僕の過保護な旦那様

cyan

文字の大きさ
228 / 597
二章

226.街に行きたい

しおりを挟む
 
 
「ラルフ様、街に行きたいです」
「分かった」
 そう言うとラルフ様は僕を抱きかかえ、シルも抱きかかえ、侯爵邸の門へ向かった。
 ちょっと待って、僕のこと抱っこして街に行く気?

「だっこ!」
 シルは嬉しそうだけど、僕は自分の足で歩きたい。
「ラルフ様、僕は降ろしてください。自分の足で歩きます」
「分かった。チェーンメイルを着てピエール二号を構え、大盾を持った兵十人に囲ませるのなら歩いてもいい」
 大盾って僕の腰の高さと同じくらい大きいやつだよね? そんな盾を持った人十人に囲まれたら、街の景色なんて見えないし、どんな要人が来たのかと、かえって注目の的になってしまう。

 これは、街へは行かせないっていうことだろうか? 今はリーブとグラートは王都だし、ルーベンとタルクは今日も私兵の皆さんと一緒に森へ訓練に行っている。ラルフ様一人では不安ということだろうか?
 リーブとグラートを行かせたのは失敗だった? いや、二人は二人だけの時間を楽しんでほしい。他にも誰か連れて来たらよかったのかな?
 フェリーチェ様とか……と考えて僕はダメだと首を横に振った。

「ママなにしてるの? イヤイヤしてるの?」
「なんでもないよ」
 首をブンブン振っているところをシルに見られていた。
 そうだ! メルクリオ様を連れて行くとかどうだろう? きっと彼は暇していると思うし。何ならシル作のポポ一族から一体くらい譲ってあげてもいい。
 お金は渡せないけど、賄賂はなにもお金である必要はない。よし! お金で解決できると思っている人なら、物で釣ることができるんじゃないかと考えた。

「ラルフ様、護衛が足りないのならメルクリオ様を連れて行きましょう。それなら不安はないでしょう?」
「不安しかない」
 ラルフ様からは思わぬ答えが返ってきた。
 えー!? なんで? メルクリオ様ってそんなに信用ないの? 確かに彼は若い。でもあの早着替えができるんだよ?
 侯爵家という肩書きで若くして隊長になったという疑いはあるけど、あの早着替えができるなら、それなりに強いと思うんだ。
 違うのかな?

「それならイルデフォンソやメイカーの方がマシだ」
 そうなんだ……メルクリオ様、どんまい。まだ若いんだから頑張って名誉挽回してください。
 新郎のイルデフォンソ様を連れて行くのは無理だと思う。メイカーさんなら頼めば付いてきてくれるかもしれない。
「分かりました。明日出かけられないかメイカーさんに聞いてみます」

 屋敷の中でも退屈ってわけじゃない。数日では回りきれないほど広い庭園と、サンチェス侯爵家の歴史を体感できる、博物館のようなものまである。歴代当主や歴史的な資料、昔使われていた武器や防具なども展示されている。
 書庫には一生かかっても読みきれないような本が、見上げるほど高い本棚にびっしりと詰まっている。敷地内であれば私室を除き好きに使ってもいいと許可までいただいている。
 でも僕は貴族の歴史や財力を見たいわけじゃない。その地域の街並みや名物を見たり食べたりしたいんだ。

 メイカーさんを見つけて、街へ行きたいから付いてきてくれないかと聞いてみると、拍子抜けするほどあっさりと許可してくれた。
 馬車も出してくれるそうだ。
 ちょっとした交換条件というかお願いがあったけど、まあそれは後で考えればいい。
 ラルフ様、もしかしてリーブがいなくて馬車を出せないから抱っこして行こうとしたの?
 ラルフ様を見上げると、繋いだ手に力を込められた。それってどういう意味?

 僕たちが使う部屋を整えてくれるメイドは、サンチェス家にもう四十年も勤めているカヤさんというおばあちゃんだ。
「お風呂はいつでも入ることができますよ。ベッドメイクも完了しておりますのでお昼寝も可能でございます」
 僕たちが部屋に戻ると、ニコニコと柔らかい笑みを浮かべ、皺々の手を重ねて一礼をすると部屋を出て行こうとした。

