僕の過保護な旦那様

cyan

文字の大きさ
193 / 574
二章

191.油断

しおりを挟む
 
 
「ルカくんの仕事、上手くいってるんだって?」
「そうみたいですね」
 年始の夜会で会った後、フェリーチェ様は旦那さんと共にしばらく実家に帰っていたから、会うのは久しぶりだ。外は寒いから暖炉を焚いた暖かい部屋で、なかなか上手くならない刺繍を一旦切り上げて、のんびりとお茶を飲んでいる。
 フェリーチェ様の目の前にはルカくんが練習で作ったお菓子が積まれていて、フェリーチェ様の口にどんどん消えていくのを僕は見ていた。たくさん食べても全然顔が丸くなったりしないのは、今でもしっかりと鍛えているからだろうか?

 お土産ってことで鮭を干したものをいくつか持ってきてくれた。お菓子だとシルに取り上げられて僕だけ食べられないから魚でよかった。
 冬は寒いし移動は大変だけど、こうして夏には遠距離を持ち歩けないものも運べるから便利だ。
 街道は雪が積もって馬車が通れないところもあるって聞いてるけど、リヴェラーニ夫夫なら雪深いところも平気で進んでいくんだろう。何なら雪深い森でも楽しく野営をしてそうだ。

 もしかして、実家でもリヴェラーニ夫夫は新婚旅行の再現四部編成をやったんだろうか?
 ご家族の皆さん、お疲れ様です。

「ハリオは相変わらず仕事をサボってあのお菓子屋を見張ってるんだって?」
「僕が花屋に出勤する日は大抵いるので、今日もいると思います」
 ハリオがルカくんを心配する気持ちは分かるけど、ルカくんもかなり強くなってるから大丈夫だと思う。だって僕が一日、いや数分で地面に倒れたあの訓練を半年もやってたんでしょ?
 ルーベンよりもスパルタだと思う。

「そんなことばかり続けてると、そのうち反省室に入れられるね」
「そうなんだ……」
 仕事をサボるのはダメだと思う。でも騎士団の反省室って、グラートが簡単に抜け出せるような反省室なんだよね? ってことはハリオも抜け出せるんじゃない?

「そういえばルカくんはまだ慣れていないし、いきなり一人で作るのはキツいってことで、マイクが手伝ってるって聞いたんだけど」
「僕もそう聞いています」
 マイクは元騎士の刺繍仲間で、ルカくんとお菓子作りの話で意気投合していた人だ。彼はお菓子屋さんの経験はないけど、数ヶ月のお手伝いならってことで旦那さんからも許可が降りて手伝っていると聞いた。
 それにしても王都に戻ったばかりのフェリーチェ様がその話を知っているなんて、やっぱりフェリーチェ様の情報網はすごい。パンが脱走した時は見つけられなかったけどね。

 何はともあれ、ルカくんの仕事は順調にいっているし、少なくともジネオさんの怪我が治るまでは続けられる。自分の得意なことがあって、それを仕事にできるって羨ましいな。
 僕は花が好きだから花に囲まれて過ごす花屋の仕事は楽しいけど、得意なことってわけではないし、僕の得意なことってなんだろう?

「マティアス様、今夜から大雪になるらしいよ。明日は朝起きたら庭が真っ白になってるかもね」
 フェリーチェ様が席を立って、薄曇りの空を眺めながらそう言った。
 今日は雪が降りそうな空だと思っていたけど、まさか大雪が降るなんて。どうりで寒いわけだ。
「雪かきをしなければならない程に積もると大変ですね」
 たくさん積もったら大変だけど、これでラルフ様と一緒に雪だるまを作ることができる。きっとシルもパンも大喜びだろうな。楽しみだ。


「ママ、ラル、みて! ゆきいっぱい」
 翌朝、シルが興奮した様子で僕たちの寝室を訪ねてきた。
 フェリーチェ様が言っていた通り、夜になると雪が降り出して、夜中はずっと雪が降っていたみたいだ。今はやんでいるけど、空は曇っているからまた降ってくるかもしれない。

「ラルフ様、雪だるまを作りましょう」
「分かった」
 朝食を食べると僕たちは庭に出た。シルの膝の辺りまで埋まってしまうほどに降り積もった雪は、庭の景色を昨日とは全く違うものに変えてしまった。
 降りたての新雪を集めて雪だるまを作っていく。僕は見てるだけだ。ラルフ様が僕は雪に触ったらダメだって言うんだ。手荒れが酷くなるかもしれないけど、今日くらいいいじゃないか。少し不満はあるけどシルもラルフ様も楽しそうだからいいかな。

