僕の過保護な旦那様

cyan

文字の大きさ
116 / 568
二章

115.いざ迷宮へ

しおりを挟む
 
 
「シル、それ全部持っていくの?」
「ラルにみせてあげるの!」
 シルは僕が彫ったポポの家族を全部鞄に詰め込もうとしている。
 あれからシルと一緒に塗料とヤスリを買いに行って、握り心地がいいように、じゃなくてシルが握った時に怪我をしないようにしっかりとヤスリをかけた。

 シルがカラフルに塗って顔も描いてくれた。
 緑と、白と、黒と、黄色だ。
 日に焼けたベージュのような色を塗ろうとした時は必死に止めた。それは結局黒に塗りつぶして、黒光りしたところに僕が下手な花の絵を描いたから、決してアレには見えない。

 シルが海のお土産としてニコラとアマデオにあげたピンク色のはちょっとギリギリのラインだと思う。顔の下の辺りに青色の蝶ネクタイをしているからギリギリだ。

 シルはツルツルの丸い石も、ちゃんと鞄に入れていた。
 それも大事なんだね。
 そしてなぜかシルはラルフ様が送ってくれる報告書が大好きだ。何回も読んで、それに似せた手紙を書いてラルフ様に送ったりしている。

 あれからまた報告書が届いた。今度の報告書は僕たちが観光に行く日時と、予定が組まれたものだった。
 報告書というか計画書かな。
 シルはその報告書を上手に書き写して自分で持っている。
 空きスペースに絵が描いてあるところだけはラルフ様の書類と違うところだ。ちなみに描いてある絵はポポとその家族だ。
 おやつにクッキーとクラッカーも持った。今回もリーブとリズが現地までの御者と護衛を務めてくれる。

 パンは馬車を引けないし連れていく予定はなかったんだけど、シルが連れて行きたいと言うのと、パンも置いていかれるのが悲しいとヒーンヒーンと、悲しそうに泣いていたから仕方なく連れていくことになった。
 パンって馬車と並走できるの?
 勝手にいなくなったりしないよね?

 この前フックス領から王都に帰ってくる時にあった分かれ道のところまで行って、そこから大きな道をずっと進んでいく。
 パンのことが心配だから、こまめに休憩をとる。休憩の度にシルと散歩させたから、意外と大人しく着いてきてくれて助かった。
 シルとの信頼関係が良好ということなんだろう。
 うちの子はやっぱり天才だ。

 迷宮のある街に続く道は広くて凹凸も少なく快適だ。この道は王家直轄地に続く道だからか野盗もいない。騎士が定期的に巡回してるんだろう。
 たまに鹿が森の中からこっちを見ていたりするけど、馬車の前に飛び出したら危ないと分かっているのか、飛び出してきたりはしない。
 狸や野ネズミの方が道を気軽に横断するから危なかったりする。

「マティアス!」
 遠くから叫ぶように僕の名前を呼ぶ声が聞こえて、馬車が停車した。
 馬が駆けてくる足音が近づいてきて、馬車の扉を開くとラルフ様がクロを連れて立っていた。
 わざわざお迎えに来てくれたの?

 リズが馬車を降りてクロに乗って、ラルフ様が馬車に乗ってきた。
 そして今、僕を膝の上に乗せている。僕だけではなくシルも一緒に乗っている。ラルフ様の左右の膝の上は満員御礼だ。

「マティアス、会いたかった」
「僕も会いたかったです」
「ぼくも!」
 ラルフ様の大きな体は、僕とシルを乗せても全然平気だ。ギュッっと包まれると安心する。

 シルは鞄の中からポポの家族を取り出してラルフ様に紹介している。
 黒いのだけ『ママ』という名前がついていて、それ以外の緑と白と黄は名前がまだ無いそうだ。なんで黒いのが僕なの? それってどういう……
「これはママがおはなかいたの」
「そうか。可愛いな」
 ラルフ様が言ったけど、可愛いんだろうか? 僕には分からない。

「ラルはどれがいい?」
「俺は黒いのがいい」
「いいよ。はい」
 ラルフ様は渡されたママをジーッと見ている。そんなにじっくりと眺めるものじゃないと思うんだけど。

「そうか、マティアスはすごいな」
「はい?」
 ラルフ様は僕に感心したような目を向けてきたんだけど、僕にはさっぱり分からない。どう考えても僕が描いた花の絵は下手だし、褒められるところなんてないと思う。

「木剣で練習するまではシルにこれで練習させようと思ったんだな。親しみやすい形状にして、何かあればこれで殴れば素手よりは威力もある。相手を倒すことはできないが、怯ませて逃げる隙を作ることはできる。武器と認識されないから武器の携帯ができない場所にも持ち込める」
 はい? そんなこと全く考えていませんけど。武器の携帯ができない場所って、お城の謁見室とか? そんなところにポポを持っていくのはやめてほしい。

「マティアスの優秀さにはいつも驚かされる」
「…………」
 僕はそんなこじつけでしかない解釈をするラルフ様にいつも驚かされています。
 また僕の功績を捏造するつもりですか?