「あ、待ってカヤさん」
 僕はメイドのカヤさんを引き留めた。無計画に行くより、ずっとここに住んでいる人にお勧めの場所や食べ物を聞いた方がいいと思ったんだ。

「どうかなさいましたか?」
「サンチェス領のことをお聞きしたいんです」
 おばあちゃんを立ちっぱなしにするのは申し訳ないし、ソファに座るよう促し、僕は向かいに座った。
 ラルフ様はシルを膝に乗せて本を読んでいる。

 領都は街の中心に大きな時計台があり、その周りを囲うように公園があるそうだ。待ち合わせ場所として使ったり、迷ったときは時計台を目印に戻ればいいから便利なのだとか。
 公園は花壇が整えられ、屋台や露店が並んでベンチも置かれているから、晴れた日は多くの人が集まるそうだ。
 この街で有名なのは氷菓子で、夏でも氷が溶けない洞窟が近くにあるため、そこで通年作っている。特に夏には大人気だとか。
 それ最高じゃない?
 もう昼間はかなり暑い。よく晴れた暑い日に冷たいお菓子を食べるなんて最高だ!そのお店は必ず行こうと決めた。
 他にもお勧めのレストランやお菓子屋さんを教えてもらった。

「あなた方を結婚式にお招きできて、坊ちゃまは大変お喜びです。憧れの夫夫ですからね」
 カヤさんはニコニコしながら最後に小さな火種のようなものを落とした。
 僕たち夫夫が憧れ?
 詳細を聞こうかどうしようか迷った挙句、僕は聞いてみることにした。

 ランバートが書いた本を読んで、イルデフォンソ様は僕たち夫夫に憧れを持った。とてもおモテになる彼が結婚相手を選ぶ決め手になったのが国だ。
 僕たちと同じ国出身のフィオリーナ嬢との縁談が持ち上がった時、すぐに乗り気になった。
 住んでいる国は同じでも、理想の相手とは限りませんよ。
 そう思ったのだけど、イルデフォンソ様はフィオリーナ嬢に『真実の愛の物語』の本を贈って感想を求めたそうだ。そこで返ってきた返事が「互いを信じ守り合う夫婦は理想です」という内容だったから、結婚を決意したのだとか。僕の中で何かが引っかかったけど、その正体には辿り着けなかった。

 へえ……
 それで我が国に来た時、フィオリーナ嬢の元へ行く前にわざわざうちに来たのか。
 憧れねえ……
 ラルフ様をチラッと見たけど、シルと一緒に本を読んでいて、僕たちの話は聞いていないようだった。
「戻ってから益々鍛錬に力を入れております。坊ちゃまのよい刺激になったのでしょう」

 なるほど?
 僕には関係ないけど、誰かに刺激を受けて頑張ろうと思うことはいいことだと思う。


「メイカーさん、彼らは全員護衛として付いてくるのですか?」
 翌朝、朝食や軽い鍛錬を終えて外に出てみると、侯爵家の豪華な馬車と、馬車を囲む二十人を超える私兵が整列して待っていた。
「ええ、足りませんか?」
 逆です。多すぎない? 大盾は持ってないけど、こんなに人数要らないよね?

「最低限だな。いいだろう」
 ラルフ様が答えた。これで最低限なの?
 僕としてはメイカーさん一人と、あとは御者さんがいればよかったんだけど……
 まさかこんなに大袈裟な事態になるとは。高位貴族の考え方は僕には分からない。

 僕がボーッと豪華な馬車を眺めていると、隣ではメイカーさんと、シルを抱っこしたラルフ様が護衛計画を話し合っていた。そこまでしなくてもよくない?
「マティアスは危なっかしいから、一瞬たりとも目を離さないよう気をつけてほしい」
 ラルフ様の口から僕の名前が出て聞き耳を立ててみると、僕の扱いに関する注意が行われていた。
 ラルフ様がしっかりと手を握っているし、子どもじゃないんだから土地勘のないところで勝手にいなくなったりしませんよ。
 僕ってそんなに危なっかしいんだろうか?

 
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」

みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のリコリスは20歳。立派な嫁きおくれである。 というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。 なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。 そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。 何か裏がある―― 相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするリコリス。 でも、非力なリコリスには何も手段がない。 しかし、そんな彼女にも救いの手が……?

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

婚約破棄が聞こえません

あんど もあ
ファンタジー
私は、真実の愛に目覚めた王子に王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を宣言されたらしいです。 私には聞こえないのですが。 王子が目の前にいる? どこに? どうやら私には王子が見えなくなったみたいです。 ※「承石灰」は架空の物質です。実在の消石灰は目に入ると危険ですのでマネしないでね!

処理中です...