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二章
194.今年のお茶会
しおりを挟むはぁ……
またヴィートから律儀にお茶会の招待状が届いた。お茶会というけど、参加者は僕とヴィートだけだし、奥さんと子どもの自慢話をされて終わるだけの時間だ。たまに言わなくていいことを言われるのも、ちょっと気分が悪い。
でも、悪い奴じゃない。
仕方なく僕は参加する旨の返事を書いた。
「マティアス、よくきたな」
「お招きありがとうございます。また今年も奥様とお子さんは領地でお留守番ですか?」
「そうだ。嫁のお腹に二人目がいるんだ。羨ましいか? 二人目だぞ? お前のところは一人だけだろ?」
そうだけど、数なんか競っても仕方ない。うちはシルがいれば十分だ。ヴィートは貴族の家を存続するためにも何人か必要かもしれないけど、うちは後継なんて必要ないからいいんだ。
「毛糸だが、騎士団で使ってくれたから牧場や毛糸の工場が潤った。感謝する」
なるほど。今回のお茶会はそれを言うためだったのか。夏の終わりにミーナがまた騎士団に編み物講習の先生をしにいって、王家直轄地の孤児院に冬前にマフラーやブランケットなどが贈られた。
それに倣って他の貴族の領地でも同じようなことが行われるようになったとか。
完成した頃に見せてもらったんだけど、普通のマフラーやブランケットにすればいいのに、なぜかポポのモチーフが編み込まれていた。
そして今、僕の目の前に座るヴィートの首に巻かれたスカーフにはポポの刺繍が……
なぜだ? 僕はそのスカーフをじっと見てしまった。
「ふん、気付いたか? これは妖精らしいな。小さな幸せをもたらしてくれるとか」
「え?」
ポポってそんな力あるの? 妖精じゃないけどね。海に住んでる魚だよ……
誰がそんな話を作り出したのか。仕立て屋とか刺繍屋が売り出すために? もしくは孤児院に送るものに刺繍されていたから、そんな憶測をされたんだろうか?
だから華やかなデザインでもないのに貴族の間でも流行っているのか……
ようやく納得できた。納得はできたけど……その考え方はどうかと思うよ。
だって、実際のポポはちょっと卑猥な感じだし……
小さな幸せってなんだろう?
僕が寂しい時にシルはポポを貸してくれる。少しだけそれで救われたこともあった。
ポポ、お前実は妖精だったのか?
その後はいつもと同じ、ヴィートの嫁自慢を長々と聞かされた。それにプラスして娘の自慢もされた。だがこの程度の自慢は可愛いものだと思える。リヴェラーニ夫夫の長時間に渡る新婚旅行の再現に比べたら。
あれは辛かったな…
ふと思い出してしまい、急に疲れが押し寄せてきた。
「マティアス、どうした? 体調不良か? そういえば難病を患ったと聞いたが大丈夫なのか?」
ヴィートには珍しく僕を気遣うようなことを言われ、心配そうに顔を覗き込まれた。
「え? 難病? 僕が? 病気なんてしてないよ」
誰がそんなおかしな噂を流したのか。心当たりがないわけではない。騎士たちか……
僕は難病ではないし病弱でもない。たまたまちょっと油断してしまったり、不運な事故があっただけだ。
「ふん、バカは風邪を引かないというしな。マティアスが病気などおかしいと思ったんだ」
なんなのその言い方。心配してくれてちょっと優しい面があるのかと見直した僕の気持ちを返してほしい。やっぱりヴィートは僕には優しくない。だけど、いつも通りたくさんのお土産を持たせてくれた。シルが好きなドライフルーツもいっぱいある。余計な一言がなければいい奴なんだけどな……
最近、花屋ではまた僕を指名しての配達が増えた気がしていた。
直接「病気なのか?」なんて聞くのはヴィートくらいだ。他の貴族も、難病という噂のある僕の様子を見るために呼び出していたのかもしれない。
だから今年はみんながやたらと優しかったのか……
僕は病気ではない。しかし説明したくもない。わざわざ説明するほどでもないよね?
ポポモチーフの何かを身につけておけば、僕の元にも小さな幸せくるかな?
だとしたら、この噂が早く消えてくれますように。僕はそう願うことにした。
その後も僕は貴族の家に呼ばれることは多かったけど、みんなきっと僕が難病というのは間違いだと気付いてくれただろう。
あとはみんなが夜会やお茶会で、僕は元気だったって噂を流してくれれば、『マティアス難病説』は消えてくれるはずだ。
ふぅ~
「マティアスどうした? 疲れているのか?」
「ええ、少しだけ」
「そうか。俺の元気をやる」
え? まさかまた唾液で溺れるようなことになるんじゃないよね?
「普通のキスがいいです」
僕は危険な予感がして、咄嗟に予防線を張った。
「分かった」
今日の分かったは信用できるかな?
恐る恐るラルフ様を見上げてみると、唾液で溺れることはなかったけど、僕が風邪を引いた時のような激しいキスをされた。僕の口内の唾液を全部奪っていくようなあれだ。
もしかして、ラルフ様は疲れも誰かにうつせば治ると思ってる?
少し苦しいキスなのに、このキスにはラルは様の愛が込められていると思うと、すごく嬉しくて好きなキスになった。
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