僕の過保護な旦那様

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二章

108.真実(※)

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 翌日起きると、ラルフ様はもう家にいなかった。
「マティアス様、旦那様はしばらく騎士団の寮に泊まるそうです」
「そっか。分かった」
 リーブには声をかけていったんだ……僕には何もなかった。
「騎士団には医療班がおりますので心配ないかと思います」
「うん、そうだね」

 しばらくっていつまで? まさかもう帰ってこないなんてことないよね?
 僕は失敗した。せめて謝らせてほしい。それすらも許されないの?

「マティアスくん、元気ないわね。夏バテかしら?」
 マチルダさんにも心配されてしまった。まさか夫に部屋を追い出されたなんて言えないし、「そうかもしれない」なんて誤魔化して無理やり笑ってみた。

 お店に送ってくれたのはリーブだったし、帰りに迎えにきてくれたのはアマデオだった。
「来月ニコラと旅行いくんでしょ?」
「はい。昨年隊長たちが海に家族旅行に行ったのが羨ましくて計画したんです。ニコラとちゃんと話し合って」
「そっか、楽しみだね」
 海か。あれから一年、あの時は幸せだったな。なぜこんなことに……

 その後、ラルフ様からはなんの音沙汰もない。僕も部下の誰かに伝言でも頼もうかと思ったんだけど、何を言えばいいのか分からなくて、ただ待つことしかできなかった。

「マティアスくん、今日はもう帰りなさい」
 ラルフ様と離れて四日目、マチルダさんに早退するよう言われた。僕は酷い顔をしていたらしい。迷惑をかけたことを謝ると、ゆっくり休みなさいとカモミールの花束を持たせてくれた。
 早退だから誰も迎えに来てなくて、今日はタルクもお休みだから僕は一人で歩いて帰ることにした。

「マティアス」
 聞き間違いか幻聴かもしれないけど、ラルフ様の声が聞こえた気がした。一瞬立ち止まって、そんなわけないと首を左右に振ってまた歩き出した。

「マティアス」
 今度は聞き間違いじゃなかった。急に視界が消えて、ラルフ様の匂いに包まれた。ギュッと抱きしめられて、背中をさすられた。
「ラル、さま……ぼくのこと……嫌いになったの?」
 言葉にしたら涙がポロリと溢れた。
「何があった? 誰に言われた? 俺がマティアスを嫌うなどあるわけがない」
 そうなの? じゃあなんで?
「だって、出ていけって……」
「マティアスに移すわけにはいかないからな」
 …………移すわけに? はい? 嘘でしょ? 僕はラルフ様の行動の意味が分かってしまった。
 まさか熱が出たから僕に病気を移さないために離れたの?

「ラルフ様のバカー!!」
 大声で叫んでラルフ様が怯んだ隙に逃げようとしたら、ガッチリと抱きしめられて逃れられなかった。だから力一杯ラルフ様の分厚い胸筋を叩いた。
 だって、だって、嫌われたかと思った。辛かったんだから!
 僕は号泣しながらラルフ様に抱えられて帰った。悲しいんじゃなくて、苦しいんじゃなくて、安心したら涙が止まらなくなったんだ。

「ラル、ママのことなかせたの? おいだしたの? かなしいっていってた。ラル、ママにごめんねして!」
 ラルフ様が帰ってきたことを知ったシルが部屋に来てラルフ様に怒った。
 なんかごめんなさい。僕が勘違いしたから……

「シル、ママが勘違いしたの」
「マティアス、ごめん。また俺はマティアスを泣かせた……」
 今度はラルフ様が落ち込んでしまった。

「ママ、ラルごめんしたからゆるしてあげて」
「うん。許すよ。シルありがとう」
 うちの子がまさか夫夫ふうふ喧嘩の仲裁をしてくれるなんて。

「じゃあラルとママはキスしてなかなおりね。ぼくはパンとあそんでくる~」
「あ、うん」
 シルはパンと遊ぶ方が大事みたいで、すぐに部屋を出ていった。

「ラルフ様、熱は下がったんですか?」
「下がった。もう治った」
「そうですか。それならよかったです。キス、する?」
「いいのか?」
 いいに決まってる。嫌われてないならしたい。だって寂しかった。

