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二章
134.恒例のお茶会
しおりを挟むやっぱり呼ばれたのは僕だけだったか。
二人きりなのにお茶会って言うのかな?
目の前には湯気が揺らめく紅茶が置かれている。ヴィートが僕のために準備してくれたお茶なのだと思うと、なんか香りも味も違うように感じる。
僕が今日持ってきたのは、ルカくんが作ってくれたアップルパイだ。とっても美味しいからお土産に持って行きたいと言ったら快く承ってくれた。
ハリオもラビリントへ旅立って、ちょっと寂しそうだったから、久々に腕が鳴ると言って喜んで作っていた。
ちゃんとシルには僕は食べないと伝えてある。不安そうに僕のことを見ていたから……
「あ、このアップルパイ、僕の分は切り分けなくていいからね」
「は? なんでだ?」
「太るから。僕の顔が丸くなった時に息子に顔が腫れてるって言われてね……それ以来お菓子はなるべく食べないようにしてるんだ。ヴィートが用意してくれたものは食べるけど、アップルパイはヴィートとご家族で食べて」
「ふっ、デブなマティアスか。笑えるな」
ヴィートはやっぱり余計なことを言う。言わなきゃいいのに……
「父になった」
余計な一言を言って会話が途切れて少しすると、ヴィートが唐突にそう呟いた。
「そうだろうと思ってたよ。去年のこの時期に奥様が妊娠してるって聞いたから、もう生まれてるかなって思ってた」
「そうか」
その後は、奥さんの自慢だった。
可愛い子を産んだとか、世話が大変なのに乳母に頼りきりにならずに自分でやっているとか、それなのにヴィートにも優しくしてくれるとか、可愛いとか綺麗とかそんなことをずっと自慢された。幸せなんだね。それはいいことだ。
「生まれたのが女の子だった。そこだけが残念だ」
「なんで? 女性当主だって今は何人かいるでしょ?」
「女の子は年頃になると父を嫌うと聞いた。そんなの耐えられるか?」
呆れた。今からそんな先の話ですか……
そんな心配はその時になってすればいいのに。
「そうならないように、いい父でいればいいんじゃないですか?」
「そうか。ふん、マティアスに言われずともそんなことは分かっている」
なんなの? 分かってるなら勝手にいい父になればいいじゃないか。僕に何をしてほしいのか分からない。
「昨年領地に戻ってから、領地の孤児院に行った」
「そうですか」
「彼らは学校に行かないらしい。領地の学校は王都の学園と違って金はかからないが、着ていく服がないから行きたくないそうだ」
「そんな理由?」
「それと、学校に通う年齢になると働きに出るからだ」
そんなに早くから働くのは知らなかった。
「だから予算の中から孤児院の運営に使う金を見直した」
「そうですか。お金さえあればどちらも解決できますね」
「そういうことだ」
なんだ、ヴィートはちゃんといい領主への道を歩んでいるんじゃないか。
「だから、去年孤児院に誘ってくれたこと、感謝する」
誘ってはいない。ヴィートが連れて行けと言うから連れて行ったんだけど、もう忘れちゃったの? でもヴィートが感謝してくれるなら素直に受け取っておこう。
「うん。子どもたちが健やかに育つといいですね」
「そうだな」
やけに今日は素直だ。もしかして子どもが生まれてヴィートも少し成長したんだろうか?
領地の孤児院のこともすぐに動いたみたいだし偉いな。
また今日も色々とお土産をもらって帰ることになった。
「ヴィート、お土産たくさんありがとう」
「ああ、マティアス、デブになったら見せにこい。ブッははは」
む……やっぱり僕はヴィートのこと嫌いになっちゃうかも。
家に帰るとルカくんが、シルとパンが庭の端に少し残った雪で遊んでいるのをボーッと眺めていた。
「ルカくんどうしたの? そうだ、アップルパイ喜んでもらえたよ。ありがとね」
「いえ。部外者の僕を家に置いてもらっているのでこれくらいは……」
なんだか元気がないように見える。
「ハリオがいなくて寂しい?」
「え! い、いや、そんなことは……」
「僕はラルフ様と離れてるの寂しかったよ。好きな人と離れるのって寂しいよね」
「はぁ……バレてましたか」
バレてるよ。バレバレだよ。ハリオ以外は全員気づいてるってくらいバレてるよ。ラルフ様は不在にしてたからどうか分からないけど。
「まあね。好きだって言わないの?」
「それは言えない。そんなの言えるわけない。でもちゃんと伝えてるつもりだ」
うん。恋人になるとか、手繋ぐとか、キスしてほしいみたいなことも言ってたよね。でも伝わってない。
「ハリオは鈍感だからね……」
「そうなんだよ! 普通気付くだろ。だって、キスしていいなんて好きでもない奴に冗談でも言ったりしないのに」
うちに来たのが冬の初めだったから、もう二ヶ月経つよね。ハリオもハリオだけど、ルカくんもよく頑張ってるよ。ハリオの気持ちがルカくんに向いてるのが明らかだから頑張れるのかもしれないけど。
「ルカくんって強気なのに受け身だよね。素直になった方がいいと思うけどな」
「そういうマティアスさんは好きとか言えるんですか?」
「言えるよ。大好きって昨日も言ったし、愛してるとも言う。ラルフ様も言ってくれるよ」
僕がそう答えると、ルカくんは小さく「嘘だろ」と呟いて目を丸くしていた。
びっくりして顔も可愛い。ハリオがよく「怒っているルカくんも可愛い」って言ってる気持ちが分かる。
僕はお膳立てなんてしないけど頑張ってね。
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