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二章
192.敵?
しおりを挟む最近すれ違う、街を巡回している騎士の皆さんがとても優しい。体は大丈夫なのかと、みんなが心配してくれる。
僕の看病のためにラルフ様はまた仕事を休んでいたから、きっと僕が何か難病でも患っていると思われているんだ……
言えない……
庭に掘った穴に落ちて熱が出ただけなんて……
今回はお見舞いの品はあらかじめお断りしておいたから、各所からお見舞いの品が届くということはなかった。
しかし僕の熱が下がってラルフ様も仕事に復帰してしばらくすると、「万病に効果がある」と言ってフェリーチェ様の元部下の人たちが謎の木の根を持ってきてくれた。
「フェリーチェ様……これはなんでしょう? 魔除けの置き物? それとも煎じて飲んだりするもの?」
「私も初めて見たものだから、何なのか分からないね。見た感じは木の根、だね……あいつら説明もせずに置いていったのか」
心配してくれるのはありがたいけど、何なのか分からないものを貰うのは非常に困る。
一体この木の根みたいなものは何なのか?
「マティアス、これは何だ?」
机の上に置いておいたら、お仕事から帰ってきたラルフ様も木の根が気になったようだ。
「木の根? だと思います」
「なぜここに置いている?」
それは僕も持て余していて、どうしたらいいのか分からないんだ。
「諜報部の方々が『万病に効く』と言って持ってきてくれました。魔除けの置き物なのか、煎じて飲んだりする物なのか分かりません」
ラルフ様も初めて見る物なのか、胸の前で腕を組んで難しい顔をして考え込んでいる。
そしてじっくりと考えた後、どうするのかと思って見守っていたら、木の根を掴んで端を齧った。
「え!? 食べて大丈夫ですか?」
木の根は野菜みたいに簡単には噛み切れない。ガジガジと噛んで、「うっ……」と変な声を出すと、窓を開けてペッと外に向かって吐き出した。
相当不味かったんだろう。ラルフ様、そんな変なものを口にするからですよ……
そしてラルフ様は木の根を窓の外に向かって勢いよく投げ捨てた。
「えー!?」
外が暗くてどこに飛んで行ったのかは分からないけど、ラルフ様の力だから庭の端の方まで飛んでいってそうだ。
「敵だ」
いや、違うと思う……
あれはただの木の根だった。たぶん。敵ではない。
ラルフ様は余程あの木の根の味がお気に召さなかったのか、その後念入りに手を洗って、何度も口を濯いでいた。そんな変なものを口にするからですよ。
「マティアス様! あれどこですか?」
翌日、フェリーチェ様が慌てた様子で、僕が出勤前に訪ねてきた。今はルカくんもお仕事があるし、僕が出勤の日はうちに来ないのに珍しい。
「あれとは?」
あれと言われても何のことか分からない。昨日途中だった刺繍のこと? だとしたら何でそんなに慌てているのか分からない。
「木の根だよ!」
ああ、あの木の根か……
ラルフ様が投げ捨てたから、その後の行方は分からない。たぶん庭のどこかに落ちてると思うけど、まだ雪も残っているし広い庭から木の根なんかを探すのは難しい。
でもそれ、言っていいのかな?
せっかくフェリーチェ様の元部下の皆さんが僕のために持ってきてくれたのに、ペッとして庭に投げ捨てたなんて言えない……
「あの……」
僕が何と言い訳しようかと考えていると、フェリーチェ様は僕の胸ぐらを掴むような勢いで「どこ?」と詰め寄ってきた。
「──というわけで……」
もしかしたらとても貴重なものだったのかもしれない。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、昨夜のことを話すと、フェリーチェ様がピィーっと笛のようなものを吹いた。
「説明は後で! 庭を捜索させてもらう!」
「はい、分かりました。僕は仕事に行っても大丈夫ですか?」
「うん。引き留めて悪かったね、戻ってきたら説明するよ」
僕が出ていくのと入れ違いに、騎士の人たちが大量に家に来たんだけど、あの木の根はそれほどまでに貴重なものだったのか……
僕はどうなったのかが気になって、マチルダさんにわけを話して早めに帰らせてもらうことにした。
帰ってきたら、雪が積もる庭に騎士の人たちが這いつくばっている……
なんかこの光景、見たことある。
シルが庭で蛇を見た時だっけ? 今回は雪のせいで、みなさんの制服が濡れてとても寒そうだ……
「リーブ、みなさんに温かい飲み物を……ジンジャー入りの蜂蜜レモンとかどうかな?」
「畏まりました」
庭を見守っていたリーブにお願いすると、僕は部屋に入った。また風邪を引いたらラルフ様にベッドから出してもらえなくなる。
それでラルフ様はどこだろう?
コンコン
ドアがノックされ、入ってきたのはフェリーチェ様と元部下の人たちだった。
そして元部下の人たちは僕の前に平伏して頭を床につけている。なんで? どちらかというと、僕の方が謝らなければならないことをしてしまった気がするけど……
「マティアス様、シュテルター隊長は念の為に救護室で経過観察中だから」
「はい? 救護室? 怪我でもしたんですか?」
「ああ、そうか、初めから話さないとね……
こいつらがマティアス様に渡した木の根だけど、少量で死に至る毒が含まれる植物だった」
「は? 毒?」
待って、ラルフ様はあれを齧ってた。嘘だ、嫌だ、ラルフ様……
「あ……あ……嫌だ……」
目の前が真っ暗になって、何も考えられなくなった。視界は戻らないまま手は震えてる。どこが正面か、上か下かも分からない。平衡感覚を失って、底なし沼に沈んでいくような感覚……
「マティアス様!? 大変だ! 救護班を呼べ!」
フェリーチェ様の声が遠くでぼんやりと聞こえていた。
「マティアス。もう大丈夫だ。俺がついている」
意識が戻ってくると、僕が一番好きな人の声が聞こえて、一番好きな匂いがする。ラルフ様なの?
目の前にある盛り上がった胸筋も、力強い太い腕も、背中を撫でる手つきも、ラルフ様にしか思えない。
「ラル、フ、様?」
「ああ、俺はここにいる。もう大丈夫だ」
指先はまだ震えていて、視界はまだ滲んでいる。泣きたくないのに涙が溢れていくけどラルフ様だと信じて、必死に手を伸ばして抱きついた。
「ラルフ様、そばにいて。僕を一人にしないで……」
「分かった。ずっとマティアスのそばにいる」
その言葉に安心したら、震えは止まって、体の力が抜けていった。
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