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二章
115.いざ迷宮へ
しおりを挟む「シル、それ全部持っていくの?」
「ラルにみせてあげるの!」
シルは僕が彫ったポポの家族を全部鞄に詰め込もうとしている。
あれからシルと一緒に塗料とヤスリを買いに行って、握り心地がいいように、じゃなくてシルが握った時に怪我をしないようにしっかりとヤスリをかけた。
シルがカラフルに塗って顔も描いてくれた。
緑と、白と、黒と、黄色だ。
日に焼けたベージュのような色を塗ろうとした時は必死に止めた。それは結局黒に塗りつぶして、黒光りしたところに僕が下手な花の絵を描いたから、決してアレには見えない。
シルが海のお土産としてニコラとアマデオにあげたピンク色のはちょっとギリギリのラインだと思う。顔の下の辺りに青色の蝶ネクタイをしているからギリギリだ。
シルはツルツルの丸い石も、ちゃんと鞄に入れていた。
それも大事なんだね。
そしてなぜかシルはラルフ様が送ってくれる報告書が大好きだ。何回も読んで、それに似せた手紙を書いてラルフ様に送ったりしている。
あれからまた報告書が届いた。今度の報告書は僕たちが観光に行く日時と、予定が組まれたものだった。
報告書というか計画書かな。
シルはその報告書を上手に書き写して自分で持っている。
空きスペースに絵が描いてあるところだけはラルフ様の書類と違うところだ。ちなみに描いてある絵はポポとその家族だ。
おやつにクッキーとクラッカーも持った。今回もリーブとリズが現地までの御者と護衛を務めてくれる。
パンは馬車を引けないし連れていく予定はなかったんだけど、シルが連れて行きたいと言うのと、パンも置いていかれるのが悲しいとヒーンヒーンと、悲しそうに泣いていたから仕方なく連れていくことになった。
パンって馬車と並走できるの?
勝手にいなくなったりしないよね?
この前フックス領から王都に帰ってくる時にあった分かれ道のところまで行って、そこから大きな道をずっと進んでいく。
パンのことが心配だから、こまめに休憩をとる。休憩の度にシルと散歩させたから、意外と大人しく着いてきてくれて助かった。
シルとの信頼関係が良好ということなんだろう。
うちの子はやっぱり天才だ。
迷宮のある街に続く道は広くて凹凸も少なく快適だ。この道は王家直轄地に続く道だからか野盗もいない。騎士が定期的に巡回してるんだろう。
たまに鹿が森の中からこっちを見ていたりするけど、馬車の前に飛び出したら危ないと分かっているのか、飛び出してきたりはしない。
狸や野ネズミの方が道を気軽に横断するから危なかったりする。
「マティアス!」
遠くから叫ぶように僕の名前を呼ぶ声が聞こえて、馬車が停車した。
馬が駆けてくる足音が近づいてきて、馬車の扉を開くとラルフ様がクロを連れて立っていた。
わざわざお迎えに来てくれたの?
リズが馬車を降りてクロに乗って、ラルフ様が馬車に乗ってきた。
そして今、僕を膝の上に乗せている。僕だけではなくシルも一緒に乗っている。ラルフ様の左右の膝の上は満員御礼だ。
「マティアス、会いたかった」
「僕も会いたかったです」
「ぼくも!」
ラルフ様の大きな体は、僕とシルを乗せても全然平気だ。ギュッっと包まれると安心する。
シルは鞄の中からポポの家族を取り出してラルフ様に紹介している。
黒いのだけ『ママ』という名前がついていて、それ以外の緑と白と黄は名前がまだ無いそうだ。なんで黒いのが僕なの? それってどういう……
「これはママがおはなかいたの」
「そうか。可愛いな」
ラルフ様が言ったけど、可愛いんだろうか? 僕には分からない。
「ラルはどれがいい?」
「俺は黒いのがいい」
「いいよ。はい」
ラルフ様は渡されたママをジーッと見ている。そんなにじっくりと眺めるものじゃないと思うんだけど。
「そうか、マティアスはすごいな」
「はい?」
ラルフ様は僕に感心したような目を向けてきたんだけど、僕にはさっぱり分からない。どう考えても僕が描いた花の絵は下手だし、褒められるところなんてないと思う。
「木剣で練習するまではシルにこれで練習させようと思ったんだな。親しみやすい形状にして、何かあればこれで殴れば素手よりは威力もある。相手を倒すことはできないが、怯ませて逃げる隙を作ることはできる。武器と認識されないから武器の携帯ができない場所にも持ち込める」
はい? そんなこと全く考えていませんけど。武器の携帯ができない場所って、お城の謁見室とか? そんなところにポポを持っていくのはやめてほしい。
「マティアスの優秀さにはいつも驚かされる」
「…………」
僕はそんなこじつけでしかない解釈をするラルフ様にいつも驚かされています。
また僕の功績を捏造するつもりですか?
「ママすごい」
やめて。僕は本当にそんなんじゃないんだ。
僕は呆れて何も言えなくなってしまった。そんな僕に気づかず、ラルフ様は嬉しそうに、シルに木彫りのチンアナゴの有用性を説いている。なんでこんなことになったんだっけ?
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