僕の過保護な旦那様

cyan

文字の大きさ
194 / 574
二章

192.敵?

しおりを挟む
 
 
 最近すれ違う、街を巡回している騎士の皆さんがとても優しい。体は大丈夫なのかと、みんなが心配してくれる。
 僕の看病のためにラルフ様はまた仕事を休んでいたから、きっと僕が何か難病でも患っていると思われているんだ……

 言えない……
 庭に掘った穴に落ちて熱が出ただけなんて……
 今回はお見舞いの品はあらかじめお断りしておいたから、各所からお見舞いの品が届くということはなかった。
 しかし僕の熱が下がってラルフ様も仕事に復帰してしばらくすると、「万病に効果がある」と言ってフェリーチェ様の元部下の人たちが謎の木の根を持ってきてくれた。

「フェリーチェ様……これはなんでしょう? 魔除けの置き物? それとも煎じて飲んだりするもの?」
「私も初めて見たものだから、何なのか分からないね。見た感じは木の根、だね……あいつら説明もせずに置いていったのか」
 心配してくれるのはありがたいけど、何なのか分からないものを貰うのは非常に困る。
 一体この木の根みたいなものは何なのか?

「マティアス、これは何だ?」
 机の上に置いておいたら、お仕事から帰ってきたラルフ様も木の根が気になったようだ。
「木の根? だと思います」
「なぜここに置いている?」
 それは僕も持て余していて、どうしたらいいのか分からないんだ。
「諜報部の方々が『万病に効く』と言って持ってきてくれました。魔除けの置き物なのか、煎じて飲んだりする物なのか分かりません」

 ラルフ様も初めて見る物なのか、胸の前で腕を組んで難しい顔をして考え込んでいる。
 そしてじっくりと考えた後、どうするのかと思って見守っていたら、木の根を掴んで端を齧った。
「え!? 食べて大丈夫ですか?」
 木の根は野菜みたいに簡単には噛み切れない。ガジガジと噛んで、「うっ……」と変な声を出すと、窓を開けてペッと外に向かって吐き出した。
 相当不味かったんだろう。ラルフ様、そんな変なものを口にするからですよ……

 そしてラルフ様は木の根を窓の外に向かって勢いよく投げ捨てた。
「えー!?」
 外が暗くてどこに飛んで行ったのかは分からないけど、ラルフ様の力だから庭の端の方まで飛んでいってそうだ。

「敵だ」
 いや、違うと思う……
 あれはただの木の根だった。たぶん。敵ではない。

 ラルフ様は余程あの木の根の味がお気に召さなかったのか、その後念入りに手を洗って、何度も口を濯いでいた。そんな変なものを口にするからですよ。


「マティアス様! あれどこですか?」
 翌日、フェリーチェ様が慌てた様子で、僕が出勤前に訪ねてきた。今はルカくんもお仕事があるし、僕が出勤の日はうちに来ないのに珍しい。
「あれとは?」
 あれと言われても何のことか分からない。昨日途中だった刺繍のこと? だとしたら何でそんなに慌てているのか分からない。

「木の根だよ!」
 ああ、あの木の根か……
 ラルフ様が投げ捨てたから、その後の行方は分からない。たぶん庭のどこかに落ちてると思うけど、まだ雪も残っているし広い庭から木の根なんかを探すのは難しい。
 でもそれ、言っていいのかな?
 せっかくフェリーチェ様の元部下の皆さんが僕のために持ってきてくれたのに、ペッとして庭に投げ捨てたなんて言えない……

「あの……」
 僕が何と言い訳しようかと考えていると、フェリーチェ様は僕の胸ぐらを掴むような勢いで「どこ?」と詰め寄ってきた。

「──というわけで……」
 もしかしたらとても貴重なものだったのかもしれない。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、昨夜のことを話すと、フェリーチェ様がピィーっと笛のようなものを吹いた。
「説明は後で! 庭を捜索させてもらう!」
「はい、分かりました。僕は仕事に行っても大丈夫ですか?」
「うん。引き留めて悪かったね、戻ってきたら説明するよ」
 僕が出ていくのと入れ違いに、騎士の人たちが大量に家に来たんだけど、あの木の根はそれほどまでに貴重なものだったのか……

 僕はどうなったのかが気になって、マチルダさんにわけを話して早めに帰らせてもらうことにした。
 帰ってきたら、雪が積もる庭に騎士の人たちが這いつくばっている……
 なんかこの光景、見たことある。
 シルが庭で蛇を見た時だっけ? 今回は雪のせいで、みなさんの制服が濡れてとても寒そうだ……

「リーブ、みなさんに温かい飲み物を……ジンジャー入りの蜂蜜レモンとかどうかな?」
「畏まりました」
 庭を見守っていたリーブにお願いすると、僕は部屋に入った。また風邪を引いたらラルフ様にベッドから出してもらえなくなる。
 それでラルフ様はどこだろう?

