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二章
122.ハリオの暴走
しおりを挟む「マティアスさん、ありがとうございます」
客間をリーブとミーナに整えてもらって案内すると、ルカくんにお礼を言われた。
「お礼ならハリオに言いなよ」
「はい」
せっかく勇気を出して恋人になるって言ったのに、拒否された後では言いにくいのかもしれない。でも悪いこともしてたんだから可哀想だとは思わないよ。
ハリオは自分がルカくんを振ったことにも気付かずに、僕がルカくんの滞在を許可するとルカくんの荷物を取りに隣の街に向かった。
廊下を歩きながら屋敷の説明をしていると、メアリーに付き添われたシルが部屋から出てきて、僕を見つけると勢いよく走ってきた。
「ママ! やだ! ママがしんじゃうから、ちかくにこないで!」
僕がシルを抱き上げるとシルは泣き出してしまった。
僕が死んじゃうってどういうこと? 主人公のママが死んでしまう物語でも読んだんだろうか?
さっきまではシロクマが魚をとる物語を読んでいたのに。
「シル、どうしたの? 僕は死なないよ。大丈夫だよ」
「やだ! やだ! しんじゃやだ!」
困った顔のメアリー、呆気に取られているルカくん、泣きじゃくるシルを抱っこする僕。なんだろうこれは。そしてシルが大声で泣くから、お休みだったニコラとアマデオ、チェルソとバルドも何事かと慌てた様子で集まってきた。
シルの背中をトントンしながら、みんなで応接室に戻ると、メアリーがみんなに紅茶を淹れてくれた。
相変わらずリーブはニコニコしていて、微笑ましいものを見るような目をしている。もしかしてシルが取り乱している理由知ってるの? 知ってるなら教えてよ。
ようやく落ち着いてきたシルに聞いてみる。
「おかしのひと」
シルはルカくんを指差した。ルカくんはまさか自分のせい? みたいな驚いた顔をしている。
「そうだね。ルカくんはお菓子屋さんだね。シルも美味しいって言ってたよね。どうしたの?」
「ママはおかしたべない。たべたらしんじゃうからやだ!」
ああ……僕のことを心配していたのか。
「大丈夫だよ。食べないから。僕は死なないからね」
「ほんと?」
シルが真っ赤に泣き腫らした目でじっと見上げてくるから、僕の決心は固まった。僕はお菓子を断つんだ。
これからもお菓子は食べない。そしてちゃんと運動もするんだ。シルが作るクッキーやクラッカーをちょっとだけ味見するのだけは許してほしい。本当にそれだけだから。
「おかしつくらない?」
「え? 僕? 人の家で勝手にお菓子作ったりしないよ」
シルに聞かれて慌ててルカくんはそう答えた。
あとで説明しておこう。そんなことをルカくんに言うのは恥ずかしいんだけど、説明は必要だと思う。
そんなこともあったんだけど、無事シルも納得してくれて、ルカくんがうちの屋敷に滞在することになった。
シルはまだちょっとルカくんに対しては人見知りを発動している。ここに来たばかりの頃は誰に対してもそうだったけど、最近は色んな人と関わって人見知りはほとんどなかったのに。
みんなで夕食を食べていると、ハリオが戻ってきた。すごい荷物だね。そんなに荷物があるのなら、馬車や荷車を引いていけばよかったのに。
そのルカくんの荷物を置いたらハリオは寮に戻るんだろうか?
夕食を終えてもうそろそろ寝ようかとシルの部屋で本を読んでいると、廊下から言い争うような声が聞こえてきた。ハリオとルカくんだろうか? もしくはニコラとアマデオ? バルドとロッドではないと思う。
そっと扉を開けて見てみると、ハリオとルカくんだった。
「マティアスさんに泊まるのを許してもらうから、ルカくんは何も心配いらない」
「それはさっき聞いた。そうじゃなくてちゃんとベッドで寝ろって言ってんだ」
「それは無理だ。寝ずの番をする必要がある」
「そんなのしなくていいと何度も言ってるだろ」
「危険だ」
「この家なら危険はない」
懐かしいな。僕もずっと前に寝ずの番をするなんて言われたことがあった。あれはいつだっけ? ナイフを首に当てられた時だっけ? 首に手をかけられた時だっけ?
