた小柄な男を預かるとか言うから、知らない人だしちょっと驚いたけど、リーブが僕たちに害があるような人を家に連れて行くとは思えない。何か事情があるのか、リーブの知り合いか、もしかしたらどこかの貴族の子息かもしれない。

 なんだか申し訳なさそうな顔をしてついてくる男を連れて家に戻ると、応接室に案内してお茶を出した。
「ぼくはシルヴィオです」
 シルは僕が挨拶を促さなくても、ちゃんと自分から挨拶できた。うちの子偉い。
「あ、俺はニコラといいます」
「僕はマティアスです。ニコラはしばらくうちで預かることになったから、ゆっくり過ごして。ここは安全だからね」
「ここは軍事基地か何かですか?」
 やっぱりそう見える? あの高くて分厚い塀のせいだよね……
「ただの一般家庭です。塀と櫓は騎士であるうちの夫の趣味というか……」
「そうなんですね」
 それで納得しちゃうんだ。ふぅ~とゆっくり息を吐いて、少し肩の力を抜いたようだった。攫われそうになって怖かったんだろう。

 事情は後で聞くとして、今は心を落ち着けてほしい。怖い目にあったんだし。
 僕はシルとリーブにこの場を任せて、キャンドルをとりに行った。ニコラのためにリラックスできるカモミールの香りのキャンドルを焚こうと思ったんだ。

 寝室に入ってキャンドルを探し、応接室に戻ろうと歩いていると、地下からドンドンと壁を叩く音が聞こえた。アマデオだろうか?
 何かあったのかと、地下の部屋に向かってみると、アマデオが閉じ込められている部屋から、ドンドン壁を叩く音が聞こえる。アマデオが暴れたりするなんて珍しい。
「アマデオ、どうしたの?」
「開けて下さい」
「開けてあげたいけど、理由を聞かせてくれる?」
「ニコラの匂いがする」
 ニコラって今連れてきたニコラ? ニコラはアマデオの知り合いなんだろうか?

「ニコラはアマデオの知り合いなの?」
「俺の恋人です」
「そうなんだ。街で保護して今うちにいる。リーブが預かるって言うから、しばらくうちにいてもらうけど、僕の判断ではアマデオをこの部屋から出してあげられない。ラルフ様が鍵を持ってるし、帰ってきたら聞いてあげるから今は大人しく待ってて」
 恋人か。それなら会いたいに決まってるけど、「ニコラの匂いがする」ってアマデオの嗅覚はどうなってるんだろう?
 まさかアマデオが一般人のニコラにストーカー行為をして謹慎になったんじゃないよね?
 一応ニコラに聞いてみるか。

 僕は大人しくなったアマデオの元を離れて、応接室に向かった。
 キャンドルを焚いて、しばらくは僕やシルの話をした。花屋で働いている話とか、シルは今日遊んだ友だちの話をしていた。シルは帰りも眠そうにしてたし、疲れて途中で寝てしまったから、メアリーに頼んで部屋に運んでもらった。

「ニコラって恋人がいたりする?」
「え? その……追いかけてきちゃいました」
 ちょっと照れた様子で話す彼は恋してるんだなって感じで可愛らしかった。詳しく聞いてみると、彼は先の戦争で村を追われて、戦争が激化すると、村から一番近い街に避難していたそうだ。それで終戦を迎えて村に戻ってみると、住んでいた家も、親から引き継いだ畑も全部ダメになっていたのだとか。
 避難中は国が保護してくれていたから衣食住に困ることはなくて、救護所などで手伝いをしていたけど、戦争が終わったら行くところがなくなってしまった。村にも帰れず、街に残るしかなくて、でも街はそんな人で溢れていたから仕事も見つからず、避難民のためのテントも撤去されてしまうと、いよいよ行き場がなくなった。

 もう男娼になるしかないのかと考えて娼館を訪れたけど、怖くなって逃げた。それで追われている時に助けてくれた人がいて、その人が部屋を用意して匿ってくれたらしい。それでその相手と恋人になったそうだ。
 だけどその人が王都に戻ることになったから、別れることになったと。

 男娼? この純朴そうな真面目って感じの青年が? 顔立ちは可愛らしいからお客さんは嬉しいかもしれないけど、よりにもよってなぜ男娼を選択肢に入れたのかが分からない。仕事がないとそんな選択しかなくなってしまうんだろうか……

 王都に行く勇気がなくて別れることを決めたのに、どうしても忘れられなくて、会いたくて王都に来たそうだ。なんとも素敵な話だ。
 人の恋バナっていい。
 バルド、こういう純愛って感じの恋バナを僕は聞きたかったんだよ。決してロッドが攻め倒されている話なんて聞きたくなかった。

「それで恋人には会えたの?」
「会えたんですが、とても迷惑をかけてしまいました」
「そっか」
「俺は部屋が見つかるまで宿に泊まろうとしたんですが、宿は危険だと言われて……
 心配した彼が寮に泊めてくれていたんですが、部外者を入れて寮に滞在させていたことで彼が謹慎になって、俺が捕まって責任を追求されないよう逃がしてくれたんです」
 謹慎か。アマデオとニコラは恋人かもしれないと思った。アマデオは戦争に行っているし、宿が危険と思う思想ってラルフ様と同じ匂いがする。

「ニコラの恋人って、アマデオって騎士だったりする?」
「え? なんでそれを? 名前言いましたっけ?」
 やっぱりそうだったのか。アマデオがストーカー行為で謹慎になったわけじゃなくてよかった。恋人が心配なら独断で寮に入れずにラルフ様に相談すればよかったのに。

「アマデオは僕の夫の部下です」
「あっ、申し訳ありません。アマデオの上司の旦那さんだったなんて知らなくて……」
「謝ることないよ。アマデオも無事だから安心して。夫が帰ってきたら会えるよう言ってみるから」
 リーブは知っていてニコラをうちに連れてきたんだろうか? よく考えてみると、リーブが僕とシルを置いて誰かを助けに行くことがおかしい。あの時に気付くべきだった。もしかして知らないのって僕だけ?

 
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