僕の過保護な旦那様

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二章

188.ルカくんの仕事

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 ルカくんの仕事はなかなか見つからない。チェルソの手伝いをしながら、仕事の紹介所に通ってるんだけど、お菓子屋さんの求人はなかなかないんだ。全くないわけではないんだけど、どれもお菓子を作る側ではなく接客や売る側だ。酒場や料理屋なら調理の仕事があるんだけど、それでは意味がない。

「なかなかないね」
「はい……」
「お菓子屋さんは大きな店舗を構えているところが少ないので、求人も少ないんでしょう」
 ルカくんとリーブと一緒に仕事の紹介所に来たんだけど、やっぱり今日もお目当ての求人には巡り会えなかった。

 ラルフ様と相談して、うちで正式に雇って給料を払ってあげることも考えたんだけど、お菓子に一日中携われるわけではない。うちは使用人が少ないから、自分の担当ではない仕事もしてもらうから、ルカくんに他の仕事もさせることになるし迷うところだ。

「どこかいいお店があれば紹介してください」
 顔が広いマチルダさんにもお願いして、フェリーチェ様やイーヴォ隊長も知り合いのところを当たってくれると言ってくれたんだけど、やっぱりなかなか見つからなかった。

 だけどひょんなところから話は舞い込んだ。
「マティアスくん、隣のお菓子屋さんなんだけど、お菓子をメインで作っていたジネオさんが怪我をしたそうなのよ。聞いてみる?」
「え? 怪我?」
 誰かの不幸を喜んではいけないけど、ルカくんにとってはチャンスかもしれない。

 隣のお菓子屋さん『ジネオ&イザイア』は名前の通りジネオさんとイザイアさん夫夫が二人でやっている店だ。二人とも五十を過ぎたおじさんだけど、とても優しい人たちだ。お菓子屋さんの柱の陰にラルフ様やラルフ様の部下のみんなが、草や泥を被って立っていても、苦情を言ってくることなく見守ってくれるような人たち。
 怪我と言ってもそれほど大きな怪我でないかもしれないし、逆にもう店を続けられないほどの大怪我という可能性もある。よく仕事帰りにお菓子を買って帰っていたし、ジネオさんの容態も気になった。

「馬車と接触して足と腕を骨折したらしいわ。治るまでの間だとしても仕事がないよりはいいんじゃないかしら?」
「そうですね。ルカくんに聞いてみます」
 さっそく僕は帰るとルカくんに話をして、ジネオさんのお見舞いに伺うことにした。

「これじゃあ、とても作ることはできない。休業も考えたんだが、何ヶ月も休業するとその間の収入もないからな」
 ジネオさんは寝たきりということはなく、椅子には座れるし移動はイザイアさんが抱えて移動することになるけど、話したり食事をしたりは問題なくできる。思ったよりも元気そうで安心した。
 ルカくんは自分の腕を示すためにアップルパイなどの焼き菓子をいくつか持ってきていた。

「はははっ、いいね、若いのになかなか繊細だ。うちの味が表現できればお願いしたい。試してみるか?」
「やらせてください!」
 ルカくんはやっと訪れたチャンスだと深く頭を下げた。
 いきなり店を開けることはできないから、まずは厨房に椅子を置いてジネオさんがルカくんに指示を出しながら作ってみることになった。

「ルカくん、上手くいくといいね」
「はい! ジネオさんが治るまでだとしても、メイン職人として働ける機会なんてそうあるものではありません。雇ってもらえるよう全力で頑張ります」
「うん。練習するためにうちのキッチン使ってもいいからね」
 ジネオさんが治っても、ルカくんの腕次第では継続して雇ってもらえるかもしれない。ジネオさんがメインとなってルカくんがサブになったとしても、雇ってもらえるならありがたい。

 ルカくんがお菓子屋さんに通い始めて、うちにいる時はチェルソにも意見を聞きながらずっとお菓子を作っている。おかげでお菓子が僕の目の前をどんどん通り過ぎていくんだ。
 誘惑に負けそうになると、シルが「ママはダメ」と止めてくれるのがありがたくも少し寂しい。

 他の皆さんは運動量というか消費量が多いのか、たくさんお菓子を食べても全然顔が丸くなったりしない。なぜなのか……
 ラルフ様だけは、僕に気を遣っているのか僕の前でお菓子をバクバク食べたりはしない。
 気にせず食べてもいいんだよ。少しくらい物欲しそうな顔で見つめてしまうかもしれないけど……

「マティアス、キスしたいのか?」
「んっ……」
 全然そんなことは思っていなかったけど、ラルフ様がお菓子を食べているのを眺めるという想像をしていたら、ラルフ様に不意に唇を奪われた。
 想像だけで僕は物欲しそうな顔をしていたんだろうか?

 廊下を歩けば甘い香りが漂ってくるし、みんなが色んなところでお菓子を口にしているのを見ると、口寂しいなって思ってた。
 でも今、満たされたよ。ラルフ様のおかげだ。

「んんっ……もっとして」
 僕がラルフ様のシャツをギュッと握ると、次の瞬間にはベッドの上で裸だった。
 口寂しくて満たされないだけだったのに、全身が満たされてしまった。

 ラルフ様がいれば、僕は全部が満たされるのだと知った。
「ラルフ様、大好きです」
「俺も大好きだ」

 その数日後、ルカくんの雇用が決まって、お菓子屋さんはお店を再開した。
 もちろんその日、僕はルカくんが作ったお菓子を買って帰った。

 ん? ハリオ……変装してもバレバレだって……草原や森じゃないんだから引っこ抜いた草を頭に乗せて草まみれになってても、全然隠れられてないよ。お菓子屋さんの柱の陰から店を見守るハリオの姿は、いつかのデジャブだ。
 もしかして、売れ残りそうになったらハリオはまた残ったお菓子を全部買い占めたりするんだろうか? もうそれはやめてよね。




*****

今年も皆さんに支えられて執筆を進めることができました。
いつもお気に入り登録、ハート、感想、エールをいただきありがとうございます。
来年もどうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m


 
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