「ママすごい」
 やめて。僕は本当にそんなんじゃないんだ。
 僕は呆れて何も言えなくなってしまった。そんな僕に気づかず、ラルフ様は嬉しそうに、シルに木彫りのチンアナゴの有用性を説いている。なんでこんなことになったんだっけ?


 
しおりを挟む
感想 219

あなたにおすすめの小説

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

私を捨てた元旦那様へ。私が第一王子様から求婚されたことを知って、今どんな気分ですか??

睡蓮
恋愛
リナレーはフォルン第二王子との婚約関係を結んでいた。しかしフォルンはある日、リナレーの事を一方的に婚約破棄することを決定する。その裏にあったのはシュヴァル第一王子への妬みであり、フォルンは婚約破棄をすることでシュバルの心を傷つけようと考えていた。しかし、リナレーはその後そのシュバル第一王子と良い雰囲気に包まれはじめ、一方のフォルンは次第に孤立していき、二人の事を妬まずにはいられない日々が続いていくことになるのだった…。

紳士オークの保護的な溺愛

こむぎこ7g
BL
■ 世界と舞台の概要 ここはオークの国「トールキン」。 魔法、冒険者、ギルド、ダンジョン、獣人やドラゴンが存在する、いわゆる“典型的な異世界”だが、この国の特徴はオークが長命で、理知的な文明社会を築いていることにある。 トールキンのオークたちは、 灰色がかった緑や青の肌 鋭く澄んだ眼差し 鍛え上げられた筋骨隆々の体躯 を持ち、外見こそ威圧的だが、礼節と合理性を重んじる国民性をしている。 異世界から来る存在は非常に珍しい。 しかしオークは千年を生きる種族ゆえ、**長い歴史の中で「時折起こる出来事」**として、記録にも記憶にも残されてきた。 ⸻ ■ ガスパールというオーク ガスパールは、この国でも名の知れた貴族家系の三男として生まれた。 薄く灰を帯びた緑の肌、 赤い虹彩に金色の瞳孔という、どこか神話的な目。 分厚い肩と胸板、鍛え抜かれた腹筋は鎧に覆われずとも堅牢で、 銀色に輝く胸当てと腰当てには、代々受け継がれてきた宝石が嵌め込まれている。 ざらついた低音の声だが、語調は穏やかで、 貴族らしい品と、年齢を重ねた余裕がにじむ話し方をする。 ● 彼の性格 • 極めて面倒見がよく、観察力が高い • 感情を声高に表に出さないが、内側は情に厚い • 責任を引き受けることを当然のように思っている • 自分が誰かに寄りかかることだけは、少し苦手 どこか「自分は脇役でいい」と思っている節があり、それが彼の誠実さと同時に、不器用さでもあった。 ⸻ ■ 過去と喪失 ――愛したオーク ガスパールはかつて、平民出身のオーク男性と結ばれていた。 家柄も立場も違う相手だったが、 彼はその伴侶の、 不器用な優しさ 朝食を焦がしてしまうところ 眠る前に必ず手を探してくる癖 を、何よりも大切にしていた。 しかし、その伴侶はすでにこの世を去っている。 現在ガスパールが暮らしているのは、 貴族街から少し離れた、二階建ての小さな屋敷。 華美ではないが、掃除が行き届き、静かな温もりのある家だ。 彼は今も毎日のように墓参りを欠かさない。 それは悲嘆というより、対話に近い行為だった。 ⸻ ■ 現在の生活 ガスパールは現在、 街の流通を取り仕切る代表的な役職に就いている。 多忙な職務の合間にも、 洗濯、掃除、料理 帳簿の整理 屋敷の修繕 をすべて自分でこなす。 仕事、家事、墓参り。 規則正しく、静かな日々。 ――あなたが現れるまでは。

トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。

白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。 *外部サイトにも掲載しています。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

あなたの事は好きですが私が邪魔者なので諦めようと思ったのですが…様子がおかしいです

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のカナリアは、原因不明の高熱に襲われた事がきっかけで、前世の記憶を取り戻した。そしてここが、前世で亡くなる寸前まで読んでいた小説の世界で、ヒーローの婚約者に転生している事に気が付いたのだ。 その物語は、自分を含めた主要の登場人物が全員命を落とすという、まさにバッドエンドの世界! 物心ついた時からずっと自分の傍にいてくれた婚約者のアルトを、心から愛しているカナリアは、酷く動揺する。それでも愛するアルトの為、自分が身を引く事で、バッドエンドをハッピーエンドに変えようと動き出したのだが、なんだか様子がおかしくて… 全く違う物語に転生したと思い込み、迷走を続けるカナリアと、愛するカナリアを失うまいと翻弄するアルトの恋のお話しです。 展開が早く、ご都合主義全開ですが、よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...