僕の過保護な旦那様

cyan

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二章

193.木の根の正体

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 僕が目覚めると、辺りは明るいのに体が一ミリも動かなかった。金縛りってやつかな?
 目だけで辺りを確認すると、ラルフ様が見えた。温かくて、ラルフ様の匂いも感触もある。
 うん、これは金縛りではなくラルフ様にガッチリと抱きしめられているから動けないんだ。
 やっぱりあんなの夢だったんだ。木の根が毒とか、ラルフ様が救護室にいるとか、全部夢だったんだ。

「ラルフ様、大好きです」
「俺も大好きだ」
「え? ラルフ様起きてたの?」
「俺はマティアスのどんな言葉も聞き逃さない。愛の言葉なら尚更だ」
 そうなんだ……

「マティアス、もう心配ない。敵はちゃんと排除した」
「敵?」
「あいつらは出禁にした。あんな危険なものを持ち込むなど」
「危険なもの?」

 ラルフ様が腕を緩めてくれたけど、僕はまださっきの夢が怖くてラルフ様に抱きついていた。
 敵って何の話? 僕が寝ている間に敵が襲撃してきたのかな?

「マティアス、気分は悪くないか? どこか苦しいところは?」
「大丈夫です」
「それならよかった」

 ラルフ様に抱っこされたまま応接室に向かうと、フェリーチェ様がいた。
「マティアス様、怖い思いをさせて本当にごめんね。それにしてもシュテルター隊長、勝手に抜け出して……体調は大丈夫なんですか?」
「問題ない。俺はマティアスのそばにいると約束した」
 僕はフェリーチェ様とラルフ様が何の話をしているのか分からなかった。

「何の話?」
「フェリーチェ、何も説明してないのか?」
 ラルフ様の声が一気に不機嫌なものに変わった。
「途中までしか……あれ以上は聞ける状態じゃなかったから。ちゃんとこれから説明する。シュテルター隊長がいるなら大丈夫だろうし」

 フェリーチェ様は話してくれた。
 あの恐ろしい出来事は、夢ではなかった。諜報部の皆さんが持ってきた木の根は、闇組織から回収した『万病治癒の根』と名前がつけられたものだった。だから僕のために無理を言ってもらってきてくれたんだけど、その実態は毒だった。
 薬と偽って厳重に保管されていたそうだ。諜報部の方たちはそれを貴重な薬だと信じてしまった。決して僕を害そうとしたわけじゃない。それだけは信じてほしいと言われた。

 僕が魔除けの置き物なのか、煎じて飲むのか分からないと言ったから、フェリーチェ様はあの後で諜報部に確認しにいった。あの木の根は一部だけ切り取って研究に回していたんだけど、今朝になって研究者がフェリーチェ様の家に駆け込んできた。
 万病に効くどころか死に至る毒なんだから当たり前だ。
 組織で厳重に保管されてたのは貴重なものだからではなく毒だったからか……

 それでフェリーチェ様は慌ててうちに訪ねてきて、木の根の回収とラルフ様の健康状態を確認するために動いた。
 ラルフ様は救護班に回収されたけど、僕やシルが心配で勝手に抜け出してうちに帰ってきたそうだ。

「ラルフ様、本当に大丈夫?」
「問題ない。吐き出したし口もしっかり濯いだ」
 とんでもなく味が不味かったわけじゃなくて、ラルフ様はすぐに毒だと気付いたから、吐き出して口を濯いでいたんだ……

「ラルフ様、あんな危ないこと、もうしないでください。変なものを口に入れたりしないでください」
「分かった」
 本当に分かったのかな? その分かったは信じていいの?

 ラルフ様が強いことは分かってるから、敵と剣やなんかで戦うのは許可してもいい。でもラルフ様だって人間なんだから、毒が効かないなんてことはない。毒となんて闘わないで……

「あの木の根は見つかったんですか?」
「庭には無かったよ。敷地の外の道路で馬車に轢かれて粉々になってた」
 フェリーチェ様が説明してくれた。騎士の皆さんがあんなに必死に庭に這いつくばって探してくれたのに、庭には無かったのか……
 よく考えたらそうだ。ラルフ様は「敵」だと言った。敵だと思うものをうちの敷地内に置いておくわけがない。庭に投げ捨ててシルや他の誰かが拾ったら大変なことになる。
 あの高い塀を越えて投げ捨てていたなんて、飛距離がすごい。

 見つかってよかった。子どもが拾ったり、馬や犬が咥えていったりしたら危ない。
「見つかってよかったです」
「本当に、私も無事回収できてホッとしているよ」
「…………」
 ラルフ様? 黙っているラルフ様を見ると何かおかしい。
 え? なんか顔、青くない?
「ラルフ様、苦しいですか? 痛いですか?」
「大丈夫だ」
 そんなの絶対嘘だ。だって顔は青白いのに、額には汗が滲んでいる。そんなの普通じゃないよ……

 ラルフ様は大丈夫だと言ったけど、その日の夜にラルフ様は熱を出した。僕は本当に気が気じゃなくて、何もできずに部屋をうろうろしていた。
 フェリーチェ様が手配してくれた救護班の人が状態をずっと見ていてくれたから、それだけは本当にありがたかった。

「マティアス、もう大丈夫だ」
 夜が明ける頃には熱も下がって、顔色もいつも通りになった。
 救護班の人も、「もう大丈夫そうです」と言って帰っていった。

「もうしない。マティアスにこんなに心配をかけてしまった」
「うん。怖かったです。ラルフ様がいなくなってしまうんじゃないかって……」
「大丈夫だ。俺がマティアスを残してどこにもいくわけがない」

 後日、お詫びとして革袋に入れられたお金が届けられた。何これ?
「フェリーチェ様、これの理由知っていますか?」
「ああ、あんな危険なもの用意したんだからお詫びは必要でしょ? でもきっと何をもらっても怖いと思うから、お金ってわけ。あいつらの給料から反省の意味も込めて搾り取ってきたからもらっておいて」
 確かにお詫びの品なんかをもらっても、信用できなくて怖いかもしれない。毒が入ってるんじゃないかって思ってしまうかも。
 だけど、お金って……

「人的被害が出たら、こんなもんじゃ済まなかったんだから、安いものだよ。気にせず旦那さんと一緒にパーっと使っちゃって」
 そっか……そうだね。
 僕も誰かに何かをあげる時には気をつけようと思った。

「それと、今回のことで疑わしいものは口にしないように騎士たちに徹底したから」
「え?」
 ってことは騎士のみんなは疑わしいものは食べて確認してたの? 毒味ってこと? そんな危ないことやめてよ……

 
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