 だから僕はラルフ様とシルが雪の玉を転がしているのを眺めながら、童心に戻って新雪に足跡をつけて歩くってことを楽しんでいた。深すぎるのが難点だ……

「パンもこんなに深い雪の上を歩くのは楽しいでしょ?」
 パンを厩舎から出しながら話しかけた。何も答えてくれなかったけど、軽い足取りで僕の周りをグルグルと二周すると、シルの元に走って行った。やっぱりパンはシルがいいんだね。

 子どもの頃は何時間でも新雪に足跡をつけていたけど、大人になると数分で飽きてしまう。ベンチに座ろうと思ったけど、ベンチにも雪が積もっていて、仕方なく納屋から箒を持ってきて雪を払うことにした。
 ダメか……結局雪を払っても濡れていて座れなかった。

 また雪が降るかもしれないと思っていたけど、雲が薄くなって辺りが明るくなってきた。あと数時間もすれば太陽が顔を出すかもしれない。家の中に入るわけにもいかず、庭の端を歩いているんだけど、つまんないな。

「ママ! できたよ!」
 シルの呼ぶ声がして振り向くとシルとラルフ様の間には、シルの身長を超えるような大きな雪だるまが出来上がっていた。今回の雪だるまは豪華に三段になっている。手の部分がポポ一族なのはちょっとどうかと思うけど、ちゃんと顔まで作られて、頭の上には毛糸の帽子まで乗せてある。

「大きいの作ったね! すごい!」
 僕が駆け出した瞬間、一気に視界から景色が消えた。凍るように寒い……
 一瞬何が起きたのか分からなくて、戸惑っているうちにラルフ様に抱え上げられた。抱え上げられたというか引き上げられた? 視界が戻ってくるとようやく僕は何が起きたのかを理解した。
 僕はどこかに落ちたらしい。落ちた? 庭なのに落ちるところなんてあったっけ?
 あ……年が明けた頃に雪を入れる穴を庭に掘ったってバルドが言ってたっけ。

 大人になって穴に落ちるなんて……
 嘘だよね?
「クシュンッ」
「大変だ!」
 僕はラルフ様に抱えられて部屋に運ばれると、すぐにお風呂に入れられて、そのまま五日間もベッドから出してもらえなかった。大人になった僕は十日も寝込むことはなかったけど、ラルフ様にベッドに押し込まれて、また丁寧に看病されてしまった。

 
しおりを挟む
感想 225

あなたにおすすめの小説

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

あなたが恋をしなければ

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を宣言する第一王子。 よくあるシーンだけど、それが馬鹿王子ではなく、優秀だけど人の機微に疎い王子だったら……。

賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~

Tubling@書籍化&コミカライズ決定
恋愛
新連載です! ルシェンテ王国の末の王女カタリナは、姉たちから凄惨な嫌がらせをされる日々に王女とは名ばかりの惨めな生活を送っていた。 両親は自分に無関心、兄にも煙たがられ、いっそ透明人間になれたらと思う日々。 そんな中、隣国ジグマリン王国の建国祭に国賓として訪れた際、「鬼神」と恐れられている騎士公爵レブランドと出会う。 しかし鬼とは程遠い公爵の素顔に触れたカタリナは、彼に惹かれていく。 やがて想い人から縁談の話が舞い込み、夢見心地で嫁いでいったカタリナを待っていたのは悲しい現実で…? 旦那様の為に邸を去ったけれど、お腹には天使が―――― 息子の為に生きよう。 そう決意して生活する私と息子のもとへ、あの人がやってくるなんて。 再会した彼には絶対に帰らないと伝えたはずなのに、2人とも連れて帰ると言ってきかないんですけど? 私が邪魔者だったはずなのに、なんだか彼の態度がおかしくて… 愛された事のない王女がただ一つの宝物(息子)を授かり、愛し愛される喜びを知るロマンスファンタジーです。 ●本編は10万字ほどで完結予定。 ●最初こそシリアスですが、だんだんとほのぼのになっていきます^^ ●最後はハッピーエンドです。

『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』

由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。 婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。 ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。 「君を嫌ったことなど、一度もない」 それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。 勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...