「して? 寂しかった。嫌われたのかと思って怖かった」
「俺がマティアスを嫌うことなどない。悲しませてごめん」
「たくさん愛してくれたら許す」
「分かった」
 分かったって本当?
 いつも一瞬で僕のこと裸にするのに、今日に限ってラルフ様はベッドまでは一瞬だったのに、ゆっくりゆっくり焦らすように脱がせていった。
 わざとですか?

 全部脱ぐと、ラルフ様に苦しいくらいギュッと抱きしめられた。
「俺はまた失敗した」
「そんなことないですよ。勘違いした僕も悪かったんです。次からはちゃんと理由を説明してください」
「分かった」
 嫌われたんじゃなくてよかった。こうして抱き合える今が幸せだ。温かくて、ちょっと今の時期は暑いけど、汗をかいて冷えたラルフ様の肌がちょっと冷たくて気持ちいい。

「はっ! マティアス、腕はどうなった?」
「え? 腕?」
 ラルフ様は僕の腕をじっくり見ている。なんだっけ? あ、僕は腕を虫に刺されたんだった。
「痕が残っている……マティアス、ちょっと待ってろ。仇討ちに行ってくる」
「はい? 仇討ち?」
 裸の僕を置いていこうとするラルフ様の腕を咄嗟に掴んだ。裸の状態で待たされるってどういうこと?
「また僕のこと置いて出ていくつもりですか?」
「しかし……」
 僕のことを刺した虫を探し出すなんて無理ですからね。庭の虫を全滅させたとしても、その中にいるかどうかも分からない。
「それは僕より優先することですか?」
「そんなことはない。マティアスより優先することなどない」

 ラルフ様は本当に反省しているらしい。そっと触れて、優しくもどかしい触り方ばかりしてくる。
「あっ……」
 そんなことするなら、今日は僕が攻めてやる。
「ラルフ様は病み上がりなんだから動かないでください。動いたらダメですからね」
「分かった」
 ラルフ様の下半身に移動すると、いつもは硬く血管が浮き上がっているのに、ラルフ様のそれはちょっと柔らかかった。うん、ポポの感触とは違う。って、僕は何と比べているのか……
 舌を這わせて手で握って扱くと、すぐに硬くなって口の中で質量を増した。
「マティアス……怒っているか? ん……」
 怒ってないよ。だって僕のためだったんでしょ?
 そんなこといいから集中してよ。唾液とラルフ様の先走りでヌルヌルしていると、そこは膨れ上がってビュクッビュクッと温かいものが飛び出してきた。

「マティアス、吐くんだ」
 僕はそんな言葉は無視してゴクッと音を立てて飲み込んだ。
 ラルフ様を取り込んだから、ちょっと落ち着いた。本当に本当に怖かったんだ。ラルフ様がいなくなってしまうんじゃないかって。
 僕はラルフ様に跨って、ゆっくりと腰を沈めていく。その質量がちょっときついけど、それがいい。
 まだ上手く動けないけど、ラルフ様を見下ろしながら、深く深くラルフ様の熱を受け入れる。

「はぁ~、う、んんっ……」
 ゆっくりとラルフ様を中に感じて、これが現実なんだって体に刻み込む。
「マティアス、もっと深く愛したい」
「うん、お願いします」
 僕が優位に立ってたのはここまでだった。

 たくさん愛してって言ったのは僕だけど、愛されすぎた。
 ラルフ様の手で蜂蜜を与えられ、お風呂で全身を丁寧に洗われて、ラルフ様の腕の中でお昼寝をした。
 暖かい風が部屋に吹いてきて、ラルフ様は枕元に置いてあった僕の袖につける小さいナイフを掴むとシュッと振るった。
 の撃退ありがとうございます。


 
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