 コンコン
 ドアがノックされ、入ってきたのはフェリーチェ様と元部下の人たちだった。
 そして元部下の人たちは僕の前に平伏して頭を床につけている。なんで? どちらかというと、僕の方が謝らなければならないことをしてしまった気がするけど……

「マティアス様、シュテルター隊長は念の為に救護室で経過観察中だから」
「はい? 救護室? 怪我でもしたんですか?」
「ああ、そうか、初めから話さないとね……
 こいつらがマティアス様に渡した木の根だけど、少量で死に至る毒が含まれる植物だった」
「は? 毒?」
 待って、ラルフ様はあれを齧ってた。嘘だ、嫌だ、ラルフ様……

「あ……あ……嫌だ……」
 目の前が真っ暗になって、何も考えられなくなった。視界は戻らないまま手は震えてる。どこが正面か、上か下かも分からない。平衡感覚を失って、底なし沼に沈んでいくような感覚……

「マティアス様!? 大変だ! 救護班を呼べ!」
 フェリーチェ様の声が遠くでぼんやりと聞こえていた。


「マティアス。もう大丈夫だ。俺がついている」
 意識が戻ってくると、僕が一番好きな人の声が聞こえて、一番好きな匂いがする。ラルフ様なの?
 目の前にある盛り上がった胸筋も、力強い太い腕も、背中を撫でる手つきも、ラルフ様にしか思えない。

「ラル、フ、様?」
「ああ、俺はここにいる。もう大丈夫だ」
 指先はまだ震えていて、視界はまだ滲んでいる。泣きたくないのに涙が溢れていくけどラルフ様だと信じて、必死に手を伸ばして抱きついた。

「ラルフ様、そばにいて。僕を一人にしないで……」
「分かった。ずっとマティアスのそばにいる」
 その言葉に安心したら、震えは止まって、体の力が抜けていった。

 
しおりを挟む
感想 225

あなたにおすすめの小説

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』

由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。 婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。 ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。 「君を嫌ったことなど、一度もない」 それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。 勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。

あなたが恋をしなければ

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を宣言する第一王子。 よくあるシーンだけど、それが馬鹿王子ではなく、優秀だけど人の機微に疎い王子だったら……。

賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~

Tubling@書籍化&コミカライズ決定
恋愛
新連載です! ルシェンテ王国の末の王女カタリナは、姉たちから凄惨な嫌がらせをされる日々に王女とは名ばかりの惨めな生活を送っていた。 両親は自分に無関心、兄にも煙たがられ、いっそ透明人間になれたらと思う日々。 そんな中、隣国ジグマリン王国の建国祭に国賓として訪れた際、「鬼神」と恐れられている騎士公爵レブランドと出会う。 しかし鬼とは程遠い公爵の素顔に触れたカタリナは、彼に惹かれていく。 やがて想い人から縁談の話が舞い込み、夢見心地で嫁いでいったカタリナを待っていたのは悲しい現実で…? 旦那様の為に邸を去ったけれど、お腹には天使が―――― 息子の為に生きよう。 そう決意して生活する私と息子のもとへ、あの人がやってくるなんて。 再会した彼には絶対に帰らないと伝えたはずなのに、2人とも連れて帰ると言ってきかないんですけど? 私が邪魔者だったはずなのに、なんだか彼の態度がおかしくて… 愛された事のない王女がただ一つの宝物(息子)を授かり、愛し愛される喜びを知るロマンスファンタジーです。 ●本編は10万字ほどで完結予定。 ●最初こそシリアスですが、だんだんとほのぼのになっていきます^^ ●最後はハッピーエンドです。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない

橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。 そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。 1~2万文字の短編予定→中編に変更します。 いつもながらの溺愛執着ものです。

【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

処理中です...