「ハリオ、ルカくん、みんなもう休む時間だから廊下では静かにしてね」
僕は二人にそう言うと、シルの部屋の扉をそっと閉めた。今日はシルの部屋で一緒に寝るんだ。
シルの手にはポポが握られてるけど、そのつぶらな瞳が僕を見てくるけど、いいんだ。
すぐに静かになったから、ルカくんの部屋にハリオを入れて話をしてるんだろうか?
ハリオがルカくんの気持ちに気づくのが先か、それともルカくんが好きだと言うのが先か、その結末だけは聞いてみたいと思った。
「ママ、おはよう」
「シルおはよう。早いね」
「パンのおせわがあるから、はやくおきるの」
「そっか、じゃあ僕もフランチェスカたちのお世話をしようかな」
顔を洗って着替えると、厩舎に向かうために部屋を出た。
「!!」
廊下にはルカくんの部屋の扉にもたれて座り込むハリオがいた。僕たちに気づいてこっちを向いたハリオの目は充血している。もしかして寝ずの番ってやつをしたの?
僕が注意してから静かになったから、てっきり二人は上手くいったんだと思ってた。
「ハリオ、寝てないの? みんな起きてるから出勤時間まで仮眠とりなよ」
「いえ、俺の役目はルカくんを守ることですから」
ラルフ様も無茶して寝ないとかあったけど、ハリオのその目の充血は普通じゃない。
きっと夜中ずっと気を張り詰めてたんだろう。
アマデオとロッドにも協力してもらって、ハリオには空いてる客間で時間まで寝てもらった。訓練に支障があってはいけないし、怪我したりしたらルカくんが気にすると思う。
「マティアスさん、ハリオのやつが迷惑かけてすみません」
「ルカくんが謝ることないよ。家にいるのが退屈だったら外に出てもいいけど、ハリオが心配するからうちの使用人の誰かを護衛というか案内役として連れて行ってね」
「分かりました」
色んな人に貢がせていたにしては、やけに素直だ。この家を追い出されたら行く宛がないからかもしれない。この家を出たとしても、ハリオがなんとかしそうな気はするけど。
ルカくんの近くにいたいとごねるハリオを、ロッドとアマデオが引きずるように連れて行った。誰だって好きな人のそばにいたいよ。僕だってラルフ様のそばにいたい。
また寂しくなってきた。
仕事中は気が紛れるけど、家にいるとやっぱり寂しくなる。寒いからあまり外に出なくなって、暖炉の前に座っていることが多い。
しばらく大人しくしているように見えたんだけど、ある日ルカくんが僕の部屋を訪ねてきた。
「どうしたの?」
「相談していいですか?」
部屋に入ってきたルカくんは、チェーンメイルを着ていた。相談って、それのことだよね?
前にハリオは自分に家族ができたらお揃いのチェーンメイルを着たいと言っていた。ルカくんの身を案じているという理由もあるだろう。だけど室内でチェーンメイルはちょっとね……
「たまにシルくんがチェーンメイル着ているけど、これって普通ですか?」
「普通じゃないよ。シルは騎士ごっこが好きだから着てるけど、僕は着ない。とても危険なところでは着るよう言われるけど、それ以外は着ない。断らないと大変だよ」
「そうですか……」
重いよね、チェーンメイル。
「僕もだけど、ニコラも通った道だから、気持ちは分かる」
「プレートアーマーというのはなんですか? 今度それを買うと言っていたんですが……」
ハリオ、それはやめて。陛下に呼び出される。
「プレートアーマーは、金属でできた鎧のことだよ。阻止しないと、陛下に謀反か出奔を疑われて呼び出されることになるから、頑張って阻止してね」
「陛下って、王様!? 嘘だろ……」
ルカくんは絶望の表情を浮かべた。そうだよね。貴族の僕でも緊張したのに、平民のルカくんが緊張しないわけない。平民からしたら極刑を言い渡されるようなものだもんね。
頑張ってね。僕は君たち二人の関係には口も手も出さないって決めてるからさ。
こうして相談された時には答えるけど、何か行動を起こしたりはしないよ。
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