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二章
189.新年
しおりを挟む今日は珍しく早く目が覚めた。そっとベッドから抜け出そうとすると、ラルフ様に捕まってベッドの中に引き戻された。
今はラルフ様の腕の中にぎゅっと抱きしめられている。
寝ぼけたフリして目を閉じてるけど起きてるんだよね?
「ラルフ様、おはようございます」
「おはようマティアス」
やっぱり起きてた。
「今日は新年の祝賀会ですね。忘れてないですよね?」
ラルフ様は行きたくないんだろう。はぁ~っと深いため息をついた。
僕だって楽しみにしてるわけじゃない。着飾るのも、笑顔を貼り付けて貴族と挨拶するのも、正直面倒だと思ってる。でも年に一度で許してもらえるんだからまだマシだ。
「またマティアスが狙われる」
え? 僕? 僕は一度だって狙われたことなんかないんだけど……
今年もラルフ様がポポの刺繍が入ったお揃いのタイを用意してくれた。ラルフ様、いつの間に縫ってたの?
去年は紺色だった生地が、今年は光沢のある白だ。そこに金色の刺繍がしてあって、とても上品で綺麗。なぜまた刺繍をポポにしたのか……花とか蔓とか文字とか、色々とモチーフはあるのに、今年もラルフ様が選んだのはポポだった。
「ラルフ様……」
なぜか夜会の会場にはポポの刺繍が入っているタイをつけている男性が多くて、僕はちょっと引いてしまった。
「真似されているな」
真似……? 真似されたと言えば真似されたのかもしれない。元々ポポの刺繍を始めたのはフェリーチェ様だから、僕たちだってフェリーチェ様の真似をしている。
なんで? どう考えてもポポなんて華やかなデザインではないんだけど……
首を傾げながら皆さんの衣装を見てみると、ポポの侵略は男性のタイだけではなかった。
女性が持っている扇子についていたり、手袋の手の甲の部分に刺繍されたものをつけている人もいた。流行っているのだろうか? これだけ侵略が広がっていると、恐怖を感じます。
「ラルフ様、怖くなってきました」
「大丈夫だ。マティアスのことは俺が必ず守る!」
うん、そこは心配してないよ。夜会の会場に襲撃なんてあるわけないんだし。そのポケットに入れているであろうポポママをこっそり手で触れて確かめるのやめて。
ポケットがモッコリしてるの気になるんですけど……
「マティアス様、今回は白に金の刺繍? シュテルター隊長はセンスがあって羨ましいよ」
そう言って近づいてきたのはフェリーチェ様だ。フェリーチェ様だって旦那様とお揃いのポポの刺繍がされたタイを巻いている。今年は黄色に緑でポポの刺繍がしてある。なかなか斬新な色使いですね。
副団長も、なぜまたポポの刺繍にしたんだろう? 刺繍が得意だと聞いているし、もっと複雑で豪華な刺繍をすればいいのに。
「ポポの刺繍、人気みたいだね」
「そうですね」
フェリーチェ様と軽く会話をしていると、ラルフ様が後ろから僕の腰に手を回して密着してきた。また副団長に対抗しているんですか?
副団長のポケットもモッコリしているから、そこにはきっとポポ軍団つや消しブラックが入っているんだろう……
そんなものを夜会で使うことはないと思うけどね……
会場の入り口付近からざわめきが聞こえて、何かと思って振り向いたら、イーヴォ隊長とリズがいた。
イーヴォ隊長はあれで結構人気があったようだ。いつも一人で参加している隊長が見かけない女性を連れているから、「あの女性は誰なのか」とみんながヒソヒソ話しているのが聞こえた。
メイド服を着ているリズしか見たことがなかったけど、ドレスを着て髪を結い上げ、お化粧もするとリズはかなり美人だということが分かる。
体にフィットするドレスを着ているんだけど、鍛え上げられた肉体はしなやかで綺麗だ。鍛えると体のラインまで綺麗になるのか……僕も頑張ろう。
しかもリズは所作が綺麗だ。いつも通りの笑みを浮かべて、優雅に歩みを進めている。
リズは貴族ではないけど、その辺の貴族よりも完璧だからね。僕やラルフ様より貴族らしい。
イーヴォ隊長もいつもよりキリッとしている気がする。お似合いの二人だ。
リズのことが気になる貴族が周りを取り囲んでいるから、僕たちは近づけず、遠くから眺めることしかできなかった。
イーヴォ隊長がついているし、リズなら大丈夫だろう。
陛下の挨拶を聞くと、ラルフ様とダンスを踊って、僕たちはいつも通り会場を後にした。
「ラルフ様、楽しかったですか?」
「マティアスと踊ったことだけは楽しかった」
僕も同じです。あとは挨拶するだけだったし。今年は騎士団関係者が多くてちょっと気まずかった。それは僕だけなのかな? まるで示し合わせたかのようにポポが刺繍されたタイをつけているのが恥ずかしかったんだ。
ポポ、もうそろそろ侵略なんかやめて長閑な海に帰りなよ。
***
明けましておめでとうございます。
皆さまお正月休みをいかがお過ごしでしょうか?
今年もほのぼの進めていきますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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